転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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スランプで全然書けないと活動報告に書いたのに、それから何故か書けてしまった。


砂漠旅行

 

「……おい、フレイヤ。これがお前のやりたかったことか?」

 

 ジト目でレヴェリアは横にいるフレイヤに問いかけた。

 ここはオラリオより南東、カイオス砂漠――その手前にある宿場街だ。

 

 2人きりで旅行に行きたい、とフレイヤが言ってきたのは1週間程前のこと。

 デートはともかく旅行には最近行っていなかったこともあり、レヴェリアは快諾して翌日には早速出発したのだが何分、フレイヤは自由気ままである。

 目的地を決めていなかった為に道行く旅人や行商人にオススメの場所を聞いて、彼女がピンときたこの地へやってきていた。

 

 そんな2人が今、何をやっているかというとこの街の名物だという砂風呂に入っていた。

 

 顔以外の全てが砂に埋まることで、全身が温められてホカホカ良い気分である。

 

「気持ちいいでしょ?」

「それはそうだが……雪が降る中で温泉に入りたくなった、とか言うのは無しだぞ?」

 

 ほぼ真反対の方向へ今から向かうのは勘弁願いたいレヴェリアの言葉に、フレイヤはニヤリと笑う。

 それもアリね、と思っている顔だ。

 

「振りじゃないからな? 本当にやめろよ?」

「分かっているわ。今は砂漠の気分だから大丈夫」

「今はっていうことは、数時間後には変わるかもしれないってことだな?」

「さすがはレヴェリアね。私のことをよく分かっているわ」

 

 ドヤ顔のフレイヤに、レヴェリアは溜息を吐いた。

 しかしながら、彼女の懸念は杞憂に終わることになる。

 

 砂風呂から出た後、フレイヤの提案で向かった酒場。

 そこでボフマン・ファズールという商人が真っ先に飛びついてきて、旅の案内を無償で名乗り出た為に。

 

 

 

 

「ねぇねぇ、レヴェリア。アルテナに負けてられないわ。空飛ぶ船を作って」

「よし、飛行戦艦を作るぞ。艦名は『ゴリアテ』だ」

「何だか機械人形(ロボット)に負けそうな気がするわね……」

 

 アルテナが建造をした砂漠専用の船、その名も砂海の船(デザート・シップ)

 カイオス砂漠広しといえども、この船を所有しているのは数えるほどだとボフマンの談。

 そして彼は愛想笑いをしながら、かつてない程に大きな商機にその思考を巡らせている。

 

 フレイヤやレヴェリアの寵愛を得たい、という男としての欲望はあるものの、そっちよりも利益の方が大事だ。

 自らの商会を飛躍させるチャンスを見逃すわけにはいかない。

 しかし、そこでレヴェリアが予想外の言葉を口にする。

 

「ああ、ボフマン。こっちに向かって地中からモンスターが接近してきているぞ。おそらくサンド・ワームだろう」

「……へ?」

 

 ボフマンは目を丸くしたが、あの【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】が言うのだから間違いはないと思い直す。

 すぐさま船員達に命じて周囲を警戒させた時、猛速でもって近づいてくるモノを発見した。

 砂の下をかき分けて進んでくる為か、ボコボコと不自然な山を形作りながら――そのモンスターは忍び寄ってきていた。

 

「サンド・ワームだ! 左舷方向! 一直線に突っ込んでくる!」

 

 左舷側の見張りをしていた船員の悲鳴じみた叫び声。

 それがまるで合図であったかのように、勢いよく地中から飛び出したサンド・ワームは大口を開けながら船目掛けて飛びかかった。

 

 瞬間、響き渡る壮麗な音。

 その音色と共に放たれた黄金の斬撃はサンド・ワームの巨体を瞬時に消し飛ばして、空へ駆け上がっていった。

 

 ボフマン達は、ただただ呆然としていた。

 彼等彼女等にはレヴェリアが何かしらの攻撃をして、撃退したことだけしか分からなかった。

 理解できないからこそ、畏怖の視線を向けるボフマン達であったが、それを気にすることもなくレヴェリアは口を開く。

 

「そういえばサンド・ワームは塩胡椒で焼くと美味い、とザルドが言っていた覚えがあるな……フレイヤ?」

「やだ!」

「まだ何も言っていないぞ」

「どうせ私に食べさせるつもりでしょう? そうはいかないわ!」

「フレイヤのちょっと良いとこ見てみたい」

「飲み会のコールみたいな言い方をしても駄目よ」

 

