NHKマイルが終わって少し経ち。ミホノブルボンとマスターは対策を練っていた。
「NHKマイルを観たわけだが。率直な意見を聞かせろ、ブルボン」
マスターの問いかけに、ミホノブルボンは淡々と答える。
「強い。ただただ強いと、そう実感しました。間違いなく、皐月賞以上に強かったと」
「クラシック級限定レースとはいえ、2着に6バ身差。しかもマイル戦でだ。あまりにもバカげている」
2人が話題にするのはサクラバクシンオーのことだ。皐月賞で負けた相手、先日開催されたNHKマイルで世代最速の座を掴み取ったスピードスター。サクラバクシンオーは圧倒的な強さで他のウマ娘達を一蹴した。それこそ、皐月賞以上に強いと実感する形で。
(皐月賞からさらに成長しているとは……恐ろしいヤツめ!)
「ただ、サクラバクシンオーの距離不安が取り除かれたわけではない。日本ダービーは2400m……皐月賞以上に厳しい勝負を強いられるだろう」
サクラバクシンオーの次走は日本ダービー。これはNHKマイルのインタビューで本人がハッキリと宣言したことだ。
「無論ッ!次走は日本ダービーですともッ!クラシック三冠レースに出走するのは、模範的な委員長として当然のことですからッ!」
皐月賞からNHKマイル。そして日本ダービー。短い期間でG1レースを詰めて、サクラバクシンオーは出走してくる。だからと言って油断はならないだろう。
(サクラバクシンオーの強さは頭1つ、いや2つは抜けていた。皐月賞をレコード勝ちしたからな……彼女に勝つためには)
「『進言』。更なるトレーニングを要請します」
考え込むマスターに、ミホノブルボンはそう提案する。日本ダービーに向けて更なるトレーニングを積もうとお願いしてきた。
現在のトレーニング量も、他のウマ娘に比べてかなり多い方だ。倍近い量をこなしているだろう。
(しかし、それでもサクラバクシンオーには勝てなかった……)
だから今以上に増やすのも良いかもしれない。だが、それと同時に不安も押し寄せてくる。
(いくらミホノブルボンが頑丈とはいえ、これ以上量を増やすのは危険だ)
ミホノブルボンが故障する可能性だ。これ以上トレーニングの量を増やしたら、ミホノブルボンの身体に悪影響が出てくる可能性がある。だからおいそれと増やすとは言えなかった。
「再度『進言』。更なるトレーニングを要請します、マスター」
返事がないマスターに、さらに詰めてくるミホノブルボン。悩みに悩んだ末、マスターが出した結論は……。
「……少し、考えさせてくれ」
返事の保留だった。
ミホノブルボンの進言を保留にしたマスター。トレーニングについて悩んでいた。
「サクラバクシンオーに勝つために、今以上に鍛えるのは悪いことではないだろう。だが……」
頭によぎるのは故障。無茶なトレーニングが祟って怪我をしてはリベンジどころではなくなる。ただでさえ、今もスパルタトレーニングだというのにだ。
「全く厄介だな……高村聖」
本当に新人か?と疑いたくなる相手。適性皆無と言われたサクラバクシンオーに皐月賞を取らせ、日本ダービーも優勝候補筆頭と言われるまでに育て上げた、史上最年少の天才トレーナー。あの目でなにが見えているのか、聞いてみたいものである。
(……いや待て。ダメもとで聞いてみるのもアリか?)
