最速×無敵=驀進王   作:カニ漁船

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周りからは中距離挑戦どう思われているのか?


バクシンの評価

 サクラバクシンオーが弥生賞に出走する、という話はすぐに広まった。というのも、バクシンオーが大きな声で宣言していたのでほとんどのウマ娘に聞こえたのである。

 一応、何人かのウマ娘が彼女のトレーナーである高村聖と会った際に聞いたらしいのだが。

 

「そうだよ。バクシンオーの次走は弥生賞だね」

 

 そう答えたため、話は真実であることを確信。話はさらに広がっていった。

 

「へ~、バクシンオーさんがねぇ……大丈夫なのかな?」

「あんまり惨敗する委員長って目に浮かば、いや、授業で中距離や長距離選んではしょっちゅう惨敗してたね」

「あんまり向いてなさそうだけど、どうなんだろ?委員長のトレーナーさんに何か考えがあるのかな?」

 

 そして、生徒であるウマ娘からトレーナーにも話は広まる。

 

「あの話は本気だったんだな」

「さすがに無理だろ。頑張って適性の幅を広げようとしているらしいが」

「授業でもいつも惨敗らしい。まぁ大分前の話だが」

 

 さすがに厳しいだろう、という意見と。

 

「しかし、ここで出走してきたということは自信があるということじゃないか?」

「もしかしたら、勝つ算段ができたから来るのかもしれん。警戒はした方が良いだろう」

「サクラバクシンオーは強い。中距離までならあるいは……」

 

 勝てると確信したからこそ出走してきた、という意見が半々だった。

 サクラバクシンオーが出走する弥生賞は注目を集めている。クラシック路線で有力なウマ娘が多く出走するからというわけではない。

 

「生粋のスプリンターであるサクラバクシンオーが中距離を走れるのか否か?」

 

 そのことに注目が集まっていた。これは余談だが、他の有力なウマ娘はスプリングステークスへと向かっており、世間の注目度的にはこちらの方が高かった。

 

 

 そんな中、サクラバクシンオーはというと。

 

「バクシンバクシィィィィンッッ!中距離でも変わらずバクシン、いえッ!今まで以上にバクシンしますよぉぉぉぉッッ!」

「いつも以上にバクシンしたらすぐにバテちゃうから気を付けて走ってね」

「聞こえてないだろうねぇアレは」

 

 次走である弥生賞に向けて、いつも以上に気合を入れてトレーニングをしていた。

 

 

 

 

 

 

 バクシンオーの気合の入りようは凄い。よっぽど中距離を走れるのが嬉しいのだろう。弥生賞に出走予定、と告げた時も驚いていたし。

 

「気合がいつも以上に入っているからトレーニングの効果も期待できるね、これは」

 

 ノートに走り書きしながらトレーニングを見守る。さらっと横で一緒に見ているアグネスタキオンにバクシンオーのサポートをするように指示することも忘れずに。

 

「私としては委員長君のデータに興味があるんだがねぇ」

「僕が取ったものでよければ、後であげるから。トレーニングに集中して」

「仕方ないねぇ……」

 

 渋々トレーニングに戻っていくアグネスタキオン。彼女もキタサンブラック達と同じくサポートに回った。

 それにしても、次の弥生賞はかなり注目されているようだ。

 

(それほどまでに注目されるのか。サクラバクシンオーの中距離出走が)

 

 スプリンターと評されていたサクラバクシンオーの中距離出走。しかもマイルをすっ飛ばして、だ。元々デビュー前から世界で戦えるスプリンターと評されていた彼女が、中距離に出走するんだからそりゃそうか。もっとも、理由はそれだけじゃないんだろうけど。

 

「同じ世代に、ミホノブルボンがいる。これもまた注目される要因の1つなんだろうな」

 

 自分はクラシック最有力候補としているが、それは知識があるからだ。世間的にはミホノブルボンはまだ距離不安を囁かれている。学園でも意見は半々、らしい。

 サクラバクシンオーとミホノブルボン。どちらも元はスプリンターの素質があると言われたウマ娘。しかしお互いに距離適性の壁を壊して、クラシック三冠に挑もうとしている。

 

