転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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ただのネタ回を書いていたのに、何故かやたらと長くなってしまった


暇を持て余した神々の悪ノリによる想定外の結果

 

「ねぇ、レヴェリア……大食い大会、出てみない?」

 

 ステイタス更新を終えたところで、レヴェリアに対してフレイヤはおもむろに問いかけた。

 意思の確認という形を取っているが、レヴェリアは知っている。

 こういう場合、どう足掻いても拒否できないことを。

 拒んだところで「やだやだやだ! 出てくれないとやだ!」という駄々っ子モードの永続発動である。

 

 レヴェリアを筆頭に、竜の間引きに参加した団員達がホームに帰ってきたのは数時間前のことだ。

 なお、アミッドは合宿だけでなく、間引きにも参加している。

 ダンジョン篭もりから継続した形であり、彼女からは大変貴重な経験となった、またお願いしたいという嬉しい言葉を貰い、レヴェリアも是非に、と応じている。

 

「暇を持て余した神々が悪ノリしたのは分かる。だが、どうしてそのジャンルを選んだ?」

「大食い大会なら、あなたに勝てるって思っているみたいなの」

「……言っておくが、結果がどうなるかは分からないからな」

 

 その言葉に、フレイヤは意外そうな顔となる。

 

「拒否しないの?」

「拒否しても参加するって言うまで駄々をこねるだけだろ、お前……」

「うん。だって、出てくれないとやだもん」

 

 そう答えて満面の笑みを浮かべるフレイヤに、レヴェリアは渋い顔となるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年で15歳となったベート・ローガは、ロキ・ファミリア所属のレベル5だ。

 ロキ・ファミリアに入団後、3年で4度のランクアップを成し遂げた彼は若いにも関わらず、将来の幹部候補として期待されている。

 このきっかけとなったのは10年前、一族総出でオラリオにて派閥大戦を観戦したことだ。

 繰り広げられる神話の如き戦いに彼は目を輝かせ、心を大きく震わせ――決意した。

 

 自分もあんな風に強くなりたい!

 大切な奴が弱くても、あれくらい自分が強くなれば守ってやれる――!

 

 そして、12歳の時に両親と直談判をして承諾を貰い、オラリオへ単身やってきた彼は、ロキ・ファミリアの門を叩いた。

 

 レヴェリアは圧倒的な強さだ。

 たった1人でオラリオのみならず世界中から集まった派閥・参加者を敵に回し、勝利を収めた紛れもない『頂天』。

 最後の英雄に最も近い者は誰か、と問えばまず名前が挙がるのが彼女であった。

 

 だが、ベートはレヴェリアよりもフィンを目指すべき姿と定めた。

 リヴァイアサン討伐にて『勇気』を示し、停滞していた同族達の希望の光となりつつある彼の方が、将来は父の跡を継いで族長として、群れを率いる立場になる己にとって学ぶべき点が多いと判断したのだ。 

 

 何より、フレイヤ・ファミリアの雰囲気が自分には合わないと感じた。

 彼の部族は大陸北方を放浪する『平原の獣民』と呼ばれる部族だ。

 弱肉強食、欲しければ奪い取れ――それが部族の掟であるが、さすがに身内同士で殺し合いにまで発展することはまずない。

 フレイヤ・ファミリアは団員同士で朝から晩まで殺し合いに等しい鍛錬を行い、オラリオのファミリアの中でもっとも殺伐としている、ともっぱらの評判であった。

 

 ベートは右隣の席に座っているレヴェリアへ視線を向けた。

 初めて彼女に挑んだのは、入団して3ヶ月目に行われた合宿に参加した時。

 

 小休止の際、誰よりも早く彼女に戦いを挑みに行き――全てを出し切った上で、敗北した。

 合宿に参加しているのならばレベルも年齢も考慮しない、としてレヴェリアは軽く叩き潰した。

 絶望的な力の差に、ベートの心は折れるどころか燃え上がった。

 

 これが『頂天』の味か、とどこぞの猪小僧(オッタル)みたいな感想を抱き、彼は鍛錬を積んできた。

 だが、このような戦い(大食い)でも、とてつもない実力を秘めているとは予想外にも程がある。

 

 くそっ……こんな状況だっていうのに、まったく顔色が変わってねぇ……!

