転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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もう何も怖くない

「あの、リリは程々でいいんですけど……」

 

 おずおずとリリルカは言ったが、アイズは目をきらきらと輝かせている。

 剣なら私が教えられたのに、とリリルカが得物を槍としたことで若干むくれたものの、そこはレヴェリアがすかさずフォローした。

 

 妹の意思を尊重し、やりたいことをさせてやるのも姉としての務め云々と言いくるめたのである。

 

 そこへアスフィ達による援護射撃が加わり、剣士との戦い方を教えてあげるという方向でアイズは張り切りだした。

 クロエのような立ち位置を目指すリリルカにとって、これは頂けない。

 だが、アイズの好意を無下にすることもできない。

 

 ま、まあ、教えてもらって損はないですし――

 

 ポジティブに考えるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、今回の主目的である金策の合間にレヴェリアをはじめとした面々から、リリルカは冒険者としての基礎を教わることとなった。

 なお、レヴェリアがリリルカを背負ってフレイヤ・ファミリアのホームまで戻り、作ったまま死蔵してあった手頃な槍をプレゼントするという一幕もあった。

 どう見ても初心者が持つようなものではない、ミスリル製の槍を渡されたリリルカは白目を剥いた。

 世間一般の常識・価値基準を持っているからこその反応だ。

 またこの時、教師役の槍使いの確保にも成功していた。

 とはいえ、リリルカがやる気にならないことには始まらない為、レヴェリアは彼女のやる気を引き出す声掛けを怠らなかった。

 

 手切れ金を持っていったとしても、あれこれ難癖をつけて金だけ巻き上げられるんじゃないか?

 

 ザニス達ならば間違いなくそうする――そんな嫌な信頼があるからこそ、レヴェリアの言葉を否定できなかった。

 そして、彼女は更に問いかけた。

 

 そんな連中を叩きのめしたくないか?

 

 リリルカの答えは決まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

「レヴェリア、彼女は筋が良い」

「確かに良い」

「中々やる」

「教え甲斐がある」

 

 ガリバー兄弟はアイズ相手に必死の形相で槍を振るうリリルカを、そのように評価した。

 現在、彼女は初歩的な槍の扱い方や戦闘の立ち回りなど、教わったことの復習と実践を兼ねてアイズとの稽古の真っ最中だ。

 

 リリルカへ槍をプレゼントすべく、彼女を背負ったレヴェリアがホームに戻った際、タイミング良くホームにいたのが兄弟全員がレベル7であるガリバー兄弟だ。

 その長兄アルフリッグは槍を得物としており、フレイヤ・ファミリア内ではレベル8のアレン・フローメルに次ぐ、槍使いであった。

 レヴェリアが事情を話してアルフリッグにお願いしたところ、彼だけでなく弟達も含めて快諾したという経緯である。 

 

 なお、魔石やドロップアイテムを集めるサポーターとしての仕事はクロエが受け持った為、特に問題は起きていない。

 今この瞬間にも、レベル5及びレベル4の面々はアスフィによって連れられてきたモンスターを倒し続けていた。

 彼女達のバックアップにはヘルンとヘイズが配置されており、万全の態勢だ。

 

「いずれは合宿に参加を?」

「本人の希望次第だ。その気がないならば無理強いはしたくない」

 

 アルフリッグの問いかけに、レヴェリアはそう答えた。

 クロエのような立ち位置がいい、というリリルカの思いを彼女はしっかり汲んでいた。

 

 

 

 

「強くなるには血と汗を流して、痛みに苦しみながら身体で覚えていく……それが一番の近道だよ」

 

 荒い息をしながら倒れ伏しているリリルカに、アイズは告げた。

 姉として大変心苦しいがこれもリリが強くなる為だ、と彼女は心を鬼にしていた。

 その手に持つのは自身の得物――その鞘だ。

 これならめちゃくちゃ痛いだけで、うっかり斬ってしまうことはない。

 

「でも大変なのは間違いないから、悔しさとか怒りとかそういうのを糧にするといい」

「そういうのでしたら……リリは皆様に負けないくらいに経験がありますよ」

 

