最速×無敵=驀進王   作:カニ漁船

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決着後の空気。


皐月賞後・新たな目標

 歓喜と喝采に包まれる中山レース場。今、皐月賞の決着がついた。勝者の名は。

 

サクラバクシンオー!サクラバクシンオーだ!サクラバクシンオーが皐月賞を制しました!2着のミホノブルボンに3と半バ身差をつける形での快勝!やはり弱点は克服してきました!これはお見事サクラバクシンオー!》

《いやはや……凄いの一言ですよこれは!まさかロングスパートを決めるとは!しかも最後の直線でさらに加速!これは本当に凄い!》

《レースが動いたのは向こう正面中ほど。2番手に控えていたサクラバクシンオーが進出を開始、第3コーナーでミホノブルボンに追いつくとそのまま抜き去りました。そして最後の直線では追いすがるミホノブルボンと猛追するライスシャワーを引き離しての勝利!完璧な勝ち方ですねこれは!2着はミホノブルボン、3着はミホノブルボンから遅れること2バ身でライスシャワーです!》

 

 実況と解説も興奮気味にレースの内容を語っている。勝者であるサクラバクシンオーは辺りをキョロキョロと見渡したと思うと、次の瞬間には嬉しそうな表情を浮かべた。その視線の先には、彼女のトレーナーである高村の姿がある。

 高村の方を向いて、サクラバクシンオーは大きく手を振った。

 

「トレーナーさーーーんッッ!!勝ちました、勝ちましたよーーッッ!!このサクラバクシンオーが、学級委員長がッ!最も速いウマ娘だと証明しましたよーーーッッ!」

 

 笑顔でそう報告するサクラバクシンオー。高村も小さく手を振って応えていた。ただ、チラッと見ただけでは無表情なので少し怖いが。同じチームであるキタサンブラックは大きな声でサクラバクシンオーの勝利を喜んでいた。

 そして、驚きはこれだけではない。

 

《ち、ちょっとお待ちくださいっ!?ま、まさかこれはっ!?》

《赤く光るレコードの文字……!つまりっ!》

レースレコード!レースレコードの決着だ!なんとサクラバクシンオーがレースレコードを更新!これは文句なしの最速ウマ娘!生粋のスプリンターと評価されたウマ娘が、皐月賞のレースレコードを更新したぁぁぁぁ!》

 

 さらなる歓喜に包まれる中山レース場。まさかのレースレコード決着に、さらなる沸き上がりを見せていた。

 

「すげぇぇぇ!本当にスプリンターかよ!?」

「スプリンターって情報も嘘なんじゃないの!?」

「いや、これは育て上げたトレーナーがすげぇだろ!新人つってたけど何者だ!?」

 

 レコード決着に驚く者、サクラバクシンオーを称賛する者、サクラバクシンオーの適性を疑う者。様々な反応があったが、多くのファンがサクラバクシンオーの勝利に歓喜していた。

 

 

 その中で、拳を強く握りしめ必死に悔しさを噛みしめる男がいた。

 

「クソ……クソッ!」

 

 ミホノブルボンのトレーナー、マスターと呼ばれている男である。彼は皐月賞の決着に悔しさを隠せないでいた。

 

(調整は万全だった!ブルボンの調子だって悪くなかった!ペースだって、ラップタイムだって自信があったんだ!なのに……!)

「相手はレコード勝ち……!しかも、明らかな完勝!クソ、クソッ!」

 

 彼が担当しているミホノブルボンの敗北。その結果を受け入れるのに時間がかかっていた。

 ここまで順調だった。距離適性の壁は超えられると信じて努力を続け、周りから止められようとも歩みを止めなかった。スプリンターと評されながらも朝日杯を制してジュニア級王者となり、スプリングステークスでも7バ身差の圧勝を飾った。全てが順風満帆だったのだ……彼女らが現れるまでは

 

(向こう正面中ほどからのロングスパートを決めるなんて……!)

