黄昏時、名も知れぬ大輪の赤い花が咲き誇る花畑。
その中心でフレイヤは空を見上げていた。
眷族達の目を掻い潜って、気ままに歩いていたらここに辿り着いた。
しっかりと黒のマニキュアとペディキュアもつけてきたし、譲ってもらった外套も羽織っている。
10年――
この場所がどこなのか、彼女には分からない。
けれど、レヴェリアならばどこにいようとも必ず来るという予感があった。
多少は遅れても許してあげよう。
10年も待ってもらったのだから、それくらいは当然だ。
フレイヤがそのように思っていた時、唐突に風が吹いた。
髪を抑えつつ顔を伏せる。
そして、風が止んだ直後――背後から声が聞こえた。
「おい、我儘小娘。会いに来てやったぞ」
フレイヤにそのような声の掛け方をするのはたった一人しかいない。
振り返れば地平線に沈みつつある夕日を背にしてレヴェリアが立っていた。
その顔には微笑みが浮かんでいる。
「……きっかり10年じゃなかったわね。今日の朝に来てほしかったな」
「はっ倒すぞ」
憎まれ口を叩いた瞬間に返される嘘偽りのない言葉。
フレイヤは喜びを隠さずに満面の笑みでもって、レヴェリアへ向けて駆け出す。
勢いそのままに抱きつこうとしたが、ひらりと回避された。
思わずつんのめった形となったフレイヤは、頬をこれでもかと膨らませる。
そんな彼女に対して、レヴェリアは肩を竦めながらも問いかけた。
「答えが先だ。納得のいくものは出せたか?」
「……本当に酷い人ね」
不満を口にしつつも、フレイヤは天にも昇る心地だ。
久しく忘れていた熱が込み上げてくる。
その熱を感じながらフレイヤは答えを言おうとしたが――突然不安が湧いてきた。
彼女の心が自分から離れていないだろうか、答えを提示したところで振られたならばどうしよう。
イズンからの手紙による反応を見る限り、そんなことはまずないと思えるのだが――どうしても不安が次から次へと溢れ出てくる。
ついさっきまではこんなこと考えたこともなかったのに、フレイヤは困惑と焦燥に駆られた。
口を何度か開いては閉じるが、答えを言えない。
まるで言葉を忘れてしまったかのように。
大丈夫、ちゃんと彼女の気持ちに寄り添った答えだから――
私が少し我慢すればいいだけだから――
そう自分に言い聞かせても不安は次から次へと押し寄せてくる。
フレイヤの様子を見ていたレヴェリアであったが、彼女は口出しをすることなくじっと見守っていた。
どんな答えを出そうとも受け入れる用意が――それこそハーレムは認められないから別れましょうと言われても――あった。
振られたら寂しいし悲しいし数年くらいは引きずりそうだが、みっともなく縋り付くことだけはしまいと心に決めていた。
フレイヤはまったく悪くない。ただ己の我儘が招いた結果だ。
困惑と焦燥の真っ只中にいたフレイヤであったが、自らを見つめるレヴェリアの瞳に気がついた。
いつもの澄まし顔であるが、その瞳は語っていた。
我儘な小娘め、どんな答えを出してくるつもりだ、と。
フレイヤの口から喘ぎにも似た声が零れ出た。
脳裏を過るのはレヴェリアと過ごした日々。
どんな我儘でも何だかんだ言いながら、彼女は聞いてくれたことが思い出された瞬間――娘としての気持ちが溢れ出す。
気持ちに寄り添う?
我儘な小娘が?