トレーニング法を教えてくれるとは微塵も思わないが、聞くだけならタダだ。このままトレーニング量をさらに増やすよりも、自分達を負かした相手のトレーニング内容を聞くのは悪い手段ではないはずだ。もしかすると、効率の良いトレーニング法を知っているかもしれない。
「そんな都合の良いトレーニング法があるとは思えんし、あったとして素直に教えるとも思わんがな」
言いながらもマスターは立ち上がる。高村聖のところへと足を運んだ。
結論から言おう。
「いいですよ。お教えしましょう」
「……は?」
「自分達がやっているのは、他のウマ娘にサポートしてもらいながらやるトレーニング法ですね。後はこんな感じの練習を……」
高村聖はあっさりと教えた。別にそれくらい構わないと、二つ返事で了承したのだ。これにはマスターも拍子抜けする。
「……いやいや、そんなにあっさりと教えてもいいのか!?」
自分達がやってきたトレーニングを教えるのだ。それもクラシックレースのライバル相手に。教えるにしても、渋るのが普通だろう。なのに高村はなにも気にしていない。知られても構わないと言わんばかりに教えたのだ。驚きもするだろう。
マスターの言葉に、高村は淡々と答える。
「別に隠すようなものでもないので。なら、教えても構わないと思いました」
「……こちらが強くなるというのにか?」
「それも良いのではないでしょうか。全体のレベルアップは、学園としても望ましいことだと思いますので」
分からない。全くもって分からない相手だった。自分達のトレーニング法を他者に教えることを構わないというのに、それを論文として出そうとはしない。他者に公表しようとしないのは理解ができなかった。隠したいのか隠したくないのか、さっぱり分からない。
「あー……高村トレーナー。1つ良いか?」
「?どうぞ」
「知られても構わないというのに、大々的には公表しないんだな?他のトレーナーも、喉から手が出るほど欲しい情報だと思うぞ?」
疑問を高村にぶつけるマスター。高村は少しの間逡巡した後、またも感情を感じさせない、淡々とした口調で答える。
「まぁ……別に、聞かれなかったので」
「……」
再度絶句。まさか教えなかった理由が、聞かれなかったから教えなかっただけと誰が想像できようか?ただ、次の言葉で納得できた。
「それに、てっきりシンボリルドルフのトレーナーさんが広めたものだと思っていましたので。すぐに広まるだろうと、特に喧伝はしてきませんでした」
高村からしたら、すでに広まっているものだと思っていたのだ。自分のトレーニング法は広まっているものだと。周知されていると思っていた。だからこそ、自分から広めるようなことはしなかったのだろう。現実は、シンボリルドルフのトレーナーはそのトレーニング法を広めなかったわけだが。
「確かにあの人は顔が広いからすぐに広まるものと思うだろうな……すまない、ありがとう」
「いえ、大丈夫です」
話は程々に、高村からトレーニングのことについて色々と教わったマスター。早速実践に移すことにした。
ニシノフラワー。ミホノブルボンとも既知の仲であり、何よりトレーナー同士多少交流があったため、コンタクトを取る。
「……というわけなんだ。どうだろうか?」
ニシノフラワーのトレーナーは少しの間考え込む。考えが纏まった彼は笑顔で答えた。
「いいよ!そのトレーニングの効果にも興味があるし……なによりクラシック路線とティアラ路線で被らない。お互いに切磋琢磨していこう!」
「ッ!ありがたい!」
こうして、ミホノブルボンとニシノフラワーの合同トレーニングが決まった。
「『確認』。フラワーさんとのトレーニングですが、何故急に?」
「他のウマ娘と一緒にトレーニングをすると効率が上がるらしい。ニシノフラワーのトレーナーにお願いして、一緒にトレーニングをすることにした」
「承諾。それでは、共に頑張りましょうフラワーさん」
「はい!お願いしますね!」
「頑張ってね~!フラワー!」
その日のトレーニングは、心なしかいつもよりも捗った気がしたマスターとミホノブルボンだった。
