そこから弥生賞までトレーニングを続けた。弥生賞に出走するウマ娘の情報も出揃ってきたし、チェックも怠らない。
「ほうほう……この子は中々のスピードですねッ!ですが私も負けませんともッ!」
「弥生賞に出走する子の中では、バクシンオーが飛び抜けているよ。ひとまず、中距離でどこまで走れるか。中距離をどう走ればいいのか?それを体感しておいで」
「分かりましたッ!中距離もバクシンしましょうッ!」
「それで大丈夫だよ」
バクシンオーにとっては未知の領域である中距離戦。果たしてどうなるのか?
「いや~、早いもので私もついに中距離デビューですかッ!気合入れていきますよ~!バクシンバクシーーーンッ!」
「君なら勝てるよ。頑張っておいで」
「勿論ですともッ!」
弥生賞はもうすぐである。
◇
皐月賞の前哨戦、弥生賞の開催日。中山レース場には今日も多くのファンが集まっていた。
「いや~気になるよなぁ。サクラバクシンオー!」
「1400mからいきなり2000mだもんな。サクラバクシンオーのトレーナーも思い切ったもんだよ」
「でも、やっぱりサクラバクシンオーが1番人気なんだな。距離不安が囁かれてるのに」
「そりゃあね。今までのレース全部圧勝だもん。バクシンオーの1番人気は揺らがないよ」
弥生賞の1番人気はサクラバクシンオー。世間では距離不安が囁かれている彼女だが、それでも1番人気に支持されていた。理由はやはり、今までのレースが圧勝だったからだろう。そしてもう一つ、サクラバクシンオーは中距離でどのようなレースをするのか?そのことにも注目が集まっていた。
この弥生賞には皐月賞に出走予定のウマ娘達も観に来ていた。
「果たしてバクシンオーさんの言葉はどういう意味だったのか……そして本当に大丈夫なのか?その疑問を解消すべく、弥生賞は観るべきだと思います」
「あぁ……それに、あのトレーナーのことも気になるしな」
ミホノブルボンとそのトレーナー。
「ほ、ほとんどの人がバクシンオーさんに注目してるね、お兄さま」
「うん。生粋のスプリンターであるサクラバクシンオーがどんなレースをするのか……気になるんだろうな」
ライスシャワー陣営。
「おぉ~、バクシンオーさん凄い人気ですな~。私もいずれはこうなりたいもんです」
「なれるよタンホイザ!そのためにも一緒に頑張ろうね!」
マチカネタンホイザも観に来ていた。
果たしてどのようなレースになるのか?そんな期待が膨らむ中で、パドックを終えたウマ娘達が続々とターフへと姿を現す。その中で一際目立ったのは。
「さぁッ!中距離の舞台にこの学級委員長、サクラバクシンオーが来ましたよ~ッ!えぇ、言葉にせずとも分かりますともッ!みなさん待っていましたね、そうですねッ!ご安心くださいッ!その期待に応えるようなレースをお見せしましょうッ!」
やはりサクラバクシンオーだ。ファンに向けて手を大きく振っている。その姿にほっこりするファン。ただ、周りのウマ娘はサクラバクシンオーを警戒していた。
(短距離では強いかもしれないけど、こっちなら!)
(負けてられない……!)
(ここを勝って皐月賞に!)