無理、そんなのは絶対に無理。
我慢なんてしたくない。
だから、いつものように
ただ思いの丈を全部ぶつけてやればいい。
この1万年にも等しい10年分、ありったけのものを。
「私はっ……あなたが好きっ……!」
一言言えば、もう止まらない。
心の奥底から言葉が溢れてくる。
先程まで言葉が出てこなかったのが嘘であったかのように。
「この10年、苦しかった! 辛かった! 寂しくて仕方がなかった!」
フレイヤの瞳には激しく沸き起こる感情のあまりに涙が溢れて零れ落ちていくが、拭うこともなくただひたすらに思いをぶちまける。
「あなたにはずっと私の隣にいてほしいの! あなた以外に考えられない!」
女神ではなく娘としての心からの思いがレヴェリアに叩きつけられる。
「私だけを見てっ……! あなたが他の子を見るなんて嫌なのっ!」
一際大きく叫んで、フレイヤは顔を俯かせた。
とめどなく溢れる涙は地面に染みを作っていく。
答えを出した。
正真正銘、我儘な小娘としての
大きな開放感とちょっぴりの恐怖があったが、それを味わう時間はほとんどなかった。
「……10年離れてみて、一つ分かったことがある」
彼女らしい、もったいぶった言い方にフレイヤは思わず笑いが込み上げてくる。
でも急かしたりはしない。
小娘でもそのくらいの分別はあるのだ。
「元々、10年前から好ましく思っていた。そして、それは今もなお変わりがない」
「……はっきり言って」
正当な要求をぶつけて、フレイヤは顔を上げた。
レヴェリアがどういう顔をしているか、しっかりと目に焼き付ける為だ。
すると、彼女の視線があっちこっちを彷徨っているのが見えた。
いつもの澄まし顔も崩れており、照れていることがよく分かる。
我儘な小娘は期待しながら言葉を待ち――程なくして返事がやってきた。
「私もお前が好きだ。お前と一緒にいたいと思った。それがよく分かった10年だった」
その返事に満足しながらも、フレイヤは肝心なところを尋ねる。
「ハーレムは? どうせ作りたいと思っているんでしょ?」
「そのことだが……一つ、言いたいことがあってな」
フレイヤは首を傾げてみせる。
そんな彼女に対してレヴェリアは深呼吸を一つした後、ゆっくりと告げた。
「フレイヤ、死後も私の隣にいて欲しい。それはお前にしかできないことだが……どうだろうか?」
「……いいの?」
レヴェリアの言葉の意味を正確に理解したからこそ、フレイヤは問い返した。
死後も共にあるというのは一見、良さそうに思えるが――終わりがないからこそ、最終的には退屈という名の毒を毎日飲み干すことになる。
何より、レヴェリアが途中で転生を望んだとしても、フレイヤは絶対に離さない自信があった。
その問いに対して彼女はすぐに答えることはない。
元々遠慮はなかったが、思いを伝えあったからこそより積極的に動く。
レヴェリアは口づけでも交わすかのような至近距離までフレイヤに顔を近づけ、銀の双眸を見つめながら心のままに思いを伝える。
「私はお前の隣にずっといたい」
「ぁ……」
黄金の瞳に見つめられたフレイヤは吐息を零す。
「生きている間だけでなく死んだ後もお前の隣にいたい。だから、少しは私にも我儘をさせてくれ。お前の我儘にずっと付き合ってやるから」
いたずらっぽく微笑みを浮かべたレヴェリアに対して、フレイヤはくすりと笑って彼女に抱きついた。
その首筋に顔を埋めてながら答える。
「……ハーレムを作っても、私を一番に考えてくれる?」
「当たり前だろう。最初に私を射止めたのはお前だからな」
「ん……それなら許してあげる。私の寛大さに感謝して」
そう言いながらフレイヤは少し体を離し、レヴェリアの前に立つ。
その意図を理解した彼女が顔を近づければ、フレイヤはゆっくりと目を閉じていく。
昼と夜の一瞬の狭間、赤い花が咲き誇る花畑の真ん中で2人は誓いの口づけを交わした。
やがてレヴェリアはゆっくりと離れた。
するとフレイヤは不満げな表情で、唇を突き出す。
もっとやれという明確な意思表示であるが、それを吹き飛ばすかのようにレヴェリアは尋ねる。
「今夜、お前を帰したくはない。宿は取ってある……どうだろうか?」
「最初からその気だったのね? エッチ、スケベ、ダークエロフ」
「そんなことを言うのはこの口か?」
レヴェリアはフレイヤの口を己の唇でもって塞ぎ、舌をねじ込んだ。
彼女は一瞬驚くが、すぐさまその求めに応じて舌を絡ませる。
