サクラバクシンオーはサクラローレル、サクラチヨノオーらと話している。満面の笑みを見せているバクシンオーの様子に、ローレルとチヨノオーも笑みを浮かべていた。
「……と、言うわけでしてッ!私は日々成長しておりますッ!これは中距離でも結果を残す日が近いですねッ!」
「そうなんだ~、バクちゃんいつも頑張ってるもんね!」
「はい!日々の鍛錬が実を結びましたね、バクシンオーさん!まさに『芝の成長は一日にしてならず』、です!」
「ありがとうございますお2人とも!委員長のレース、とくとご覧あれッ!」
話題はサクラバクシンオーのレースに関すること。現在彼女は3戦3勝で連勝しており、勢いに乗っているウマ娘の1人として挙げられている。
「でも、同世代のブルボンちゃんは強敵だね。向こうも連勝中だから」
「それに、ブルボンさんはジュニア級チャンピオンを決める朝日杯の勝者ですから。一筋縄じゃいきませんね」
「心配ありませんともッ!私は速いので、誰が相手であっても負けることはありませんッ!バクシンバクシーン!」
バクシンオーの自信に溢れた発言に2人は微笑ましい視線を向ける。ただ、サクラローレルは何かを思いついたのか、バクシンオーに疑問をぶつけた。
「でもバクちゃん。バクちゃんってまだ短距離しか走ってないよね?」
「ちょわっ?そうですね……メイクデビューは1200でしたし、小倉ジュニアステークスは1200、京王杯は1400の短距離でしたッ!」
「全部圧勝でしたもんね、バクシンオーさん」
サクラバクシンオーはこれまでのレース全てを圧勝している。メイクデビューは大差勝ち、小倉ジュニアステークスは6バ身差、京王杯ジュニアステークスは7バ身差である。短距離にも関わらずこれだけの差をつけるのは凄いことだった。
ただ、サクラローレルは
「それだけ気持ちのいい勝ちっぷりだと、短距離一本に絞る……なんてことにならないかな?」
「あ~……確かに、あり得なくもないですよね。それくらい凄かったですし」
これだけの圧倒っぷりだと、サクラバクシンオーのトレーナーの気が変わって短距離に絞りかねないんじゃないか?という懸念である。やはりトレーナーとしてもウマ娘を勝たせたいという思いがある。これだけの結果を残している現状、短距離だけに絞ってもなんらおかしくない。ローレルはその心配をしていた。
しかし、サクラローレルの心配をバクシンオーは笑って吹き飛ばす。
「ハーッハッハッハ!心配ありませんよローレルさんッ!」
「そうなの?」
「えぇ!なんせトレーナーさんはちゃんと約束してくれましたからねッ!いずれこの舞台で私を走らせると、菊花賞も観に行きましたッ!これは私を長距離でバクシンさせるということに他なりませんッ!心配の必要はありませんよッ!ハーッハッハッハ!」
バクシンオーは高らかに笑うが……バクシンオーのトレーナー、高村聖についてよく知らないローレルとチヨノオーは不安が拭えない。
(バクちゃんの笑顔が曇らなきゃいいけど……)
(やっぱり心配ですよね……)
色々と噂が飛び交っている高村トレーナー。今では期待の若手として名前が挙がっているが、最近になってよく発光している姿が見られている。なんというか、トレーナーの腕は確かだが前の噂も相まって色々と怪しい人物の域を出ない。それがローレルとチヨノオーの認識だった。
「それに大丈夫ですよお2人ともッ!私の次走も決まりましたからッ!」
「「おぉっ!」」
「それは嬉しいねバクちゃん!どのレースに出走するの?」
「私も気になります!」
次走が決まった、というバクシンオーの言葉に2人は身を乗り出す。バクシンオーの次のレースが気になるというのもあるが、彼女のトレーナーがバクシンオーをどの路線で走らせるかが分かりそうだったからだ。
ローレル達は予想を立てる。果たしてどのレースに決めたのかを。
(ありえる線としては、スプリングステークス。距離もマイルだし、バクちゃんがギリ走れる距離。だからスプリングステークスの線が一番濃いけど)
(マイルなら共同通信杯もあり得ますね……どのレースに出走するんだろう?)
