転生したので、欲望の為に突っ走る   作:やがみ0821

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ちょっとした日常

 

 にこにこ笑顔でフレイヤはリリルカへ魔導書を差し出した。

 何やら小難しいタイトル、端っこには著者としてレヴェリアのサインが入っている。 

 何やら、とんでもない値段がつきそうな代物であった。

 

「はい、これ」

「はい、これ……じゃないんですけど!? そこらの本を渡すような感覚で、すっごく高そうなモノを出してくるのはやめてくれませんか!?」

 

 リリルカはツッコミを入れた。

 だが、フレイヤが動じるわけもない。

 

「いいじゃない。レヴェリアが持ってきたものだし」

 

 リリルカは天を仰いだ。

 

 改宗時、ステイタス更新も行ったところ、熟練度が全体的に大きく伸びており、さらにはランクアップができるようになっていた。

 レヴェリア達とのダンジョン篭り、ソーマ・ファミリアを1人で壊滅させたことで、上質な経験値がたっぷりと溜まっていたのだ。

 ちなみに、もっともエグい伸び方をした熟練度は【耐久】だったが、四派閥(ゼウス・ヘラ・ロキ・フレイヤ)ではよくあることだ。

 

 リリルカはまさか自分がランクアップできるなんて、と狂喜乱舞したものの、熟練度は上げられるだけ上げたほうがいいというフレイヤからの助言に従って、ランクアップは保留していた。 

 そこから最初の1ヶ月は色々と驚きの連続であった。

 一番驚いたのはフレイヤがやらかしてレヴェリアが簀巻きにして吊るすことだ。

 その噂はリリルカもよく聞いたが、まさか本当だとは思いもしなかった。

 最近になって、ようやくフレイヤとレヴェリアのやり取りにも慣れたところで――レヴェリア謹製の魔導書(とんでもねぇもの)をフレイヤが出してきたというわけである。

 

「リリの一つしかない魔法スロットはもう埋まっていますからね?」

「大丈夫よ。だってこれ、魔法スロットを増やせるし」

「でも低確率ですよね?」

「レヴェリアが作成した魔導書よ。低確率だと思うの?」

 

 リリルカは再び天を仰いだ。

 高確率で魔法スロットを増やせる高品質の魔導書。

 それだけでなくレヴェリア謹製ともなれば、ブランド的な価値までつく。

 

 もしかしたら、10億を超えるかも――?

 

 そう予想して、リリルカが恐れ慄いたところでフレイヤが告げる。 

 

「どうせまたレヴェリアが作って持ってくるから、使っちゃって」

 

 野菜を作りすぎたからお裾分けするような感覚の彼女に、リリルカは深く溜息を吐いた。

 

 

 

 

 

「ていうことがあったんですよ」

「良かったじゃない」

 

 先日、フレイヤからレヴェリア謹製の魔導書を貰った件を話したリリルカ。

 彼女に対して、答えたのはレミリア。

 長い金髪をウェーブ状にしている小柄なヒューマンである彼女は、リリルカが親しくなった団員の1人だ。

 一見冷めているような印象を受けるが、気さくでアスフィ達とも仲が良い。

 

「いやね、ありがたいんですけど……他の派閥もこうなんですか?」

「大丈夫よ。ゼウスもヘラもロキも、魔導書を気軽に渡すようなことはしていないから」

「うちだけですか?」

「そうよ。私もレヴェリア様がお作りになられた魔導書をフレイヤ様から頂いたもの。ちゃんとスロットも増えて、魔法も発現したんでしょ?」

 

 レミリアの問いに、リリルカは頷いた。

 大暴れした影響か改宗時のステイタス更新では自己強化系スキルが発現し、今回の魔導書では身体強化魔法が発現している。

 

 ちゃんと学べば、リリも冒険者としてやっていける――

 

 その事はリリルカにとって大きな自信となっていた。

 

「もうすぐ合宿だけど、どうするの?」

「参加します。熟練度を上げてしまいたいので」

「クロエみたいな立ち位置は諦めたの?」

「諦めてないですけど……楽しくなってしまって」

 

 できる事が増えていくことで自信に繋がっていく――それはレミリアもよく理解できる。

 リリルカの境遇に関して、彼女が加入する前からアスフィ達より聞いていた。

 フレイヤ・ファミリアに入団したことで、リリルカが活き活きと日々を過ごしているのは素直に喜ばしかった。

 

「レヴェリア様に戦闘衣(バトルクロス)まで作っていただきましたし……」

とある筋(アスフィ)からの情報によると、神ゼウスがレヴェリア様にアイディアを渡したらしいわよ」

 

 リリルカの戦闘衣(バトルクロス)は青と白を基調としたもので、胸当てや小手などで構成されている。

 見る者には高貴や高潔、清廉といった印象を与える色合いと作りだ。

 

 

 レヴェリアちゃん、こういう感じの姫騎士衣装ってどうじゃろ? リリルカちゃんに似合うと思うんじゃが?

