転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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戦雲、砂上に棚引いて

「ラシャプ・ファミリアか……また随分と懐かしい名前が出てきたな」

 

 マルザナの取り調べを終えたレヴェリアは、ヘルンが纏めた彼の証言記録を屋敷の談話室にて確認している最中、しみじみと呟いた。

 

 アスフィ達が捕らえてきたマルザナに対して、取り調べが行われたのはつい30分前のこと。

 彼は知っていることをぺらぺらと話してくれた。

 質問をするレヴェリアの後ろで、ヘイズがにこやかな笑み――ただし、目だけは笑っていない――を浮かべて剣を素振りしていたことが影響していたかもしれない。

 その場にはフレイヤも同席していたが、彼が嘘を言うことはなかった為に口を挟むことはなかった。

 

 クロエとルノアからもラシャプ・ファミリアの名は出ていたものの、まさかアイツではあるまい、とレヴェリアは高を括っていた。

 だがマルザナにより、レヴェリアとフレイヤが知っている()()ラシャプであることが確定した。

 

「レヴェリア様、ご存知ですか?」

 

 問いかけてきたヘイズに、そういえばこれは話した事が無かったなとレヴェリアは気がつく。

 隠すことでもない為、当時を振り返りながら答える。

 

「私がフレイヤの眷族になって、すぐの頃だ。アルテナへ向かう途上で、ラシャプ・ファミリアの連中に襲われてな」

「へぇ……そうなんですねぇ」

 

 相槌を打つヘイズの表情も声色も変わっていないが、その雰囲気は激変していた。

 他の面々も程度の差こそあれど剣呑な雰囲気を漂わせ始めていたが、ある事に気がついたアスフィは尋ねる。

 

「ところでレヴェリア様、相手の人数は……?」

「レベル2を含む十数名程だったぞ」

「恩恵を刻みたて……ですよね?」

 

 さらなるアスフィの問いかけに、レヴェリアは肯定してみせる。

 

「レヴェリア……アンタ、昔からぶっ飛んでいたんだねぇ」

 

 しみじみと呟くアイシャに、他の面々もまたウンウンと頷いた。

 一同の反応に苦笑しつつ、レヴェリアは告げる。

 

「そのラシャプがワルサの軍拡に一役買ったというのだから、潰すには十分な理由だ」

 

 マルザナはレベル2ということもあって、派閥内でそれなりの立場にあったらしく、有益な情報を幾つか持っていた。

 その最たるものが闇派閥・ワルサ・アルテナによる密貿易であり、この三者を結びつけたのがラシャプ・ファミリアであることだ。

 勢力が大幅に減退した闇派閥からワルサが魔石とドロップアイテムを買い叩き、それをアルテナへ渡すことでワルサは対価として金銭や物資、魔道具などを得る――そんな闇取引が数年前まで行われていたとのこと。

 

 ワルサとアルテナが得た利益は膨大なものであることは想像に難くない。

 

 四派閥によって人造迷宮(クノッソス)が制圧され、闇派閥が全滅したことでワルサは大きな収入源を失った。

 けれども、長年の密貿易によりカイオス圏内では比類なき軍事力を手に入れていた為、満を持してカイオス統一に乗り出した――そんな背景だろう、とレヴェリアは予想している。

 

 また他にも有益な情報としては、ワルサにはアルテナから引き渡された砂海の船(デザート・シップ)があるということだ。

 それも1隻や2隻ではなく10隻という多数であり、王族専用として特注された1隻も加えれば合計11隻もの砂海の船(デザート・シップ)がワルサにはあるとのこと。

 マルザナによればワルサ軍は砂海の船(デザート・シップ)を集中運用した機動部隊でもって、国境沿いのシャルザード軍の防衛線を食い破り、迅速に後方へ浸透したらしい。

 

「ワルサはラキアとやり合っても勝てるかもしれん」

「レヴェリア様、御言葉ですが……強いのか弱いのか、絶妙に分かりにくいです」

 