2人はドキドキしながらバクシンオーの言葉を待つ。
「私の次走は……」
◇
「ちょわっ?私の次走ですか?」
「うん。丁度決まったからね」
サクラバクシンオーは昨日の練習終わりの会話を思い出す。トレーナーから呼び出された時は補習の件について言われるのかと思ったが、どうやら違ったようだ。
「そうですかそうですかッ!して、どのレースでしょうかッッ!?」
「うん、バクシンオーの次走は「えぇ安心してくださいッ!どのレースにおいても、この委員長が完璧な勝利を約束しましょうッ!なにせ私は速いのでッ!トレーナーさんはどっしりと構えていてくださいッ!」その辺は心配してないから別にいいよ。で、君の次走だけど」
ドキドキしながらトレーナーの言葉を待つバクシンオー。その口から次走について聞いた時、彼女は驚いた。
「ちょわぁっ!?」
「大分オーバーに驚くね。そんなに?」
「だ、だってトレーナーさんッ!よろしいのですかッ!?前走よりもな、なんと……600mも長くなるのですよッ!?中距離ですよッ!?本当にいいんですかッ!?」
バクシンオーが驚くのも無理はない。彼女の次走はそれだけ驚くべきものだったのだ。しかし、目の前のトレーナーはこともなげに伝える。
「うん。言ったでしょ?君を中距離以上で走らせるって。これはその前哨戦……というよりは、今どれくらいやれるかの確認のようなものだよ」
「……」
「今もちょっと適性的には心配だけど、まぁ勝つ分には問題ないだろうし。あぁ、ここで負けても皐月賞には出走……どうしたの?」
俯いて、身体を震わせるバクシンオー。明らかに様子がおかしいのでトレーナーは心配するように彼女を見ていた。
表情を確認しようとした、その時。
「~~~ッッ!!!分かりましたッッッ、トレーナーさんッッッ!!!」
「うおっと」
ガバっと顔を上げて、自信に満ち溢れた表情でトレーナーへと詰め寄った。さすがの圧にトレーナーも驚く。しかし、サクラバクシンオーは止まらない。
「ついに、ついにッッ!時が来たのですねッ!そうですねッッ!?」
「そうだ「えぇ、えぇッ!トレーナーさんの期待に見事応えてみせましょうともッ!学級委員長は初の中距離でも圧勝すると、ファンのみなさんに教えてあげましょうッ!」うん、がんば「こうしてはいられませんッ!バクシンバクシィィィィンッッ!」今日はもうトレーニング終わりだから、自主トレも程々にね」
次走を聞いてテンションが上がるサクラバクシンオー。その様子をトレーナーは静かに見守るのだった。なお、バクシンオーの自主トレが終わるまでトレーナーはしっかりと見張っていた。
◇
「私の次走は……弥生賞ですッッ!!」
「「えぇっ!?」」
バクシンオーの口から出てきた言葉に、驚きを隠せない2人。バクシンオーは満足そうに頷いていた。
「トレーナーさんも確信したのでしょうッ!この学級委員長が、中距離を走っても大丈夫だとッ!中距離でも見事にバクシンして、学級委員長として恥じないレースをしてくれるとッ!故にッッ!トレーナーさんは私の次走を弥生賞に決めたわけなのですッ!」
高らかにそう告げるサクラバクシンオー。ローレルとチヨノオーの2人はいまだに呆けている。
少し呆けた後、先に意識が戻ったサクラローレルが食い気味にバクシンオーへと詰め寄る。
「そ、その話!本当なのバクちゃん!?本当にバクちゃんの次走は弥生賞なの!?」
もしかしたら自分の聞き間違いかも知れない。そんな可能性を考慮してもう一度聞く。結果は変わらなかった。
「えぇッ!トレーナーさん本人の口から聞きましたのでッ!念のため今日の朝のトレーニングでも聞きましたが結果は変わりませんでしたッ!私の次走は弥生賞ですッ!」
サクラバクシンオーの次走は弥生賞であると。そう確信することができた。その事実に2人は──歓喜に震える。
