※3/20お兄さまとライスシャワーのやり取りを修正
弥生賞も終わり、スプリングステークスも終わった。皐月賞に出走してくる有力なウマ娘も出揃ってきた。なので。
「皐月賞の作戦についておさらいしようか、バクシンオー」
「ハイッ!どんな作戦でもこなしてみせますよ~!」
「うん、よろしくね」
皐月賞に向けた作戦会議をやっていこう。
「一番評価が高いのは……ミホノブルボンだね。やっぱりスプリングステークスの圧勝が響いてる」
「話には聞いていますッ!私は観に行けませんでしたが、凄いレースだったとかッ!」
「そうだね、キタサンブラックが撮ったビデオで確認したと思うけど、強い勝ち方をしてたよ」
ハナを奪われてもペースを乱さず、後続からのプレッシャーも意に介さない。最後の直線では他を寄せつけない脚を披露して勝利した。お陰様で次の日の紙面はミホノブルボン一色だった。当然かもしれないけど。
「ミホノブルボンの強みはこの前言った通りだよ。それに現時点でのクラシック最有力候補だ」
「さすがはブルボンさんですね!しかしこの委員長も負けていませんともッ!」
「知ってる。それじゃあ皐月賞での作戦を話そうか」
「おぉ、この前言っていたやつですねッ!丁度いい感じの作戦があると!」
その通りだ。弥生賞が終わった後ぐらいに触れた、皐月賞向けの丁度いい感じの作戦。
「皐月賞の作戦はいたって単純。徹底的にミホノブルボンをマークしよう」
「ほほう、ブルボンさんをマークですか」
「そう。ミホノブルボンの後ろについて、彼女のペースに合わせて走るんだ。皐月賞はそれで行こう」
ミホノブルボンをマークする。結構難しいことだと思うけど、バクシンオーならやれるだろう。ステ的にも上だし。
「ブルボンさんをマークですか……分かりました」
ただ、バクシンオー的にはあまり納得いってないご様子。なのでここは1つ、この作戦の目的について話しておこう。
「いいかい、バクシンオー。この作戦は勿論勝つためだけど、それと同じくらい重要なことがあるんだ」
「ちょわっ?どういう意味ですか?」
「ミホノブルボンは正確なラップタイムを刻み続けることができる、それは知ってるよね?」
「勿論ですともッ!トレーナーさんも仰ってましたねッ!」
重要なのは
「正確なラップタイムを刻み続ける……それは
「……おぉッ!?」
「ただでさえ模範的な君の走りを、さらに完璧に仕上げるためにミホノブルボンをマークするんだ。そうすれば皐月賞は勝てるよ」
ミホノブルボンはスプリングステークスで他者を寄せつけない走りをした。だけどバクシンオーなら最後は交わせる。それだけの自信がある。
「ミホノブルボンをマークして、最後の直線で躱す。君ならそれができる。学級委員長の君ならね」
先程からバクシンオーは無言。ただ身体を震わせているってことは……うん、感激してるだけだねこれ。
しばらく待っていると、バクシンオーは目をキラキラさせて立ち上がった。
「トレーナーさんッッ!分かりましたッ!皐月賞はブルボンさんをマークしましょうッ!」
「うん、分かってくれたみたいでなによりだよ」
「ただでさえ完璧な私の走りに、さらに磨きをかけるためにブルボンさんをマークする。トレーナーさんの考えは伝わりましたッ!」
しきりに頷くバクシンオー。かなり上機嫌である。
「そうと決まればッ!まずはブルボンさんのレースを観ましょうッ!片っ端から洗い出しますよ~!」
「そういうことなら、その棚に纏めてあるから。好きに見てっていいよ。僕も今やっている仕事が終わったら一緒に見るよ」
「分かりましたッッ!」
バクシンオーは早速ミホノブルボンのデータを見始めた。今日のトレーニングはビデオ研究かな?後からやってきたキタサンブラックやドゥラメンテも見始める。アグネスタキオンだけは自分の方にやって来たけど。
「さっきの話は聞いていたよ?モルモット君」
「あぁ、聞いてたんだ。スプリングステークスで言った時と変わらないよ」
「あぁそうだね。ただ1つ穴があるとすれば……ブルボン君が作戦を変えてきた時だろうねぇ」
愉快そうに笑うアグネスタキオン。彼女も知っているというのに。
「それはないよ。自分の一番の強みを消してまで挑むような子でもないし、そういうトレーナーでもないでしょ。あそこは」
ミホノブルボンのトレーナーのことはよく知らないけれど、担当のウマ娘の強みを引き出せて、一番勝てる戦法を自分から捨てるようなトレーナーではないはずだ。というか、そんなトレーナーはいないと思う。だってみんな勝ちたいんだから。
「あーっはっはっは!まさにその通り!ただ、ブルボン君はレコードタイムから逆算してラップタイムを決める……そのペースに委員長君がついて行けるという根拠は?」
確かにそれはそう。ただ、ステータス的にはバクシンオーの方が上だ。ついて行くだけなら問題はない。それに、レコードタイムから逆算するということは、タイムの予想もつきやすい。
「相手がレコードと同じタイムで駆け抜ける気なら、こっちはレコードタイムを更新すればいい。それだけだよ」
「とんでもない脳筋理論だねぇ!だけどその通りだ!」
さらに愉快そうに笑うアグネスタキオン。何事かとキタサンブラックとドゥラメンテがこっちを見ていた。気にしなくていいよ、と2人に伝える。
「バクシンオーはレコードタイムを更新する勢いで走ることができる。地力だってバクシンオーの方がミホノブルボンより上だ。だから皐月賞は勝てる……それだけの話」
「それも、モルモット君に見えているというステータス、というヤツの話かい?」
