転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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熱砂の悪夢

 目と鼻の先に布陣しているワルサ軍に、リオードは騒然としていた。

 昨日早朝マルザナ隊は人知れずアスフィ達によって殲滅されたが、後続していた本隊であるワルサ軍第3師団には何もしていなかった。

 

 それはアリィ――アラムの演説に利用する為だ。

 王子が今後の巻き返しを語ったところで、実行する力がないことは火を見るよりも明らか。

 アラム王子にはシャルザードを奪還できるだけの隠し玉がある――ワルサ軍を釣り出す為にも、それを示す必要があった。

 勿論、ボフマン率いるファズール商会に仕込み(サクラ)をレヴェリアは頼んだ。

 アリィに恩を売ることでシャルザード復興に一枚噛みたいが為、彼は二つ返事で引き受けたのは言うまでもない。

 

 

 

 

 着飾って駱駝に乗ったアリィは緊張した面持ちであった。

 レヴェリア達による攻撃開始直前、彼女はアラム王子として街中へ繰り出す。

 そして、ワルサ軍を攻撃している強き戦士達を率いている王を演じることになる。

 昨日のうちにレヴェリアから原稿を渡されていたが、それは最低限伝えてほしいことだけが記された簡素なものだ。

 故にアリィは自らの言葉で語らなければならないが、それはむしろ望むところだった。

 そこまでレヴェリアにおんぶに抱っこでは恥ずかしいにも程があるからだ。

 なお、原稿にはレヴェリア達がシャルザード側に立って参戦していることが説明できるよう、うまく文言が盛り込まれていた。

 

 混乱の最中、アラム王子は密かにシャルザードを脱出して祖国奪還の為に義勇軍を立ち上げていた。

 彼の呼びかけに応え、ワルサの蛮行に憤激を抱いて世界各国より集まった戦士達――という体裁である。

 

 これならばレヴェリア達がアラム王子の配下となっていても、理屈の上ではセーフだ。

 それだけでなくレヴェリアが参加している理由についても、周囲が勝手に解釈してくれる。

 

 シャルザードにお気に入りの娘がいて、その娘が犠牲になったからブチ切れて参戦したんだろう等といった具合に。

 レヴェリアならばそういうこともあり得る、と思わせることができるのは日頃の色ボケによる賜物だ。

 

 それはさておき、『砂漠の嵐(デザートストーム)』作戦について、アリィもまたレヴェリアより詳細を伝えられている。

 レヴェリア達が強いことは分かったが、そんなことまで本当にできるのだろうか、と思ってしまう程に大胆不敵なものだ。

 そして、そう思ったのは彼女だけでない。

 昨日、レヴェリアと共に赴いた隠し砦――レヴェリアに背負われて片道20分程度で到着した――に潜んでいたダグラス将軍達もまた同じような反応だった。

 アリィは軍学や剣術も修めていたが、あくまで必要最低限だ。

 その為に本職のダグラスならば可能である、と判断するかもしれないとアリィは考えた。

 しかし、彼はレヴェリアの強さを認めつつも件の作戦は困難である旨を、やんわりと伝えてきた。

 レヴェリアのことを『勇士(カビール)』3、4人分の戦力と換算しているような口ぶりであった。

 それ故、『砂漠の嵐(デザートストーム)』なる作戦を実施する程の能力はないという判断を下したようだ。

 

 そわそわしながらアリィは懐中時計を取り出し、時刻を確認すれば攻撃開始まで残り数分であった。

 

「何も問題ありません。全てうまくいきますから」

 

 その時、フードを目深に被ったアウラが声をかけた。

 彼女と同じ装いをしているフィルヴィスもまた頷いてみせる。

 彼女達がアリィの警護役だ。

 セクメト・ファミリアが参戦している以上、いつ襲撃を仕掛けてきてもおかしくはない為だ。

 しかし、驚くべきは屋敷の警備にもレベル5のアイシャを回していることだ。

 レヴェリア達の戦力層が分厚さを、アリィが改めて実感したのは言うまでもない。

 