 唐突に始まった2人のやり取りに、ボフマン達は目を丸くしてしまう。

 完全に置いてけぼりであったが、フレイヤとレヴェリアのやり取りはしばらく続いた。

 

 

 

 

 そんな事があったものの、リオードの町に船は到着する。

 オラリオとは違った雑然として野性味のある雰囲気に、フレイヤはワクワクしたものの萎えどころがあった。

 

 奴隷の存在だ。

 

 ボフマンから事前に奴隷制度が認められていることやその背景について説明があったものの、目の当たりにするとつまらない、と感じてしまう。

 だが、妙に奴隷の人数が多い気がした為、フレイヤはボフマンに尋ねる。

 

「ボフマン、奴隷の人数が随分と多いようだけど……?」

「実は数日前、シャルザードにワルサが侵攻しまして」

 

 奴隷市場に向かって歩く奴隷達を澄まし顔で見ていたレヴェリア。

 その長耳がピクリと動いたのを、フレイヤもボフマンも見逃さなかった。

 レヴェリアがおもむろに尋ねる。

 

「シャルザードの民が奴隷として流れてきているわけか?」

「はい、レヴェリア様。長年、軍拡を推し進めてきたワルサは自前の戦力に加え、傭兵系ファミリアを複数擁しており、一方的な戦いだったようです」

「シャルザード側は全滅か?」

「アラム王子が生き残りと共に抵抗を続けているらしいですが、覆すことはまず不可能かと……」

 

 なるほど、とレヴェリアは頷いて告げる。

 

「ところで物は相談なのだが、今この町にいる全ての奴隷を買いたい。目に映ると陰鬱な気分になってしまうからな」

 

 その言葉にボフマンは呆気に取られる一方で、フレイヤはおずおずと尋ねる。

 

「レヴェリア、もしかして男の奴隷も?」

「ああ、そうだ」

 

 これはえらいことよ、と両手で口元を抑えて目を見開くフレイヤ。

 レヴェリアの気遣いが嬉しくてたまらないが、驚きもまた大きいからこそ余計な一言を言ってしまう。

 

「嘘でしょ……天変地異の前触れだわ」

 

 するとレヴェリアはニッコリと笑って、フレイヤの額にデコピンを食らわせた。

 痛烈な一撃を加えた後、レヴェリアはボフマンに尋ねる。

 

「可能か?」

「おそらく可能かと思われますが……あの、フレイヤ様は大丈夫ですか?」

 

 レヴェリアからの問いに答えつつ、ボフマンはフレイヤに視線を向ける。

 彼女はオデコを抑えながら蹲って悶絶していた。

 

「大丈夫だ。ちゃんと手加減しているからな」

 

 レヴェリアの答えに、ボフマンは「違う、そうじゃない」と言いたかったが怖かったので言えなかった。

 

 

 

 

 案内された奴隷市場にて、顔役のロッゾとボフマンがやり合っているのを横目に見ながら、フレイヤは一列に並んだ奴隷達を見つめる。

 誰も彼も魂は灰色に淀んでおり、思わず眉を顰めてしまうが――その中で、違った輝きを1つ見つけた。

 その者から感じられる『威風』は他の者達とはまるで違う。

 中々いい子がいるわね、と思ったところで、彼女は良いことを思いつく。

 

「ね、レヴェリア。この中で誰か1人を選ぶとしたら……誰にする?」

「ふむ……」

 

 問われて真っ先にレヴェリアの視線が向かったのは、黒髪ロングのスタイルが良い褐色肌の獣人女性だ。

 女性を見るレヴェリアは澄ました顔であるが、彼女のことを少しでも知っている者ならばスケベなことを考えているのが分かるだろう。

 だが、レヴェリアは獣人女性を選ぶことなく奴隷達、1人1人へ視線を向けていく。

 

 そして、ある人物のところで止まった。

 奇しくもフレイヤが見つけた輝きの持ち主だ。

 

「あの少女だな」

「理由は?」

「目だ」

 

 目は口ほどに物を言うからこそ、レヴェリアは彼女に決めた。

 逆境であろうとも諦めることなく、僅かなチャンスであろうとも逃すまいとしている――レヴェリアにはそう感じられた。

 その時、顔役のロッゾが声を掛ける。

 

