ついに迎えた皐月賞本番。バクシンオーはというと。
「ついに来ましたよトレーナーさんッ!皐月賞ですよ皐月賞ッ!」
「そうだね、うん」
「いや~、思えば長かったですねッ!」
まだクラシック級だしデビューしてそんなに経ってないけどね。
「この舞台で私は証明しましょうッ!最も速いウマ娘はこの学級委員長、サクラバクシンオーであるとッ!」
「うん、頑張って。とりあえず今日の作戦だけど」
「分かっておりますともッ!ブルボンさんをマークする作戦ですよね?」
「うん、合ってるね。まぁ君が行けると思ったタイミングで抜け出していいよ」
「分かりましたッ!」
ちなみに現時点でのバクシンオーのステータスだが。
サクラバクシンオー
適性:芝A ダートF
距離:短A マA 中C 長C
脚質:逃げA 先行A 差しF 追い込みG
スピード:C+ 561
スタミナ:D+ 384
パワー :C 432
根性 :D 339
賢さ :C 435
うん、中距離の適性がCということを差し置いてもまず負けないだろう。ミホノブルボン達のステータスもチラッと見たけど、最高値がDだったのでさほど変わっていない。
(油断は禁物。目覚まし時計なんて便利なものはないんだから)
でも、負けたらそこで終わりだ。やり直しなんてできない。だからこそ、この皐月賞を勝つ。ただそれだけだ。
「それではトレーナーさんッ!今日も私が元気を送りましょうッ!それ~ッ!」
「ありがたいけど、この目はデフォだから。気にしなくてもいいよ」
「大丈夫ですともッ!いつか私の活躍で元気が出る日が来ますよッ!安心して任せてくださいッ!」
……分からない子だ。元気が良くていいことだけど。
時間が来たので控室を退出。キタサンブラック達と合流しよう。
「それじゃあバクシンオー──勝っておいで」
「当然ですともッッ!!」
控室を後にする。後は皐月賞本走を待つだけだ。
◇
皐月賞。クラシック三冠をかけた最初の戦いが中山レース場で開催されようとしている。ファンもいつも以上だった。ただ、午後から雨が降っていたため、合羽を着ているファンで溢れかえっている。
《空はあいにくの雨模様、ですがバ場には影響がないとの発表です。中山レース場芝2000m、良バ場での開催を迎えました皐月賞!クラシック三冠最初のレース、最も速いウマ娘を決める戦いがやってきましたね!》
《そうですね。しかも今回は有力なウマ娘2人がスプリンターと評価されたウマ娘ですから。適性の壁を壊してやってきた2人には注目したいところです!》
《それでは、まず3番人気の紹介から入りましょう!3番人気は……》
入場してくるウマ娘達を見て色めき立つファン。その中にはサクラバクシンオーのトレーナーである高村の姿もあった。キタサンブラック達と一緒である。
「委員長君の調子は良さそうだねぇ」
「うん。いつも通り、問題なさそうだったよ」
「なによりだ。緊張しているものかと思ったが」
「頑張れ~!バクシンオーさ~~ん!」
キタサンブラックもいつもと変わらず声援を飛ばしている。それに気づいたサクラバクシンオーが手を大きく振って応えていた。
《続いて2番人気の紹介です。2番人気はサクラバクシンオー!前走弥生賞を制しての本レース、期待を寄せられての2番人気です!》
《弥生賞の勝利はあまり評価は高くありませんでしたが、弱点は修正してくるだろうと見込まれてのこの人気。また最速はこのウマ娘にこそ相応しい!という評価もあっての2番人気でしょう!どのようなレースをしてくれるのか非常に楽しみです》
「さぁキタさんッ!そこで見ていてくださいッ!私の勇姿をッ!」
そう告げてウォーミングアップへと戻る。不安要素はなさそうだった。
ミホノブルボンのマスターも静かに見守る。その顔にはわずかながらだが自信が見られた。彼の視線の先にはミホノブルボンがいる。
「いけ、ブルボン。お前なら勝てる!」
皐月賞の1番人気はプレッシャーをものともせずにウォーミングアップをしている。こちらも調子は良好、問題なさそうだった。
《そして皐月賞の1番人気はミホノブルボン!こちらも前哨戦を制しての皐月賞です!》
《スプリングステークスでは7バ身差の圧勝劇、今回の皐月賞大本命でしょう!私イチ推しのウマ娘です!》
「システムに異常なし。ミッションを遂行します」
出走者の中にはライスシャワーやマチカネタンホイザもおり、それぞれのトレーナーが見守っていた。