「ああ、そうだな……」

 

 緊張を解すかのように声をかけてくれたアウラに答え、アリィは深呼吸する。

 そろそろ出番だ。

 

「行こう。護衛、よろしく頼む」

 

 アリィは告げて、駱駝を進ませる。

 それに従い、アウラとフィルヴィスも周囲を警戒しつつ歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 ワルサ軍第3師団を率いる将軍ゴルベドは、突如として凄まじい力でもって引っ張られた。

 何が起きたのか理解できないでいるうちに、視界には青い空がいっぱいに広がり、猛烈な風が全身に当たるのを感じる。

 何者かに首根っこを掴まれて攫われたという事実に気づき、振り解こうとしようとした時――彼は砂の上に放り投げられた。

 砂まみれになった彼は剣の柄に手をかけながら顔を上げると――そこにいたのは10代半ば程のメガネを掛けた少女だった。

 

 水色(アクアブルー)の髪と瞳が特徴的だ。

 

 その時、彼女以外にも4人の少女が現れたが、いずれも10代半ばから10代前半程度であり、かつ見目麗しい者達であった。

 彼女達は皆、ゴルベドの側近達を片手で1人ずつ引っ掴んでおり、やがて彼等を雑に放り投げた。

 放り投げられた側近達はゴルベドと全く同じ反応となった。

 そこで彼はある重大な事実に気づき、最大限に警戒しながら問いかける。

 

「何者だ……?」

 

 ただの少女などと侮ることはできるわけもない。

 

 ゴルベドと彼の側近達は陣の中央にいた。

 彼等のところに辿り着くには、周囲に展開している各部隊を突っ切らなければならない。

 しかし、直前まで敵襲の報など一切なかった。

 さらに攫われてから砂上に放り投げられるまでは僅かな移動時間でしかなかったのに、自軍がかなり遠くに見えることだ。

 彼の側近達もこの事実に気づき、誰もが剣の柄に手をかけてはいるものの、斬りかかるようなことはしなかった。

 

「そこで見ていなさい」

 

 問いかけに答えたのは水色髪の少女だった。

 彼女はそう告げると、身につけているシルバーブレスレットに口元を近づけて囁いた。

 

「標的の確保が完了しました」

『了解』

 

 ブレスレットから返答があったことにゴルベド達はぎょっとしたが、すぐにそんなことを気にする余裕はなくなった。

 

 それはあっという間のことだった。

 朱金色の光が第3師団の方へ伸びていき――大爆発を起こした。

 濛々と立ち上る砂煙の中、朱金の光が次々と伸びていき、爆発が連続して巻き起こっていく。 

 光の正体は朱金色の弾であるのだが、あまりの速さゆえに彼等の動体視力では光の帯にしか見えない。

 

 レヴェリアによる【ボルカニックノヴァ】の連射であり、爆発は炸裂鍵によるものであったがゴルベド達は知る由もない。

 

 彼等に理解できたことは、第3師団が何者かによる致命的な砲撃を一方的に受けていること。

 そして、自分達があの場にいたところで何もできず即死したであろうことだけだ。

 攻撃している輩が誰であるかは不明だが、状況的に目の前の少女達と何らかの関係があることだけは間違いなかった。

 

「貴様らっ! 今すぐやめさせろ!」

 

 激昂した側近の1人が剣を引き抜きながら、一気呵成に手近なところにいた小柄なエルフに襲いかかる。

 しかし、襲いかかった側の腕が――それも剣を持っている利き腕――切り飛ばされて宙を舞い、砂上に落ちた。

 一拍の間の後、何をされたか理解した彼は激痛のあまりに叫び声を上げながら、切断箇所を片手で抑えながら砂上を転がりまわる。

 

 それを見て、不満げな顔で声を上げたのは桃色髪の少女だった。

 

