リリルカ・アーデは居並ぶ面々に、頬を引き攣らせていた。
シルと知り合って、ついつい色々と喋りすぎてしまったのは1週間程前のこと。
あのレストランにはもう行かないようにしよう。
ザニス様やカヌゥ様達にシル様が目をつけられると、大変なことになるかもしれない――
そう考えた彼女は、レストランのある区画には一切近寄らなかった。
だが昨日、レストランのある区画とは正反対のところで、シルとばったり会ってしまった。
リリルカに気まずさはあったが、そんなことなどまったく気にしていないシルはニコニコ笑顔で告げた。
知り合いの女神様に相談したら、そこの冒険者さん達がリリを雇いたいって!
今回だけでもいいから、明日9時にセントラルパークの噴水前に行ってみて!
食料と水だけ、たっぷり用意してほしいって!
短い付き合いだが、リリルカにはシルが悪意をもって陥れるような人物にはまったく思えなかった。
今回だけならば、と考えた彼女は言われた通り、大きなバックパックに食料と水を詰め込んで集合場所付近にやってきた。
そして、そこには【
この面子を全員揃って動かせる女神は世界広しといえど、1柱しかいない。
知り合いの女神様って、もしかしなくてもフレイヤ様じゃないですか!
シル様の神脈ってどうなっているんですか!?
リリルカが内心でツッコミをしつつ、静かにその場を立ち去ろうとした。
まだ声を掛けていない為、ただの通りすがりを装えば逃げられると踏んだが――
「レヴェリア様、おそらく彼女です」
そう声を発したのは【
彼女の声に、一斉にリリルカへ戦乙女達の視線が向く。
こうなっては、もはや覚悟を決めるしかなかった。
「は、はじめまして……リリルカ・アーデです。シル様から、言われた通りにやってきたんですけど……?」
恐る恐る、リリルカは告げた。
するとレヴェリアがにこやかな笑みを浮かべ、答える。
「ああ、はじめまして。レヴェリアだ。事情は聞いているから安心してほしい」
それはどういう意味か気になったが、リリルカは聞けなかった。
斜め上の答えが返ってきそうで怖かったからだ。
ともあれ、レヴェリアの挨拶をきっかけとしてアスフィから順に自己紹介が始まっていく。
リリルカは彼女達のことを噂でしか知らなかったが、意外であったのはサポーターである自分への態度だ。
これまでリリルカを雇ってきた多くの冒険者達は、初手から見下して、さらに暴言が飛んできた。
だが、そんなことはまったくなかった。
「リリルカ、何歳?」
全員の自己紹介が終わったところで、おもむろに問いかけてきたのはアイズだ。
何やら期待しているような顔である。
「え、えっと10歳ですけど……」
リリルカが答えた直後、ドヤ顔でアイズは胸を張って告げた。
「私は11歳だから、私がお姉ちゃんで先輩だね」
「あっはい、そうですね……」
「あなたのこと、私が護るから」
「えぇ……」
笑みを浮かべて親指を立てるアイズに困惑顔となったリリルカ。
そこへアイシャが説明をする。
「アイズよりも年上ばかりだからね。お姉ちゃん振りたいお年頃なのさ」
「はぁ、そうなんですか……」
何だか拍子抜けしてしまったリリルカに対して、レヴェリアが告げる。
「さてリリルカ。今回の探索に関する報酬だが、先に書面でもって契約を交わしておきたい」
その言葉に、リリルカは耳を疑う。
基本的に口約束で、探索が終わってギルドで換金した後になって支払いを渋り、恫喝してくるケースがとても多かった。
契約の内容がリリにとって圧倒的に不利である可能性が――!
そう思いながら、リリルカはレヴェリアから手渡された契約書を隅から隅まで目を通し、掲げて透かし文字が入っていないかどうかなど入念にチェックする。
だが、特に何もなかった。
契約内容自体も真っ当なものであり、さらに報酬は利益の半分を支払うという破格のものだ。
あまりにもリリルカにとって有利過ぎる為、やっぱりどこかに罠があるんじゃないかと契約書をひっくり返して、再び透かし文字のチェックに入った。
両面を何度も確認したところで、彼女はようやく契約書から顔を離し、レヴェリアへ尋ねた。
「リリの取り分が5割ですが……本当にいいんですか?」
「問題ない。アスフィ達も承諾している」
レヴェリアの言葉に、他の面々も頷いてみせる。
それを見て、リリルカは心の中でガッツポーズ。
この面々ならば、今日だけで100万は稼げそうだと彼女は頬が緩みそうになる。
目標金額まで一歩前進ですね――!
