転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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砂漠の嵐

「我が名はシャルザード王家の王子、アラム・ラザ・シャルザードである!」

 

 レヴェリアがワルサ軍第3師団を殲滅した後、手筈通りアリィは広場での演説を始めていた。

 アラムの名を告げた瞬間、群衆の中を蛇のようにすり抜けて恐るべき速さでもって迫ってきたのは、黒いローブを纏ったセクメト・ファミリアの暗殺者達。

 四方八方から一斉に襲いかかってきたが、壇上にいるアリィにその凶刃が届くよりも連中の首が飛ぶ方が速かった。

 

 生かして捕らえるなどということはしない。

 セクメト・ファミリアの暗殺者は、任務達成の為に自爆も厭わないという情報を得ていた為に。

 

「……どうやら私が本物であることは、ワルサが雇った暗殺者達が保証してくれるようだ」

 

 おどけたようにアリィは告げて、聴衆が今起きた状況を理解するまで少しの間を置いた後、力強く告げる。

 

「王都を追われた私は混乱の最中、密かに脱出して義勇軍を立ち上げた! 幸運にも僅かな期間でワルサの蛮行に憤激を覚え、シャルザードを救わんと熱き意思を持つ戦士達が集ってくれた!」

 

「戦士達は『灰色の幽霊(グレイゴースト)』と名乗り、今この瞬間にもワルサ軍へ攻撃を開始せんとしている! その力がどれほどであるか、あなた達が見た通りだ!」

 

 聴衆の誰もが息を呑む。

 あれほどの力を持つ戦士達がシャルザードについたならば、ここから戦況をひっくり返すことも大いにありえる――そう信じるに値するだけの力は既に示されていた。

 

「商人よ、イスラファンの民よ、どうか私の声を愛する祖国に、勇猛果敢な戦士達に届けてほしい!」

 

「王家の始祖、アリィの名に誓って約束する! 5日後、『ガズーブの荒原』に集結せよ! 全軍にて王都へ攻め上がり、我等の祖国を奪還する!」

 

「ここに宣言しよう! 私は王家の生き残りとして新たな王となり、悪賊ワルサを打ち倒すと!」

 

 その瞬間、歓声が爆発した。

 ワルサによる蛮行、その標的となりかけていたこともあって民衆の喜びは大きい。

 

 

 

 演説の様子を見守っていたフレイヤは、にこりと微笑みながら隣にいるレヴェリアに尋ねる。

 

「ね、レヴェリア。私も」

「ついていくと言うつもりだろう? そうはさせんぞ」

「え、やだ」

 

 フレイヤの言いたいことを正確に予想して拒否したレヴェリア。

 だが、刹那でそれを拒否したフレイヤ。

 じーっと2人は数十秒程見つめ合い、やがて根負けしたかのようにレヴェリアは深く――それはもう深く溜息を吐いた。

 

「……仕方がない」

「ふふん」

 

 ドヤ顔になったフレイヤの頬を、レヴェリアは指でつつきながら告げる。

 

「すぐに出発するからな」

「さっき捕虜にした子達から情報は聞かないの?」

「後ほど通信機でアスフィから教えてもらえば良い。今この瞬間にも、敵が隠し砦に迫っているかもしれないからな。いいな?」

「はーい」

 

 頬をつつかれながら、フレイヤは元気良く返事をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう駄目だ……おしまいだぁ……」

 

 情けない声を上げる兵を、ダグラスは咎めることができなかった。

 

 イスラファン・シャルザード国境に築かれた隠し砦は岩山をくり抜いて作られた堅固なものだ。

 籠城により敵に痛打を与えつつ、時間を稼ぐことができると考えていた。

 だが、それはあくまで敵軍と自軍の戦力差が数倍程度に収まる場合だ。

 

 昨夜より、迫りつつあるワルサ軍と思しき多数の松明を確認し、目に物を見せてやると気炎を上げた。

 そして、夜が明けてから残酷な光景を突きつけられた。

 隠し砦の真正面に展開しているワルサ軍は軽く見積もって1万以上、その背後には更に多数の兵が戦列をなしているのが見えた。

  

 イスラファン侵攻を目的とした、ワルサ軍の主力部隊だ。

 ワルサ側からすれば、イスラファン侵攻へ向けて移動していたら偶然シャルザード軍の砦らしきものを発見したという形である。

 当然、ワルサ軍にはシャルザードの残党を見過ごす理由などなかった。

 圧倒的に優勢であるからこそ、ワルサ軍は早朝から絶え間なく攻めるなどということはせず兵達に朝食を取らせるなどして万全の態勢で、一気呵成に踏み潰さんとしていた。

 

「ここまでか……」

 

 半ば無意識的にダグラスの口から諦めの言葉が出てきた。

 彼の指揮下にある残存兵力は300名程度であり、砦に篭ったところでどうにもならない兵力差だ。

 幸運にも目の前のワルサ軍部隊を退けたとしても、続く第二陣を凌ぐことは無理な話だった。

 

 唯一の希望となる援軍は昨日、王子と共にやってきたレヴェリアと彼女が率いている戦士達。

 