「そういうこと」
「なんとも惹かれる話だ!ウマ娘の身体能力を可視化する能力……誰もが欲しがるだろうねぇ!……ちょっと実験しないかい?」
「実験しても得るものはないよ。止めはしないけど」
ちぇ、とつまらなそうにして去っていくアグネスタキオン。バクシンオー達に交じってビデオを見始めた。自分も要点を押さえたノートと一緒に見るか。
「それにしても、本当に凄いですねぇ。全然タイムがブレてない」
「焦りなく走れる。自分の実力に自信を持っている証拠だ」
「さすがはブルボンさんですッ!ですが皐月賞は私が勝ちますともッ!そのためにも研究は怠りませんよ~!」
今日は賢さトレーニングである。
◇
皐月賞が近づいている今日。どの陣営もライバルとなるウマ娘の研究をしている。その中で特に注目されているのは──ミホノブルボンとサクラバクシンオーの2人だ。
当初はどちらもスプリンターと称されていた2人。だが、どちらもトライアルレースを制して皐月賞へと乗り込んできた。この2人に注目が集まるのは当然だろう。
「ただ、サクラバクシンオーに関しては底が分からない。あの弥生賞、中距離挑戦以外にどんな意図があったのか」
「マスターの疑問を解消。中距離挑戦以外の意図はないものと思われます」
「……ここまで考えて出ないわけだから、確かにそうだろうな。ひとまず皐月賞について考えよう」
注目されているウマ娘の1人、ミホノブルボンとそのトレーナーは皐月賞に向けた作戦を立てる。とは言っても、この陣営はやることは変わらない。
「皐月賞のタイムは頭に叩き込んであるな?」
「すでにインプット済みです。後は誤差なく走れるように調整していくだけ、問題はありません」
レコードタイムから逆算したラップタイムで駆け抜ける。ただそれだけだ。それができる強さがあり、この戦法で勝ってきた。故に2人には自信がある。皐月賞を勝てるという自信が。
そんな2人の不安要素はただ1つ。サクラバクシンオーというウマ娘の存在。
「ただ、サクラバクシンオーは弥生賞のような走りはしないと思った方が良い。あんな弱点だらけの走りで来るはずがないからな」
「当然ですね。考えられる線としては……」
「
マスターが辿り着いた結論はミホノブルボンをマークするという考え。その戦法が一番確率が高いと踏んでいた。
「『疑問』。バクシンオーさんがそのような戦法で来るでしょうか?あの方ならば、バクシンした方が強いのでは?」
「どうだろうな。あの弥生賞がある以上、抑える方向性にシフトするはず。それだけのことはできるだろうからな」
2人が思い出すのは弥生賞。無茶なチェンジオブペースをやろうとした結果、自滅しかけたあのレース。勝ったとはいえかなり危うい展開だった。
同じような轍は踏まないはず。だからこそ、皐月賞はミホノブルボンをマークする作戦で来るだろうと予測する。
(だが、俺達のやることは変わらない。ブルボンの実力で、クラシック三冠を獲る!ただそれだけだ)
「勝つぞブルボン。お前の夢……クラシック三冠のために。まずは一冠目だ!」
「受諾。目標『クラシック三冠』に向けて……ミホノブルボン、前進します」
2人は誓い合う。ミホノブルボンの夢であるクラシック三冠に向けて……ひたすらに前を向いて。
ライスシャワー陣営。こちらも作戦を立てている。
「ライス。皐月賞で対戦する2人……ミホノブルボンとサクラバクシンオーはどっちも強敵だ。特に、ミホノブルボンの強さはスプリングステークスで分かってるよね?」
「うん……あの時のブルボンさん、すっごく強かった」
スプリングステークスのことを思い出して、怖気づくライスシャワー。特に、彼女自身は着外に沈んだのもあってかなり気にしていた。
お兄さまは少し逡巡した後、ライスシャワーを真っ直ぐに見る。
「
「ふぇ?」
「確かにあの2人は強かった。けど、ライスだって負けてない!」
彼が考えたのは、まずはネガティブになっているライスシャワーを励ますこと。確かにスプリングステークスは負けてしまったかもしれないが、その1回の敗北でライスシャワーが劣っていることにはならない。
お兄さまはライスシャワーがミホノブルボンとサクラバクシンオーに決して劣ってないと信じている。だからこそライスシャワーを励ます。担当ウマ娘を信じているからこそ。
「確かにあの2人は強い。それは認めないといけない。だけど、ライスだってこれまで頑張って来たんだ。あの2人にだって負けない努力をしてきた……違うかい?」
「で、でもお兄さま……」
「大丈夫さライス!ライスの武器はそのスタミナだ!だからロングスパート……いつもより早めに仕掛けて、あの2人を倒そう!」
皐月賞はライスシャワーにとって分が悪い。ステイヤータイプの彼女にとって2000mは少し短すぎる。だからこそお兄さまは考えたのはロングスパート。スタミナならライスシャワーに分がある。だから早めに仕掛けて2人を交わす。そう考えた。
ライスシャワーは少し考え込んだ後、笑顔でお兄さまに答える。
「……分かった!ライス頑張ってくる!頑張って、ブルボンさんやバクシンオーさんに勝ってくるね!」
「その意気だ!それじゃあ2人を研究しよう。ちゃんとビデオもある……けど、サクラバクシンオーはそんなに参考にならないなぁ……絶対修正してくるだろうし」
「あ、あはは……」
元気になったところで有力候補2人の研究をしようとするが。サクラバクシンオーはあまり参考にならないだろうということを思い出した。前途多難である。
皐月賞の作戦 THE☆脳筋理論