気分が良い彼女であったが、すぐに何やら雲行きがおかしいことに気がついた。
アイズが彼女に背中を向けて屈んでみせたからだ。
「ん、乗って」
「……えぇっと?」
リリルカが困惑すると、すかさずに小柄なエルフ――先月、レベル4となったメルーナが諦観の笑みを浮かべて告げた。
「アイズがお前を背負っていく。レベル1の速さに合わせる必要などないからな……私も通った道だ、諦めろ」
リリルカが周囲に視線を向けるも助け舟はない。
実際、効率的ではある。背負われる側の羞恥心を考慮しなければ。
これもお金の為これもお金の為、歩かなくていい歩かなくていい、楽ができる楽ができる――
羞恥心を捨てるべく、リリルカは内心でそんなことを唱えながらアイズの小さな背中に乗ろうとした、その時だった。
「【
横からの声に、リリルカは視線を向けると――そこにいたのは数日前、彼女を雇って報酬の支払いを渋り、恫喝して踏み倒した冒険者達だった。
いかにも荒くれ者といった風体の男達は口々にリリルカの事を好き放題に悪く言い始めた。
小人族だから無能、役立たずと貶すのではなく、あくまでリリルカ個人が無能であるという言い方だ。
暗澹たる気分となりながらも、リリルカが反論をしようとした時、レヴェリアは真摯な表情でもって彼等に告げる。
「そこまでやる気があるならば、合宿に参加しないか? 私達は常に向上心のある者を求めている。無論、ランクアップの為の協力は惜しまない。共に黒竜を討伐しよう」
瞬間、彼等は押し黙った。
リリルカに代わって手軽に甘い汁を啜りたかっただけで、そこまでの気概はない。
「あ、え、そうだ! 急用を思い出したので!」
「俺も俺も!」
「俺もそうだ!」
そんなありきたりな嘘をついて、彼等は一目散に逃げ出した。
その様子を見てリリルカが溜飲を下げたところで、彼女の服の裾を引っ張るアイズ。
彼女はリリルカの視線を自分に向けると、すかさず背中を向けて屈んだ。
リリルカは溜息を吐いて、アイズの小さな背中に乗った。
準備が整ったのを見て、レヴェリアが告げる。
「隊列は事前に伝えた通りだ。ところでリリルカ、口はしっかり閉じておくんだぞ。舌を噛むからな」
レヴェリアからの助言に、リリルカは頷いた。
「では出発」
レヴェリアが告げた瞬間、リリルカは自分が風になったような気がした。
景色が物凄い勢いで後ろに流れていく。
バベルまでは普通に歩いてもいいんじゃないんですか?
リリルカはそう思ったが、口を開けば舌を噛むのは確実であったのでアイズに任せるしかなかった。
実のところ、レベル4の面々を置いていかないよう、アイズはかなり抑えていたがリリルカが知る由もない。
そんなこんなでダンジョンに突入したのだが、リリルカは信じられない光景を連続して目撃することになった。
「……あの、リリは生きてますか? 実はもう死んでいたりしません?」
「大丈夫ニャ。生きてるニャ」
ぽけーっとした表情でリリルカが呟くように尋ねると、横にいたクロエが答えた。
ここはダンジョン51階層の広いルームだ。
しかし、リリルカには現実感がまったくなかった。
「ミャーとルノアも最初は似たようなモンだったニャ……」
クロエの脳裏に蘇るのは、初めてダンジョンに潜った時のこと。
リリルカのように誰かに背負われることはなかったのだが、そうであるからこそ理不尽な暴力をじっくりと観察することができてしまった。
そのことを思い出していたクロエに、リリルカがおもむろに告げる。
「37階層……でしたっけ? あのでっかい骸骨の階層主」
「そうニャ。ウダイオスニャ」
「リリはアレを見た瞬間、死んだって思ったんですよ。そうしたら、その1秒後にはウダイオスが真っ二つになってたんです」
「アスフィがぶった斬ったからニャァ……すっげードヤ顔だったニャ」
「リリの知識によると、階層主は複数のパーティーで時間を掛けて討伐するらしいんですけど……」
「ミャーもレヴェリア様の授業でそう習ったニャ。この前、本人はバロールをぶった斬っていたけどニャ」
そんな会話をしている2人の前では現在、模擬戦が行われていた。
