時間の進みが速すぎる……!
「まったく、たわけたことを……」
ジト目で見つめながら、そう言ったリヴェリアに対してレヴェリアは眉をハの字にしてみせる。
午前中にショッピングを楽しんだ2人は大通りから外れた奥まったところにある、知る人ぞ知る隠れ家的レストランにいた。
『たわけたこと』とは先月に行われた大食い大会のことだ。
何をやっているんだあのたわけは、と呆れながら彼女は見ていた。
「仕方がないだろう。うちのたわけが出てくれないと嫌だ、と延々と駄々をこねるんだぞ」
「簀巻きにして吊るせばいいだろう?」
「それでも言い続けるぞ、あのたわけは」
レヴェリアの言葉に、リヴェリアは軽く溜息を吐く。
フレイヤのことをもっともよく知っている彼女が言うならば、本当にそうなるのだろうと分かってしまったからだ。
「ともかく、あの戦いはお前のフィールドではなかった。よく勝てたものだ。そこは称賛しておこう」
「ありがとう、リヴェリア」
「大食い大会がまたあったとしても、もう出るんじゃないぞ」
リヴェリアは釘を刺す。
レヴェリアが大会後に体調を崩して、トイレに篭っていたという話は彼女も聞いていた。
勿論だ、とレヴェリアが頷いたところでリヴェリアは話題を変える。
「ところで、将来的に黒竜の単独偵察をするそうだな」
「ああ、そうだ。封印周辺に陣取っている竜達を狩り尽くして、必要な準備等を整えてからになる。暫く先だ」
直近の間引きでは推定レベル4以下の個体は確認されておらず、推定レベル5やレベル6程度の個体ばかりであることから、弱い竜は全滅に追い込めたと判断されていた。
長年甚大な被害を齎してきた竜達は、そのほとんどが人類の生存圏との境目に生息しているレベル4以下の個体ばかりだ。
近年は封印が弱まったことが理由であるのかは不明だが、レベル5以上の個体も谷から出てくることが多くなっているとはいえ、竜の総数が減っているのは間違いなかった。
「お前の偵察結果にもよるだろうが、まだ戦力が足りんだろうな……」
「ああ、同感だ。黒竜だけでなくダンジョンを攻略するにも、まだまだ不足している」
四派閥合同遠征による現時点での到達階層は76階層。
その陣容はレベル10とレベル9を主力とし、レベル8がサポーターにつくというものだ。
しかし、人類トップクラスの戦力が集っていてもなお、遠征は毎回悪戦苦闘していた。
もっとも、焦ったところで状況が好転するわけでもない為、これまで通りに着実に進めていくのみであった。
話が一段落したところで、レヴェリアが話題を変える。
「ところで、ロキから聞いたのだが……今度メレンへ慰安旅行に行くそうだな」
「ああ、そうだが」
「ロキが際どい水着を購入しているのを見たぞ。あいつが自分で着るならばいいが……それはないと思う」
「おそらくな。十中八九、主神命令と言い張って現地で私に渡してくる筈だ」
「午後は水着を選びに行くか?」
「すまない、助かる」
レヴェリアの提案に、リヴェリアはそう答えるのだった。
メルーナ・スレアは知識欲が強いことで知られている『イェニテの森』のエルフだ。
幼い頃、両親に連れられて派閥大戦を観戦したことで、『力』と『戦』に傾倒するきっかけとなった。
彼女が特に目を惹かれたのはレヴェリアであり、その熱は年月が経過しても収まることがなかった。
その為、遂には里を出てオラリオにやってきたのだが、彼女が到着したのは大食い大会の真っ最中。
何故かレヴェリアがその大会に出ていたが、ともあれその勇姿を再び観戦した。
大食い大会終了後、フレイヤ・ファミリアの門を叩き、レヴェリアに対する熱意を猛烈にフレイヤへアピールし、見事入団となった。
あいにくとレヴェリアは大食い大会の
そんなメルーナはフレイヤ・ファミリアの雰囲気にも、すっかりと慣れていたものの突発的に起こるレヴェリアとフレイヤのやり取りには毎度驚かされてばかりであった。
そして今日もまた、2人による突発的イベントが起こっていた。
ひぃん、と泣き顔のフレイヤ。
その横で仁王立ちするレヴェリア。
フレイヤの前にある大テーブル、その上には20個程のショートケーキが置かれていた。
