最速×無敵=驀進王   作:カニ漁船

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ゼファーが難しすぎる問題。


スプリンターズSをバクシン!

 中山レース場。秋のG1戦線、その始まりを告げる最初のG1レース、スプリンターズステークスが開催されようとしていた。

 

「ケイエスミラクルは直前で出走取消かぁ……でも、キーンランドカップの走りは圧巻だったな!」

「あぁ、無事にターフに戻ってきてくれて嬉しいよ……!」

「後は、ヤマニンゼファーだよな。前回はダイイチルビーに負けたけど、今回こそは!」

 

 シニア級で注目されているのは、ヤマニンゼファー。前回のスプリンターズステークスで勝ちウマ娘であるダイイチルビーに敗戦しており、2度目の挑戦となる。しかし、調子を落としており、陣営もあまり良い表情はしていなかったのが記憶に新しい。ケイエスミラクルは元々出走を予定していたが、調子を落としていたため出走は見送りとなった。

 

「クラシックだと、やっぱりニシノフラワーだよな!桜花賞ウマ娘が参戦!」

「桜花賞でもかなり速かったもんなぁ。あんなに小さいのに」

「長い距離よりも短い距離の方が合っているらしいし、もしかしたらワンチャンあるんじゃないか?」

 

 クラシック路線で注目されているのはニシノフラワー。ティアラ戦線は早々に離脱し、距離の短いスプリンターズステークスの方に出走してきた。こちらは好調であり、上位に食い込んでくるだろうと目されている。

 そしてもう1人……サクラバクシンオーの存在があった。

 

「後は、あ~……バクシンオーだよな」

「前代未聞だぞ?三冠がかかってるってのに」

「私達の常識じゃ測れない陣営だよね~」

 

 サクラバクシンオーはこのスプリンターズステークスと菊花賞、両方に出走を表明しており、最速を決める電撃のスプリント戦から世代の頂点、最も強いウマ娘が勝つ菊花賞へ直行するローテを組んでいた。今までそんなローテを組んだウマ娘は1人もいないし、なにより組もうとも思わないだろう。短距離から長距離までまんべんなくこなすことになるのだから。

 それでもと。やはり期待はあるのか、スプリンターズステークス1番人気はサクラバクシンオーである。2番人気にニシノフラワー、3番人気のヤマニンゼファーと並んでいた。

 シニア級の最有力候補であるヤマニンゼファーは静かに佇む。

 

(私の風は……あまりよろしくありませんね)

「ですが、全力を出すほかありませんね。今、私が出せる風を……」

 

 調子が悪いなりに全力を出すことを誓うヤマニンゼファー。その風格に、周りのウマ娘は委縮する。ヤマニンゼファーは身体の調子を整える中で、ニシノフラワーを視界に捉え──微笑む。

 

(まだまだ優しい花風……ですが、確かに感じる頚風)

「鮮烈ですね。新しい時代の先触の風は、常に吹き続けている」

 

 新しい時代を彩るウマ娘達は常に生まれ続けるのだと実感するヤマニンゼファー。ニシノフラワーを見て、彼女はそう確信していた。

 

(そしてもう1人……このレースにおける、台風)

「さぁさぁ!委員長の登場ですッ!バックシーーーンッ!」

 

 いつものように気合十分といった様子で飛び込んできたウマ娘、サクラバクシンオー。変則三冠を達成し、現在最も勢いに乗っているウマ娘の1人として紹介されていた。

 サクラバクシンオーを見て、ヤマニンゼファーは──身体が震える。

 

(なんという俄風……ここにいてもひしひしと感じます。彼女の強さを)

 

 怪我で出走を回避したダイイチルビー、調子を落としたために大事を取って出走を取り止めたケイエスミラクル、違うレースに出走するからとスプリンターズステークスには出走しなかったダイタクヘリオス。スプリント路線で活躍しているシニア級のウマ娘は全員、サクラバクシンオーを警戒している。それだけの実力が、彼女にはあるのだ。

 

 

 ウォーミングアップを終えて、各ウマ娘がゲートへと入る。ヤマニンゼファーは6枠、ニシノフラワーは4枠、サクラバクシンオーは8枠からの出走となった。

 

《秋のG1戦線開幕を告げる電撃戦、スプリンターズステークス!最速を決める戦いの幕が今上がろうとしています!芝1200m、芝の状態は良バ場、晴れでの出走!今回注目されているのは、やはりサクラバクシンオーでしょうか?》

《そうですねぇ。現在変則三冠を達成しているサクラバクシンオー。ただ、彼女は本来スプリンターと評価されていましたから。このスプリンターズステークスに出走してくるのも、ある意味納得がいくものかもしれません》

《そして他の注目ウマ娘は安田記念覇者のヤマニンゼファーに桜花賞ウマ娘のニシノフラワー!ニシノフラワーはサクラバクシンオーと同じくクラシック級からの参戦です!》

《彼女は距離の短い方が合っていますからね。好走が期待できますよ》

 

 そして、最後のウマ娘がゲートに収まる。観客の声もぴたりと止み、全員が発走の時を心待ちにしていた。

 