 そう言いつつ痛みをこらえて、リリルカは槍を杖のようにして立ち上がる。

 彼女が思い出すのは、これまで散々な目に遭わせられてきたザニス達や、ろくでもない冒険者達の姿だ。

 あの時に感じた怒りや悔しさは強烈で、一生忘れることはないだろう。

 

 舐められたら、ぶっ飛ばす――

 

 その言葉はレヴェリアが弟子となったリリルカに最初に教えた事だ。

 憤怒を心に湧き上がらせ、彼女は槍を構えた。 

 そんな彼女に対して、にこりと笑ったアイズは容赦なく鞘でぶっ叩いた。 

 

 このような生活が1ヶ月程続いたが、リリルカが諦めることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへぁ!?」

 

 思わずリリルカは変な声が出た。

 彼女の前には、金貨の詰まった大袋が置かれていた。

 

 ここはデメテル・ファミリア直営レストランだ。

 レヴェリアがフレイヤ経由でシルに頼み、開店前に報酬受け渡しの場所として、一角を利用させてもらっていた。

 

 ダンジョン篭りの終わり際、受け渡し場所などを提案したのはレヴェリアであり、それをリリルカは受けた。

 レヴェリア達にリリルカがサポーターとしてついていったのは、多くの冒険者に見られている。

 ソーマ・ファミリアに伝わっていない筈がなく、リリルカが1人になったところで報酬を狙ってくる可能性が極めて高かった。

 

 そうなるとリリルカの姉を自称するアイズ・ヴァレンシュタインをはじめ、レヴェリア達がソーマ・ファミリアへご挨拶に伺うことになる。

 レヴェリアとしては神酒はロキが愛飲していることから手荒なことはしたくないが、弟子に対してそのような()()()()をされたのならば、相応の対応をする必要があった。

 

「色を付けておいたからな」

 

 そう告げたレヴェリアは、金額を記した書類をリリルカへ渡した。

 そこに書かれた金額に、彼女は目を疑う。

 報酬は退団資金を賄える額であった。

 

 今回、1ヶ月程ダンジョンに篭ったがサポーターとして働いたのは最初だけで、ほぼずっと彼女はみっちりと鍛えられていた。

 レヴェリア達だけでなく、ガリバー兄弟もほぼずっと付き合っており、サポーターとしての仕事はクロエがやっていた。

 派閥へ退団資金を持っていった時、ステイタス更新すらできない状態で、ザニス達――それだけで済めばいいが、最悪全団員――と交戦する可能性が高い。

 故に、ステイタスには現れない『技と駆け引き』を重点して鍛え上げてきた。

 そこらのレベル1は勿論、ステイタスに頼り切っているレベル2であろうとも遠慮なくぶちのめせるように。

 

 ダンジョン篭りの途中、派閥単独での遠征に向かっていたゼウスやヘラ、ロキ・ファミリアのパーティであったり、60階層以降での鍛錬の為にやってきたミアやオッタルといった自派閥の面々が近くを通りかかったので、彼等彼女等にもレヴェリアがリリルカの稽古相手を頼んだ。

 【英傑】と【女帝】と【勇者(ブレイバー)】と【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】の4人でリリルカを稽古(ズタボロに)したので、もはや彼女に色々な意味で怖いものはなかった。

 うちに欲しいな、とフィンがレヴェリアに言ってきたが、彼女はにこりと笑って却下したのは言うまでもない。

 

「リリよりもクロエ様に……」

「今回は末っ子に譲ってやる、とクロエが言っていたぞ」

 

 レヴェリアからの言葉に、リリルカは感動してしまう。

 だが、まだ終わりではなかった。

 

「そして、こちらは魔法を教えてくれた礼だ」

 

 レヴェリアが金額を記載してリリルカへ証文を差し出した。

 それを受け取って、震える手で金額を確認すると――彼女はひっくり返りそうになった。

 死ぬまで遊んで暮らせそうな、とてつもない額だった。

 

「サポーターとしての報酬よりも多いんですけど!?」

「お前が教えてくれた事は、私にとってそれだけの価値があったのだ」

 

 そう告げて、レヴェリアは流れるように詠唱をして――変身してみせた。

 金髪碧眼のエルフ少女が、リリルカの目の前にいた。

 