胸焼けしそうな程の量であるが、特徴的であるのはケーキの色合いだ。
青赤黄色、揃ってきれいだな――などと思考が次元の彼方へメルーナは飛んでいきそうになったが、気合で耐えた。
どう見ても食欲が湧くどころか減退する、良く言えばカラフルで悪く言えば毒々しい色合いだ。
そもそもの発端はフレイヤ様がレヴェリア様にケーキが食べたい、作ってと言ってきたことが始まりだったな、とメルーナは思い返す。
リヴェリアとの買い物を終えて、14時過ぎに帰ってきたレヴェリアに対して、フレイヤが告げたのである。
レヴェリアは大変嫌そうな顔をしたものの、すぐに笑みに変わったのをメルーナはアスフィ達と共に見た。
これは絶対に何かある、と皆で言っていたら案の定、この有り様である。
「さぁ、フレイヤ。私の手作りだ。存分に食らうが良い」
「ひぃいいいん! レヴェリアがいじめるー! 助けてー!」
すごく良い笑顔で告げるレヴェリアに対して、情けない顔で助けをこちらに求めてくるフレイヤ。
ここはレヴェリアに指導を受けている面々が使っている談話室だ。
メルーナ以外にもアスフィをはじめとした、いつもの面々が集っている。
しかし、誰もフレイヤの助けを求める声には応じない。
アスフィはアイズに勉強を教えており、ヘイズはソファで寛ぎながら読書中。
アウラとフィルヴィスは紅茶を楽しみ、アイシャは状況をニヤニヤと笑いながら見守っている。
唯一ヘルンだけは口を開きかけては閉じる、という動作を繰り返していた。
どうにかしてフレイヤを助けたいが、それではレヴェリアを妨害することになってしまう――ヘルン的には、あちらを立てればこちらが立たず。
いつものことだが、彼女にとっては究極的二律背反である。
その時、フレイヤとメルーナは視線が合った。
「助けて! メルーナ!」
「メルーナ、聞く必要はないぞ」
主神と団長からの相反する言葉に、メルーナ・スレアは――
「レヴェリア様、御言葉ですが、そのケーキには何が入っていますか? もしや、噂に聞くフレイヤ様の
自分の知識欲に従った。
イェニテの森のエルフなので仕方がなかった。
フレイヤはレシピ通りに料理を作れば何も問題がないのに、少しでもアレンジをすると毒物を生成できる凄腕の持ち主だ。
レヴェリアですら長年解明ができていないというその謎を入団後ほどなく知り、メルーナは興味を惹かれていた。
「食用着色料しか入っていない。本当だぞ」
「嘘よ! 嘘じゃないって分かるけど絶対に嘘よ!」
そう叫ぶフレイヤに、メルーナは腕を組む。
頭脳明晰な彼女が弾き出した答え、それは試食である。
レヴェリア様がそう言うのだから、本当にそうなのだろうという信頼がそこにはあった。
「レヴェリア様、一口よろしいですか?」
「構わないとも」
許可が出た為、メルーナはケーキによく似た謎のモノという認識でもって、並べられていたフォークを使って手近なところにあるケーキを食べることにする。
ケーキとは白ではなく青だ、と激しく主張している青く染まったショートケーキ。
イチゴが載っていることもあり、赤と青のコントラストがいい塩梅であるような気がしなくもない。
そして、メルーナは一口分をフォークで切り分け、口に含む。
瞬間、彼女は目を見開いて身体を震わせる。
そのケーキは、色合いに反してあまりにも美味しかった。
店に並んでいてもおかしくはない味だ。
「……美味しい」
メルーナの口から零れ出てきたのはたった一言であったが、レヴェリアにはそれで十分だった。
「レヴェリア、私も食べたい」
そこへお勉強が一段落したアイズが声を掛ける。
レヴェリアの料理の腕はフレイヤのワガママに長年鍛えられてきたこともあり、中々のモノであることを彼女だけでなくアスフィ達も知っていた。
故に、今回のケーキの色合いも変わった趣向程度にしか気にしていない。
むしろ、着目すべきは用意された量にあるのではないか、と密かに考えていた。
とてもではないが、フレイヤだけで食べ切れる量ではない為だ。
無論、フレイヤとてこういった点に気づいていないわけがなく、レヴェリアの狙いは察している。
