夏合宿の日々はあっという間に過ぎていく。
「今の私のバクシン力ならば、きっと水上バクシン理論も可能でしょうッ!いざバクシーーーンッ!」
「あぁ!?またバクシンオーさんが海に向かって「理論上、水上を走ることは可能。水上を走ることができれば、最強の証明にも繋がる……行くぞ!」ドゥラさんも行かないで!?」
「毎度毎度助けるこっちの身にもなって欲しいねぇ」
「元気があっていいじゃないか、アグネスタキオン」
「会長は止めて欲しいんだが?」
相変わらず水上バクシン理論を敢行するサクラバクシンオー。たまに参加するドゥラメンテ。必死に止めるキタサンブラックが最早恒例となっていた。
<これ、トレーニング!こうすればもっと効率化!よろし?>
「……凄いね、お友だちさん。本当にどういう存在なの?」
「お友だちは……凄く、速いので。きっと、良いトレーニング法なんかを、知ってるんだと、思います」
相変わらず高村はマンハッタンカフェのお友だちに懐かれていた。簡単な意思疎通も取れるようになり、お友だち考案のトレーニング理論を聞いたりして驚いている。
<コーナリング、こう!脚さばき、こう!>
「ちょわぁっ!?なんかラップ音がするのですがッ!まさか、あまりの模範的な走りに幽霊さんすら憧れてしまいましたかッ!」
「上手いコーナリングの仕方とか教えるよ。まずは……」
たまに直接指導したりしていた。もっとも、声が聞こえるのはマンハッタンカフェと高村ぐらいなので通訳必須なのだが。
トレーニングでは基本的にサクラバクシンオーが先頭に立っていることが多い。
「さぁみなさん!委員長に続いてくださいッ!バクシンバクシーーーンッッ!」
「バッッックシーーンッ!」
「バクシーーン」
慣れているキタサンブラックにドゥラメンテ。
「ばっくし~ん♪」
楽しそうに参加するサトノダイヤモンド。
「慣れると楽しいよね~。テイテイオー!」
「掛け声が変わってるぞ、テイオー。だが、悪くない」
オリジナルの掛け声を作るトウカイテイオーに、その様子を微笑ましい目で見るシンボリルドルフ。そして。
「……タキオン、さん。なんですか、これは」
「諦めたまえカフェ。こうなった以上、我々もバクシンするしかないんだよ」
戸惑うマンハッタンカフェと、諦めきった表情をするアグネスタキオンである。最初の方はただ黙々とついていくだけだったが、次第にノれない自分の方が悪いのではないか?という思考に陥り……
「なんですか……バクシンって……」
諦めてサクラバクシンオーに続くマンハッタンカフェである。
週末の併走も充実した時間を過ごしている。
「いいかサクラバクシンオー!このプレッシャーに慣れろ!君は誰からも警戒されるウマ娘になっている!本番は、このプレッシャーの比じゃないぞ!」
「バックシーーーンッッ!」
「テイオーもだ!力をつけたからといって油断はするな!油断したら足元を掬われることになるぞ!」
「分かってる、よッ!」
「いいねいいねぇ!会長と委員長君達の本気の併走!あぁ、データ収集が捗るよ!」
シンボリルドルフがサクラバクシンオーとトウカイテイオーに指導をする。アグネスタキオンは計測係、他のメンバーは併走を休んでいる間にドリンクとタオルの用意だ。
併走を見ながら、高村はまめにノートを取る。
(多分、あのプレッシャーは赤スキルのようなものか。というか、圧が凄いな。ウマ娘3人分くらいはありそう)
「ルドルフの指導にも熱が入ってる。自分が持っている技術を2人に叩き込むつもりだね」
「ですね」
トレーナー陣も満足げな表情を浮かべた。
そんな合宿も終わりの時が近づく。
「ねーねー!せっかくだからさ~……みんなで夏祭り行こうよ!」
きっかけはトウカイテイオーの提案。毎年夏合宿の終わりが近い日に、近くの神社で夏祭りが開かれているとのこと。その夏祭りに行こう!という提案だった。
彼女の提案を聞いて、全員が一斉にトレーナー2人を見る。シンボリルドルフのトレーナーは困り顔で、高村トレーナーは特に困った様子を見せず。
「まぁ、いっか!みんな頑張ってたし、息抜きしないと!」
「いいよ。夜だし、合宿所だと何もないからね。思いっきり羽を伸ばしておいで」
「いや、君も行くんだよ聖トレーナー。引率がいないと」
「……それもそうか」
「「「やったやったー!」」」
トレーナー達のお許しが出たことで、トウカイテイオー達は大はしゃぎである。シンボリルドルフはトレーナー達と似たような表情を浮かべていた。こうして、夏祭りに行くことが決定した高村達である。ちなみに、ライスシャワーやミホノブルボン陣営もたまの休みということで夏祭りに行くことになっていた。
◇
「さぁキタちゃん!ワガハイに続け~!」
「待ってくださいテイオーさん!あっちの盆踊りとか楽しそうですよ!」
「2人とも~、あまり離れないでね~!」
「あまり人混みは得意じゃないのだがねぇ。何か買ってきたまえよモルモット君」
「せめて何か指定してくれたら買ってくるよ」
「型抜き……型抜き……!」
「ドゥラメンテさん、もうちょっと力を抜いたほうが……」
夏祭りへとやってきた高村一行。早速バラバラに行動しようとしているが。
「待つんだテイオー。あまり遠くに行かないように」
「う゛っ……は~い」
「そうですッ!ここは学級委員長にお任せをッ!全部の屋台を回れるようにいざッ!バクシーーンッ!」