◇
なんというか、ミホノブルボンのトレーナーさんだったりライスシャワーのトレーナーさんだったり。色々と聞いてきたな、トレーニング法。他のウマ娘とのトレーニングについては知らなかったみたいだ。
(てっきりシンボリルドルフのトレーナーさんが教えているものだと思ったけど、そうでもなかったのか)
やはりこういうのは報告すべきなのだろうか?別に隠し立てするようなやましいものでもないし。
「……たづなさんに報告しておこう」
今更遅すぎる気がするが。報告は大事だ。
バクシンオーの調子は──悪くない。疲労も溜まっておらず、日本ダービーには間に合うように調整ができる。心配は杞憂に終わりそうだった。
「今日も元気にバクシンしていきますよみなさんッ!バクシンバクシンバクシンシーンッ!」
「バクシンバクシーン!」
「ばくしーん」
「……バクシンだねぇ」
バクシンオーが先導してトレーニング。今日は瓦割だ。
◇
ライスシャワーのトレーナー、お兄さまは頭を悩ませていた。こちらもミホノブルボンのトレーナーと同じく、サクラバクシンオーのことである。
(NHKマイル……観に行ったはいいけど、サクラバクシンオーの強さを改めて再確認しただけだった。彼女は、同世代の中でも頭が1つも2つも抜けている)
マイル戦で6バ身差。圧倒的だった。
サクラバクシンオーに勝つためにはどうしたらいいのか?そればかりを考えるお兄さまである。
「まず地力をつけるのは当然として……高村トレーナーから教えてもらった、他のウマ娘とのトレーニング。これを実践してみよう」
トレーニングについては光明が見えた。現在ライスシャワーが知り合いのウマ娘に頼んでいるところである。勿論、お兄さまも知り合いのトレーナーに声をかけた。その結果集まったのが。
「よ、よろしくお願いします!」
ライスシャワーと同室のゼンノロブロイ。
「うっらら~!頑張ろうねライスちゃん!」
ライスシャワーと仲の良いハルウララ。そして、お兄さまが知り合いのトレーナーに声をかけた結果。
「はぁい、みんなシクヨロ!一緒に頑張りましょうね!」
「ままま、マルゼンさん!?」
「ライスちゃんが困ってる、って聞いてね。いてもたってもいられなくなっちゃった!」
マルゼンスキーと合同トレーニングすることができた。お兄さまはマルゼンスキーのトレーナーに頭を下げる。
「あ、ありがとうございます先輩!合同トレーニングを許可してくれて」
お兄さまの言葉に、マルゼンスキーのトレーナーは気にしないで、と答える。
「マルゼンにも良い気分転換になるから。一緒に頑張りましょ?」
「……っはい!頑張りましょう!」
こちらも合同トレーニングを行う。日本ダービーに向けて、気合を入れていた。
トレーニング後。トレーニングに付き合ってくれたみんなにお礼を言って別れる。お兄さまとライスシャワーは作戦会議をすることにした。
「日本ダービーも変わらずに行こう。サクラバクシンオーを徹底マークするんだ」
「で、でも……大丈夫かな?バクシンオーさん凄く速いし」
皐月賞を思い出して怖気づくライスシャワー。そんなライスシャワーを安心させるように、お兄さまは自信に満ちた表情でライスの目を見て告げる。
「大丈夫だよ、ライス。ライスはステイヤーだ。距離が長くなればなるほど、ライスには有利になる。逆に、適性の壁を超えたとはいってもバクシンオーはスプリンター……長いほど不利になる」
「日本ダービーは、皐月賞より400m長い……っ」
「そう!その分ライスには有利になる!バクシンオーを徹底的にマークして、彼女のスタミナを減らすんだ!そうすれば、勝ちの目は出てくるはずだ!」
作戦は変わらない。サクラバクシンオーの徹底マーク。それがライスシャワーの強みを活かすための最善の策だと信じて、2人は突き進む。
「頑張ろうライス!一緒に、日本ダービーを獲ろう!」
「……分かった、お兄さま!」
各陣営、気合は十分だった。
映画の前売り券買いますか?私は買います。後RTTTの映画も観に行きます。楽しみで仕方ないぜ。後来月でウマ箱3が揃うぜフヒヒ。