 

 涼しい顔をして食べ進め、時折笑みすら浮かべているレヴェリアに、ベートは戦慄した。

 彼女を挟んでさらに隣にはアストレア・ファミリアの団長、アリーゼ・ローヴェルが青い顔をしているのが見えた。

 

 その時、ベートには声が聞こえた。

 思わずそちらへ視線を向ければ、ロキ・ファミリアの団員達と共に幼馴染であるレーネを見つけた。

 懸命に声を出して、己を応援してくれる彼女にベートは闘志が湧いてくる。

 

 つい最近ベートのところへ押しかけてきた彼女は、ロキ・ファミリアの事務員として雇用されている。

 彼とどういう関係かは派閥内に知れ渡っており、ロキに時折からかわれていた。

 

「俺は、負けねぇ!」

 

 ベートは咆え、目の前の皿に置かれた分厚いステーキにかぶりつく。

 ロキ・ファミリアでここまで勝ち進んだのは彼一人。

 ファミリアの看板を背負っている以上、負けるわけにはいかない。

 ド根性を発揮する彼に対して、ロキ・ファミリアの全団員が大声援を送る。

 

 彼の復活に、実況のヘルメスが叫んだ。

 

『おおっと! ロキ・ファミリアの【灰狼(フェンリス)】ベート・ローガ! ここで復活か!? 凄い勢いで食べ進めていく!』

 

 オラリオ大食い大会、ステーキ早食い決勝戦――その真っ最中だ。

 面白いイベントがなくてつまらないから何かやろうぜ――というのが事の発端であり、神会にてあれこれ議論された末に決まったものだ。 

 

 

 大食い大会ならレヴェリア様にも勝てるんじゃね? 

 わりと食べるらしいけど、競技種目を肉料理の早食いとかにすればどうだろう?

 参加者多そうなら、ワンチャン予選落ちもありえるかも?

 予選落ちしてしょんぼりするレヴェリア様、見たくない……?

 竜の間引きに行っているから、こっそり進めるチャンスは今しかない!

 

 

 そんなしょうもない理由で、大食い大会に決定された。

 レヴェリアが参加しないのではないか、という懸念はまったくなかった。

 なぜならば、フレイヤが超乗り気であった為に。

 彼女としては頑張っているレヴェリアの姿が見られる上に、勝てば褒めて負ければ慰めるという、どっちに転んでも美味しい結果しかなかったからだ。 

 

 そして、蓋を開けてみれば大食い大会は予想を覆す展開となっている。

 

『【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】アリーゼ・ローヴェル! 凄い顔色だ! 正義の派閥の団長が見せちゃいけないものを披露しそうだぞ!? 大丈夫か!?』

「団長! ゲロはやめろ! マジでやめろ!」

「だからやめておけと言ったのに……ぶぁぁぁああああかめ!」

「アリーゼ! 乙女として我慢してください!」

 

 団員達からの色んな意味で心配する声が上がる。

 気合とド根性で、予選を勝ち抜いてきたアリーゼは今大会のダークホースとして注目されていた。

 しかし、もはや限界であることは誰の目にも明らか。

 乙女としての尊厳は崩壊寸前だ。

 

『しかし、レヴェリアちゃん……普通に食べ進めているのぅ。しかも食べる度に嬉しそうな顔をしとる』

 

 解説のゼウスに、会場内の視線が舞台中央で食べ進めているレヴェリアに集まる。

 食べ終える度にどんどんステーキが追加されるという、極東でいうところの『わんこそば』ならぬ『わんこステーキ』状態。

 自分以外の全員がギブアップかリタイアしない限り終わらない、絶望的な戦いだ。

 しかし、彼女の食べ進める速度は開始からまったく変わっていない。

 その所作も美しく、乱れていなかった。

 

『不正疑惑を無くす為、神の鏡でオラリオ中に映像を多角的に出して、審判としてアストレアが舞台袖から見ているんだけど……レヴェリア様、全部食べているんだよな』

『あの美貌、あの体型、あの性格、さらにあれだけ食べるとか……ギャップ萌えで世界を虜にしようとしているに違いないじゃろ』

 

 したり顔で語るゼウス。

 一方、審判役に任命されてしまったアストレアは、舞台袖でハラハラしていた。

 彼女を心配させている原因は勿論、アリーゼだ。

 

「アリーゼ……公衆の面前で、それはマズイわ……!」

 

 アストレアが呟いたその時、参加者に動きがあった。

 遂にアリーゼの口が限界を超えて決壊(アルヴェリア)した、というわけではなかった。

 

『【猛者(もさ)】オッタル! ここまで勢い良く食べてきたが、スピードが落ちつつあるぞ! さすがに限界か!?』

 