「凄い凄い!やったねバクちゃん!」
「おめでとうございますバクシンオーさん!」
「委員長のバクシンはとどまることを知りませんッ!中距離にもサクラバクシンオーありと、ファンのみなさんに教えてあげましょうッ!」
サクラバクシンオーが中距離を走るということに拍手を送るローレル達。バクシンオーは高笑いをしており、他のウマ娘からも注目を浴びていた。本人は気にしていないが。
「それにしても、どうして弥生賞なんだろうね?バクちゃんの適性を考えると、スプリングステークスの方が合ってると思うんだけど」
そんな中、ふとした拍子にそう呟くサクラローレル。ただ、自らが失言したと思ったのか慌てて訂正した。
「あ、ご、ゴメン、バクちゃん!バクちゃんの努力を疑ってるわけじゃないよ!?でも、どうして弥生賞なんだろう、って思って……」
「確かに、不思議ですよね。マイルのスプリングステークスじゃなくて、中距離の弥生賞を選んだ理由。どんな考えなんでしょう?」
サクラローレルの言葉にチヨノオーも同調する。2人は何故弥生賞を選んだのか不思議に思っているようだった。
「それは簡単ですよお2人ともッ!トレーナーさんは私が中距離でも勝てると信じているからですッ!」
「そうかもしれないけど……う~ん、気になるなぁ」
少しの間考えるサクラローレルだったが。
「……うん!とにかくおめでとうバクちゃん!これからも頑張らないとだね!」
今はそれよりも、サクラバクシンオーのことを祝福しよう。そう思った。
「勿論ですともッ!お2人も是非見に来てください、委員長の勇姿をッ!」
「うん!ヴィクトリー俱楽部の仲間として、絶対に応援に行くね!」
「私も!絶対に観に行きます!」
弥生賞を観に行くことを誓うサクラローレルとサクラチヨノオー。楽しみであると同時に、2人の中でバクシンオーのトレーナーに対する認識が変わっていた。
バクシンオーが気合を入れている横で、声を潜めて会話をするローレル達。
「バクちゃんのトレーナーさん、悪い人じゃなさそうだね」
「そうですね。最初は変な噂ばかりでちょっと怖かったですけど……」
チラリとバクシンオーを見るチヨノオー。相変らず嬉しそうに笑っていた。その様子を見て、チヨノオーもつられて笑う。
「バクシンオーさんがあんなに嬉しそうなんだもん。きっと良い人に違いないよ!」
「うんうん!今度会ってみたいね!」
いつかバクシンオーのトレーナーに会ってみたい。そう考える2人だった。
◇
さて、弥生賞を目標にしたわけだけど。
(今回の目的は単純明快。
皐月賞を想定するなら、別に共同通信杯やスプリングステークスみたいなマイル戦でも構わなかった。けど、バクシンオーの皐月賞を考えるなら……弥生賞が一番だった。その理由が、バクシンオーの適性。
(皐月賞で中距離ぶっつけ本番、なんて事態は避けたい。マイルの適性はAだし、今のステータスを考えるとよっぽどのことがない限りは負けない)
段階を踏んでいくのもいいかもしれないけど、自分はこうして適性が見えている。事故さえなければほぼ確実に勝てるマイル戦よりも、適性がCでどれだけ走れるかもわからない中距離戦。後者を取ることにした。
「それでも、ステを考えれば勝てそうな雰囲気はあるけど……不安要素は潰しておかないと」
後は、本番のレースで適性を上げることができるか?の検証も気になる。ぶっちゃけ1回で上がるなんて微塵も思っちゃいないけど、皐月賞と合わせたらそれなりの経験を積めるはずだ。その内女神像にお祈りでもしに行こうか?なんて考えも浮かんだ。気休めにしかならなそうだけど。
「……ま、弥生賞に向けて頑張ろう」
担当ウマ娘のトレーニングプランを考える。うん、頑張ろう。
次走は弥生賞ですたい。