 これは良いものだ……採用!

 

 

 自作の絵を見せながら説明するゼウスと即採用するレヴェリア――そんな光景がリリルカの脳内に描かれてしまった。

 ゼウスとレヴェリア、両者のスケベ心が一致したことで実現した戦闘衣(バトルクロス)である気がしてならない。

 

 実際、本当に似合っているから困りものだ。

 なお、アイズは自分の戦闘衣(バトルクロス)と同色・同タイプをオススメしていたので、むくれそうになったがお姉ちゃんなので耐えられた。

 

「知りたくなかった、そんな情報……っていうか、なんで今になって?」

情報を仕入れた(アスフィから聞いた)のがついさっきだからよ」

「別に言わなくても良かったんじゃ……」

「リリの反応が見たかったから。予想通りの反応で満足よ」

 

 意外と茶目っ気があるレミリアに、リリルカは肩を竦めてみせる。 

 

「ところで、レミリア様はレヴェリア様の弟子にはならないのですか?」

「御本人やアスフィ達からよく誘われるけど、人類をやめるような生活はちょっと……」

 

 そう言われると、リリルカは何も言えない。

 知識もつくし、強くなれる。

 それは間違いないが、その分やっていることはとてもハードであるのは感じていた。

 恐ろしいことは、レヴェリアの治癒魔法によって肉体的にも精神的にもケアできる為、延々とこなせてしまうところだ。 

 最近ではダンジョン篭もりをやっていた方がダンジョンとホームの往復時間がない分、効率的で楽だと思い始めている為、リリルカは毒されつつあった。

 

「リリ、あなたの姉がきたわ」

 

 レミリアの言葉に、リリルカが視線を向ければアイズがこちらに向かってきていた。

 今日は休日に指定されている為、ダンジョンではない。

 アイズも戦闘衣(バトルクロス)姿ではなく、ラフな格好だった。

 

「リリ、ちょっと付き合ってほしい」

「どこに?」

「ジャガ丸くんの新商品が出たんだけど、お一人様1個限りだから……お昼、奢るからお願い」

 

 両手を合わせて拝んでくるアイズに、リリルカは肩を竦めてみせる。

 

「デザートもつけてくれると助かるんですけど……?」

 

 リリルカの要望に対して、アイズは不敵な笑みを浮かべて無言で親指を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーーー! もう! 本当に! あなたってヒトは!」

 

 叫びながらフレイヤは部屋の中を行ったり来たり、ドッタンバッタン跳ねるなどしていた。

 怒っているように見えるが、実はそうではない。

 

「もう少し落ち着いたらどう?」

 

 そう声を掛けるのは、ソファに座っているフレイヤだ。

 彼女は暴れ回っているフレイヤとは対照的で、崇高な女神らしい雰囲気があった。

 今、この部屋にはフレイヤが2人いるというありえない事態が起きていたが、何のことはない。

 レヴェリアが変身魔法を使ってフレイヤに化けているだけである。

 

 昼食を終えた昼下がり。 

 何か面白いことをして、というフレイヤからの無茶振りに、レヴェリアが応えた結果がこれであった。

 先のダンジョン篭もりから帰ってきてすぐに、フレイヤはレヴェリアが変身魔法を扱えるようになったことを把握していた。

 レヴェリア自身が伝えたのではなく、ヘルンがホームに帰ってきてまっすぐにフレイヤのところへ行って伝えたからだ。

 

 大変けしからん――とフレイヤは即座にレヴェリアを呼び出し、色んなことをやらせた。

 幼女や少女であった時分に変身したレヴェリアを見て大暴走(自らの衣類を脱ぎ捨てながら飛びつく)するなど、ドッタンバッタン大騒ぎ。

 だが、2人が何かしらで大騒ぎしているのはいつものことなので誰も気にしなかった。

 