 新たに出されたステーキを前にして、食べ進めるスピードが目に見えて落ちているオッタル。

 すぐさまフレイヤ・ファミリアの団員達から盛大なブーイングが飛ぶ。

 レヴェリア以外で決勝戦にまで勝ち抜いたフレイヤ・ファミリアの団員はオッタルのみだ。

 

 なお、ミアやディース姉妹、アスフィ達――ヘルン、ヘイズ、アイシャ、アウラ、フィルヴィス――を含む一部団員達は不参加であるが、アイズだけは参加した。

 必勝と書かれたハチマキを頭に巻いて、気合を入れて臨んだものの予選1回戦で頑張って1枚を完食したところで満腹になってしまい、あえなく敗退した。

 

 ステーキがすごく美味しかったので、とても良かった――そんな感想を残していた。

 

『大本命! 【暴喰】ザルド! どんどん平らげていく!』

『ザルド! 負けるんじゃないぞ! その威を世界に示すんじゃああ! 大食いだけに!』

『威と胃を掛けたんだな?』

『うむ! 儂の超激ウマギャグじゃ!』

 

 アホなことを言っている男神2柱を、誰もが無視したのはいうまでもない。 

 一方でザルドはステーキを食べ進めながら、内心で溜息を吐く。

 レヴェリアがここまで食べられるとは想定外にも程がある。

 何より驚きであるのは彼女はステーキを食べる度に、まるで今日初めての食事であるかのように、歓喜に満ちた表情となることだ。

 

 食事を楽しめる――それはつまり、彼女の胃袋にはまだ余裕があるという意味に他ならない。

 

 性欲だけじゃなくてこっちも底なしかよ、とザルドは呆れ半分感心半分で、食べ進めていく。

 

 

 

 

「……気に食わんな」

 

 大食い大会を神の鏡越しに、ホームで見ていたアルフィアは冷静に告げた。

 メーテリアとベルはここにはいない。

 会場でレヴェリアとザルドを応援する、とベルが希望した為に。

 ベルが父親の次によく懐いているのはザルドだ。

 彼が時折お菓子を作って持ってくる為、餌付けされたともいえる。

 

「レヴェリアの奴め。私には、教えなかったくせに……!」

 

 アルフィア的に気に食わないのは、そこである。

 普通よりも食べる方だとレヴェリアは以前から度々言っており、アルフィアも彼女が多く食べることはよく知っている。

 一軒家での生活時には、レヴェリアの為に多めに料理を作ることもよくある。

 だが、あそこまで食べてもなお余裕であるとはアルフィアも知らなかった。

 

 レヴェリアの腹を十分に満たせていなかったのではないか、その疑惑があることにアルフィアは拳を握りしめる。

 ヘラの眷族らしく、嫉妬深さと独占欲は人一倍どころか人三倍くらいはある彼女にとって、レヴェリアのことは何から何まで知っていないと気がすまない。

 アルフィア自身も己がそういう性格であることは勿論把握しているが、むしろ長所であり美点であると確信している。

  そういうところもお前の魅力の一つだ、とレヴェリアは言葉でもって度々伝えている為に。

 そして、それはお世辞などではなく本心であることをアルフィアはよく知っていた。

 

「……大会が終わったら、問い詰めにいこう」

 

 今すぐ乗り込むようなことは、さすがのアルフィアも自重する。

 レヴェリアがあれほどに頑張っているのだから、台無しにするのは論外であった。

 

 

 

 

「レヴェリア、お前……そっちでも『頂天』を取るつもりかよ」

 

 ヴァレッタは呆れていた。

 派閥大戦を観戦し、どっかの派閥に入ろうかと悩んでいた彼女であったが、大戦から半年後、イシュタル・ファミリアに入団することを決めた。

 レヴェリアの紹介でイシュタルと面談し、ウマが合った為にとてもスムーズであった。

 

 ヴァレッタの目的はレヴェリアと末永く一緒にいること。

 恩恵を得てランクアップを重ねることで、神に近づいて不老長寿になる――以前よりそのように巷で言われており、実際にその可能性があることはイシュタルとの面談時にも確認済みだ。

 