「頑張れ~!マチタ~ン!ファイト~!」
「……あの2人に勝とう、頑張れライス!」
そして、ゲートインの時間がやってきた。各ウマ娘がゲートへと入る。
《各ウマ娘が順調にゲートへと入ります。先日行われた桜花賞では【天才少女】ニシノフラワーが1番人気に応える形で制しました。そしてこの皐月賞はスプリンター2人による争いと目されております。このような皐月賞があったでしょうか?》
《元々はスプリンターだったミホノブルボンとサクラバクシンオー。しかし適性の壁を壊してこのクラシックレースへと出走!相当な苦労があったのは言うまでもないでしょう。ですがそれは他のウマ娘達も同じです!》
《勝者は1人だけ、スプリンター2人の争いになるのか、それとも他のウマ娘が魅せるのか!非常に気になる一戦です!》
今、最後のウマ娘がゲートへと入る。静かに見守るファン。中山レース場に訪れた静寂を切り裂いて──ゲートが開く音が響き渡った。瞬間、一斉にウマ娘達が駆け出す。
《今最後のウマ娘がゲートに入ってっ!ゲートが開きましたっ!皐月賞スタートです!揃って綺麗なスタートを切りました!最初に飛び出したのはっ、ミホノブルボン!ミホノブルボンだ!ミホノブルボンの巡行が始まるぞぉ!》
皐月賞が幕を開けた。
◇
ハナを切ったのはミホノブルボン。2枠4番の内枠を活かしてするりと抜け出してきた。そのままのペースで逃げようとする。
「バクシンバクシーーンッ!」
そして、そんなミホノブルボンの後ろにつけようとしているウマ娘。こちらは4枠7番での出走であり、抜群のスタートを決めてミホノブルボンの後ろを取った。この2人によるハナの奪い合いか?と思われたが……サクラバクシンオーはミホノブルボンの後ろへとつける。
(……成程。やはり私をマークする作戦で来ましたか)
ミホノブルボンはサクラバクシンオーの動きを見て、自分をマークするつもりだろうと考えた。その考えを肯定するかのように、サクラバクシンオーはミホノブルボンのペースに合わせて走っている。きっかり1バ身後ろをキープしていた。
「ですが問題はありません。目標に向けて視界は良好、このまま巡行を開始します」
ミホノブルボンは崩れない。マークされようが何だろうが、己の逃げに絶対の自信をもって対処する。ただそれだけだった。
《まもなく第1コーナーのカーブへと入ります。先頭に立ったのはミホノブルボン!内枠を活かしてハナを奪いました!その後ろにつけますのはっ、これは珍しいか?サクラバクシンオーだ、サクラバクシンオーがミホノブルボンの1バ身後ろにつけております》
《焦った様子も見られません、どうやらミホノブルボンをマークする作戦のようですね》
《サクラバクシンオーから2バ身程差をつけてアートルムグリモアとアップツリーこの2人が同じ位置!そしてその2人に並ぶようにライスシャワー!ライスシャワーが3番手争いの位置につけています!6番手以下は固まっています、マチカネタンホイザは後方集団。各ウマ娘第1コーナーを超えて第2コーナーへ!ミホノブルボンの巡行を止めることができるでしょうか!》
レースの展開を見て、高村は満足げに頷く。
「うん、無事に後ろにつけることができたね」
「ひとまずは作戦通り、だな。トレーナー」
「まぁね。後はここからだ」
「頑張れ~!バクシンオーさ~ん!」
キタサンブラックの元気の良い応援を尻目に、高村はレースを観る。サクラバクシンオーは無事にミホノブルボンの後ろにつけることができた。後は抜け出すタイミングだ。
(仕掛けるタイミングはバクシンオーに一任してある。自分が行けると思ったタイミングで仕掛けてくれるだろう)
「ステータス的にも申し分ないし、ね」
そう呟く。
違う場所ではミホノブルボンのマスターも小さくガッツポーズをした。無事にミホノブルボンが先頭を取ることができ、そして自分達の予想も当たっていたことに喜ぶ。が、すぐに取り繕った。
(まだレースは始まったばかりだ。気を抜くわけにはいかない)
ミホノブルボンはサクラバクシンオーに1バ身の差をつけている。動じることはなく、しっかりと1バ身差だ。ペースも守れている、自分達の予想通りに進んでいた。
ライスシャワーのお兄さまはハラハラとしながら見守る。ライスシャワーは現在3番手争いの位置、サクラバクシンオーを見るように動いていた。
(ロングスパートを仕掛ければ、スタミナ勝負に持ち込めればライスにだって分がある!頑張れ、ライス!)