 そう告げたのはフィルヴィスだ。

 ランクアップ耐久戦後、ラキア王国は随分と大人しくなっていたが、最近になってきな臭い動きがある。

 喉元過ぎれば何とやら、でラキア王国――というよりか主神のアレスがイケイケドンドンであるらしい。

 もっともいざオラリオに仕掛けてきたならば、タイムアタックでもしているんじゃないかと思う程に一瞬で侵攻軍は壊滅するだけでなく、ラキアの王都が月まで吹っ飛ぶことになるだろう。

 ギルドが何かを言う前に、いち早く情報を掴んだヘラとその眷族達が動くことは想像に容易い。

 

 ラキアの騎士達に、騎士を名乗るならば山くらい断てと()()()()()()宣うアルフィアの姿がレヴェリアの脳裏を過った。

 

「……それもそうだな。ともかく、オラリオ以外の国で比較すると軍事力としては上位に入るのがワルサだ」

「問題ないよ、レヴェリア。作戦はある? 無ければ提案したい」

 

 積極的姿勢を示したのはアイズだ。

 最年少の彼女がどういう作戦を提案するのか、レヴェリアは尋ねる。

 

「アイズ、まずはお前の作戦を聞きたい」

「ここ」

 

 レヴェリアの言葉に対して、アイズがテーブルに置かれた地図、その一点を指さした。

 『ガズーブの荒原』と記されており、その立地はシャルザード・ワルサ・イスラファンの三国に侵攻できる戦略的要衝だ。

 

「アリィを使えばワルサの戦力を引き付けられると思う。それで荒原に集まったところで、私達が後ろから襲いかかる」

 

 日頃の勉強、その成果が如実に現れたことにレヴェリアは勿論、アスフィ達は感心したところでヘイズがぽつりと呟いた。

 

「何だか、ヘディンさんが考えそうな悪どい作戦ですねー……」

「ヘディンが言ってた。自分にとって都合の良い二択を相手に強要しろって。それなら、こうすればいいかなって思った」

 

 ふんす、と胸を張ってみせるアイズ。

 そんな彼女に対して、レヴェリアは告げる。

 

「良い作戦だな。アリィにアラム王子として適当に演説でもしてもらえば、イスラファンの商人達がうまく広めてくれるだろう……だが、ワルサが全軍で向かってこない可能性もあると思うぞ?」

「うん、それがこの作戦の欠点。シャルザードが残っている戦力を全部集めたとしても、ワルサが脅威と思わない可能性が高いし、そもそも本国にもそれなりの戦力を残していると思う」

 

 レヴェリアの言葉を肯定した上で、アイズは答えた。

 そして、彼女は少しの間を置いて更に告げる。

 

「どんな策を使っても、本国にいる戦力は引っ張り出せないんじゃないかな。シャルザード軍が捨て身で突っ込んでくるかもしれないし」

 

 シャルザード軍の恩恵持ちが単独でワルサの王都に特攻を仕掛ける―ーというのは容易に想定できる。

 そういった不測の事態に備えている為、本国駐屯戦力は国外に引っ張り出せない可能性が高い。

 それに加えて、どの国でも王の膝下にある戦力は最精鋭の近衛部隊であり、将兵の士気・練度が高く、装備も他部隊より優れていると相場が決まっている。

 国外展開戦力は勿論、国内駐屯戦力も叩き潰すことでようやくワルサの牙は砕かれた、といえるだろう。

 

「面倒だねぇ。片っ端から潰していけばいいんじゃないか?」

「一箇所に集まっているのならば逃げ出す前に潰せるでしょうが、広大な砂漠に散らばっている状況では難しいですね」

 

 アイシャの豪快な提案に、アウラが指摘する。

 問題点はそこだ。

 戦力ではレヴェリア達が圧倒的に優越しているのだが、敵に回しているのが【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】率いる戦乙女達と分かった時点で、ワルサ軍も傭兵も確実に逃げるのが厄介だ。

 ワルサ軍は本国に逃げ込むだけかもしれないが、傭兵達がワルサに留まることはない。

 シャルザードの事だけを考えるならばワルサ軍を潰せば済む話だが、傭兵には闇派閥崩れも多いことがマルザナの証言で確定した為、放置しておくわけにもいかなかった。

 

「敵が逃げない、もしくは逃げられない状況を構築する必要がある……ということですよね?」

 

 メルーナの問いかけに、レヴェリアは頷いてみせる。

 それを確認したメルーナは告げる。

 