「畏れながらレヴェリア様。そこのボフマンより、この町にいる全ての奴隷を買いたいと伺いましたが……?」

「ああ、そうだ。代金はひとまずボフマンに請求しておいてくれ」

「レヴェリア様!?」

 

 まさかの言葉にボフマンは叫ぶが、すかさずレヴェリアは告げる。

 

「後で証文を渡す。()()()()()()()請求してくれ」

「さすがはレヴェリア様ですな!」

 

 手のひらを返したボフマンは揉み手で満面の笑みを浮かべつつ、更に尋ねる。

 

「しかし、レヴェリア様。さすがに私共の所有する屋敷ではこれほどの人数の面倒を見ることは……」

「それならば町ごと買えば問題ないか?」

 

 まさかの言葉にボフマンとロッゾは互いに顔を見合わせる。

 彼等も豪商であるからこそ、大金を湯水のように使うことはあるものの、さすがに町ごと買おうなどという発想は出てこない。

 どうやって答えればいいものか、と頭を悩ませる中でフレイヤが口を開く。

 

「とりあえず、あの屋敷でいいんじゃないの?」

 

 オアシス中央の島に建つ宮殿のような建物を指さしてみせる。

 町一番の豪商だけが住むことを許される『オアシスの屋敷』と住民達から呼ばれている屋敷だ。

 現在は空き家となっているその屋敷を『とりあえず』で購入するという。

 

「ふむ……入り切らなかったら追加で買えばいいか」

「そうよ、無駄遣いはしちゃ駄目」

 

 2人の会話を聞いて、ロッゾとボフマンの心は一致する。

 住んでいる世界が違い過ぎる、と。

 そんなことを思っている間にも、フレイヤとレヴェリアのやり取りは続く。

 

「ところで、レヴェリア。あの子達の枷と鎖(アレ)、いる?」

「いらんな。それと身なりも相応しいものに整えてもらいたい。あと痩せ過ぎだ。栄養を取らせねば……」

「というわけで、ボフマン。頼んだわよ」

 

 誰もが見惚れるような笑みを浮かべたフレイヤから丸投げされたボフマン。

 彼は近くにいるロッゾの肩をがっしりと掴んで告げる。

 

「ロッゾ、分前はやる……だから、協力してくれ」

「うちは奴隷専門だぞ……?」

「売り物がいなくなって暇になった従業員を全て貸せ。金は払うから」

「それならば構わないが……」

 

 2人の間で話が纏まった、その時――レヴェリアが何気なく言った。

 

「面倒だ、纏めて癒やすか」

 

 何を、とボフマンとロッゾが問うよりも早く、神速でもって詠唱を完了させたレヴェリアにより展開される黄金色のドーム。

 その正体を、2人の商人は噂で知っていた。

 

「こ、これが……あの……!」

「何と美しい輝きだ……!」

 

 死ぬ定めにあった数多の人々を救ってきた、レヴェリアの代名詞たる治癒魔法【リーヴスラシル】。

 そのドームは奴隷達だけに留まることなくどんどん広がっていき――遂にはリオードの町をすっぽりと包み込み、中にいる全ての者達をたちまち癒やし尽くすのだった。

 

 




ワルサ
長年の軍拡によりワルサ軍はシャルザード軍に対して質・量ともに優越しており、また強力な傭兵系ファミリアを複数擁する。

ワルサ軍によるシャルザード侵攻の推移
開戦と同時に事前潜入していた精鋭部隊による斬首作戦を決行。
国王をはじめ王族や重臣を複数名討ち取り宮殿とその周辺を制圧するも、異変に気づいた王都駐屯の近衛師団による被害を顧みない決死の救出作戦及び住民達の手助けによりアラム王子や若い家臣達を取り逃がしてしまう。
だが、各地のシャルザード軍をワルサ軍及び傭兵系ファミリア達が各個撃破したこともあり、開戦から4日後には王都入城を成し遂げて全土制圧を宣言し、残敵掃討に移行。

稲妻の如き鮮烈な侵攻は長年、練りに練ったドクトリンに基づくものであり、【衝撃と畏怖】とワルサ軍内部で呼称されていた。

何事もなければ、彼の国はカイオスにおける覇権国家として君臨できるだろう。
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