「君も落ち着くんだ、サクラバクシンオー。慌てなくても屋台は逃げないよ」
さすがはシンボリルドルフといったところか、メンバーを上手くまとめていた。高村とシンボリルドルフのトレーナー、そしてシンボリルドルフの3人で他のメンバーをしっかりと見守る。
「やや?あそこは金魚すくいですねッ!私の華麗なテクニックを見せてあげましょうッ!バクシーーンッ!」
「自分がついていきます。バクシンオー、走るのは学級委員長的によろしくないから止めようか」
「はいッ!止めますッ!」
「ねーねーカイチョー!一緒に綿あめ食べようよ~!」
「仕方ないな。ほら、はぐれないように手を繋ごうか」
「やったー!」
「ぐぐぐ……ぐぬぬ……っ!」
「凄く熱中してるね……好きなの?型抜き」
メンバーがはぐれたりしないように、保護者3人がしっかりと見張っていた。
夏祭りに来てから少し経ち。そろそろ花火が上がるということで開けた場所で落ち着くことにした一行。
「ここなら見やすいんじゃないかな?合宿所にも程よく近いし」
「確かに、ここなら申し分ないね。ここで花火を見ようと思うのだが……だ、大丈夫か?マンハッタンカフェ、アグネスタキオン」
「ひ……人に……酔い、ました……」
「き、奇遇だねぇカ~フェ~。私もだよ……」
<カフェ!しっかり!しっかり!カフェ!>
人ごみでダウンしたマンハッタンカフェとアグネスタキオン。2人を早々に座らせて花火が上がるのを待つ。
「お腹が空いたら言って。屋台の食べ物は一通り網羅したから」
「ダメそうなら委員長手ずから食べさせましょうッ!はいタキオンさん!あ~んッ!」
「だ、大丈夫だねぇ……今はゆっくりさせてくれ……」
「そっとしてあげて、バクシンオー」
高村達がそんなやり取りをしていると──大きな音と共に夜空の明るさが増した。
「わぁっ!」
「ややっ!」
「ほう、これは……」
「綺麗です!」
夜の空を、色とりどりの花火が彩る。その光景に全員が目を奪われた。
「いや~綺麗ですねトレーナーさんッ!」
「……そうだね」
しばらくの間、声を出すことも忘れて空を見上げる高村達だった。
花火も終わり、解散の時間となった。
「花火も見終わったことだし、私はもう帰るよ……どっと疲れた」
「私も……です……」
<カフェ、だいじょぶ?>
「大丈夫……でも、もう休みたい……」
「合宿所までそう遠くはない。もう少し頑張ろうか」
「型抜き……」
「ま、また来年チャレンジしようねドゥラさん!」
ウマ娘達は合宿所へと戻る。トレーナー2人も宿舎に戻ろうとするが。
「トレーナーさん、少し2人でよろしいでしょうかッ!」
高村はサクラバクシンオーに呼び止められる。
「じゃあ、俺は先に帰ってるね」
「はい、お願いします」
シンボリルドルフのトレーナーは先に戻り、高村はサクラバクシンオーと2人で話をすることに。ただ、もう遅い時間なので手短に済ませようとする高村。
「それで、どうかしたの?バクシンオー」
高村の言葉に、サクラバクシンオーは元気よく答える。
「はいッ!私、スプリンターズステークスも菊花賞も勝ちますねッ!トレーナーさんに、必ずや勝利を届けます!それだけですッ!」
どうやら、レースの勝利宣言のようだった。心の中で苦笑いしつつ、高村はサクラバクシンオーの言葉に答える。
「うん、頑張っておいで」
「はいッ!誰が相手でも負けませんともッ!さぁ、明日に備えて早めの就寝ですッ!」
サクラバクシンオーは去っていき、高村も帰路についた。
◇
そうして夏合宿も終わり、また学園での日々が始まる。
「今日からまた学園での生活が始まりますよ!気が緩んだままにならないよう、しっかりと気を引き締めていきましょうッ!」
「おっはよ~委員長~」
「はいッ!おはようございますッ!」
そして、サクラバクシンオーの次走が大々的に公表された。
【サクラバクシンオーの次走はスプリンターズステークス!?SMILE区分全制覇を視野に!】
【菊花賞の前にスプリンターズステークス!前代未聞の異質ローテ!】
【最速の戦いから世代最強の座へ!しかし不安視する声多数】
【桜花賞ウマ娘ニシノフラワーも参戦!スプリンターズステークスは混戦模様!】
【ケイエスミラクルは不明。安田記念覇者ヤマニンゼファーはスプリンターズステークスへ!】
【ダイタクヘリオスとダイイチルビーは出走回避!スプリンターズステークスは混戦必至!】
変則三冠ウマ娘のサクラバクシンオーがスプリンターズステークスに出走してくる。このニュースに世間は大賑わいだった。
「おいおい……いくら何でも無茶苦茶だろ」
「前哨戦にならねぇぞ?何考えてんだ?」
「変則三冠ウマ娘がスプリントに殴り込み、ねぇ」
「出れるから出よ~ってことなんじゃないの?いくら短距離G1とはいえ、ねぇ?」
ただ、否定的な声が多数。変則三冠ウマ娘が短距離のレースに出てくるなど前代未聞、前例のないことだから当然だった。ただ、非難の声をトレーナーである高村は意に介さない。サクラバクシンオーの次走はスプリンターズステークスに決定したと宣言する。
陣営の意図が読めず、勝手に落胆するファン。しかし、彼らは忘れていたのだ。ジュニア級の頃は短距離の重賞で凄まじい結果を残していたことを。無敗の変則三冠のインパクトが強すぎて、記憶の彼方に追いやったことを。
そしてファンは、スプリンターズステークスで思い出す。
次回はスプリンターズステークス。