リリルカの金策が主目的であるが、鍛えないという選択肢はない。
なお、クロエは模擬戦不参加を表明し、リリルカの護衛役に回っていた。
ルノアが嬉々として参加を表明したのとは対照的だ。
「クロエ様、リリもフレイヤ・ファミリアのことは噂で聞いていたんですけど、本当に模擬戦で殺し合いみたいなことをやっているんですね……」
「オラリオワーストワンの看板は伊達じゃねぇニャ。元々血の気が多かったルノアはすっかり毒されて……ミャーみたいな平和主義者は肩身が狭いニャ」
肩をすくめて見せるクロエに、リリルカは尋ねる。
「リリの事情ってクロエ様も聞いているんですか?」
「勿論聞いているニャ。うちとは別方向でやべーファミリアってアスフィ達と話していたニャ」
「フレイヤ・ファミリアから見ても、やっぱりヤバいんですか?」
「退団とかステイタス更新にお金が必要な派閥ニャんて、ミャーも聞いたことがニャいよ」
そう答えたクロエは、更に言葉を続ける。
「ザニスとその取り巻きを締め上げれば手っ取り早い気がするニャ。リリルカ、ミャーが格安でやってもいいニャよ? 証拠は残さないから安心するニャ」
「……平和主義者って言いましたよね?」
「平和主義者ニャ」
平和主義者ってなんだろう、とリリルカは遠い目になった。
それからしばらくの間、クロエと色々な話をしていたリリルカであったが、模擬戦が一段落したところで、いよいよ主目的である金策となった。
そこでリリルカはレヴェリアに尋ねた。
このルームでモンスターが出てくるまで待つんですか、と。
モンスターが出てくるのを待つ?
それよりも連れてきたほうが効率的だろう。
さも当然のように、リリルカからすれば常軌を逸した事を宣ったレヴェリア。
そして、それはすぐさま実行された。
護衛役のクロエだけでなくメルーナ、ルノアを含めたレベル4組を除いた面々がルームから出ていき、やがてバカみたいな量のモンスターを引き連れて戻ってきた。
リリルカは白目を剥いたが、すぐにそんなことをしている暇などなくなった。
ルームまでついてきたモンスター達が物凄い速さで倒されていく為だ。
リリルカが見たこともないような大きさの魔石やドロップアイテムが床一面に転がっていく。
わりと逞しい彼女はサポーターとしての務めを果たすべく、動き出した。
クロエは彼女の護衛として傍につき、危ない攻撃が飛んできたら即座に対応するよう態勢を整えていた。
だが、リリルカにとって予想外であったのは、1回だけで終わらなかったことだ。
モンスターが少なくなってきた時、レヴェリアとアスフィがそそくさと出ていき、またもや連れてくる。
そんなことが何十回も繰り返された。
普通ならば休憩を定期的に取るのだが、あいにくとレヴェリアがいる。
彼女が唱える治癒魔法によって疲労は無くなり、体力も全快という常に万全の状態で働けるようにされてしまう。
この魔法には精神の治癒と安定の効果もある為、精神が病むこともない。
体験することで、リリルカは嫌でも理解した。
こんなバカみたいな治癒魔法が使えるんだから、最高効率で強くなれる筈だと。
とはいえ、この治癒魔法を使えたとしてもレヴェリアと同じことをやろうとは思わなかった。
理論的にはできるが、実際にやるかというとまた別の話である。
しかし、リリルカはへこたれなかった。
これまで彼女を雇ってきた多数の悪徳冒険者とは違い、レヴェリアとは書面でもって事前に契約を交わしている。
利益の5割が手元に転がり込んでくると思えば、超絶ブラック労働であろうともやる気が出る。
そして、彼女のモチベーション維持にはクロエもさり気なく協力していた。
「その魔石はだいたい1万ヴァリスくらいニャ」
「1万!?」
「あっちのドロップアイテムは2万ニャ」
「2万!? 宝の山では!?」
「ニャフフ……リリルカ、レヴェリア様にくっついていくとバカみたいに稼げるニャ。ミャーも楽して稼がせてもらっているニャ」
その言葉に、リリルカはテンションが上がった。
そうこうしているうちに、彼女は気がついてしまう。
今回の探索だけで退団資金が稼げるのでは?