「……一応、朝日杯の時にチラッとステータスを確認したけど。ステータス上はバクシンオーの圧勝だったな」

 

 向こうはEが多い中でDがあるくらいの状態だったが、その時点でバクシンオーのステータスは軒並みDを越えていた。根性だけはEだったが、それもすぐにDに到達するほどのレベル。スピードに関しては抜きんでている。

 問題は、距離適性だ。こっちでは元がどれくらいのものだったかは知らないけど……まぁ凄いことになってる。

 

「短距離はCだけど、マイルのBに中距離がA……長距離もBだし、菊花賞までにはAになっててもおかしくないな」

 

 本当にスプリンター?と疑わざるを得ない適性だ。もし適性を一から上げたのだとしたら、是非ともトレーニング理論について聞きたいところである。その線はないだろうけど。

 

(これまで見てきたウマ娘は、ほとんどの適性がアプリと一緒で、一緒じゃなくてもワンランクダウンくらいで済んでるから、きっとブルボンもアプリとほぼ変わらない適性だったんだろう)

 

 さて、残りのクラシック有力候補といえば……ライスシャワーとマチカネタンホイザか。マチカネタンホイザは新規に情報を集め直した。彼女もまた、クラシックでは脅威になる相手だろう。

 

(ライスシャワーは適性的に弥生賞に来てもおかしくなかったけど、スプリングステークスに向かうらしい)

 

 マイル適性アレだけど。Cだし勝ち負けには絡めるとは思う。ただマイルBのミホノブルボンに勝つのは大分厳しいだろう。

 マチカネタンホイザはもっと厳しい。あの子確かマイルDだし。ただ、ライスシャワーと一緒で距離が伸びれば伸びるほど厄介になるタイプだ。

 

(皐月賞前に敵情視察もアリ、だな)

「スプリングステークスは観に行くべきだろう。ミホノブルボン達の現時点の実力を知るためにも」

「マジそれだよね!敵情視察は超大事!ひじりん分かってんね~!」

 

 ビックリした。気づいたら自分以外にも誰かいたらしい。声のした方を振り向くと、そこに立っていたのはダイタクヘリオスのトレーナーさんだった。いかにもギャルっぽい感じで挨拶してくる。

 

「いえ~いっ!元気?ひじりん!」

「おはようございます。元気ですよ」

「だったらもっとテンションアゲアゲで行くっきゃないっしょ!ほら、パリピんないと!」

「はぁ」

 

 果たしてこれがギャルなのかは疑問が残るが、相変わらずテンションが高い女性だ。多分ダイタクヘリオスに引っ張られてるんだろうな。もしくはノリが合うから契約した感じ。

 どういう目的があって自分のところに来たのだろうか?と思ったが……

 

「ちゃんバク~!ウチと一緒にトレしようぜトレ!」

「勿論いいですよッ!ヘリオスさんも共にバクシンバクシィィィィンッッ!」

 

 いつの間にか合流していたダイタクヘリオス。一緒にトレーニングしに来たんだろうな。うん、ありがたいことだ。

 ただ、ダイタクヘリオスのトレーナーさんは申し訳なさそうな表情をしている。オンオフの切り替えが凄い。

 

「ご、ごめんね?ヘリオスが急にちゃんバクとトレしようぜぃ!って言うから……め、迷惑だったかな?」

 

 そんなことはない。むしろありがたい限りだ。頭を下げてお礼を言わなければならないのはこちらである。

 

「ありがたいです。むしろこちらが頭を下げてお願いしなければならない立場なのに、こうして一緒にトレーニングしてくださるので」

「い、いやいや!頭を下げなくても!?急に押しかけてきたのはこっちなのに!」

「こちらとしては構いません。むしろ頭を下げてお願いしたいぐらいです」

「もう下げてるじゃん!?分かったから頭を上げて~!」

 

 というわけで、急遽ダイタクヘリオス達とのトレーニングが始まった。メジロパーマーも合流、さらにはトーセンジョーダンも加わった。うん、凄い。

 

(一気に空間がギャルっぽくなったな)

 

 生憎とギャルについて詳しく知っているわけじゃないけど。

 

