《サクラだサクラだ!日本ダービーの舞台でもサクラが咲き誇った!皐月とNHKマイルに続いて、この日本ダービーでも咲き乱れました!これがサクラバクシンオーの強さです!日本ダービーを制したのはサクラバクシンオー!これで無敗のクラシック二冠!そして、変則三冠を達成しました!おめでとーう!》
《いやはや、凄いですね~!もう彼女をただのスプリンターという人はいないでしょう!これは菊花賞にも期待ができますよ!》
《加えてまたも!またもレコード決着!ダービーレコードを更新する形で勝利しましたサクラバクシンオー!この勢いはどこまで続くのか!?彼女のバクシン街道に目が離せません!》
「すげぇぞー!バクシンオー!」
「お疲れー!頑張ったなー!」
「菊花賞もバクシンしてくれよー!」
東京レース場のいたるところから沸き上がるサクラバクシンオーのコール。コールが響き渡る中、高村はホッと一息ついていた。
(なんとか、勝てたか)
彼の頭にあるのは、最後の直線。ライスシャワーが見せた、あの末脚である。
(ライスシャワーがバクシンオーに追いつこうとしていた時、彼女のステータスが上がっていた……これは、どういうことだ?)
スキルのようなものだろうか?少なくとも、高村自身は一度も見たことがない。未知の事象に、困惑するしかなかった。
「おやぁ?随分と珍しい表情をするじゃあないか、モルモット君」
「……」
「まぁ……ライス君のあの末脚は凄かったねぇ!はてさて、アレは一体何なのか?全てを解き明かしたいところだ!手始めにライス君に「止めておいた方が良い。グル姉を筆頭に生徒会に目をつけられるぞ」さすがに分かっているさ。ま、モルモット君が見当をつけるだろう」
「お疲れ様で~す、バクシンオーさ~ん!帰ったらニンジンジュースが待ってますよ~!桜餅もありますよ~!」
アグネスタキオンは愉快に笑う。果たしてライスシャワーが発揮したあの末脚はなんなのか?それを解き明かす時がたまらないといった感じだ。
そんな中、観客のコールに応えるように、サクラバクシンオーは大きく手を振っていた。
「当然ですともーッ!私、模範的な学級委員長ですからーッ!このまま菊花賞もバクシンしますよーッ!そうですよね~?トレーナーさーーんッ!!」
正確には、とある場所。高村トレーナーがいる場所に向かって大きく手を振っていた。彼に勝利を報せるように、自分が勝ったことを報告するように手を振る。
「……」
考え込んでいた高村だが、サクラバクシンオーが自分に向かって手を振っていることに気づくと小さく手を振り返す。その様子に、サクラバクシンオーはさらに大きく手を振った。
(……
「やはり、シンボリルドルフのトレーナーさんなんだろうな」
「なにがだい?」
「ライスシャワーの末脚の正体。知り合いで、一番知ってそうなのはあの人達だから」
「ほほ~う?もうおおよその見当がついたのかい?」
頷く高村。アグネスタキオンは嬉しそうに表情を歪めた。バクシンオーの控室に向かって、彼女を労おうと撤収しようとする高村達。去り際に。
「いや~、最後はちょっとヒヤッとしたけど、勝ってよかったよな!」
「あぁ!なんたって、トウカイテイオーに続くかもしれねぇんだからな!」
「でもライスシャワーがなぁ。どうなるかね?本当」
「ま~大丈夫っしょ!サクラバクシンオーが勝つって!」
「三冠獲って欲しいよね~。みんな望んでる、っていうか」
そんな言葉を耳にした高村達は、
膝をついて荒い呼吸をするライスシャワー。その胸は悔しさでいっぱいだった。
「あとちょっと……だったのにっ!」
後もう少し、後もう少しでサクラバクシンオーに届きそうだった。残り半バ身の差、その差を埋めることができなかった。後もう少し頑張れば届いたかもしれない差を、ライスシャワーは自分の胸にしっかりと刻みつける。この敗北を糧に、さらに前へと進むために。
(けど……最後の直線)
ライスシャワーの頭に浮かぶのは最後の直線での出来事。あの時は、自分でも驚くくらいの加速ができた。無我夢中で走っていたが、ライスシャワーは確かに覚えている。
(身体の奥底から力が出てくるような……)
「なんだったんだろう……?」
考えても答えは出てこない。ひとまずウイニングライブの準備をするためにターフを後にした。
ライスシャワーと同じく、荒い呼吸を繰り返すミホノブルボンとマチカネタンホイザ。
(3着……!)