たっぷり5分程、そうしていたところでレヴェリアが顔を離して再度問いかける。
「で、どうする?」
「星空の下で愛し合うのも素敵だと思わない? 片付けを考えなくていいから、色んなことができるわよ?」
レヴェリアが好む性的嗜好を知っているからこそのフレイヤの言葉。
しかし、レヴェリアはジト目で見つめながら毅然とした態度でもって告げる。
「たわけ。まずはベッドの上でだ……ところで、私が好きだの愛しているだのと言っても大丈夫か?」
愛を空虚なものと感じている彼女にとって、そういった言葉は言われても大して嬉しくないのではという懸念がレヴェリアにはあった。
その気遣いを感じ取り、フレイヤは嬉しく思いながら大きく頷いてみせる。
「だって、あなたは自分の意思で言ってくれるもの。たくさん言って欲しいな」
「よし、私の独占欲の強さを思い知らせてやるからな」
宣言したレヴェリアはフレイヤを流れるようにお姫様抱っこした。
フレイヤは当然であるとばかりに抱っこされた状態で落ちないように彼女の首にしがみつく。
そして、レヴェリアは風のように走り出す。
目指すは山を幾つか超えた先にある宿場町だ。
情熱的な夜を過ごしたフレイヤは一足早く目覚めて、傍らに眠るレヴェリアの寝顔を堪能していた。
昨夜のことを思い出せば体が火照ってきてしまう。
あそこまで気持ち良く、そして満ち足りたのはフレイヤにとって初めてだった。
降臨してから誰ともヤッてないから実質処女と主張していた彼女に対して、レヴェリアは容赦しなかった。
これまでずっと我慢してきたからこそだが、それはフレイヤも同じだ。
実際に肌を重ねて、レヴェリアが天界レベルのド変態ド淫乱であったこともしっかりと確認できたが、フレイヤも好き者である為に素直に喜んだ。
おかげで、互いに要望を出し合ってそれに応じたプレイをすることで大いに盛り上がった。
ふと、フレイヤはあることに気がついた。
「そういえば、レヴェリアは10年分の対価を要求してこなかったわね……」
彼女が呟いた時、レヴェリアが身動ぎした。
起きる兆候であったが、フレイヤは構わずに眺め続けていると――レヴェリアがゆっくりと瞼を開けた。
そのまま彼女は無言でフレイヤへと手を伸ばして、その体を抱きしめてより顔を近づかせ――口づけを交わす。
おはようのキスをしてくれた、とフレイヤは内心大はしゃぎしながら求めに応じる。
じっくりと丹念に味わったところで、レヴェリアはようやく彼女を離した。
「おはよう」
「ん、おはよう。ねぇ、しましょう」
今度はフレイヤから体を押し付けて、上目遣いでおねだり。
レヴェリアは少しの間、考えて――
「承諾したいところだが、ステイタス更新をまずはやってくれ」
「ステイタス更新なんて後でいいじゃない」
「それは何年後だ? また10年後か?」
「いじわる」
不満げな顔のフレイヤをレヴェリアはけらけら笑いながら、彼女の銀髪を優しく弄る。
対するフレイヤもレヴェリアの金髪を弄り始めた。
互いに無言で髪を弄り合い、しばらくしてフレイヤが口を開く。
「私の誘いを拒むなんて……」
「いつものことだろう。で?」
「勿論、やってあげるわよ。正直、どうなっているか興味はあるもの」
10年前の時点で限界突破をしていた基本アビリティ――【器用】と【魔力】――があった。
眷族達は彼女の為に強くならんとしている者ばかりだが、レヴェリアのように限界突破をしている者は誰一人としていない。
噂を聞く限りでは格上ばかりと戦ってきたレヴェリアである。
基本アビリティの熟練度を伸ばす為に必要な下位の経験値どころか、ランクアップに必要な上位の経験値も莫大な量を得ていることは容易に想像がつく。
ましてや、彼女は成長促進スキル持ちだ。
ワクワクしながらフレイヤはレヴェリアのステイタス更新に臨み、驚愕のあまりに息を呑んだ。
蓄えられた経験値は彼女の予想を遥かに超えていた。
そこで、あることに気がつく。
上位下位どちらの経験値も全て解放すれば、レベル4まで一気にランクアップができることに。
もっとも急激に器が拡張されては心身のズレを調整する期間が大きく必要となる上、怪我のリスクも跳ね上がる。
いくら治癒魔法があるとはいえ、余計な怪我を負う必要はないと考えたフレイヤは若干の期間を空けて段階的に経験値を解放することに決めた。
「ねぇ、レヴェリア。私を信じてくれる?」
「おふざけなしか?」
「おふざけなし。