 

 サクラバクシンオー。ミホノブルボンと同じく、否、下手したらミホノブルボン以上に中距離以上は不向きと言われていたウマ娘。そんな彼女が、皐月賞を制したのだ。

 

(ミホノブルボン以上に不向きと言われていたサクラバクシンオーを、ここまで育て上げるとは……!)

「なんて恐ろしさだ……高村聖!」

 

 悔しさから下を向こうとしたマスターは──己の額を思いっきりフェンスにぶつける。そうすることで無理矢理正気に戻った。周りからは小さい悲鳴が聞こえたが彼は気にしない。

 

(俺は、なにをやっている?なにを、考えていた?)

 

 マスターは自分のことしか考えていなかった。しかし、ふと冷静になって考えると……()()()()()悔しい思いをしたであろう人物のことを思い出す。

 

(あぁ、確かに悔しいさ。アイツにできて、俺にできなかったというのがあまりにも悔しい。だが!)

「俺以上に……ミホノブルボン(アイツ)が悔しいに決まっている……!

 

 担当ウマ娘であるミホノブルボンだ。彼女はクラシック三冠ウマ娘を夢だと言っていた。距離適性の限界を超えて、その称号を手にしてみせると彼女は語っていた。だがそれは、己の不甲斐なさのせいで叶わなくなってしまった。

 

(ブルボンが受けたショックは俺以上のはずだ。彼女は今、何をしている?)

 

 ターフを見る。1人、また1人とウマ娘へと視線を動かし──見つける。

 

 

膝をついて項垂れている、ミホノブルボンの姿を

 

 

 その姿を視界に入れたマスターの行動は早かった。

 

「下を向くなッッ!ミホノブルボンッッ!」

「……ます、たー?」

 

 大声を出し、ミホノブルボンに呼びかける。悔しさを我慢して、己に活を入れ、担当への申し訳なさを噛みしめながら。マスターはミホノブルボンを叱咤する。

 

「下を向くな、ブルボン!立って前を向いて──お前の敵(サクラバクシンオー)を睨みつけろ!

「……ッ!」

 

 マスターの叱咤。それを受けてミホノブルボンはよろよろと立ち上がり。勝者であるサクラバクシンオーを睨みつける。

 

「バク、シンオー……さんっ!」

 

 普段は寡黙で、滅多に表情を表に出さないミホノブルボン。そんな彼女が、悔しさを必死に堪え、己をなんとか鼓舞しながらサクラバクシンオーを睨みつける。

 それを受けてサクラバクシンオーは──威風堂々と佇む。

 

「はいッ!なんでしょうかブルボンさんッ!」

 

 それが勝者の責務だと言わんばかりに堂々とするサクラバクシンオー。ミホノブルボンは、震える声で言葉を絞り出す。

 

私の敵(ライバル)……サクラバクシンオーの情報をインプット!この悔しさは、私のデータから生涯消えることはないでしょう!ですが……いつか必ず、あなたから勝利をもぎ取ります!」

 

 指を突きつけ、震える声で宣戦布告をする。ミホノブルボンの言葉を受けてサクラバクシンオーは──笑った。

 

勿論ですッ!学級委員長は皆の模範として、いつでも挑戦を受けて立ちましょうッ!次もまた良いバクシンをッ!」

「ッ!」

 

 そしてミホノブルボンはマスターの下へと向かった。マスターとミホノブルボンは同じタイミングで頭を下げ、お互いに謝罪をする。

 

「申し訳ありません、マスター……ミッション『クラシック三冠ウマ娘』、早々に潰えてしまいました」

「すまない、ブルボン。俺が不甲斐ないせいでお前を負けさせてしまった……お前の夢を、俺が壊してしまった」

「っそんなことはありません。私の努力が足りなかったせいです」

 

 自分が、いや自分がとお互いに押し問答を続け。最後にはマスターは苦笑いを浮かべた。

 

「ひとまず、ここでリセットだな」

「……はい、そうですね」

「次の目標を考えよう。そうだな──打倒!サクラバクシンオーってのはどうだ?」

 

 そう告げるマスター。その提案にミホノブルボンは。

 

「良いですね。目標『バクシンオーさんを倒す』に更新。彼女に勝つために、さらなるトレーニングを要求します、マスター」

「あぁ。次は日本ダービー……ここを目標にするぞ」

「了解です」

 

 2人の新たな目標は決まった。後は目標に向けて進むだけである。

 

 

 違う場所では、ライスシャワーのトレーナーであるお兄さまも震えていた。

 

(弥生賞とはまるで別人……!)