 入団してから9年と半年程が経過した今、ヴァレッタはレベル6に至っておりイシュタル・ファミリアの幹部に末席ながら名を連ねていた。

 彼女のランクアップは全てレヴェリアとのマンツーマンの指導によるものだ。

 弱者を嬲るのは好きだが、強者に死ぬ気で挑みに行くなんてことはヴァレッタの性格的に無理である。

 しかし、彼女は狡い女だ。

 レヴェリアと戦うだけなら超ハードなSMプレイ感覚で頑張れそうだと思い、ちまちまやってきた。

 ヴァレッタ本人も思いも寄らなかったが、わりと才能はあったらしく、何だかんだでランクアップを重ねてきた。

 そんな戦闘ばかりであった為、苦痛を負えば負う程能力値に高い補正が掛かるスキルや、攻めれば攻める程に能力値に高い補正が掛かるスキルといった、冒険者ならば垂涎の稀少なものが発現してしまっているのは御愛嬌である。

 なお、レヴェリアによって『技と駆け引き』も仕込まれており、同格の中位帯には通用する程度には実力もあったりする。

 もっとも、ヴァレッタ自身が戦闘へ積極的に参加しようとは欠片も思っていない為、宝の持ち腐れとなっていたが。

 

「……やっぱり、アイツに賭けといたのは正解か?」

 

 レヴェリアなら本命のザルドにワンチャンあるかも、と思ってヴァレッタは大きめの金額を賭けていた。

 大穴のアリーゼ程のオッズではないものの、それなりに高めである為、当たればリターンは大きい。

 

「まあ、ほどほどに頑張れ」

 

 派閥大戦の時とは違って、ヴァレッタは気楽であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フレイヤ・ファミリアのホームには、以前よりアスフィ達専用の談話室が存在する。

 弟子同士で交流して、仲良くなってほしいというレヴェリアの発案によるものだ。

 各々が好き勝手に色々な物品を持ち寄って、快適に過ごせるように改装されたその談話室では、アスフィ達が大会を鏡越しに観戦していた。

 

「大食いなのは知っていましたけど……レヴェリア様、マジでヤバいですねー」

「あれだけ食べてなお、あの余裕……さすがはレヴェリア様ね」

 

 ヘイズ、ヘルンの言葉に各々が同意を示す中――アスフィが告げた。

 

「いいえ、あれは余裕がまったくありませんね」

「どう見ても、余裕があるようにしか見えないけど……?」

 

 まさかの発言に問いかけたのはフィルヴィスだ。

 時折見惚れるような笑みを浮かべ、美しい所作で食べる様は黒の王女としてのレヴェリアを垣間見たような気がしていた。

 

「まさか、アレでやせ我慢をしているのかい?」

「アスフィ、どういうことですか?」

「レヴェリア、美味しく食べているよ?」

「やせ我慢です。そのように見せかけているだけです」

 

 アイシャ、アウラ、アイズからの連続した問いかけにアスフィは断言した。

 この中でもっとも付き合いが長いからこそ、そして自身もまた王女であるからこそレヴェリアの振る舞いが、『やせ我慢』であることを見抜いていた。

 

 王族や貴族、あるいは大商人といった社会的地位が高い立場にある者が、苦しい顔を見せると周囲に不安を与えてしまい、敵対者にとっては付け入る隙となりうる。

 戦闘時や内輪での行事などといった場合は別であるが、平時の行事――特に今回のような公衆の面前――ではそういった可能性がある。

 

 レヴェリアは王女としてもアスフィにとっては先達だ。

 『やせ我慢』の巧みさも、表情や態度といった言葉を介さない情報のみでは、神々ですらも察することが難しい域に達していた。

 

 その旨をアスフィは詳しく説明すると、一同からは感心の声が上がる。 

 

「何だか、アスフィとレヴェリア様が通じ合っているみたいで……とても嫉妬しちゃいますねー」

 

 にこやかな笑みを浮かべながら、ヘイズが告げた。

 一見、いつもと変わらないが全身から闘争の気配が沸き立っているのを、誰もが感じ取った。

 

 この面々で一番レヴェリアと付き合いが長い上、戦闘力・知識・実務能力など全てにおいて高い水準にあるのがアスフィだ。

 9歳で入団し、今年で6年。

 毎年、ランクアップを重ねてきた彼女はアミッドを連れたダンジョン篭もり、そこから続いた合宿・竜の間引き――無論、アミッドも同行した――を経て、遂にレベル7へ至っていた。

 

 戦気を高めているヘイズに対して、アスフィは肩を竦めてみせた。

 ヘイズが憧憬・尊崇・愛情などなど、とにかく色んなものを詰め込んだ激重感情をレヴェリアに抱いていることは、よく知られている。

 レヴェリアとの出会いがそれだけ心に焼き付いたとのことで、本人に尋ねるとうんざりするくらいに長時間惚気混じりで語ってくれる為、砂糖を吐く覚悟がなければ触れるのは厳禁だ。