レースはやや縦長の展開。先行集団、中団、後方集団が綺麗に纏まっているレース。向こう正面の半分を過ぎる、その時だった。
「バクシンバクシンバクシーンッッ!」
2番手で追走していたサクラバクシンオーがペースを上げ始める。先頭のミホノブルボンを捕らえようと動き始めたのだ。
これには場内から驚きの声が上がる。
「バカな!?早すぎるだろ!」
「さすがにもたないでしょ!?」
「やっぱりダメじゃねぇか!」
ミホノブルボンのマスターもわずかに笑みを浮かべる。
(最後まで大人しくできず、自滅か)
「やはり厳しかったようだな、高村聖」
あのままではいずれ逆噴射するだろう。この勝負はもらった、そう結論づける。
ただ、サクラバクシンオーの動き出しに合わせて動いたウマ娘がいた。3番手争いの位置につけていたライスシャワーである。こちらも徐々に進出を開始していた。
《向こう正面の半分を過ぎてサクラバクシンオーがペースを上げ始めた!これはサクラバクシンオーのロングスパートか!?ミホノブルボンはっ、動じない動じない!自分のペースを守りますミホノブルボン!じりじりと差を詰めるサクラバクシンオー!そして先行集団からライスシャワーが動いた動いた!ライスシャワーが単独3番手に浮上!まもなく第3コーナーのカーブ、先頭は依然としてミホノブルボンその半バ身に迫りますサクラバクシンオー!この2人の1バ身後ろにはライスシャワーだ!》
《随分と早い動き出しです!かかっているのでしょうか!?》
この状況を見ても、高村は
「うん、これがバクシンオーにとってのベストなタイミングか」
「と、いうと?」
そう尋ねるアグネスタキオンに高村は淡々と答える。
「僕は抜け出しのタイミングは君に任せる、って言ったんだ。で、今動いたってことは……ここからなら最後まで持つ、って思ったんじゃないかな?」
「成程。それにしても随分早い動き出しだ!まるでロングスパートだねぇ!」
「だが、バクシンオーなら持つだろう。スタミナトレーニングも十分にやってきたわけだからな」
「ドゥラメンテの言う通りだね。それに、スピード勝負になればこっちに分がある。スタミナだって、前半はミホノブルボンのペースで走ってたわけだから余ってるだろうしね」
さらっとミホノブルボンのペースで走ることぐらいわけない、と断じる高村。ミホノブルボンのペースはレコードタイムから逆算したペースであり、速いペースであることは想像に難くない。恐ろしい限りである。
第3コーナーを越える頃にはミホノブルボンの横に並び始めるバクシンオー。それでもミホノブルボンは己のペースを守ろうとしていた。
「さぁさぁ!委員長のバクシンは止まりませんよ~ッッ!バクシンバクシンバクシンシーーーンッッ!」
「ッく!」
「ついてく……ついてく……ッ!」
第4コーナーでサクラバクシンオーがミホノブルボンを躱した。この光景に中山レース場は沸き上がる。最後の懸念点は、サクラバクシンオーが失速しないかどうかだろう。
《第4コーナーでミホノブルボンの巡行をサクラバクシンオーが捕らえた!サクラバクシンオーが先頭に変わります!このペースで最後まで持つのかバクシンオー!スプリンター2人の争いになるかっ、と!ここでライスシャワー!ライスシャワーだ!ライスシャワーも上がっている!ライスシャワーがミホノブルボンに並ぼうとしています!まもなく最後の直線、後続も差を詰めてまいりました!ですが先頭はこの3人!この3人での争いになるか!?》
最後の直線へと入り──ミホノブルボンとマスターは驚愕の光景を目にする。
「バクシンバクシーーーーンッッ!」
最後の直線で、サクラバクシンオーがさらに加速する光景である。
(なっ!?)
「ッ!……プランに変更なし!目標は先頭、必ず捕らえますッ!」
ミホノブルボンは加速する。先頭のサクラバクシンオーにめがけて。それにライスシャワーもついて行った。
……しかし、差は縮まらないどころか開いていく。
(ち、縮まらないッ!?何故、どうして!)
「深刻なエラーを確認……ッ!さらなる加速を要請ッ!追いつかなければ……っ!」
三冠の夢が初戦で終わってしまう。ミホノブルボンは必死に脚を動かした。マスターは思わず祈り、縋った。ミホノブルボンの勝利を。
サクラバクシンオーが差を広げていく光景を見ながら、高村は淡々と告げる。
「……ま、こんなものか。そもそものスピードに差があるわけだし、最後の直線で先頭に立った時点でこちらの勝ちは決まったね」
「スタミナも委員長君の方が十分あるわけだしねぇ。もしかしたら、弥生賞も良いスパイスになったのかな?」
「前哨戦でスタミナに不安があるようなレースをした。だから落ちると誰もが思ったのだろう……結果は落ちなかったわけだが」
「バクシンバクシーン!バクシンオーさんあと少しですよーー!」
高村はノートに走り書きをし、今回の皐月賞についてまとめ上げる。すでに残り100を切って、サクラバクシンオーは2番手のミホノブルボンとライスシャワーに4バ身近い差を広げていた。
《縮まらない縮まらない!いや、わずかに縮まったか!?しかしこれはもう決まったでしょう!ミホノブルボンの巡行はここで終わった!皐月の冠を手にしたのは──サクラバクシンオーだぁぁぁぁぁ!》
差は最後に僅かに縮まったばかりで。サクラバクシンオーが皐月の冠を手にした。
メインストーリー更新嬉しい嬉しい。交換チケでヘリオス交換したんですけど良い子過ぎて泣ける。太陽か?太陽だったわ。