「しまったっ……!」
目を開けたアリィはガバっと勢いよくベッドから起き上がった。
窓から差し込む月光を頼りに、壁時計へ視線を向ければ時刻は2時を回ったところだった。
中途半端な時間に寝入った為か、この時間に目が覚めたようだ。
彼女が認識したところで、タイミング良く扉が叩かれた。
そこでアリィは自分が鍵を閉めていたことを思い出す。
「今、開けるっ!」
ベッドから降りて出入り口へ駆け寄って、鍵を開けるとそこにいたのはレヴェリアであった。
彼女が手に持っているお盆には、彩り豊かな料理が盛り付けられた皿が載っている。
漂う香りと見るからに美味しそうな料理の数々に、アリィのお腹が可愛く鳴った。
羞恥のあまり言葉も出ず、顔を俯かせてしまう彼女をレヴェリアはくすりと笑う。
「そろそろ起きる頃合いだと思ってな。空腹だろうから持ってきたぞ」
「あ、ありがとうございます……」
うわぁああ私のバカぁああああ――!
王族にあるまじき大失態に、アリィは内心で絶叫した。
「1時間程したらまた来るぞ。ゆっくり食べてくれ」
「は、はい」
レヴェリアの言葉に、アリィはそう返すので精一杯だった。
「料理はどうだった?」
「あ、はい……大変美味しく頂きました」
およそ1時間後、再びやってきたレヴェリアは開口一番に尋ねた。
彼女の問いかけに対して、アリィは素直に感想を伝えた。
味付けも絶妙であり大変美味しかった為、お世辞などではない。
するとレヴェリアは柔らかく微笑んでみせる。
「この地にある食材を使うのは初めてだったが、上手くいったようで良かった」
その言葉に、アリィは気づいてしまった。
「も、もしかしてレヴェリア様の手料理……?」
「ああ、そうだ」
肯定の返事にアリィは驚きのあまりに固まってしまう。
レヴェリア様の手料理を振る舞ってもらうなど、とんでもなく贅沢なことなのでは――?
彼女がそう考えた時、レヴェリアは何気なく告げる。
「私も里から出なければ、自分で料理はしなかっただろう」
その言葉にアリィはハッとする。
実のところ、アリィには前々から――こうしてレヴェリアと実際に出会うよりももっと前から――疑問に思っていたことがある。
尋ねようかどうか彼女が迷っている中で、レヴェリアがさらに言葉を掛ける。
「ところでアリィ。難しいとは思うが、敬語ではなく砕けた口調で……様付けもしなくて良い」
レヴェリアからの要望に、アリィは視線を彷徨わせた後、意を決して恐る恐る口を開く。
「レ、レヴェリアに……し、質問したいことが、ある……」
「構わないぞ。何でも聞いてくれ」
アリィの言葉に、レヴェリアはにこやかな笑みを浮かべて応じる。
「その、どうしてあなたは里を出たんだ?」
それこそがアリィが抱いていた疑問。
風習や慣習に嫌気が差して里を出るというエルフが多いらしいことは、彼女も聞いたことがある話だ。
レヴェリアもまたその類なのだろうか、それにしては随分とはっちゃけ過ぎていて――ぶっちゃけた話、まったくエルフらしくないのである。
「実は大きな理由があるんだ」
「その理由とは……?」
もったいつけるレヴェリアに、アリィは身を乗り出す。
「美味しいことは美味しいのだが、山菜ばかりで味付けの薄い食事と禁欲的な生活、エルフに対する恨み辛み……それらにウンザリした」
語られた理由に、アリィは納得するしかなかった。
そういった日々から解放されたからこそレヴェリアはハッチャケてしまったのだ、と確信した。
彼女がそう思っていると、レヴェリアは柔らかな笑みを浮かべて告げる。
「他にもあったら、遠慮なく聞いてほしい。それこそ、興味本位といったものでも構わないぞ」
「それじゃあ……ダークエルフやエルフの里には、天にも届く大樹があるというのは本当か?」