 世に名高いあの【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】だ。

 昨日、治癒魔法でもって将兵全員を癒やしてもらい、噂に違わぬ効力であることで本人だと信じるしかなかった。

 『頂天』とも称される程、実力においてもずば抜けていると噂に聞くが、今この場にいなければ何の役にも立たない。

 もっとも、たとえこの場に彼女がいたとしても、あの大軍を撃退することなど到底不可能だろう。

 

「……ワルサ相手に降伏は無意味。ならば、最後の最後まで戦い抜くのみ」

 

 ダグラスが覚悟を決めた時、ワルサ軍より響き渡る鬨の声。

 大地を埋め尽くすかのような大軍が動き始めた瞬間――天空より朱金色の光が幾条も降り注ぐ。

 

 それはあっという間の出来事だった。

 

 閃光、轟音そして爆発――

 

 降り注いだ光の数だけ連鎖的に巨大な爆発が巻き起こり、砂煙が濛々と立ち昇りワルサ軍の先鋒をすっぽりと覆い隠すが、風に吹かれてすぐに消え去る。

 

 そして、露わになった光景に誰もが目を疑った。

 

 突撃を開始したワルサ軍先鋒、大隊規模の兵力を有していた部隊がいた場所には無数の大穴が空いていた。

 それがどういう意味であるかを敵味方が理解する前に、朱金色の光がワルサ軍目掛けて次々と無数に降り注いでいく。

 そして、爆発と共に仇敵のワルサ軍がこの世から消え去っていく。

 その爆発は数多の命を糧にして咲き誇る花のようであり、恐ろしい光景であった。

 

 ワルサ軍はもはや統制だった作戦行動など取れるわけもなく、算を乱して四方八方へ逃げようとしているが、朱金色の光が的確に狙い撃っていく。

 速すぎるが故にダグラス達には光のように見えていたが、それはレヴェリアによる【ボルカニックノヴァ】であった。

 

 レヴェリアによる攻撃開始から10分程で隠し砦の眼前に展開していたワルサ軍だけでなく、その背後にいた部隊も含めてこの世から消え去った。

 

 

 

「跳んだ、視た、撃った。それだけだ」

 

 どうやったのかと尋ねたダグラスに対して、事も無げにレヴェリアは答えた。

 その返答に彼は畏敬の念を覚える。

 

 これが『頂天』か――

 

 『勇士(カビール)』3人から4人分と彼は換算していたが、文字通り桁が違った。

 レヴェリアがやったことは彼女自身が語ったように、至極単純だ。

 

 隠し砦付近にワルサ軍がいることを確認したレヴェリアはアリィとフレイヤを下ろして、大きくジャンプすることで城よりも高いところまで跳んだ。

 視認できる範囲を拡大、ワルサ軍の全貌を瞬時に捉えて【ボルカニックノヴァ】を連射。

 それを繰り返していた。

 

 ところで『砂漠の嵐(デザートストーム)』作戦は、敵軍を程よく潰走させる目的があった。

 しかし、レヴェリア達が砦付近に到着した時点で、ワルサ軍は攻撃開始寸前であり、

 隠し砦に入ってダグラス達を説得して戦いに駆り出す、などという悠長なことをしている時間はなかった。

 故にレヴェリアは状況を説明し敵軍の殲滅に切り替える旨を、通信機でアスフィに伝えていた。 

 

「ダグラス、改めて例の作戦に協力してほしい」

「勿論です、王子。レヴェリア様が共にあられるのであれば、100万の援軍を得たも同然。件の作戦も可能でしょう」

 

 アリィの言葉に、ダグラスは力強く答えた。

 だが、彼の言葉にレヴェリアは告げる。

 

「私は治療師として、お前達を後方から癒やし続けるに留める。私が何でもかんでもやってしまうよりか、そちらの手の届かないところだけ対処した方が良いだろう」

 

 レヴェリアの問いかけにダグラスは肯定しつつも、あることが気にかかった。

 彼女が告げた『癒やし続ける』という部分だ。

 

「……レヴェリア様、どのくらいの頻度で、あの魔法を掛けてくださるのですか?」

自動治癒(オートヒール)かと勘違いしてしまう頻度でやってやるさ」

 

 ダグラスからの問いかけに不敵な笑みを浮かべてレヴェリアは答え、少しの間を置いて告げる。

 

「木っ端微塵になるなどの即死だけはするな。そこだけ注意してくれれば……誰一人死なせない」

 

 その言葉に、周囲の将兵からは歓声が巻き起こる。

 ダグラスもまた顔を綻ばせてみせたところで、ここまで黙っていたフレイヤが口を挟む。

 

「ねぇねぇ、レヴェリア。どういうルートで行くの?」

「真っ直ぐ『ガズーブの荒原』に向かう。恩恵の大量消失によって、敵に事態は伝わっているだろうからな」

「そのままソルシャナに向かってもいいんじゃないの?」

「万が一、市街地戦となれば住民に多大な犠牲が出る。敵兵が衣類を換えて、住民に扮装されると見分けがつかない」

「リオードの時みたいに敵の生存者は探さないの?」

「あの時はこんな事態は想定していなかった。隠し砦を嗅ぎつけてやってくるのは、残党狩りを目的とした小規模部隊だと思っていたからな。こうなった以上、もはや情報の伝達を防ぐ意味はない」

