中山レース場。バクシンオー以外の3人を連れてここへとやってきた。バクシンオーはというと、テストの成績がアレだったらしく補習となってしまった。これでn回目である。
「委員長君は補習……一番観るべきなのにねぇ」
「大丈夫です!わたしがしっかりと撮りますから!」
「しかし、小雨か……合羽を持ってきて正解だった」
ビデオカメラを持って気合を入れているキタサンブラック。レースを撮るぐらいだし大丈夫だろう。小雨が降ってるけど。合羽を着て観戦することに。
レースの前に、軽いおさらいをしておくことにした。
「今回のスプリングステークス、注目されているのはミホノブルボンだね」
「朝日杯を制したウマ娘、バクシンオーの世代のジュニア級王者か」
「そうだね、ドゥラメンテ。本来なら距離不安が囁かれていた彼女はあまり人気が出ないと思われていたけれど」
「弥生賞での一件があったから、こちらにも注目が集まった、ってところか。1番人気は彼女だ」
中山レース場に来たのはスプリングステークスを観るため。ミホノブルボンを筆頭に、皐月賞の有力候補達のレースを観戦しに来たってわけだ。
1番人気はミホノブルボン。元々距離は大丈夫なのか?って話があった彼女だが、弥生賞でバクシンオーが勝利したことから彼女にも注目が集まる。そこに朝日杯王者の称号があったので1番人気での出走となった。
「1番人気……ただ、マークはミホノブルボンに集中するだろう。あまり良いことではないな」
「そうだね。特にブルボンさんって逃げウマ娘だから、マークされたら凄くキツいと思う」
このレースで最も注目を集めているミホノブルボン。当然マークもかなり厳しいものとなるだろう。
(まぁ、心配するようなことにはならないと思うけど)
「とりあえず行こうか。できる限り見やすい位置でレースを観たいから」
みんなを連れてスタンド席へ。さて、どういう結果になるのか。
スタンド席でしばらく待っていると、スプリングステークスの時間がやってきた。
《小雨が降る中、この日を迎えました。中山レース場スプリングステークス!芝1800m、バ場の状態は重バ場の発表。今回のレースで注目されているのはやはり!距離を克服しようとしているもう一人のウマ娘、1番人気のミホノブルボンでしょう!》
《そうですねぇ。もう一つの前哨戦である弥生賞はスプリンターと評されていたサクラバクシンオーが見事に勝利を収めました。サクラバクシンオーの勝利で、彼女もいけるのではないか?という声は日増しに大きくなっていましたからね!》
《果たして適性の壁を壊そうとしているもう一人のウマ娘はどのようなレースを見せてくれるのか?期待に胸が高鳴ります!2番人気はエーネアス……》
「サクラバクシンオー勝ったわけだし、ミホノブルボンも期待しちまうよな!」
「それに、同じマイルの朝日杯を勝ってるんだ。こっちはまだまだ適性内じゃないか?」
「頑張って~!ミホノブルボ~ン!」
集まったファンもミホノブルボンに注目している。この状況でミホノブルボンはっと。
「……特に変化はなし、と」
「ま、あまり気にするようなタイプでもないだろう。サイボーグなんて呼ばれているぐらいだしねぇ」
「え、え~っと……録画ボタンはどれだろう?」
「これじゃないか?キタサン」
ビデオの録画はキタサンブラックに、タイムはアグネスタキオンに任せている。自分はというと。
(ひとまず、現時点でのステータスを書き記しておこう)
前回よりも伸びてるだろうし、バクシンオーと比較してどのくらいかを知る必要がある。まずはミホノブルボンだけど……うん。
(全部のステータスがD、か。スピードが330で少し抜けてる。他は軒並み300、と)
今回のスプリングステークス
続いてはライスシャワー。こっちはミホノブルボンよりも劣る。
(スタミナがDだけど、他はE+。マイルもCだし、勝ち負けに絡むのは厳しいと言わざるを得ない。マチカネタンホイザも似たような感じだ)
「こうなると……やっぱりミホノブルボン有利は変わらず、か」
「ま~そうだろうねぇ。他に気になるような子もいないし、実力を発揮できればブルボン君の勝ちは揺らがないだろう」
「肝心なのはレース内容、ということか?トレーナー」
「そういうことだね」
ミホノブルボンのレースは決まっている。ただ、
ウォーミングアップを終えて、ウマ娘達はゲートへと入る。最後のウマ娘がゲートに入り、一瞬の間静かになる中山レース場。静かになった空気を切り裂くように、ゲートが開く音が響き渡った。
《始まりましたスプリングステークス!大きな出遅れは無し、揃って綺麗なスタートを切りました!まずハナを切るのはやはりミホノブルボン……ではない!2番のアップツリーも上がって行く!》
《これを見てか、ミホノブルボンは競り合うか?……いや、競り合いはしませんね。ただアップツリーはかなりのペース、無理矢理ハナを奪いにいきました!》
《注目のミホノブルボンは2番手でのレース!今までのレースは全てハナを奪って逃げていただけにこれは珍しい展開!果たして大丈夫か?ミホノブルボン!》
うん、やっぱりこうなるか。
(ミホノブルボンは逃げウマ娘なのは周知の事実だ。そんな彼女を楽に逃げさせないために、無理矢理ハナを奪いに来たか)
先頭のウマ娘は明らかなオーバーペースだけど。それが分かってかミホノブルボンも無理には追わない様子だ。
「あれ?無理にハナは奪わないんだねブルボンさん」
カメラを回しながら疑問を口にしたキタサンブラック。その疑問にアグネスタキオンが答える。