 

「通じ合っているかどうかは分かりませんが……いついかなる時も、あの方の傍にいると決めているのは間違いないですね」

 

 気負うこともなく、涼しい顔でアスフィは答えた。

 その言葉は地獄の底のような場所であろうとも、そこに未知があるのなら、そして何よりもレヴェリアがいるのならば自分が共にあるのは当然だ、という意味であることをヘイズ達は知っている。

 

 アスフィの発言を聞いたヘイズは溜息を吐いて、片手で顔を覆った。

 そして、その指の隙間から紅の瞳でアスフィを見つめながら呟く。

 

「私が誰よりも早く、あの方と出会いたかった……」

 

 普段は愛嬌にすっぽりと覆い隠されている、苛烈な本性が顔を覗かせた。

 強烈な嫉妬心を発露させる彼女に対して、アスフィは肩を竦める。

 こういうのは今回が初めてというわけでもなく、これまでに何度もあった為、アスフィ達に驚きはない。

 こういう時のヘイズに関わると面倒くさい為、放置という戦術を彼女達は採択した。

 

「そういえばフィルヴィス。この前、レヴェリア様からたこ焼きなるものをお裾分けされていましたが……」

「ほくほくで、すごく美味しかった。レヴェリア様が仰るには極東の屋台料理らしい。今度、買ってこようか? 場所も教えて頂いたから」

「お願いします。あなたがそのように評価したということは、納豆のような珍味ではなさそうですし……」

「昔からレヴェリア様は極東の料理にお詳しいのよね。アストレア・ファミリアの【大和竜胆】とも懇意にされておりますし」

 

 アウラとフィルヴィスのやり取りに、ヘルンが口を挟む。

 【大和竜胆】――ゴジョウノ・輝夜。 

 アリーゼと並んで、レヴェリアがアストレア・ファミリアの中で特に気に入っている極東出身の剣士だ。

 2人には合宿の際、よく声を掛けていたのをアスフィ達は目撃していた。

 

「アリーゼがリタイアになったね」

 

 鏡を見ていたアイシャの声に、一名を除き視線が鏡へ集中する。

 救護役として待機していたアミッドによって支えられ、青い顔をしながらゆっくりと舞台を去るアリーゼの姿が映っていた。

 

「……しくしく」

 

 その時、放って置かれたヘイズはソファの上で膝を抱え、わざとらしく声を出して泣いている振りを始めた。

 見るに見かねたアイズが彼女へ近づいて、その頭を撫でる。

 

「ヘイズ、元気出して」

「アイズは優しいですねー。そこのアスフィとかヘルンとかアイシャとかアウラとかフィルヴィスと違って、いい子で涙が出そうです」

「……泣いてないの?」

「あ、泣いてますよ。嘘泣きなんてしてませんよー。ほら、しくしくしーく……」

 

 茶番劇を繰り広げている2人を横目に見て、肩を竦めたり呆れてしまう。

 これもまたいつもの光景であった。

 

 

 

 

 

 

 これは、マズイな――

 

 その思いでレヴェリアの心はいっぱいだった。

 だが、そのような感情を一切表に出さず、ひたすらに食べ進める。

 

 頭に思い浮かべるのは里を出る前、故郷で強制菜食生活を強いられていた時のこと。

 あの時のことを思えば、最高に幸せだ――そう強く念じることで、レヴェリアは変わらぬペースで食べ続けてきた。

 

 だが、もう限界である。

 胃袋はとっくに悲鳴を上げており、これ以上は入らないと強烈に主張している。

 

 けれども、食べることは止めない。

 アリーゼがリタイアし、残るはベート、オッタル、そしてザルド。

 そのうちベート、オッタルは実質的にリタイアだと予想する。

 

 ベートは一時的に復活したものの、まったく進んでいない。

 オッタルも完全に止まっている。

 両者共に顔を顰めて、ステーキの中心付近をじっと見つめていた。

 

 対するザルドは――止まっていない。

 彼もまたレヴェリアと同じく変わらぬペースで食べ続けており、ステーキの枚数は抜いたり抜かれたりと絶えず戦況は動いている。

 その時、ザルドと視線が合う。

 彼の目は、まだ死んでいなかった。

 レヴェリアは内心で溜息を吐きつつ、覚悟を決める。

 

 ここで退いたら、女が廃る。

 私を舐めるな、【暴喰】――!