「アイシャ案とアイズ案、両方実行するのはどうでしょうか?」

「具体的には?」

 

 レヴェリアの問いかけに、メルーナは腹案を開陳する。

 

「まず、アラム王子に演説をしてもらいアイズ案にあった通り、自らを囮として『ガズーブの荒原』に敵軍を誘引してもらいます」

 

 しかし、とメルーナは続ける。

 

「ワルサ軍がシャルザードの残党を脅威と思う可能性は低い……それならば、脅威と思うように認識を改めさせます」

「そこで私の案ってわけだね?」

 

 獰猛な笑みを浮かべてアイシャが問いかければ、メルーナは大きく頷いてみせる。

 

「シャルザード領内へ出撃し、発見した敵軍を片っ端から攻撃し、()()()()()()()()()……全力で殲滅しては、尻尾を巻いて逃げ出してしまいますので」

 

 言葉の途中から不満げな顔になったアイシャに対して、メルーナは念押しした。

 

「……その役目、隠し砦とやらに潜んでいるシャルザード軍を使えばいいんじゃないかしら?」

 

 沈黙を保っていたヘルンが、ぽつりと呟くように提案した。

 その言葉をメルーナは肯定した後、レヴェリアへ視線を向ける。 

 すると、彼女は満足げな笑みを浮かべて大きく頷いた後、口を開く。

 

「良いと思う。万が一に備え、私がシャルザード軍の治療師として同行する。アスフィ達はリオードの防衛と遊撃を頼む。それと、セクメト・ファミリアの連中にクロエとルノアだけでなく、マルザナも始末されないよう注意してくれ」

 

 そう伝えたところでレヴェリアは言葉を切り、少しの間を置いて告げる。

 

「作戦名は『砂漠の嵐(デザートストーム)』だ」

 

 

 

 

 

 

 

「アラム王子はシャルザードには居まい。生きていれば、おそらくイスラファンに……」

 

 シャルザード侵攻軍総司令官のゴーザは、朝日に照らされるシャルザード王都ソルシャナを幕営から眺めつつ、確信をもって呟いた。

 

 

 長年に渡る軍拡の結果、ワルサはカイオス圏では絶大な軍事力を得た。

 自前の戦力は勿論、素行不良であるが実力は確かな傭兵達、更にはその筋では有名なセクメト・ファミリアの暗殺者――

 

 入念な戦備を整えてきたからこそ、カイオス統一の初戦であるシャルザードを僅かな期間でもって下し、占領に成功した。

 アラム王子を取り逃したことが大きな痛手であるが、シャルザード軍の大半を撃破したことにより、残党は多く見積もっても師団規模――10000名程度と推定されている。

 それも一箇所に集まっているわけではなくシャルザード全土に散らばっており、嫌がらせのような攻撃を偶にやってくる程度だ。

 

 趨勢は決しており、ここからシャルザードがひっくり返すことは不可能だ。

 アラム王子が再び表舞台に出てきたところで、もはやシャルザードには戦える者がいない。

 

 どこかしらの国や勢力に援軍を求めるにしても、一朝一夕にはいかない。

 距離的な問題だけでなく、そもそも滅びかかっているシャルザードを助けるメリットがないからだ。

 

「リオード攻略は問題なく終わるだろう。そこにアラム王子がいれば話は早いのだが……」

 

 万が一ということがあってはならない、と相応の兵力を派遣するようラシャプ・ファミリアには申し入れていた。

 その要請に応え、ラシャプ・ファミリアはレベル2を指揮官として総勢100名程の部隊を派遣した。

 ラシャプ・ファミリアの後に続く本隊――第3師団はイスラファン侵攻作戦における先鋒だ。

 この師団はイスラファン軍の戦力を誘引する役目も担っており、敵軍がリオードに集まってきた段階でもって、反対方向――リオードから見て北西方面の国境地帯から主力部隊が雪崩込む手筈となっている。

 

「ゴーザ将軍、今日も頑張ってるねー!」

 

 その声と共にやってきたのはラシャプ・ファミリアの主神ラシャプだ。

 傍らには彼の派閥で最も強い眷族であるレベル4、シールの姿がある。

 