「そう、私自身が後輩エルフになることだ」

「訳が分からないですよ!? 本当にあなたって自由奔放ですね!」

 

 リリルカによる渾身のツッコミが炸裂した。

 この1ヶ月で、彼女はレヴェリアが自由奔放であることをよく分からされることになった。

 例えば休憩中に寝て起きたら、リリルカ(レヴェリア)が目の前で寝ていた――などという悪戯をよくやられた。

 九尾になる、と休憩時に宣言して本当に九本の尾を持つ狐人に変化し、リリルカを含めてアスフィ達をもふもふさせたりするなど、真面目な時とそうでない時の落差に風邪を引きそうだった。

 しかし、今までこのように他人との交流はしたことがなかった為、リリルカにとっては何だかんだで楽しい時間でもあった。

 

「それはそうとレヴェリア様、この証文ですけど……受け取りに行くので、フレイヤ・ファミリアで保管しておいてください」

 

 彼女の要望に頷いた後、レヴェリアは変身を解いて尋ねる。

 

「この後、ソーマ・ファミリアへ行くのか?」

 

 頷いたリリルカに対して、レヴェリアは微笑みを浮かべて告げる。

 

「今までの鬱憤を晴らしてこい」

 

 その言葉に、リリルカは大きく頷いてみせた。

 彼女が背負うのは大きなバックパックではなく1本の槍だ。

 

「行ってきます」

 

 レヴェリアに挨拶をしてリリルカは報酬が詰まった大袋を片手で持ち、店を出ていった。

 そこに悲壮感は欠片もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザニスは下卑た笑みを浮かべ、その時を待っていた。

 1ヶ月程前、リリルカ・アーデが【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】達とダンジョンへ向かったことは彼の耳にも当然入っていた。

 どうやって彼女達に売り込んだのかは分からないが、重要であるのはリリルカがこれまで以上の額を稼ぐ可能性が高いことだ。

 

 錚々たる面々でダンジョンに赴いたのならば、どういう分け方になるとしても、100万や200万などという端金ではなく、1000万単位で稼いでくるに違いないとザニスは期待していた。

 【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】がそこらの冒険者のように、報酬の支払いを渋るとは到底思えなかった為だ。

 数日経ってもダンジョンから戻ってこないからこそ、噂に聞くダンジョン篭りを行っていることが確定した為、彼の期待は際限なく高まっていく。

 

 そして、昨日。

 リリルカと【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】達が地上に戻ってきたことを、カヌゥから聞いた。

 退団の為、自分から稼いだカネを持ってくるのをザニスは待つよう指示した。

 ソーマ・ファミリアの敷地内ならば、派閥内の事情に余所が首を突っ込むなと突っぱねることができるからだ。

 【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】達とダンジョンに篭っていたとはいえ、リリルカ自身が強くなったわけでもない。

 例え拒んできても、今までのように痛い目に遭ってもらえば怯えて差し出してくるに違いなかった。

 もしも万が一、【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】が出てきたとしても、我々のかけがえのない同胞であるリリルカ・アーデを誑かした、と主張して利益を取りに行く。

 【黄金の戦乙女(ヴィンゴルヴ)】の色ボケは誰もが知っているからこそ、チャンスは十分にあった。

 

「さぁ、早く来るんだ。アーデ……」

 

 

 

 

 

 リリルカを見送ったレヴェリアが店を出ると、そこにはフレイヤが待っていた。

 

 ソーマの相手は私に任せて――

 

 自信満々で笑みを浮かべて彼女が言ってきた為、レヴェリアは任せることにした。

 2人の目的地はソーマ・ファミリアのホームではなく酒蔵だ。

 主神も団長も団員も神酒がある酒蔵を根城にしている、とリリルカが教えてくれていた。

 

 しかし、リリルカのことが心配であるのは彼女達だけではなかった。

 さらにアスフィ達、ガリバー兄弟も加わって一行は酒蔵へ向かう。 

 だが、手を出すのはリリルカがどうしようもなく追い詰められ、物理的に抵抗できなくなったその時であった。

 




ザニス「我々のかけがえのない同胞を誑かした……という感じでやれば、レヴェリアといえど手を出せまい。ヤツの色ボケは有名だ! 勝ったな!」
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