「本当だ。大聖樹と呼んでいて……」
レヴェリアの言葉に、アリィは興味津々に耳を傾ける。
彼女は立場上、国から出ることがほとんどなかったこともあり、どのような世界が広がっているか伝聞でしか知らない。
それからしばらくの間、歓談を楽しんだ2人であったが、話題が一段落したところでレヴェリアが切り出した。
「アリィ、実は確認したいことがあってな」
「確認したいこと?」
「ああ、ワルサをシャルザードが併合した場合、旨味があるかどうかだ」
「ない」
アリィは即答した。
躊躇のない答えを聞き、レヴェリアは尋ねる。
「その理由は?」
「西カイオスでもワルサは特に劣悪な環境で、目ぼしい資源・産業もない。たとえシャルザードが万全の状態であったとしても、併合などすれば国が傾くことになる」
次期国王として教育を施されてきたからこそ、淀みなく答える。
旨味がまったくない為、シャルザードはワルサに対して攻め入ることなどはなく、相手が仕掛けてきた場合は随時対応するという姿勢を貫いてきた。
だが、アリィは今になって思い至った事を口にする。
「近年でもワルサとはこれまで小競り合いは何度もあったが、あれは戦力偵察の意図もあったのかもしれない」
「可能性は高いだろう。シャルザードの安全保障の為にも、ワルサから牙を完全に抜き去る必要がある」
その言葉にアリィもまた頷いて同意したところで、突如としてレヴェリアが立ち上がった。
彼女が見つめる先は露台だ。
そこに立てば月光に照らされているリオードの町が見えるだろう。
「お前が寝ている間、ボフマンに頼んでリオード全域に情報を流してもらったんだが……どうやら食いついてくれたようだ」
レヴェリアの言葉の意味を悟り、アリィは息を呑んだ直後。
露台と室内を隔てている窓扉ではなく、その横の壁をぶち破ってストールを首に巻いたヒューマンの少女とフードを被った猫人らしき少女が飛び込んできた。
2人が目指す先にいるのはアリィ。
その速さはアリィには目にも留まらぬ程であり、あっという間に目の前に迫っていたが――突如として、2人は床に叩きつけられた。
それは酷くあっけないものだった。
まるで飛んでいた蝿を煩わしいから、とハエ叩きで叩いたかのように。
「レベル3かレベル4くらいかな」
何事も無かったかのように、レヴェリアは告げた。
襲撃者達は起き上がって逃げる素振りすらなく、ただ苦痛に喘いでいるだけだ。
「さて、アリィ。今から彼女達にワルサの内情を聞くとしよう」
その言葉に頷きながらも、アリィは思う。
レヴェリアの実力を過小評価してしまっているかもしれない、と。
もしもこの襲撃者達がレヴェリアの言うように、レベル3であるならば『
そんな強者が2人纏めて掛かっても、あっさりと叩きのめすレヴェリア。
いったいどれほどの強さなのだろうか、とアリィは思いつつ、レヴェリアが治癒魔法を唱えて2人を癒やすのを見ていた。
数分後、治癒魔法を受けたことで襲撃前よりも元気一杯となった少女達はロープでぐるぐる巻きにされた上で、床に転がされていた。
この場にはフレイヤも呼ばれてやってきていたのだが、彼女はミノムシ状態の2人に対して、同情の視線を送っていた。
「その状態だと本当に何にもできないのよね」
まるで何回も体験してきたかのように、しみじみと呟くフレイヤ。
その言葉に、アリィだけでなく襲撃者達も何となく察してしまう。
同時にレヴェリアへ視線が集まるが、彼女は涼しい顔だ。
「さて、改めて名乗ろう。私はレヴェリア・スヴァルタ・アールヴだ」
「聞いていた情報と違うニャ!」
「ダークエルフと女神はいるけど、【
少女達からの言葉に、レヴェリアは不敵な笑みを浮かべて告げる。
「お前達はあちこちで聞き回って、複数の情報を比較検討した上で決行したのだろう」