それぞれ負けられない思いを胸に、ウォーミングアップを済ませていた。
《中山レース場の天気は晴れ模様、絶好の良バ場日和です!クラシックの一冠目、皐月賞の前哨戦、弥生賞が始まろうとしています!芝2000m、皐月賞へとの切符を手にするのはどのウマ娘か!まずは3番人気の紹介からいきましょう。3番人気はアクアスプリング!》
《少し調子が良くなさそうですね。ですが気合十分、好走に期待しましょう!》
《続いて2番人気の紹介です。2番人気はアルケカンジュ!》
《こちらは絶好調ですね。中団からの鋭い末脚が特徴的です》
《そして堂々の1番人気はこのウマ娘!サクラバクシンオー!》
《距離不安が囁かれている彼女。前走は短距離ですが皐月賞へと出走すべくこの弥生賞へ。果たして陣営にはどのような意図があるのか?》
出走するウマ娘は10人。その中でサクラバクシンオーは5枠5番でのスタートとなる。可もなく不可もなく……というよりは、少し不利な枠番だった。
ウォーミングアップを終えたウマ娘達。それぞれ頬を叩き、握り拳を作り、係員の指示に従ってゲートへと入る。順調にゲートインは進んでいった。
「頑張れ~!バクシンオーさ~ん!」
キタサンブラックの声援が飛ぶ。その声に軽く反応した後、サクラバクシンオーはゲートへと収まった。
《最後のウマ娘がゲートに収まりました。皐月賞への切符をかけた戦い弥生賞。緊張の瞬間です。そして今──》
静まり返る中山レース場。その静寂を切り裂くように、ゲートが開く音が響き渡った。それと同時に、ウマ娘達が一斉にゲートから飛び出す。
《スタートしましたッ!弥生賞開幕です!》
サクラバクシンオーの挑戦、弥生賞が始まった。
サクラバクシンオーは五分のスタートを切る。そのままハナを奪って、短距離のようにレースを展開していた。
「バクシンバクシーーーンッ!」
《各ウマ娘綺麗なスタートを切りました!まずハナを奪うのはどのウマ娘か?真ん中からサクラバクシンオー!サクラバクシンオーが飛び出してきた!これは凄いスピード!?あっという間にハナを奪いますサクラバクシンオー!》
《良いスタートダッシュから流れるようにハナを奪いましたね。おっと?他の子達は様子見に徹するようです》
《他のウマ娘は追いかけない!ハナを切るのはサクラバクシンオー、サクラバクシンオーだ!しかし凄い勢いだサクラバクシンオー、まるで短距離のように走っているぞ!》
他のウマ娘はサクラバクシンオーを追いかけない。後ろの方でじっくりとうかがう。その間にもサクラバクシンオーはさらに差を広げようとしていた。
「ふぅン、まるで短距離みたいなペースだねぇ……大丈夫なのかい?委員長君は」
レースを見守るアグネスタキオンは先頭を走るサクラバクシンオーのタイムを測りながら隣にいるトレーナーに問いかける。トレーナーである高村は……
「大丈夫だよ。バクシンオーは勝てるさ」
「大層な自信だねぇ!……ま、私も負けるとは微塵も思っちゃいないが」
「頑張れ頑張れバクシンオーさん!負けるな負けるなバクシンオーさ~ん!」
少しの心配もしていない。それはアグネスタキオンも同様であり、まるでタイムトライアルのように中山レース場を駆け抜けようとしているサクラバクシンオーの姿を見守っていた。
《第1コーナーを迎えます。先頭で入ってきたのはサクラバクシンオー!2番手との差は5バ身から6バ身はついているでしょうか?2番手で追走するのは内からアーリースプラウト、外にアートルムグリモア。アートルムグリモアから2バ身遅れてアメティースタここまでが先行集団》
《サクラバクシンオーは軽快に飛ばしていますね。最後までスタミナは持つのでしょうか?》
《元々の適性はスプリンター、果たしてこのままスタミナは持つのでしょうか!?アメティースタから3バ身程離れてアルケカンジュ、その1バ身後ろアクアスプリングとオクシデントフォーそしてサマーボンファイア!最後方はグリンタンニとサンガリアスです。先頭サクラバクシンオーは第1コーナーを越えて第2コーナーへと向かいます!》
快調に飛ばすサクラバクシンオー。ファンはハラハラしながらもレースを見守っていた。
◇
向こう正面も半分を過ぎた弥生賞。依然として先頭はサクラバクシンオーであり、向こう正面でも変わらず飛ばしているように見える。ただサクラバクシンオーは時折ペースをがくんと落としたり、かと思えばグンとスピードを上げたり。チグハグな印象を受けていた。
《まもなく第3コーナーへと入ります。先頭はサクラバクシンオーで変わらず。ただ2番手との差は縮まりました、その差はおよそ4バ身程。2番手はアートルムグリモアが上がってきました、2番手はアートルムグリモア外にアクアスプリング。4番手はオクシデントフォーアメティースタ、その1バ身後ろにアーリースプラウト!》
《1000mの通過タイムは59秒8。まずまずのタイムでしょう》
サクラバクシンオー以外のウマ娘はほぼ団子状態。先頭を走るサクラバクシンオーが飛び出している状態だ。
「バクシンバクシーーンッ!」
先頭のまま第3コーナーを駆け抜けるサクラバクシンオー。後続もそろそろサクラバクシンオーに追いつこうとペースを上げ始めた。
声援を飛ばすファン。その中で、敵情視察に来ていたトレーナー達は頭に疑問符を浮かべていた。
(最初こそかなりのペースで飛ばしていたが、ペースとしてはまずまず……どういうことだ?)