「夕日に向かってバクシンバクシーーーンッッ!」

「「バクシンバクシーン!」」

「ノってんねぇちゃんバク!パマちんにジョーダン!ウチらも負けてらんねーべ!?」

「そうだね太陽!私らもアゲていこう!」

「ちょ、鬼キツ!……あ~もう!やるっきゃないっしょ!」

「……この空間に放り込まれた私はどうしたらいいんだろうねぇ。しかもまだ夕日は出てないねぇ」

 

 諦めたらいいんじゃないかな、アグネスタキオン。

 

 

 

 

 

 

 サクラバクシンオーはウキウキ気分で廊下を歩く。弥生賞の出走が近づくにつれて、バクシンオーのテンションは上がり続けていた。

 

「ふっふ~ん!ついに私も中距離デビューですかッ!まずは弥生賞ッ!ここを勝って、皐月賞に向けて弾みをつけましょうッ!そのためにもさらにバクシン!日々バクシンですッッ!」

 

 中距離への出走がそれだけ嬉しいのだろう。自分がトレーナーに信頼されているということにバクシンオーは嬉しさを抑えきれなかった。

 そんなバクシンオーの前に、1人のウマ娘が立ちはだかる。彼女の名前は──ミホノブルボン

 

「やや?ブルボンさんではありませんか!奇遇ですねッ!」

「そうですね。ただ……少しよろしいでしょうか?バクシンオーさん。あなたに疑問を提起します」

「なんでしょうか?この学級委員長がなんでも答えましょうッ!」

 

 ミホノブルボンは静かに、表情を動かさずにサクラバクシンオーへと質問をする。

 

「『疑問』。弥生賞を勝つ算段はおありでしょうか?」

「ちょわっ?」

「マイルを挟まずに中距離戦……些か疑問が残るローテかと。スプリングステークスを目標にするものだと思っていましたので」

 

 ミホノブルボンも、サクラバクシンオーのローテに疑問を抱かずにはいられなかった。自分と同じで、スプリンターと評されていた彼女。普通ならば段階的に距離を伸ばしていくと思われていた。少しずつ距離を伸ばして、適性の幅を広げていくのが普通だから。それが分かっているからこそ、ミホノブルボンは自らのトレーナーと共にスプリングステークスを目標に定めた。1800mのマイル戦であるレースに。

 だがサクラバクシンオーは違う。今まで1400の距離までしか走ったことがないのに、いきなり2000mの中距離戦へと乗り込んできたのだ。疑問に思わない方がおかしいだろう。

 

(マスターは、きっと勝つ算段があるからだと仰っていました。私に話すとは思えませんが、それでも)

 

 聞かずにはいられない。サクラバクシンオーの陣営はなにを考えているのかを。

 ミホノブルボンの疑問に、サクラバクシンオーは……()()()()()()

 

「勝つ算段?勿論ありますともッ!」

「っ」

 

 あまりにも堂々と言い放つサクラバクシンオーに一瞬気圧される。だが。

 

「ま~確かに。ちょっと、ほんのちょっと距離は長くなったかもしれませんがッ!私は学級委員長ですのでッ!中距離戦であってもこなしてみせますよッ!それに私は速いのでッ!心配は無用ですともッ!弥生賞も勝ってみせますよッッ!」

「……『おかしい』を感知。600mはほんのちょっとで済ませていい範囲ではないと思います」

 

 さすがにツッコまざるを得ないミホノブルボン。これだけ自信満々だから何かあるのだろうと思っていたが。

 

(まさか速いからの一言で済まされるとは思いませんでした)

 

 本当に大丈夫なのだろうか?と思うミホノブルボン。しかしそれを表に出すことはなく、サクラバクシンオーに一礼をする。

 

「ステータス『理解』。バクシンオーさんの気持ちは分かりました。それでは、この後私はトレーニングですので、これで」

「えぇッ!皐月賞で会いましょうブルボンさんッ!負けませんよ~ッ!」

 

 バクシンバクシーン!と、サクラバクシンオーはミホノブルボンとは逆方向に去っていく。

 

(果たして、本当に大丈夫なのでしょうか?)

 

 敵ながら思わず心配してしまうミホノブルボンだった。サクラバクシンオーの自信の結果は、彼女の次走──弥生賞で分かることだろう。




流石のブルボンも困惑である。
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