だが、フレイヤは言葉を尽くして回避するなどということはまったく考えていなかった。
そんなことをしたら楽しくないからだ。
「すまないな、アイズ。これは全部フレイヤが食べるんだ」
「な、なんですってー!?」
レヴェリアの言葉に、白目を剥いてフレイヤは叫んだ。
レヴェリアはフレイヤに大食いをやらせようとしている。
それもケーキなんていうカロリー爆弾でもって――その事実にアスフィ達は戦慄した。
いくら神は不変であり太ることなどないとはいえ、あまりにも酷い所業だ。
「ケーキを食べたいとお前は言ったが、量までは指定していなかったよな? あと、私が大食い大会に出たのだから、主神のお前もやるべきだよな?」
すげぇ論理を振りかざしてきたレヴェリアに、アスフィ達は息を呑む。
雰囲気的に、フレイヤがどんなに拒もうともケーキを口に突っ込まれるオチしか見えない。
「こ、ここから入れる保険とかないかしら!? 何でもするから!」
「大人しく自分で食べるか、私に口に突っ込まれるか、好きな方を選ばせてやる」
「ひぃいいいいん! 助けてー!」
これはマジだと察したフレイヤは、すかさずアスフィ達に救援を求めた。
だが、彼女達は大食い大会が開催された理由や、レヴェリアが出場した経緯についても知っていた。
故に助ける者は誰もいないかと思いきや、名案を思いついたヘルンが口を開く。
「恐れながらレヴェリア様。フレイヤ様の食べるペースでは、食べきる前にケーキが傷んでしまいます。生クリーム等の傷みやすいものを使用されておりますので、冷蔵保存をしたとしても保って1日程度。せっかくのケーキが台無しになってしまうのは、よろしくないかと……」
ヘルンの至極真っ当な発言に、フレイヤは何度も首を縦に振ってみせる。
確かにその通りだ、とレヴェリアもまた同意を示す。
「フレイヤ、好きなだけ食べるといい」
「……それって1個とかでも構わない?」
「ああ、いいぞ。満足するまで食べてくれ」
確認を込めたフレイヤの問いかけに対して、レヴェリアは答えた。
進言したヘルンも含め、意外とあっさりとレヴェリアが引いたことに首を傾げる。
何か裏があるんじゃないか、という気がしてならない。
「何か仕込んだりしてない?」
「してないぞ。激辛とかそういうオチも用意していないから安心しろ」
「嘘じゃないわね……」
レヴェリアの言葉に嘘偽りがないことを確認したフレイヤは、遠慮なく満足するまで食べることにする。
そして、美味しい美味しい、と言って笑みを浮かべながら彼女は食べ進めていく。
瞬く間に1個目を完食し、2個目も然程時間を掛けることなく食べ終え、3個目に取り掛かった。
そして合計5個を食べたところで満足したフレイヤが、フォークを置こうとした瞬間にレヴェリアが告げた。
「次にケーキを作ってやるのはいつになるか分からんぞ。いいのか? もうやめてしまって」
「卑怯よ! そんな手を使ってくるなんて!」
「私は事実を言っているだけだぞ?」
ニヤニヤと笑みを浮かべるレヴェリアに対して、フレイヤは悔しげな表情でもってケーキを見つめる。
色合いこそアレであるが、味は最高だ。
故に、食べようと思えば食べることができてしまう。
「さぁ、フレイヤ。満足するまで食べると良い。次がいつになるか分からないからな」
「ひぃいいいん! レヴェリアがいじめるー!」
勝ち誇った笑みを浮かべるレヴェリアに対して、フレイヤは情けなく叫んだ。
結果として、フレイヤは合計10個のケーキを食べたところでギブアップした。
美味しかったが、ケーキは懲り懲りと彼女は言っていたが、この翌日にレヴェリア手製のケーキ(食用着色料不使用、純白)がアスフィ達に振る舞われた時のこと。
私も食べると言ってきた
ネタはあるけれど、どうにも文章として出力が難しい。
スランプというやつかもしれない&ゲームやったりするので、更新遅れます。
そういえば、新しいPC組みました。
RTX5090や5080の評判がアレだったので、4000番台購入したのだけど決断して良かった(5000番台の不具合やら焼損やらの情報を見ながら)