(それに、なんというかチグハグだ。明らかに中距離に慣れてないような……初挑戦だから当たり前だけど)
(後続が差を詰めに来た。サクラバクシンオーの真価が問われるのはここからだな)
サクラバクシンオーの走りに疑問を抱いているトレーナー達。そんなことは露知らず、高村は静かにレースを見守っていた。
(……やっぱり、いつものステより数段落ちるね。これが適性Cで挑むってことか。ただ他の子達のステータスは軒並みEにF、か)
「この調子なら
「だろうねぇ。委員長君のペースは明らかに乱れているけど、初挑戦でこれなら及第点だろう。十分修正がきく範囲だ」
「今後は、もっと中距離に向けたトレーニングをするのか?トレーナー」
ドゥラメンテの言葉に無言で頷く高村。
「日本ダービーもあるし、中距離向けのトレーニングをもっと増やしていかないとね。スタミナだったり、まぁ色々と必要だ」
皐月賞ではなく、さらにその先……日本ダービーも見据える高村。サクラバクシンオーは先頭で第4コーナーを回り、観客からは歓喜の声援が飛ぶ。
《最後の直線!先頭はサクラバクシンオー、サクラバクシンオーだ!?なんとなんとサクラバクシンオー!2番手アルケカンジュに2バ身差をつけている!さぁサクラバクシンオーどこまで先頭を維持できるか!?このまま先頭を維持できるかサクラバクシンオー!》
「おぉ!これはいけるんじゃないか!?」
「最後の直線で先頭だ!いけいけ~!」
「頑張れバクシンオー!」
声援を飛ばしているが……肝心のバクシンオーはというと。
「ば、バクシン……ばくし~ん……っ」
結構ヤバめである。道中ペースを乱したのが原因か、スタミナが切れかかっていた。
(((チャンスッ!)))
これ幸いと詰めにかかる後続のウマ娘達だが……何故か差が縮まらない。
「え、ちょ……なんでっ!?」
「あっちはスタミナ切れてるのにおかしいでしょ!?」
「なんで追いつけないの~!?」
「む、む~り~っ!」
明らかにスタミナが切れかかっているバクシンオーを捕らえきれない後続のウマ娘達。その状況を冷静に俯瞰する高村。
「単純なスペック差だよね、これは」
「ま~後は、委員長君の変なペースで走ってたわけだからねぇ。知らず知らずのうちに、彼女達もスタミナを使っていたんだろうさ」
逃げるサクラバクシンオーとそれを追う後続のウマ娘達。中山の急坂を越えて、何とか差を詰めたが。
《サクラバクシンオー!サクラバクシンオーだ!サクラバクシンオーが逃げ切った~!2着アルケカンジュがクビ差まで追い詰めましたがサクラバクシンオーの粘り勝ち~!》
《いや~、中距離でも勝つことは出来ましたが……まぁ、はい》
《弥生賞を制したのはサクラバクシンオーだ~!皐月賞に向けて期待が……期待が高まるレースでした!》
言葉を濁す実況と解説。肝心のサクラバクシンオーはというと。
「ゲホッ、ゲホッ!と、とれ~な~さ~んっ、み、見て、見てました、か~ッ!?わ、私!勝ちましたよ~ッ!ば、ばくしん的勝利~ッ!」
息も絶え絶えに高村の方を向き、笑顔を作って手を振っていた。ただ、かなり苦しそうである。その様子に苦笑いしそうになりつつも静かに見る高村。
(本当にお疲れ様だ、バクシンオー)
己の担当ウマ娘の勝利を喜び、後で労おうと考えていた。
「頑張ったぞ~!よく頑張った~!」
「おめでと~う!皐月賞も頑張って~!」
「おめでとうございまぁぁぁぁぁす!バクシンオーさぁぁぁぁぁん!」
サクラバクシンオー、弥生賞勝利。距離適性の壁を越える……?
他トレーナー陣の評価は次回以降にでも。