 

 心の中で気炎を上げつつも、食べるペースを落とすことも上げることもしない。

 一定のペースを保ち続けること、それが大食いの最適解だと彼女は信じている。

 もはや意地であった。

 

 それから2人は接戦を繰り広げる。

 その途中でベート、オッタルがアミッドによる判断でリタイアとなりつつも――遂にその時はきた。

 

『【暴喰】が! 大本命が! 止まったぁあああああ!』

『ウッソじゃろおい!?』

 

 動きを止めたザルドにヘルメスが叫び、ゼウスが驚愕した。

 ザルドに対して、観戦者達から罵声じみた声援が飛ぶ。

 大本命ということで彼に賭けた者達であったり、ゼウス・ファミリアの面々であったりと様々だ。

 ベルも必死に声援を送るが、レヴェリアとザルド、どちらにも負けてほしくない為に変な内容になっていた。

 そんな彼の様子に、両親は頬が緩んだ。

 

『レヴェリア様は止まらない! 止まらないぞ! あの体型でどこに入っているんだ!?』

『ザルドぉおおお! 頑張れぇえええ!』

 

 ゼウスの必死の応援も虚しく、やがてザルドは大きく顔を歪ませて――ギブアップを宣言した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アフロディーテ・ファミリアのホーム、その神室にてフレイヤ、イシュタル、アフロディーテが揃って観戦していた。

 この面子が集まる時はフレイヤ・ファミリアやイシュタル・ファミリアが多い為、今回はアフロディーテが自分からホームに招いた形だ。

 

「レヴェリアがここまでやるとは、思わなかった」

 

 勝利が確定したことで、『わんこステーキ』から解放されたレヴェリアがヘルメスのインタビューに答えている光景が鏡に映っている。

 3柱から見ても普段とあまり変わらないか、若干顔色が良くないように見えなくもない程度だ。

 

 イシュタルの言葉に、アフロディーテもまた頷く。

 優勝することは予想していたわ、と言わんばかりにフレイヤはドヤ顔であるが、内心では予想外の結果に驚きと興奮で一杯だ。

 昔から大食いだとは知っていたが、まさかここまでとは思いもしなかった。

 そこへイシュタルが更に言葉を続けた。

 

「褒美に、まずは私の名を呼び捨てにする権利をやるかな」

 

 その発言に、フレイヤもアフロディーテも意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「もっと前から、本当は呼び捨てにされたかった癖にー」

「意地を張って、ここまでずるずるときちゃったのよねー」

「しばき倒すぞ、お前ら」

 

 フレイヤとアフロディーテからの言葉に対して、イシュタルは睨みつけるもまったく怖くない。

 それから3柱は、レヴェリアへのご褒美についてあーだこーだと話し合いを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まだまだ足りん」

 

 ダンジョン67階層にて、その赤髪の女は倒したばかりの百足竜(センチピードドラゴン)の魔石を貪り食っていた。

 奇しくも地上で行われていた大食い大会をダンジョン内で孤独に実行しているかのようであるが、彼女にそんな意図はない。

 長年、穢れた精霊の『番人』紛いのことをしてきた彼女にとって、今やその役目をこなしているとは言い難い。

 60階層以下にまで遠征にやってくる冒険者達に、もしも見つかってしまえば抵抗すらできず、一方的に蹂躙されてしまう可能性が高いからだ。

 

 元々、60階層の正規ルートから外れた広大なルームを根城としていた穢れた精霊は、冒険者達を大きな脅威と認め、戦力の増強に必死であった。

 数年前から『アリア』の風をすぐ近く――50階層での合宿によるもの――で不定期に感じるからこそ、その焦りは大きい。

 

 精霊の意を汲んで、レヴィスは60階層以下に進出してはモンスター達の魔石を食べ、あるいは尖兵とすべく『宝玉の胎児』を寄生させ、極彩色の魔石を使った新種のモンスターを生み出してきた。

 『精霊の分身』や新種のモンスターは今や恐るべき数となっていたが、四派閥を打倒するには質・量共に足りなかった。

 





なお、大会後、レヴェリアの体調はヤバいことになって、トイレと友達になった模様。



ダンジョン篭もり・合宿・間引き(治療師として後方支援)まで参加してきたアミッドのステイタス更新を行ったディアンケヒトの反応



 ( Д ) ゚ ゚ ←だいだいこんな感じ



ちなみに、連続昇華できるけど、熟練度を限界まで伸ばす為にそもそもランクアップをしないことをアミッドは選んだ模様。

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