だが、と彼女は言葉を続ける。
「悪いな。それらは全て私が流したものだ」
レヴェリアが流した情報は大まかに分ければ2つだ。
『オアシスの屋敷には紫の瞳をした10代半ばの人物がいる』
『ダークエルフと女神はいるが、【
これらに幾つかの要素を付け足して、ボフマンを通じてリオード全域に流した。
例えば前者であるならば『オアシスの屋敷には紫の瞳をした10代くらいの少女がいる』だとか『オアシスの屋敷には紫の瞳をした10代半ばの少年がいる』、『オアシスの屋敷には紫の瞳をした少女のように見える少年がいる』といった具合に。
共通する単語は『オアシスの屋敷』と『紫の瞳をした十代半ばの人物』であり、襲撃者が手練れであれば複数の情報を集めて比較する為、ガセではないと判断してくれるという寸法だ。
そして、このタイミングで仕掛けてくる手練れともなれば、ワルサ側に属しているだけでなく、それなりの立場にある可能性が高い。
内情を知る者を捕らえる為に仕掛けられた罠であった。
「じゃあ、もしかして……あんたは【
ヒューマンの少女の問いかけに、レヴェリアは如何にもと頷いてみせる。
「そっちがフレイヤ様?」
猫人の少女の問いかけに、ドヤ顔で頷くフレイヤ。
「なんでこんなところにいるのよ?」
「旅行でな。色々あって、シャルザード側に立って参戦することに決めた」
絶望的な言葉に、2人の少女は互いに視線を交わす。
ロープでぐるぐる巻きにされているとはいえ、レベル4の膂力ならば問題なく破れる。
だが、破った先にあるのは『
先程、一撃でもって戦闘不能に追い込まれたがアレは自分達が油断していたから、などと2人は欠片も思っていない。
レヴェリアの動きを捉えることすらできず、気がついたら床に叩きつけられていた。
何が起きたか分からなかったというのが本当のところだ。
どうするニャ?
どうしよう?
視線で会話するも、答えは出ない。
そもそも逃げることなどどう頑張っても無理であった。
もしも逃げられたならば、それだけでランクアップできそうな偉業にしか思えない。
「ねぇねぇレヴェリア。この子達、どうするの?」
「幾つか考えているが……アリィ、2人の処遇は私に任せてもらっても?」
レヴェリアからの問いかけに、アリィは頷いてみせる。
それを確認したところで、レヴェリアが尋ねる。
「まずは名前を教えてもらえるかな?」
問いかけに対して、クロエ・ロロ、ルノア・ファウストと2人は素直に名乗った。
下手に誤魔化せば何をされるか分かったものではないからだ。
【
だが、体験したことで噂通りの代物であることは実感した。
また2人は裏の世界に身を置いているからこそ、レヴェリアが過去に暗殺組織やら殺し屋やらに狙われたが全て返り討ちにしたことも知っていた。
特にクロエは、かつて所属していた派閥の主神――セクメトが度々思い出しては、悔しがったり怒ったりしていたことが印象に残っている。
クソ売女淫乱雌豚だのと、それはもう凄まじい罵詈雑言をレヴェリアに向けていた。
過去、派閥総出で仕掛けたものの失敗し続けて膨大な金と物資を失ったらしかった。
今回の戦でセクメト・ファミリアの暗殺者達もワルサが雇ったと聞いたものの、クロエはルノアと一緒に戦場とは無縁の後方――ワルサの王都でサボっていたこともあり、実際に見ていない。
ともあれ、ここで重要であるのはレヴェリアの治癒魔法は死んでさえいなければ、癒せてしまうことだ。
どれほど惨いことができるか、容易く想像ができてしまう。
クロエがルノアへ再び視線を向けると、ちょうど彼女もまたクロエへ視線を向けたところだった。
2人共、今の派閥は主神の考え方や方針に共感などしているわけではなく、あくまでステイタス更新を目的とした臨時加入だ。