ニンマリとリリルカは笑った。
そして、そんな彼女にとって予想外の事が起こったのはルームに篭ってから半日後、初めての休憩の時であった。
「……リリルカ、それは本当か?」
真剣な表情でもって、レヴェリアはリリルカに問いかけていた。
対する彼女は、困惑気味に頷いてみせる。
事の発端は雑談で魔法の話題になった時だ。
リリルカに魔法が発現しているかどうかを尋ねられた。
本来ならば答える必要などない。
だが、もう悪徳冒険者相手に盗みをする必要がないこと、ここまで協力してくれたことへの感謝などもあって、リリルカは変身魔法が使えることを伝えた。
すると、レヴェリアの目の色が変わった。
それはまるで、飢えた獣が肉を前にしたかのようであった。
レヴェリアが他人の魔法を再現できることは有名である為、リリルカも当然知っている。
だが、どうしてここまで食いつくのか、彼女には理由がさっぱり分からなかった。
「対価は支払う。だから、魔法の名や詠唱、効果など詳しく教えてほしい」
レヴェリアの言葉に、リリルカは即座に周囲へ視線を向けた。
彼女のことに詳しい面々に助言を求める為だ。
「レヴェリア様、もしかしなくても悪いことを考えていますよね?」
ジト目で問いかけたのはアスフィである。
彼女に対して、レヴェリアは涼しい顔で答えた。
「獣耳と尻尾を生やしてみたい。そういう薬を作るのも手間だからな」
「獣耳……」
「尻尾……」
レヴェリアの言葉に、呟いたのはヘルンとヘイズである。
彼女達の呟きをきっかけに、リリルカも含めて各々が獣耳と尻尾を生やしたレヴェリアを脳裏に思い描く。
犬・狼・猫・兎・狐など想像した獣耳と尻尾は様々であったが、共通していたのはどんなモノであっても、とてつもない破壊力を秘めていたことだ。
なお、アスフィは何を想像したのか、顔どころか耳まで真っ赤にして俯いていた。
「リリルカ……いえもうリリって呼びますね。お願いします、教えてください」
「ええ、そうよ。リリ、直ちにレヴェリア様にお教えするべきだわ」
目の色が変わったヘイズとヘルンだが、アウラ、フィルヴィス、メルーナのエルフ3人組は若干渋い顔だ。
白黒問わず妖精として象徴的な長耳を一時的とはいえ無くすのは如何なものか、と諌めたい思いがある一方、獣耳尻尾のレヴェリアを見てみたいという個人的な欲望の板挟みであった。
「レヴェリア、教わったら耳と尻尾をもふもふさせてほしい」
アイズはストレートに己の欲求を伝えた。
街中で時折見かける、耳や尻尾がもふもふしている獣人。
ちょっと触ってみたいが、見知らぬ他人にそんなことを頼むのは失礼極まりない。
だが、レヴェリアならば一番身近な存在である為に遠慮はいらないという理屈である。
「……リリ、頼むよ」
アイシャは短く伝えた。
彼女もまた真剣な表情であるが、考えていることはベッド上での戦いにおいて戦術の幅が広がるというアマゾネスらしいことであった。
「どいつもこいつも欲望一直線ニャ。ミャーを見習ってほしいニャア」
「いや、お前が言うなよ……」
やれやれ、と肩をすくめて溜息を吐くクロエに、ルノアがツッコミを入れた。
そして、リリルカは――にこりと笑う。
「レヴェリア様、対価……期待していますね」
対価を貰えるだけでなく、獣耳尻尾を生やしたレヴェリアを見てみたいとリリルカも思ったが為であった。
これが『頂天』かぁ――
リリルカは目の前にいる、自分とそっくりな姿となったレヴェリアを見つめていた。
リリルカの変身魔法【シンダー・エラ】は体格がだいたい同じなら、どんな姿にでも変身が可能であり、変身像は詠唱時のイメージに依存し、具体性が欠如する場合は失敗するものだ。
しかし、レヴェリアは体格が違いすぎるリリルカにあっさりと変身してみせた。
今の彼女はどこからどう見ても、
事前に教えられていても、いざレヴェリアの姿がリリルカに変わったことに、アスフィ達も驚きを隠せなかった。
そして、早速レヴェリアは色々と検証を始めていた。