レヴェリアは思わず振り向いてフレイヤの顔を見つめる。
その表情はかつてないほどに驚愕に染まっており、その口から言葉がこぼれ出てきた。
「お前も主神らしいことをするんだな……」
「失礼しちゃうわ。で、いいわね?」
「任せよう」
「じゃ、遠慮なく弄らせてもらうから。うふふ、楽しみ」
「変なことをしたら簀巻きにして軒先に吊るすからな……」
レヴェリアのその言葉に嘘偽りはまったくない。
本当にやるのが彼女である。
とはいえ、今回ばかりはフレイヤも真剣だ。
慎重に計算しながら更新作業を行い、まずは下位の経験値を反映させていく。
元々レベル2にランクアップできる状態であった為、上位の経験値を反映させる必要はなかった。
その為、発展アビリティは10年前に修得できるようになっていたものだけだ。
一方、スキルに関しては問題がなさそうであった為に全て発現させる。
「レベル2へランクアップができるわ。発展アビリティは【幸運】と【魔導】があるけど……?」
「【幸運】だ。運を鍛えることはできない」
どういう効果かも問いかけることなく、即答したレヴェリアにフレイヤは承諾する。
彼女も聞いたことがない発展アビリティだが、字面の通りに運が良くなるものだと予想がついていた。
そして、レヴェリアの言う通り『運』は鍛えることができないものだ。
やがて、フレイヤは全ての作業を終えて深く息を吐いた。
「終わったわ。レベル1の最終ステイタスを書き写すから見て。凄いことになっていたから」
「むしろ、凄いことになっていないほうがおかしいだろう……」
予想していたと言わんばかりのレヴェリア。
しかしフレイヤからレベル1の最終ステイタスが書き写された羊皮紙を渡され、そこにあった数値を見て唖然とした。
レヴェリア・スヴァルタ・アールヴ
レベル1
力:SSS10322
耐久:SSS12517
器用:SSS11851
敏捷:SSS10482
魔力:SSS13312
基本アビリティの熟練度が何だかおかしい。
元々限界突破をしていたが、いくら何でもこれは酷い。
これらが全て潜在値となったのならば、ランクアップした直後でもレベル2の最上位と互角以上に戦えるんじゃないかと思えてしまう程に。
熟練度に驚きつつもレヴェリアはスキルへと視線を移す。
そこには新しいスキルが4つも発現していた。
任意発動。
人類種に対し攻撃力の高域強化。
怪物種・竜種に対し攻撃力の超域強化。
闘志の丈に応じて効果向上。
呪詛・状態異常・苦痛に対する高耐性。
不眠時間の継続力強化。
逆境時もしくは瀕死時、全アビリティ能力に超高補正。
単独戦闘時、全アビリティ能力に高補正。
大敵交戦時、全能力超域強化及び所持スキル・全発展アビリティの効果増幅。
能動的行動に対するチャージ実行権。
どれもこれも破格のスキルだが、これらが発現したことに関してレヴェリアには思い当たる節しかなかった。
当時、評判が悪化することや悪評を流されることを恐れ、敵を癒やして帰したのが苦難の始まりだ。
彼女の行動は冒険者達からは批判的評価がなされていたが、民衆からは慈悲深いという評価もあった。
しかし、ずっと不殺を貫いた結果、今や批判的評価は鳴りを潜めて慈悲深いという認識が世間に浸透していた。
フレイヤとしてもレヴェリアの軌跡から、それらしいスキルが発現するのは理解できる。
だが、最後のスキルだけはどうして発現したのか分からなかった。
「ねぇ、レヴェリア。
「死と隣り合わせで生存本能が刺激されて、本能的に子孫を残そうとするという説があってだな……」
「つまり?」
「一発もヤらずに死ねるか、私は大ハーレムを築いて淫欲の宴に溺れるぞ、溜め込んで一気に発散するのって最高に気持ち良いとか死にかける度によく思っていた」
レヴェリアはそこで言葉を切り、少しの間を置いてげんなりとした表情で言う。
「5年を過ぎた頃から襲撃は激減したとはいえ、それまでは格上と戦うのが当たり前っていう意味の分からん生活だったぞ……」
そこから苦労話が口から零れ出てくる。
襲撃者達が猛毒や麻痺を武器に仕込んでくるどころか、魔法封じのカースウェポンまで標準装備していたとか、格上の癖に油断も慢心もしてくれないなどなど――
あれこれ言い終えた彼女は深い溜息を吐いた。
その言葉に嘘偽りはない。
何度も襲撃を受けていることはフレイヤも知っていたが、改めて本人の口から語られるとその苦難がより鮮明にイメージできてしまう。