 そして、功労者のヘルンに対してフレイヤはご褒美を与えた。 

 ヘルンと同年代だった頃に変身したレヴェリアとのデートである。

 謎のダークエルフ美少女とヘルンが一緒に街中を歩いていることを目撃した神々により、一時噂になった。

 2人の間に挟まりたいと思ったゼウスが向かったが、ヘルンが無言で包丁をどこからともなく取り出した為、Uターンして逃げ帰ったところを一部始終を見ていたヘラに捕まった。

 

 そんなこともあったが、フレイヤに変身したことはこれまでなかったことだ。

 神威や【魅了】といったところまでは再現できないが、フレイヤ本神から見てもそっくりすぎてビックリである。

 だが、忠実に再現したが故に、たった一つだけレヴェリアはミスを犯していたことにフレイヤは気付いたが、口にしなかった。

 

 

「良いことを思いついたわ。一緒にホーム内を練り歩いて、皆が本物かどうか見分けられるか試してみましょう!」

「見分けられるわけがないだろう。私が考える、理想の女神を演じてやるからな」

「私の眷族達が騙されるわけがないわ。あ、()()()()()からね」

 

 腕を組んでドヤ顔で告げるフレイヤに、レヴェリアは肩を竦めてみせた。

 そんなわけで、早速実験開始となったのだが――

 

 

 

 

 

 

「何故だ!? 何故、一瞬で分かる!?」

「ぷーくすくす。ねぇねぇ今どんな気持ち? 皆に見破られて、今どんな気持ち?」

「このたわけがぁ……!」

 

 悔しさに顔を歪めるフレイヤ(レヴェリア)の周囲を、くるくる回ってフレイヤ(本物)が煽る。

 出会う団員、誰もが見破ってきた。

 ミアやディース姉妹といった古参から新人まで例外はない。 

 ガワと振る舞いなどを真似ただけでは、やはりダメかとレヴェリアは己の無力に打ちひしがれる。

 

 そんなところに通りかかったのはヘルンとヘイズだ。

 この2人ならすぐに見破ってくるだろうから意味がない、とレヴェリアは思ったが、フレイヤが声を掛けた。

 事情を説明すると、ヘルンが告げた。

 

「こちらがフレイヤ様で、こちらがレヴェリア様ね」

 

 ヘルンが真っ先に告げた。

 

「私も同じ意見ですねー」

 

 2人共正解だった為、レヴェリアは崩れ落ちて床に両手をついた。

 

「ねぇねぇ、2人共。どうして見破られるのか、レヴェリアは理由が分かんないみたいなの。教えてあげて」

 

 フレイヤの言葉を聞いて、まずヘイズが口を開いた。

 

「ええと、レヴェリア様……大変申し上げ難いのですが……匂いです」

「……臭いのか?」

 

 ヘイズの言葉を受けて、フレイヤ(レヴェリア)は問いかけつつ、自分の腕などの匂いを嗅ぎ始めた。

 どうやら本当に気づいていないことに、フレイヤはニヤニヤと笑い、ヘルンとヘイズは苦笑してしまう。

 

「レヴェリア様、神は老廃物を出しません。ですから、匂いがあること自体がおかしいのです」

 

 ヘルンの核心を突く言葉に、レヴェリアは全てを悟った。

 昔から、レヴェリアの要望によりフレイヤは彼女の傍にいるときは老廃物――汗などを出すようにしていた。

 神は老廃物を出さない。

 だが、下界の子供達と密着した生活を送る為、体質変更という形で神の力(アルカナム)を使うことなく、老廃物を出すように切り替えることができるよう、天界で取り決めたルールだ。

 

 レヴェリアにとってフレイヤの匂いはあって当たり前のものであり、長年嗅ぎ慣れた匂いを再現するのは当然であった。

 だが、今回フレイヤは老廃物を出さないよう、切り替えていた。

 神は切り替えた瞬間から無臭となる便利な身体であり、その事をレヴェリアには伝えなかった。

 

 フレイヤとしては引っかかってくれたらいいな程度の仕掛けだったが、見事にハマった形で大満足だ。

 

「フレイヤ、お前……最初から分かっていたんだな?」

「当たり前よ。まったくもう、レヴェリアったら……うっかりさんね」

 

 ジト目で問いかけるフレイヤ(レヴェリア)に、フレイヤは満面の笑みを浮かべてその頬を突くのだった。

 




リリルカの戦闘衣はゼウスが書いたイラスト(フィアナが着ていたもの)をレヴェリアが忠実再現。仮面はなし。
なおゼウスはレヴェリアに姫騎士衣装としか言っておらず、フィアナ云々は伝えていない。
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