「ここまで成長させてくるなんて!」

 

 サクラバクシンオーの成長度合いに驚きを隠せない。弥生賞では滅茶苦茶なペースだった彼女が、ミホノブルボンをペースメーカーに見立てることで見事に中距離を走り切った。それも、完勝である。

 ライスシャワーも追いすがろうとしたが……まるで届く気配がなかった。

 

(圧倒的にスピードが足りない!サクラバクシンオーに追いつくためのスピードが!)

「ただ、課題は見えた。次こそはっ!」

 

 こちらも新たな課題を炙り出す。次のレースに向けて気合は十分だった。ライスシャワーがサクラバクシンオーに届くためにはなにもかもが足りない。だからこそ全体的なレベルアップをしようと考える。

 

「後は俺もできるだけのことをしないと!やることは山積みだ!」

 

 お兄さまは気合を入れる。どの陣営も次のレースに向けて気合を入れていた。

 それはマチカネタンホイザ陣営も同じである。

 

「……よし、決めた!」

 

 何かを決意するマチカネタンホイザのトレーナー。それが分かるのはもう少し先の話である。

 

 

 

 

 

 

 レース後インタビュー。報道陣は大盛り上がりである。

 

「凄いですね!適性の壁を乗り越えての勝利、おめでとうございます!」

「えぇッ!ま~私は模範的な学級委員長ですのでッ!この勝利でさらにバクシンしていきますよッ!」

「高村トレーナー!何か特別なトレーニングなどは!?」

「別にしてないですね」

「そんなこと言って~。なにか秘伝のトレーニングというヤツが!」

「普段通りのトレーニングを普段通りにしているだけです」

「うぅ……目も相まってとっつきにくいよこの人……」

 

 サクラバクシンオーは鼻高々に、高村聖はただ粛々とこなすだけ。対極的な2人である。

 

「しかしこれでサクラバクシンオーの注目もさらに上がるでしょう。心境としては?」

「別に。普段通りの実力を発揮するために、日々のトレーニングで自信をつけていくだけです」

「そ、そうですか。サクラバクシンオーさんは「どんなレースもどんな相手もどんとこいですッ!この学級委員長が胸を貸しましょうッ!バクシンバクシーーンッ!」……本当に対極的過ぎるよこの2人!」

 

 終始こんな調子でインタビューは続いていた。

 

 

 インタビューが終わって控室。サクラバクシンオーはトレーナーに声高に告げる。

 

「バクシン的勝利ッッ!見事皐月賞を制しましたよトレーナーさんッ!」

「そうだね。おめでとうバクシンオー」

「この学級委員長である私がッ!皆の模範的存在ある私がッ!皐月賞を勝ちましたッ!距離延長も不安なしッ!学級委員長として更なる飛躍を遂げたことでしょうッ!あっぱれ私ッ!凄いですよ私ッ!」

「凄いね。きっとみんなも憧れるよ」

「それほどでも~ッ!」

 

 照れるサクラバクシンオー。高村は無表情で拍手をしていた。

 

「次走とか諸々あるけど、今はライブの準備をしようか。それじゃあまた後で」

「はい、トレーナーさんッ!次もこの委員長の走りに期待してくださいねッ!」

「いつも期待しているよ」

 

 そう告げて高村は去っていく。控室で1人、サクラバクシンオーは呟く。

 

「そしていつか、あなたの目に輝きをッ!活力を、私の走りで取り戻してみせましょうッ!そのためにも頑張りますよ~ッ!」

 

 気合を入れるサクラバクシンオー。次なる戦いに向けて、さらに強くなることを胸に誓った。




あまりギャップの凄いキャラを出すなよ。引きたくなるだろ(メインストーリーの感想)。
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