《ニシノフラワーがどこまでいけるかも期待したいところですね!さぁそして今、最後のウマ娘がゲートに入りました。ゲートに入って……っ、スタートしました!》

 

 ゲートが開いてウマ娘達が一斉に駆け出す。中山1200m、スプリンターズステークスが始まった。

 

 

 

 

 

 

《最初に飛び出したのはっ、サクラバクシンオー!サクラバクシンオーだ!全員揃って綺麗なスタート、しかし!サクラバクシンオーが外から猛然と飛び出してくる!》

「バクシンバクシンバクシーーーンッ!」

《激しい先行争い。8枠から飛び出してきたサクラバクシンオー!これは凄いスピード!?ヤマニンゼファーは前目の位置、ニシノフラワーは少しもたついているか?中団につけようとしている!ポジション争いが熾烈な中、サクラバクシンオーも前目の位置!ヤマニンゼファーとサクラバクシンオーが前につける!》

 

 スプリンターズステークスの開幕は逃げウマ娘2人が飛び出す形。ただ、距離が短いためにほとんど団子状態。差が詰まることはあっても開くことはないだろう。サクラバクシンオーは現在逃げウマ娘2人から1バ身程離れた先行集団。ここにはヤマニンゼファーもつけている。ニシノフラワーはスタートこそ良かったものの、その後もたついたためか中団に位置することになった。

 

(いつもより後ろだけど、問題ないです!)

 

 ただ、ニシノフラワーに焦りはない。虎視眈々と前を狙っていた。

 先行集団の一番外につけるサクラバクシンオー。そのすぐ隣にはヤマニンゼファーがいた。

 

(おそらくですが、動き出しは同じになるでしょう。そうなると、どちらの風がより鮮烈かの勝負になります)

「あなたの風と私の風……どちらが上か」

「バクシンバクシーンッ!」

 

 第3コーナーへと入っていくウマ娘達。観客は声援を送り続けている中、レースを観戦しに来ていたケイエスミラクルとダイイチルビー、そしてダイタクヘリオス。3人はとあるウマ娘に注目していた。

 

「お嬢と観戦デート!そしてミラてんともお出かけでテンションペガサス昇天MIXメガ盛り!バイブスぶち「此度のスプリンターズステークス……どう見ますか?ミラクルさん」塩い!無視はぱおん!」

「あ、あはは……そうだねルビー。やっぱり、バクシンオーかな?」

「お、ミラクルてんて~それ分かりみ!っぱちゃんバクはパないよね~。オーラがマジヤバたん!」

「私と同じですね。あの方は……凄まじい。今後の短距離路線を席巻するようなウマ娘となるでしょう」

 

 そのウマ娘──サクラバクシンオーは現在先行集団から徐々に抜け出そうとしていた。それにヤマニンゼファーも続く。2人による追い比べ、逃げウマ娘を捕まえようとしていた。

 

 

 サクラバクシンオーと追い比べているヤマニンゼファーは彼女の強さを実感していた。間違いなく、自分達と同じところまできていると。

 

(クラシック級でありながら、シニア級である私達と遜色ない実力……よくぞここまで鍛え上げたものです)

《まもなく第4コーナー!第4コーナーでサクラバクシンオーとヤマニンゼファー、2人のウマ娘が先頭2人を捕まえた!逃げウマ娘2人に並びますサクラバクシンオーとヤマニンゼファー!そして中団からはニシノフラワーが鋭い末脚を伸ばしている!》

《他のウマ娘もペースアップしていますね。さぁここからが勝負どころ!》

《中山の直線は短いぞ!後ろのウマ娘達も追いつきたいところ!》

 

 第4コーナーで早々に逃げウマ娘2人を捕まえる2人。追い比べは続いていった。後続との差をつけようと、さらにペースアップをした。

 今度は内のヤマニンゼファーと外のサクラバクシンオーが集団を引っ張る。その中でニシノフラワーは先行集団の先頭につけようとしていた。

 

(密集の団子状態。バクシンオーさん達ともそんなに離れてない。大丈夫、いけます!)

 

 最後の直線に向けて脚を溜め始めるニシノフラワー。まだそこまで差がついていないので十分差し切れると判断する。

 

 

 そして迎えた最後の直線。

 

《最後の直線を迎えました!先頭はヤマニンゼファーとサクラバクシンオー!この2人による追い比べ!ここでニシノフラワーもギアを上げてきたか、ニシノフラワーも上がってくる!最後の直線、中山の坂が待ち受ける!》

《おっと、ニシノフラワーこれは凄い末脚ですね!前2人は結構なペースで飛ばしてました。これは大丈夫か?》

《さぁヤマニンゼファーとサクラバクシンオー!この2人による追い比べにニシノフラワーが加わるか!?ニシノフラワーが襲い掛かるが……!》

 

 ニシノフラワーがその末脚を爆発させる。その頃先頭では──目を疑うような光景が広がっていた。

 

「く……ッ!?」

「バクシンバクシーーンッ!」

 