「あくまで変わったのは見た目や声だけで、ステイタスまでは変わっていないようだな」
そう言いながら、
それを見て、
ソーマ・ファミリアを退団した後、ちょっと良いレストランで祝杯でも上げようかと思っているくらいで、身の振り方まではまだ考えていない。
今回の稼ぎで退団資金に加えて当面の生活費を確保できたとしても、働き口は見つけておきたい。
だがオラリオを出て、リリルカのことを誰も知らないところで一から生活を始めるなどは考えていなかった。
レヴェリア様に弟子入りすれば、リリも
ふと、そんな疑問が湧いてきた。
派閥の先達に教わることができなかった為、独学独力でやってきたリリルカは自分には冒険者としての才能がないと判断していた。
そもそもリリルカは自分の意思でソーマ・ファミリアに入ったわけではなく、ほとほと嫌気が差していた。
戦いが好きというわけでもなく、黒竜を倒して英雄になろうなどとは欠片も思っていない。
しかしながら、彼女とてまだ10歳だ。
多数の実績があるレヴェリア様に一から指導してもらえれば、もしかしたら――?
そう考えてしまった。
もしもレヴェリア達と出会うことなく、あと5年も今の暮らしを続けていたならば自分には才能がないから無理だ、と諦めてこんなことは考えもしなかったかもしれない。
何よりもリリルカの考えを後押ししたのはクロエの存在だ。
これまでの会話で、彼女が黒竜討伐やダンジョン攻略のガチ勢ではなく、また戦闘が好きというわけでもないことは明らかだ。
そんな彼女でもレヴェリアの弟子であるというのだから、駄目元で交渉してみよう、とリリルカは勇気をもって尋ねることにした。
「あの、レヴェリア様」
「ん? どうかしたか?」
「不躾なことをお聞きしますが……程々にやりたい場合でも弟子入りってできますか?」
問いかけつつ、リリルカが視線を向けたのはクロエである。
視線が向けられて、意味を察した彼女はにこりと笑って親指を立てる。
頑張れというエールだ。
そのやり取りにレヴェリアが気づかないわけがなく、その上で彼女は躊躇なく答えた。
「構わないぞ」
まさかの即答に、リリルカが困惑した。
「じゃあ、私がリリの面倒を見るから。リリ、何でも聞いて」
姉貴分としての使命感に燃えるアイズは、無駄に洗練された無駄に素早い動きでリリルカの手を握った。
リリルカはツッコミが追いつかない。
「得物は長剣とかオススメですよ!」
「あなたも剣士になりなさい」
リリルカの左右からヘイズ、ヘルンがそれぞれ鞘に入った己の得物を掲げて示してみせる。
「待ちな。リリが困惑しているだろう……大剣とか良いんじゃないか?」
アイシャがずずいと後ろから迫り、リリルカは逃げ場を求め、エルフ3人組に視線を向けた。
「長剣一択です」
「私達も指導しやすいからな」
「剣士は良いぞ」
駄目だったので、クロエとルノアに視線を向けると――
「短剣とか良いんじゃニャイ? ミャーが教えてやらないこともないニャ」
「女ならやっぱり拳でしょ!」
駄目だった。
諦めかけたリリルカを救ったのは、アスフィであった。
「リリの意思を尊重しないと駄目でしょう」
「アスフィ様……!」
思えばアスフィが声をかけてくれたことで、リリルカが覚悟を決めてレヴェリア達とダンジョンに潜ることになった。
今回と合わせて二度も救ってくれたのだ。
「リリ」
さり気なくレヴェリアも愛称で呼んできたが、もはやリリルカは気にも留めない。
「槍とか良いんじゃないか?」
種族柄どうしても不利になるリーチを補う為、フィン・ディムナという事例がある槍をレヴェリアは勧めてみた。
だが、その提案を聞いたリリルカは妙な気分になった。
槍など生まれてこの方、握ったこともないのに――何故だか、自分に合うような気がしてならなかったのだ。
「槍にします」
その不思議な感覚に導かれるように、リリルカは短く答えるのだった。
レヴェリア「変身魔法……? 閃いた!」