 

 フレイヤからの問いかけに答えたところで、レヴェリアはアリィへ視線を向けつつ尋ねる。

 

「王子、どうだろうか?」

「良いと思う。ダグラス、懸念点はあるか?」

「私も問題ないかと……ただちに出撃の準備を整えたく思います」

 

 闘志が漲っているダグラスに、アリィは苦笑しつつ問いかける。

 

「なるべく早く出発したいが、可能か?」

「2時間以内にやってみせます」

 

 ダグラスは答えるや否や、すぐさま配下へ指示を飛ばし始めた。

 

 

 

 

 

 

「ねぇねぇ、レヴェリア。アリィが何か言いたげな感じよ」

 

 出発の準備が整うまでの間、レヴェリア達は別室にて一息ついていた。

 その最中、フレイヤが告げた。

 これまでのレヴェリアによるワルサ軍への攻撃を見てきたアリィであるが、その魂が若干陰ったことをフレイヤは見落としていなかった。

 

 まったく、この女神は――

 

 そのようにアリィは思いつつ、己の内にあるものをレヴェリアにぶつけてみることにした。

 

「個人が持つには大きすぎる力だと思ったんだ。だから、オラリオを囲んでいるという巨壁は、現代においては冒険者を閉じ込めておくものではないか、と……」

「そういう理由も込みで、オラリオを弱体化させたいという勢力や国は多くあるぞ」

「……そうなのか?」

 

 おずおずと問いかけたアリィに対して、レヴェリアは頷いてみせる。

 さらに彼女は言葉を紡ぐ。

 

「私も含めてレベル10ともなれば、国の一つ二つを更地に変えることくらいは朝飯前だ。モンスターにはない知性がある分、もっと厄介だろう。効率的にやれるからな」

 

 アリィは躊躇しつつも頷いてみせる。

 そんな彼女にレヴェリアは優しく微笑み、遠慮はいらない、と伝えつつ告げる。

 

「ギルドが冒険者を外に出したがらない理由は、冒険者がモンスターと変わらない力を振るうと知られないようにする為だ」

 

 そう前置きして、レヴェリアは更に言葉を続ける。

 

「冒険者の脅威がモンスターと同じと認知されてしまえば、多くの者が恐れ、やがて排斥に繋がっていく。そして、そのような事をされて抑えていられる程、冒険者は穏やかな連中ばかりではない」

 

 その言葉を聞いてアリィは気がついた。

 

「裏を返せば、冒険者を守っているわけでもあるんだな。そういった事を知られなければ、恐れられたり排斥されることもない」

「そういうことさ。一種の棲み分けだな」

 

 話が纏まり、アリィの魂から陰りが取り払われたところでフレイヤが口を挟む。

 

「まあでも、一番強いレヴェリアが気軽に外に出れちゃうんだけどね」

 

 茶化すような彼女に対して、レヴェリアは軽く溜息を吐いて――デコピンを食らわせた。

 アリィの目では捉えられない速さでありながらも絶妙な手加減がされた一撃が、フレイヤのオデコに炸裂した。

 悶絶して床を転げ回るフレイヤを横目で見つつ、レヴェリアは告げる。

 

「ギルドと取り決めをしてあってな。あくまで私が例外というだけだ」

「私としては不幸中の幸いだ。あなた達が来てくれなかったならば、シャルザードは滅んでいただろう」

 

 レヴェリアとフレイヤに、アリィは感謝を示すのだった。

 

 

 

 

 

「私と同格だ」

 

 ソルシャナのワルサ軍幕営にて、オリヴァスは開口一番、ゴーザに告げた。

 各傭兵派閥の主神達が短時間で恩恵が大量に消失して騒ぎ始めたことから、イスラファン侵攻部隊が全て殲滅されたことが発覚した。

 生き残りは全体でごく僅かであり、とてもではないが戦力として数えられるものではなかった。

 その信じ難い事実に、頭を抱えていたゴーザに対してオリヴァスが伝えたことは最悪の予想だった。

 

「レベル3やレベル4が苦も無く、短時間でやられたことを考えればそれしかない」

 

 重ねて伝えたオリヴァスは余裕の表情だった。

 自身よりも格上という可能性を彼は考慮していない。

 オラリオの化け物じみた高レベル冒険者が、都市外へ出ることは余程のことがなければまずないと確信していた。

 ましてや、他国の紛争に介入などという面倒事に首を突っ込むなどまずありえない。

 

「安心するがいい。私が仕留めるからな」

 

 不敵な笑みを浮かべるオリヴァスに、ゴーザは頼もしさを覚えつつも一抹の不安があった。

 それは彼よりも格上が出てきた場合だった。




オリヴァス「私と同格に違いない……食い出があるぞ!!!」
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