 ヤマニンゼファーとサクラバクシンオー、2人による追い比べ。勝負は──サクラバクシンオーがヤマニンゼファーを徐々に離していくという結果になっていた。

 ヤマニンゼファーもかなりのスピードである。3番手のニシノフラワーは追いすがろうとしているが、4番手以下は離されるばかり。上位3人のスピードがいかに突出しているかが良く分かる。だが、それだけのスピードを出しているにもかかわらず、ヤマニンゼファーとサクラバクシンオーの差は開きつつあった。

 これには観客も、ダイタクヘリオス達も驚く。ダイイチルビーでさえも目を見開いていた。

 

「うぇ~!?マジぽん!?ちゃんバクありえんティー強くね!?」

「……少々、見誤っていました。まさか、あれほどとは」

「しかも、()()()()()()()()。そんな状態で、ゼファーとの追い比べを制してる……!」

「ゆ、ゆ~てゼファっちも短距離鬼得意ってことでもないし?バイブスブチ上げ状態でもないから……いや、それでもマジやべーっしょ!?」

 

 少しずつヤマニンゼファーを突き放すサクラバクシンオー。この結果に驚いているのは、ヤマニンゼファーもだった。

 

(なんと鮮烈な風……!あまりにも強烈な俄風!まさしく暴風!)

 

 少しずつ、着実に差が開いていく。ヤマニンゼファーも必死に追いすがるが、サクラバクシンオーは関係ないとばかりに突き進んでいた。

 ニシノフラワーもヤマニンゼファーに追いつこうとする。しかし。

 

(このペースじゃあ、追いつけない!ゼファーさんは、ここまで強いんですか!)

 

 ヤマニンゼファーとの差は着実に縮まりつつある。だが今のペースだと追いつけないと判断していた。

 

(……じゃあ、そんな先輩を引き離しているバクシンオーさんは)

「どれほどの強さを……!」

《ニシノフラワーが上がってくる!ニシノフラワーがヤマニンゼファーとの差を詰める!しかしこの差は厳しいか!?4番手以下はもう無理!これは届かない!先頭はサクラバクシンオー、ヤマニンゼファーとの差をさらに広げていく!恐ろしい強さだ、恐ろしい強さだ!?これが変則三冠ウマ娘の強さなのか!?》

《や、安田記念覇者のヤマニンゼファーをここまで……!》

《サクラバクシンオー!サクラバクシンオーだ!サクラバクシンオーが突き抜ける!残り100を切りました!サクラバクシンオーの先頭は変わらない!2番手ヤマニンゼファーとの差は2バ身!ニシノフラワーはヤマニンゼファーの3バ身後ろ!これはもう決まったウイニングランだ!》

 

 サクラバクシンオーがゴール板を通過する。スプリンターズステークスを制し、最速の座を掴んだのは。

 

「バクシン的勝利ッ!ですッッ!!」

《サクラバクシンオーーーーッ!スプリンターズステークスを制したのはサクラバクシンオーだ!最後の直線でヤマニンゼファーを突き放す、圧倒的スピードを見せつけた!サクラバクシンオーが最速の座を掴みました!》

《ヤマニンゼファーは不調気味だったとはいえ、それでもこの結果は凄いという他ないでしょう!サクラバクシンオー、お見事です!》

《2着は2と半バ身差でヤマニンゼファー!3着はヤマニンゼファーから遅れること3バ身差でニシノフラワーです!クラシック級の変則三冠ウマ娘が、電撃のG1スプリントを制しました!》

 

 サクラバクシンオー。見事にスプリンターズステークスを制した。

 

「ま、マジかよ……!ヤマニンゼファーも速かったのに!」

「サクラバクシンオーは、それ以上に速いってこと!?」

「ただ、ヤマニンゼファーは不調。それに短距離もダイイチルビーとかに比べれば得意って程でもない。いや、それにしたって!」

「……つか、思い出した!サクラバクシンオーって、()()()()()()()()じゃねぇか!?」

 

 この勝利で、観客は思い出し気づかされる。サクラバクシンオーが最も得意とする距離は短距離なのだと。短距離において、彼女の強さは()()なのだと。クラシック級ながら安田記念覇者でシニア級のヤマニンゼファーを下したことで、そう認識していた。

 

「トレーナーさーん!見てますかー?私達のバクシン的勝利ですよーーッッ!」

 

 サクラバクシンオーの言葉に、わずかに目を見開きながらも手を振り返す高村。サクラバクシンオーは笑顔を浮かべていた。

 その様子を見て、ヤマニンゼファーは思う。

 

(なんと荒々しい俄風でしょうか……ですが、あの暴風の中でも確かに感じた)

「寂しさを感じさせる凪。あの方の胸中には、一体何があるというのでしょうか?」

 

 サクラバクシンオーの風に確かに感じた寂しさ。その正体について考える。

 

「……もしや」

 

 考えて、一つの可能性に思い至る。だが、それは現時点でどうしようもないもので。

 

「私もまた、盆東風ですね」

 

 心機一転、次なる戦いに向けて準備を整えることにした。




勝因 適性と調子とバクシン
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