また互い以外に気が合う者や親しくしている者もいないからこそ、2人が出した答えは同じであった。
「【黒拳】と【黒猫】だったのか……」
どちらも依頼成功率100%であり無敗を誇っている、とアリィは聞いたことがあった。
改めて、そんなヤバい2人を一瞬で叩きのめしたレヴェリアの規格外さが浮き彫りになる。
とはいえ、アリィが楽観的になれるわけもない。
ワルサの戦力は依然として強大であることに変わりはないからだ。
「こう見えても無敗を誇っていたんだ。さっきまでは」
「ミャーも同じニャ。さっきまでは負け知らずニャ」
「2人共、レベルはいくつだ?」
レヴェリアからの問いかけに、揃ってレベル4と答える2人。
更に彼女は幾つかの質問を投げかけるが、2人共スラスラと淀みなく答えていく。
ワルサの王都で戦争に一切参加せずサボっていた、という2人の証言を聞いた時、アリィが複雑な感情を抱いたのは言うまでもない。
レベル4が2人も戦闘に参加しなくとも、シャルザードを蹂躙できる戦力をワルサが保持している証に他ならなかった。
また2人共、素行が悪すぎると嫌悪感を露わにしていた一方で最新動向に関しては、彼女達がサボっていたこともあって大して得られなかった。
だが、【
問答の最中、フレイヤが口を挟んでこなかったことから、2人の答えに嘘偽りはなさそうであった。
一通りの質問を終えたところで、レヴェリアは単刀直入に尋ねる。
「うちに入団しないか?」
都市外でレベル4に至っていることや無敗であり続けたという実績、さらに美少女だからという個人的欲望から勧誘する理由はあっても、しない理由はどこにもない。
レヴェリアからの勧誘に対して、ルノアとクロエは内心でほくそ笑む。
自分達の実績から引き抜きを掛けてこないわけがない、と2人は予想していた。
「フレイヤ・ファミリアはオラリオで一番殺伐としていると聞くニャ」
「そういうのはちょっと……」
やんわりと拒むような2人の言葉であったが、レヴェリアが予想していないわけがない。
そういった事に対する回答はしっかりと用意していた。
「所属はしてもらいたいが、基本的には好きに過ごしてもらって構わんぞ。フレイヤ、お前としてはどうか?」
「いいと思うわ。2人共、魂の色はちょっとくすんでいるけど、綺麗だし」
「だ、そうだ。どちらにしろ、逃げ出してワルサに戻って私と戦う……その選択はお前達にはないだろう?」
レヴェリアの問いに対して、クロエとルノアは揃って何度も頷いてみせる。
その選択だけは絶対にない。
何よりも、彼女が参戦した以上はワルサの敗北は決まったようなものだ。
「そこまで言うなら考えなくもないニャ……で、待遇はどのくらいニャ?」
「やっぱり、それなりのものじゃないとねぇ……」
いけしゃあしゃあと宣った2人に、アリィは目を丸くしてしまう。
唯々諾々とレヴェリアの出した条件に従うしかないと思えてしまうのだが、少しでも良い条件を引き出そうとする図太い精神は驚きであった。
「アリィ、あなたは真似しちゃ駄目よ。博打ではあるけど……かなり分の悪いものだから」
「真似なんてしない。だが、あの図太さは見習いたいと思う」
「うーーーん……図太くなったアリィはそれはそれでちょっと解釈違いというか……」
困ったわね、と眉をハの字にするフレイヤに、アリィは理解した。
どうしてレヴェリアが、この女神をたわけ呼ばわりするのかを。
その時、クロエが不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「分の悪い賭けは嫌いじゃないニャ……!」
そんな彼女に対して、レヴェリアは尋ねる。
「1回の仕事で稼ぐ金額は数百万から数千万程度だと思うのだが……億を超えたことはあるか?」
クロエ、ルノア共に首を横に振る。