「ぶえ~!バクシンオーさんに負けた~!……いや、でも4着!皐月賞よりも頑張った!菊花賞はもっと頑張るぞ~!」
ライスシャワーから遅れること2バ身差で3着のミホノブルボン。クビ差の4着でマチカネタンホイザが入線。最初こそバクシンオーに勝てなかったことに悲観していたタンホイザだったが、自分は着実に進んでいることを実感し、喜んでいた。次こそは勝つと意気込む。
ミホノブルボンは、今回のレースについて分析する。
(今回の敗因……皐月賞と同じでしょう)
「純粋な、スペック不足……!」
全ての能力値がサクラバクシンオーに劣っている。その事実に、ミホノブルボンは拳を強く握りしめた。
サクラバクシンオーの能力値はミホノブルボンの上をいっている。だからこそ、ミホノブルボン以上の巡行ペースでも落ちてこない。それだけの話だ。だからこそ、悔しさも人一倍に感じていた。
単純だからこそ、やるべきことも明確に見えてくる。
「まずは私自身の『スペック向上』……やるべきタスクは明快です。夏合宿、ここで更なるレベルアップを!」
皐月賞ではサクラバクシンオーとの力の差に絶望し、項垂れていたミホノブルボン。だが、もう彼女が下を向くことはないだろう。ただ前だけを見据えて、サクラバクシンオーというライバルに向けて進んでいる。いや、サクラバクシンオーだけではないだろう。
(ライスさんにタンホイザさん。いずれも強力なライバルです……彼女達に負けないためにも、夏合宿は一層励まなければなりません)
クラシックで鎬を削り合っているライバル。彼女達にも目を向けていた。落ち込んでいる暇はない。やるべきことが明確な今、ミホノブルボンはしっかりと前を見ていた。
それを感じ取ったミホノブルボンのトレーナー、マスターは頬が緩む。
(ブルボンは確かに成長している。これは喜ばしいこと……だが)
次の瞬間には表情を引き締める。担当ウマ娘の成長を喜ぶのは良いが、今回自分達は負けてしまった。
「反省を活かして、次に繋げる。菊花賞の前にレースを1つ使いたいところだが……」
次走を考えるマスターだった。
別の場所では、ライスシャワーのトレーナーであるお兄さまもいる。お兄さまは気が抜けたようにへたり込んでいた。
「あ~……もう少しだったのに」
ライスシャワーがあと一歩というところまでサクラバクシンオーを追い詰めた。あと一歩届かなったことに残念さと悔しさを、そこまで追い詰めたことに喜びと次こそはという気持ちを。色んな感情が生まれていた。
(でも、あと一歩ってとこまで来たんだ!これなら菊花賞は……!)
「そうと決まれば、夏合宿の手配をしないと!他の人達の予定が合うと良いんだけどな~……あまり高望みはできないけど、複数人のトレーニングはライスにとっても良い雰囲気でできたし」
こちらも夏合宿に向けて準備を進めていこうとしていた。
一方、マチカネタンホイザのトレーナーはというと。
「お疲れ様~マチタ~ン!よく頑張った、よく頑張ったよ~!次こそリベンジだ~!」
担当ウマ娘を労っていた。その声に気づいたマチカネタンホイザがトレーナーのところへと向かう。
「トレーナーさーん!頑張りましたよ~!」
「うん、頑張った!着実に力はついてるよマチタン!」
「えへへ~、自信になるなぁ。次も頑張るぞ~」
「「おー!」」
そんな2人の様子を、周りのファンは微笑ましい目で見ていた。
◇
「いや~、日本ダービーも制しましたよトレーナーさん!」
「そうだね。おめでとう」
「これでクラシック二冠、さらには変則三冠です!きっとみなさんも私に尊敬の眼差しを向けていることでしょうッ!流石私ッ!流石学級委員長ッ!鼻高々ですッ!」
控室のバクシンオーは元気そうだった。ただ、自分でできるケアはさっきまでやっていたらしい。控室に入った直後、いの一番に異常はないことを報告してきた。
けど、バクシンオー自身も気づいていたようだ。
「しかし、最後の直線はちょ~っと危なかったですね。いえ、まぁ私のバクシンをもってすれば大丈夫でしたが!まるで問題はありませんでしたがッ!ライスさんのあのスピードは少々予想外でしたッ!」
中々良いバクシンでしたねアレは!とライスシャワーを褒め称えるバクシンオー。確かにあれは凄かった。
「あの末脚が菊花賞でも発揮されると、ちょっと厄介だね。頭に入れておかないと」
「そうですね……あぁいえ!勿論負けそうという意味ではありませんよ?私のバクシンの方が上ですともッ!」
「大丈夫、そこは心配してないよ」
しっかりと脚のケアをする。ケアをしている途中、バクシンオーは声高に告げた。
「ま~なんにせよ!これでクラシック二冠、残すところは──菊花賞のみですッ!菊花賞もバクシンしますよ~バクシンバクシーン!」
「その辺の話はまた後日にしようか。前哨戦とか、まぁ色々と」
「はいッ!ご安心くださいトレーナーさん!私のバクシンとトレーナーさんの指導があれば、菊花賞も勝てますッ!断言しましょうッ!」
「うん、ありがとうね」
「それにキタさん達もいますからねッ!私が負ける道理はありませんともッ!ハーッハッハッハ!」
本当に、いつも自信に溢れている子だなぁ。ちょっと羨ましい。
その後は無事にウイニングライブも済ませた。身体にも異常はない。
(ライスシャワーのあの力……予想が正しければ)
アプリにおける、
「固有スキル、なんだろうな」
漫画とかだと別の言い方だったような気がする。確か、
(課題は山積みだな。とにかく夏合宿だ、夏合宿でバクシンオーをさらに鍛える……菊花賞を確実に勝つために)
そう誓って、残っている仕事を片付けた。ロイヤルビタージュースを片手に。
「……本当にマズいなコレ。疲れは取れるけど」
ただ、ちょっと飲み慣れてきた自分がいる。
さらっといつも飲んでたロイヤルビタージュース。お前が飲むのか……。