「先頭の彼女は明らかなオーバーペースだ。ブルボン君は無理に先頭に立つよりも、自分のペースを守ることを優先したんだろう」
「それに、後続もミホノブルボンをペースメーカーとして見ている。あの逃げにつられているのはほとんどいない」
ドゥラメンテの言う通りで、先頭の彼女は重バ場にも関わらず凄い飛ばしている。対するミホノブルボンはペースを崩さない。隊列としては団子の展開、先頭のアップツリーの2バ身後ろにミホノブルボンが、そのミホノブルボンを見るように1バ身後ろに隊列が団子になっている。
「……アグネスタキオン、ペース的には?」
「先頭の彼女を除けば、普通だ。むしろちょっと早めだねぇ」
「分かった」
向こう正面では、先行集団がミホノブルボンをマークするように動き始めた。かなりキツいマークだけど、ミホノブルボンはペースを崩さない。
(冷静なレース運びだ)
レースを観る。さて、どうなるか。
◇
レースは淀みなく進んで最後の直線。先頭に立つのはミホノブルボンである。アップツリーは第3コーナーまでは先頭に立っていたが、やはり無理なペースが祟ったか失速。第4コーナーに入る前にミホノブルボンに捕まってズルズルと後退していった。
後続の子達はミホノブルボンに追いすがろうとしているけど、あまりうまくいってない様子。先頭に立ったミホノブルボンが悠々と逃げていた。周りからは驚いたような声が上がっているけど、ドゥラメンテはこともなげに答える。
「当然だ。一定のペースを守って走っていたわけだから、スタミナの消費も最低限で済んでいる。このまま逃げ切るのになんら支障はない」
「後続が追いつけないのは……単純に地力の差でしょうか?ブルボンさんの方が速いから」
「そういうことだね、キタサンブラック」
執拗なマークをしていたウマ娘達は軒並み脱落。ミホノブルボンのペースに合わせて走ってた子達は追いつくための地力が足りない。肝心のミホノブルボンは多少効いてはいるだろうけど、余裕の逃げ。このまま逃げ切るのは容易だろう。
アグネスタキオンにタイムを見せてもらうけど……うん、
「う~ん!本当に精密機械のようだねぇ!一定のペースを刻み続けることができる体内時計……そうそう得られるものではない!」
「本当にね。これだけ正確な体内時計も凄いよ」
ミホノブルボンの強みだろう。この強みがあるからこそ、ほとんど誤差のないラップタイムを生み出せる。
ミホノブルボンはそのまま後続との差を広げていく。最終的な着差はというと……7バ身である。
《ミホノブルボン!ミホノブルボンだ!スプリングステークスを制したのはミホノブルボン!なんと後続に7バ身差をつける大楽勝だ!》
《弥生賞ではサクラバクシンオー、そしてこのスプリングステークスではミホノブルボン!スプリンターと評されたウマ娘の躍進が止まりませんね!》
《努力で適性の壁は超えられる!まさにそれを証明する勝利です!ミホノブルボン、皐月賞に向けて視界良好!2着は……》
うん、強い勝ち方だ。最後の直線では追いつかせないどころかむしろ差をつける走り。周りのファンも大興奮である。ちなみにマチカネタンホイザは5着、ライスシャワーは12着と着外に沈んでいた。……マチカネタンホイザは素直に凄いな。あの展開と能力値で5着に潜り込めるのか。
(サイボーグ・ミホノブルボン……多分、ここから先は彼女がクラシックの最有力候補と呼ばれるんだろうな)
前哨戦でこれだけの勝ち方。呼ばれてもおかしくないだろう。勝つのはこっちだけど。
「う~ん……実際、ブルボンさんの対策って言うのは簡単ですよね?」
ふと、そんな風に呟くキタサンブラック。その言葉にアグネスタキオンは同意するように頷く。
「言うのは簡単さ。ブルボン君の対策は大きく分けて2つ……
「本当に言うのだけは簡単だよ」
ミホノブルボンの対策は2つ。彼女のペースを乱すくらいのプレッシャーをかけるか、徹底的にマークして地力で彼女を上回るかだ。どっちも言うだけは簡単である。
「まず、彼女のラップタイムを狂わせるのは容易ではない。このスプリングステークスでそう証明したわけだからねぇ」
「先頭を奪われても意に介さない、後続からのプレッシャーも跳ね除ける。あの走りを狂わせるのは至難の業だ」
「た、確かに……けど、そうなると」
「地力でミホノブルボンを上回る。必然的にこっちになるかな?バクシンオーの場合は」
ぶっちゃけ、ステータス的にはすでにバクシンオーの方が上なんだけど。それはいいとして。
「それにちゃんと作戦もあるしね。皐月賞はまぁ取れるよ」
「えぇ!?そ、そんな自信満々に!」
「どんな作戦だ?トレーナー」
ドゥラメンテの言葉に答える。作戦は簡単だ。
「ミホノブルボンはペースを乱さない。
「つまりは、ブルボン君をマークして最後に抜き去る……って戦法だろう?」
「お、おぉ……凄く単純ですね」
「だが、シンプル故に分かりやすい。それに、バクシンオーの方が地力は上だろう」
それに、今からミホノブルボンを超える逃げを習得するのはまず無理。なので精々利用させてもらうとしよう。ちなみにバクシンオーの中距離適性は変わらずCである。
「収穫は得られた。それじゃあ帰ろうか、みんな」
「はい!早速今回のレースをバクシンオーさんにも見せましょう!」
「補習が終わっていると良いのだが」
「さすがに終わっているだろうさ。さ~て、帰ったら実験だよモルモット君!」
「程々にね」
スプリングステークスはミホノブルボンの勝利。彼女の強さを再認識したレースだった。
対策はシンプルisベスト。なおバクシンオーは補習である。