それを確認したレヴェリアは告げる。
「弟子達を鍛える為に1週間から2週間程度ダンジョンに篭もるのだが、毎回持ち帰る魔石とドロップアイテムを厳選しても億は軽く超える。お前達がいればその分、稼ぎも増えることは言うまでもない」
そこでレヴェリアは言葉を切り、少しの間を置いて更に続ける。
「負傷しても私の治癒魔法があるから、ポーション代も掛からん。ランクアップの機会も随時提供できる……レベル5になれるのならば、なりたいだろう?」
挑発的に問いかけてみせたレヴェリアは、クロエとルノアの反応を窺いながら、もっとも大きなメリットを告げる。
「何よりも裏側から抜けたお前達に対する、色んなところからの報復や口封じを抑止できる。お前達に手を出すことは、私とフレイヤに喧嘩を売るという意味になるからな」
頼もしいレヴェリアの発言に、クロエとルノアは互いに顔を見合わせる。
メリットしかなく、断る理由が見つからないが故に頷き合う。
「仕方がないニャア……入団してやるニャ」
「私も入ってあげるけど、毎日殺し合いとかやんないから」
ふてぶてしい態度であるが入団を決めてくれたことに対して、レヴェリアはにこやかな笑みを浮かべつつ、感謝の言葉を述べる。
そんなレヴェリアに対して、クロエとルノアは宣言する。
「言っておくけど、ミャー達はこの戦争にはもう参加しないニャ。そのくらいは義理を通すニャ」
「捕虜ってことで、私達を養ってね」
「構わんぞ。昨日のうちに援軍を呼んだからな」
そう答えながら、レヴェリアが壁時計を確認すれば4時を回っていた。
午前2時前、アスフィからレヴェリアに連絡があり、遅くとも夜明けまでには到着するとのことだ。
可能であれば24時間以内に来てほしい、というレヴェリアの要望に対して、彼女達はしっかりと応えていた。
しかし、彼女達がまもなく到着することを知っているのは、レヴェリアを除けばフレイヤだけだ。
「レヴェリア、援軍はいつ頃に?」
オラリオとの距離を考え、数日は掛かると判断しつつもアリィは尋ねた。
それにレヴェリアが答えようとした、その時――扉が激しく叩かれた。
レヴェリアが許可を出せば、血相を変えたボフマンが入ってきて荒い息をしながらも叫んだ。
「ワルサ軍が接近していますぞ!」
「どこからの情報だ?」
「シャルザードとイスラファンの国境沿いにある集落からの難民です! シャルザードからやってきたワルサ軍に襲われたとのことで、夜通し逃げてきたようですぞ!」
「お前に撒いてもらった情報がもう伝わったのか?」
「おそらくそれはないですぞ。リオードとの距離が近いワルサ本国でも、駱駝で片道数日は掛かりますゆえ……」
ボフマンの言葉に、レヴェリアは己の考えを開陳する。
「元々予定していた行動だろう。ワルサのような国にとっては中立国など道路と変わらん。それに加えて金と物資もイスラファンにはあるのだから、攻めない理由がどこにもない」
そこで彼女はアリィへ視線を向け、柔らかく微笑んでみせる。
「アリィ、お前は私に問いかけたな? 援軍はいつ来るのか、と」
「ああ、そうだ。オラリオは遠い……」
アリィがそう言い掛けた時だった。
『レヴェリア様、まもなく到着しますが、リオードへ向かうワルサ軍と思しき武装集団を発見しました。目算で100名程ですが……どうしますか?』
唐突に声が室内に響き渡った。
良いタイミングだ、とレヴェリアは思いつつ、不敵な笑みを浮かべてアリィに告げる。
「夜明けと共に援軍がやってきたぞ」
アリィにもボフマンにも、そしてクロエとルノアですら信じられない。
謎の魔道具らしきものでオラリオとリオードの間で意思疎通ができるとしても、物理的な距離の移動を短縮できるわけではない。