「神ラシャプ……」

 

 非常に忌々しい、忌々しいが――ワルサの軍事力強化に一役買ってくれたのもこの神だ。

 本神曰く、「ただの娯楽だよ」と宣っていたが、それでもワルサが飛躍したのは間違いない。

 そこだけは感謝するが、彼の眷族も含めて連れてくる傭兵達が人面獣心の如き者達ばかりであることは頂けない。

 無論、全員がそうであるというわけではなく、一部の者達は良識があった。

 かの名高き【黒拳】と【黒猫】もまたそうだ。

 2人共少女であることも相まって、素行不良の傭兵達を蛇蝎の如く嫌悪しており、その為か王都の守護という名目でサボっている始末。

 レベル4が2人も王都にいるのならば、後顧の憂いなく遠征できると前向きに考えるしかなかった。

 

「早速本題に入るんだけど……マルザナ隊、壊滅したよ。恩恵、彼以外消えちゃった。マルザナは捕虜になったと思う」

 

 予想外の連絡に、ゴーザは息を呑んだ。

 その反応を予期していたラシャプは、にんまりと笑って告げる。

 

「ヤバい奴が紛れ込んでいるね。たぶん最低でもレベル3、もしかするとレベル4くらいかな」

 

 第3師団への連絡は間に合わない、とゴーザは悟ってしまった。

 今すぐ伝令を送ったとしても現地に到着する頃には、マルザナ隊を潰した敵によって第3師団は壊滅している可能性が高い。

 

「でも、大丈夫。シャルザードの隠し玉ってわけじゃないさ。そんな戦力があるんなら、もっと早い段階で出しているだろうし」

「シャルザードが傭兵を雇った可能性は?」

「なくはないけど、低いかな。目ぼしい連中はみんなワルサ側についているし。たとえシャルザードに有力な傭兵派閥との伝手があったとしても、そもそも依頼を出す時間が無かったと思うよ」

 

 ラシャプの言に、ゴーザは思案する。

 シャルザードの隠し玉でもなく、傭兵でもないならば偶然現地にいたレベル3もしくはレベル4の実力者――その可能性しか思い当たらないが、それならば幸いだ。

 

「マルザナ達が変なちょっかいを掛けて返り討ちになったのかもね」

 

 その位階に至っており、なおかつ余所の戦争に好んで首を突っ込むような輩はまずいない。

 そもそも好むような輩はとっくに傭兵となっているだろう。

 マルザナ隊も例に漏れず素行が悪い為、旅行にでも来ていた実力者の怒りを買ったのかもしれない。

 

 後続を傭兵ではなく自軍としていたことに、ゴーザは安堵した。

 ワルサも奪うことしか能が無いと言われる程度には素行が悪いものの、傭兵達よりかは幾分マシだ。

 無闇矢鱈に民に被害を出すようなことをしなければ、相手側も手を出してこない可能性は十分にある。

 

「あ、それと伝言。【白髮鬼(ヴェンデッタ)】オリヴァス・アクト君から」

「伝言?」

 

 問い返したゴーザに頷いて、ラシャプは告げる。 

 

「『食うにはちょうど良い獲物だ』……だってさ。いやー、レベル5ともなるとやっぱり違うねー!」

 

 彼も問題のある人物だが、その強さは紛れもない本物であることをゴーザは知っている。

 本人曰く、四派閥を皆殺しにする為、死に物狂いでダンジョンにて鍛え上げたが奴らには及ばなかった――とのことだ。

 四派閥には及ばなかったと自嘲しているものの、彼の力は次元が違うと称しても過言ではない。

 ソルシャナ攻略戦では王子を逃すべく街道上に防衛線を築いていたシャルザード軍近衛師団を単身、壊滅させている。

 その鮮烈な戦いを目撃した多数のワルサ軍将兵や傭兵達からは、畏敬の念を込めて『街道上の怪物』という異名をつけられていた。

 

「イスラファン侵攻作戦は変更なく継続でいいんじゃない? 何かあったらオリヴァス君がどうにかしてくれるし。セクメトの子達にも念の為、リオードへ向かうよう頼んでおいたから大丈夫さ」

 

 ラシャプの言葉に、ゴーザは肯定するしかなかった。

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