故に、これまで大変な思いをしてきた彼女をたっぷり甘やかそうと決めた。
その取っ掛かりとして、その背中に抱きついて頬ずりをしてみる。
きめ細やかですべすべの褐色肌はとても魅惑的だ。
永遠に飽きることはないだろう。
突然の行動であったが、レヴェリアとしてもこれまでのように投げ飛ばしたりはしない。
ステイタス更新も終わったし、まあいいかと彼女は思いつつも何気なく尋ねる。
「ところで、お前のハーレムみたいなものはどうするんだ? どうせ勝手に崇められているだけだろうが……」
ちゃんと分かっていてくれたことにフレイヤは嬉しく思いつつ、彼女と向き合ってそうなった理由を伝える。
「あなたみたいに接してくれるかもしれない子達を眷族にして、あなたにしたものと同じ問いかけをしたら……そうなっちゃった」
「成果はあったのか?」
問いかけに対して、フレイヤは首を左右に振ってみせつつも断言した。
「それでも皆、愛しい子達って思っているわ」
「女神としてか?」
「ええ、そうよ。本当は娘としてラフな感じで楽しくやりたいけど……」
寂しそうな表情となる彼女をレヴェリアは無言で抱きしめ、その背中を擦ってやる。
フレイヤは彼女を抱きしめ返しつつ、眷族達の経歴をぽつぽつと話していく。
どういう出会い方をしたのかなどを事細かに。
聞いている途中でレヴェリアは気づいた。
誰も彼もフレイヤによって助けられたり、あるいは救われた者ばかりだと。
こんな美人が窮地の時に助けてくれたら、深い敬愛と忠心を抱いても仕方がないとレヴェリアは思う。
同時に、こいつの勧誘方法にも問題があるんじゃなかろうかとも。
「どうしてわざわざ困っている輩を助けるんだ?」
「そういう時だからこそ、魂の本質がよく視えるのよ」
「危機的状況にこそ、人の本性が分かるというのと同じか……」
「そういうことよ。私って美しい魂に目がなくて」
「ちなみに私はどうだ?」
その問いかけにフレイヤは満面の笑みを浮かべた。
「出会った時から、荒削りだけど虹色の綺麗な輝き。今はより輝いているけど、もっともっといけそう」
思わぬ答えに、何だか照れくさくなったレヴェリアは軽く咳払いして誤魔化す。
可愛らしい反応にフレイヤは頬を緩ませてしまう。
「それはさておき……そういった勧誘を自重することはできるか? それが原因だって分かっているだろう?」
「分かっているけど無理よ。あなただって素敵な子を見かけたら、手を出せるなら出すでしょ?」
そう言われるとレヴェリアとしても何も言えない。
気持ちが分かるが故に。
しかし、そうなると疑問に思えてくることが一つあった。
「お前、本当に実質処女だったのか?」
「それは本当よ。あなた以外とは誰とも肌を重ねてはいないし、これからもそうするつもりはないわ……プレイの一環としてなら話は別だけど」
その答えは表情も相まって、レヴェリアには嘘とは思えない。
そして、付け足された言葉に彼女はニヤリと笑みを浮かべる。
「プレイの一環としてならば、と付け加えるあたりに私のことをよく分かっているな」
「当たり前じゃない。あなたの好みは私が誰よりも理解している自信があるわ」
違いない、と答えながら彼女は思う。
眷族達に女神として求められ、それに縛られているのはよろしくないのではないかと。
その縛りこそが彼女の魅力を殺してしまっているような気がする為だ。
その事を踏まえて、レヴェリアは言葉を紡ぐ。
「フレイヤ、お前の心が赴くままに自由に振る舞っていい。度が過ぎていたら、私が張っ倒してやるから安心しろ」
そこで一度言葉を切った彼女は小っ恥ずかしいが、ここは言うべきだと覚悟を決めた。
10年前のあの夜、フレイヤが寝ていた時に伝えた言葉に今まさに感じている素直な思いを込めて。
「私は、お前の女神らしくない……ただの少女のようなところが何よりも魅力的だと思う。そういうところを隣で見ていたいんだ」
その言葉にフレイヤは大きく目を見開いた。
そんな彼女に対してレヴェリアは己の要望を要求する。
「私にはお前の素直な感情を全て曝け出せ。それを10年分の対価として要求する」
その言葉を聞いてフレイヤは感嘆の声を漏らす。
レヴェリアに対して自重する気はさらさらなかったが、本人からのお墨付きが出た。
もう言葉などいらなかった。
込み上げてくるこの熱と思いを抑えることなど不可能だ。
フレイヤはレヴェリアを押し倒す。
そして、昨晩よりももっと情熱的な一時を2人は過ごすのだった。