あらかじめこうなることを見越して、数日前から援軍を要請していたとしか考えられない。
アリィ達の誰もがそのような結論に行き着いたところで、レヴェリアはさらりと告げる。
「昨日、会談前に援軍を要請しておいた」
「ちょっと待ってよ。たった1日でオラリオからここまで来たっていうの?」
思わず問いかけたのはルノアだった。
そんな彼女にレヴェリアは答える。
「正確には24時間も経っていない。人数的には8名だがな」
その言葉に、ルノアとクロエの脳裏をフレイヤ・ファミリアの強者達の名が過っていく。
【
しかしながら、そういった感覚に疎いアリィとボフマンは微妙な顔だ。
10万を超える大軍、【
レヴェリアが強いことは分かるが、彼女も含めて僅か9名で対処するというのは敵の数も相まって荷が勝ちすぎるのではないか、と思えてしまう。
「誰が来るのニャ? 【
「まさか【双天秤】? 白黒妖精姉妹で、【
フレイヤ・ファミリアにおいて、【
いずれもワルサを問題なく叩き潰してお釣りがくる戦力だが、レヴェリアは首を左右に振った。
「私の弟子達だ」
2人の問いかけに短く答えた後、彼女はアリィの瞳をまっすぐに見つめて尋ねる。
「アラム王子、貴殿からの要請に基づいて、これよりワルサに対する攻撃を実施したい……よろしいか?」
この場にはアリィがアラム王子であることを知らぬ者はいない。
昨日、盗み聞きしていたフレイヤは勿論、ボフマンもレヴェリアより知らされていた為に。
レヴェリアからの確認の意を込めた問いかけに、アリィ――アラムは告げる。
「頼む。私の国を救ってくれ……!」
彼女の答えに、レヴェリアは力強く頷きながらアスフィに確認する。
「ということだ、アスフィ。聞こえていたな?」
『ええ、聞こえていました。西カイオスの情勢についても、道中でおおよそ把握しています。ところでレヴェリア様、ヘイズが私にやらせてくれとうるさいので任せても?』
「構わないぞ。可能であれば、敵の指揮官だけは生かして捕らえてくれ」
『分かりました。では、速やかに処理してリオードに向かいますので』
通信が終わったところで、レヴェリアに対してアリィは告げる。
「レヴェリア、シャルザードとイスラファンの国境地帯に隠し砦があって、万が一の時はそこで臣下達と落ち合う予定だった。そこへ向かいたい」
「アスフィ達が到着したら私と共に向かおう。その砦をワルサに嗅ぎつけられている可能性もあるからな」
アリィの要望に対して、レヴェリアは快諾するのだった。
「我が名はマルザナ! 神ラシャプの恩恵を賜り、昇華を遂げてレベル2へ至った戦士なり!」
マルザナは名乗りながらも、その思考は冷静であった。
彼は目の前に佇む見目麗しい少女達を油断なく見据えつつ、伏兵がいないかどうか気配を探る。
マルザナが率いる部隊はイスラファン侵攻の先駆けとしてリオードの占領を目標とし、シャルザード方面より侵攻した。
指揮官であるマルザナのみがレベル2であり、残る全員はレベル1だ。
しかしリオードには恩恵持ちの常駐戦力はなく、町が独自に形成している自警団程度しかない。
たとえレベル1であろうとも恩恵の無い者からすれば、強力無比である為、過剰戦力と言っても過言ではない。
だが、イスラファン侵攻の初手で躓くわけにはいかない――というワルサからの要請もあり、ラシャプ・ファミリアはマルザナ隊を送り込んでいた。
腕は良いが、素行不良――その例に漏れず、彼等もまたシャルザードで美味しい思いをしており、イスラファン侵攻にあたっては国境地帯にあった集落を幾つか襲っていた。
その後も進撃を続け、もうすぐリオードというところで突然、8人の少女達が現れたのだ。
伏兵の気配は無し、目の前の連中は得物を携行しているが荒事に慣れているようには見えない。
何故、立ち塞がった?