「メルーナ、治すのは私なんですけどー? 無傷で鎮圧できましたよねー?」

「同じことをされたら、お前だって同じことをしていただろ」

「そりゃそうですけどー」

 

 2人が呑気な会話をしている最中にも、第3師団に対する攻撃は続いている。

 ゴルベド達もまた恩恵を持っているからこそ、よく見えてしまった。

 着弾地点から同心円状に広がる爆風と衝撃波による死のリングは、将兵達を一瞬で肉片へ変えていく。

 

「ヘイズ、あなたの気持ちも分かりますが、治してください」

 

 水色髪の少女に言われて、ヘイズと呼ばれた少女は渋々といった様子で何やら詠唱を開始した。

 腕を切り落とされた側近は、瞬く間に癒やされていく。

 それも斬られた腕が復元するという斜め上のレベルで。

 もしや、と思ったゴルベドはヘイズをまじまじと見つめる。

 

 破格の治癒魔法、その使い手でありながらも『頂天』として名が轟いている人物――レヴェリアは金髪金眼のダークエルフであったが、目の前の少女は全く異なった容姿だ。

 その時、水色髪の少女がゴルベドへ視線を向けた。

 

「さて、ゴルベド将軍。あなたの指揮下にある兵力はたった今、消滅しました。降伏しますか?」

 

 淡々とした問いかけではあったが、ゴルベド達に予想できなかったわけではない。

 ゴルベドが側近達に視線を向ければ、彼等の顔に浮かんでいるのは不安と恐怖が入り混じったものだった。

 少女達がどこの勢力から派遣されてきたのかは不明だが、自分達の手に負える存在ではないことは明らかだ。

 

 シャルザード軍との戦いは、このようなものではなかった。

 戦力の質・量共にワルサが優越しており、【白髪鬼(ヴェンデッタ)】を筆頭に強力な傭兵達の活躍やセクメト・ファミリアの暗躍もあったが、それでもシャルザード軍の戦士は精強であり、少ないながらも死傷者は出た。

 

 しかし、第3師団を叩き潰した敵は異質だ。

 攻撃方法は勿論のこと、なすすべもなく一方的に自軍が叩き潰される様を、ゴルベド達に特等席で見せつけてきた。

 

 悪夢としか言いようがない。

 

 こんなものは戦闘ではない、とゴルベドは声を大にして言いたかったが、ワルサは奪うしか能が無いと言われる程、弱肉強食を是としてきた。

 ならばこそ、自軍の敗北に文句を言うのは惨めに過ぎた。

 

「……降伏する」

 

 問いかけにゴルベドは短く答えた後、躊躇しながら尋ねた。

 

「お前達は、いったいどこの誰なんだ?」

「シャルザード軍義勇旅団『灰色の幽霊(グレイゴースト)』です」

 

 涼しい顔で水色髪の少女――アスフィは答え、ブレスレット越しにレヴェリアへ降伏した旨を告げる。

 その瞬間、ピタリと攻撃は止んだ。

 生存者がいる可能性が皆無に等しいことは誰の目にも明らかだった。

 遮蔽物が何も無い砂漠を満遍なく耕すかのように、絶え間なく大威力の砲撃が降り注いだのだから。

 

 だが、レヴェリアからの指示はアスフィ達にとって意外なものだった。

 

『生存者の捜索を頼む。砲撃だけで歩兵は全滅しない。情報の伝達を敵に許すな』

 

 彼女の指示は近くにいるゴルベド達にも聞こえており、その用心深さに驚嘆しかない。

 異質な相手だが戦争のことはよく分かっているらしい、と彼等は判断した。

 

 

 こうしてレヴェリアによる攻撃開始から2分足らずで、ワルサ軍第3師団はこの世から消失した。

 そして、僅かな生存者達もアスフィ達に発見されて例外なく囚われることとなった。




ワルサ軍「師団規模の兵力が2分で溶けたんですけど、どうすればいいですか?」


なお、レヴェリアはまだ本気を出していない模様。
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