胸に疑問を抱きながらも、マルザナは臆することなく告げる。
「我らは急いでいるが故、大人しく退くならば見逃してやっても良い」
勿論、嘘である。
後続する本隊が到着するまでの間にリオードを落とせれば問題ない。
そしてリオードは既に目視できる距離にあり、ここで8人の少女――2人程幼女が混じっているが――と楽しんだ後でも何も問題がなかった。
マルザナの言葉に答えたのはピンク髪の少女だ。
愛想の良い笑みを浮かべながら、彼女は尋ねる。
「ちょっとお聞きしたいんですけど、リオードで何をされるつもりですか?」
「犯し、奪い、蹂躙する! 戦争の常だ!」
マルザナの言葉に兵士達が歓声を上げる。
中には目の前の少女達を品定めし、下品な言葉を投げかける者達もいた。
「そうですか、そうですか……」
にこにこ笑顔でピンク髪の少女は呟いて、顔を俯かせた。
残る7人の少女達は呆れたり、溜息を吐いたりしながらそれぞれ後ろへ下がった。
その行動がどういう意味であるかをマルザナ達が理解するよりも早く、少女――ヘイズ・ベルベットが顔を上げた。
虫を見るかのような瞳を彼等に向け、彼女は苛烈な気性を露わにする。
「あまりにも不愉快が過ぎる。塵芥風情が……!」
腰に吊るした長剣が抜き放たれ、その刀身が砂漠の陽光に照らされて、彼女の闘志を表すかのように煌めく。
雰囲気が一変した少女であったが、マルザナ達が気圧されることはなかった。
事前に誰であるかを知っているか、あるいは知らずとも力を示されているのならばともかく、彼等には少女が虚勢を張っているようにしか見えない。
彼等も修羅場を潜ってきた荒くれ者であったからこそ――決定的に判断を誤った。
「あまり強い言葉を使うものではないぞ? ああ、気が変わってしまった。まずはお前達を……」
マルザナは最後まで言えなかった。
彼はヘイズによって四肢を両断され、後ろ向きに倒れた為に。
何が起こったのか、斬られたマルザナ本人も兵達も理解が追いつかなかった。
そして、その理解する時間すらもヘイズは与えなかった。
「【黄金の輝き。満ち溢れる想い。我が想い阻むもの、尽く灰燼となれ】――【ヴルカン】」
神速でもって紡がれた詠唱により彼女が持つ長剣が金色の炎を纏う。
「殺せ! 魔法剣士だ!」
反射的にマルザナは襲い来る激痛を無視して叫んだ。
彼の声に弾かれたように兵達は雄叫びを上げながら、ヘイズ目掛けて遮二無二突撃を開始するが――瞬間、ヘイズが剣を振るう。
金色の爆炎が兵達を一瞬で飲み込み、全てを燃やし尽くす。
断末魔の叫びを上げることすらなく、部隊は指揮官であるマルザナ以外はこの世から消え去った。
あまりにも信じ難い光景に、マルザナは言葉を失った。
「そういえば、レベル2とか言ってましたねー」
そう言いながらヘイズは顔をマルザナへ向けた。
数瞬前の苛烈さは鳴りを潜め、愛想の良い笑みを浮かべている。
その変わり様に、マルザナは言い知れぬ恐ろしさを感じた。
「こう見えても私、ちょっとだけあなたよりも強いですよ? 一応、レベル6なので」
答えながらヘイズは親指と人差し指を重ね合わせた上で、少しだけ隙間を開いてみせた。
ちょっとだけ強いという表現だ。
対するマルザナは大きく目を見開いた。
信じられないレベルだが、こうも一方的に叩き潰されては信じるしかなかった。
「ヘイズ、さっさと治しなさいよ。死んでしまうとレヴェリア様の要望に応えられないわ」
「あ、そうでした。正直、こんな汚物をレヴェリア様のところに持っていくなんて、すっごく嫌なんですけど……」
ヘイズとヘルンのやり取りに対して、アスフィが告げる。
「色々と使い道があるので駄目です」
「むぅ、仕方がないですね」
そう言いながらヘイズは治癒魔法を詠唱を開始するのだった。
援軍内訳
アスフィ→レベル7
ヘルン・ヘイズ・アイズ→レベル6
アイシャ・アウラ・フィルヴィス→レベル5
メルーナ→レベル3
没シーン
過激なレヴェリア「アリィの戴冠式をワルサの王宮でやればいいのでは?(普仏戦争並感)(王政国家に対する最大の屈辱)(ワルサへの盛大な仕返し)」
アリィ「(厄介な事になるから)駄目だ」
レヴェリア「(´・ω・`)」
もしも原作にあるリオードの虐殺が起こった場合、レヴェリアがブチギレて全力全開の精霊魔法が乱射される為、ワルサが物理的にこの世から消え去る模様。