開幕した菊花賞。まず飛び出したのは逃げウマ娘であるミホノブルボンとザンバーハ、そしてサクラバクシンオーとライスシャワーの4人である。熾烈なハナの取り合いになるかと思われたが、先頭に立ったのはミホノブルボンだ。ザンバーハがミホノブルボンに競り合うように位置取り、サクラバクシンオーはミホノブルボンの1バ身後ろ。ライスシャワーはサクラバクシンオーを見るように半バ身後ろの位置である。
ライスシャワーは変わらず、サクラバクシンオーを徹底マークする形。日本ダービーと同じ作戦だ。ただ、彼女が放っているプレッシャーは日本ダービー以上である。
(少しの隙も見逃さない……バクシンオーさんにプレッシャーをかけ続ける!)
ライスシャワーに追いつくように、数名のウマ娘が上がってくる。気づけば、サクラバクシンオーを先頭とした5人が先行集団を形成していた。
《最初の坂を越えて次は1周目の第4コーナーへと入ります。先頭はミホノブルボン!やはり彼女がペースメーカーとなるのか!》
《正確なラップタイムを刻む彼女をペースメーカーにするウマ娘は多いでしょう。しかし、それは陣営も想定済み。ここからどのような策が飛び出してくるのか?》
《そしてミホノブルボンに競り合うようにザンバーハ、ザンバーハがついています。ザンバーハから1バ身、いや2バ身程離れてこの位置だ。この位置にサクラバクシンオーがつけています。1番人気サクラバクシンオーはこの位置!》
《先行集団の先頭に立っていますね。落ち着いてレースをしていますよ》
《サクラバクシンオーをマークするようにライスシャワー。日本ダービーでサクラバクシンオーを追い詰めたライスシャワーが怖い位置につけている!彼女のマークの怖さは日本ダービーで証明済み、この菊花賞でも徹底マーク!まもなく1周目のホームストレッチ!ウマ娘達が菊の舞台を駆け抜けます!》
5人が形成する先行集団の最後尾、ウィズカスパールから2バ身離れてオボロイブニングを先頭にした中団を形成。セントライト記念の勝ちウマ娘、マチカネタンホイザは中団のさらに後ろ、後方集団につけていた。1周目の第4コーナーを抜けてウマ娘達がホームストレッチへと入ってきた瞬間、歓声が上がる。
「頑張れ~!バクシンオー!」
「応援してるぞ~!」
「調子良さそうだな!今日もバクシンしてくれ~!」
そのほとんどがサクラバクシンオーに対する声援。菊花賞を観ているライスシャワーのトレーナー、お兄さまはグッと拳を握る。
(頑張れライス……できるだけのことはやった。後は結果を出すだけだ!)
「が、頑張ってくださ~い、ライスさ~ん!」
「がんばれライスちゃ~ん!」
ただ、お兄さまの近くでゼンノロブロイとハルウララがライスシャワーに声援を送る。友達としてエールを送っていた。
ミホノブルボンのトレーナーはただレースを静観する。その目に揺らぎはない。己の担当ウマ娘の勝利を信じている瞳だった。
(やれるだけのことはやった。後は結果を出すだけだ!)
「周りなど関係ない、お前の成すべきことを成せ!」
檄を飛ばすように声を上げるマスター。
レースを見守るシンボリルドルフ達。彼女達は冷静にレースを分析していた。
「各々がつきたい位置につけたね」
「そうだな……ミホノブルボンに競りかけているザンバーハ。彼女が焦らせるように揺さぶるが、ミホノブルボンは意に介していない」
「自分のペースを守ってる、って感じだね~」
第1コーナーを曲がって第2コーナーへと入る先頭。外にいるザンバーハが内のミホノブルボンに競りかけているが、ミホノブルボンは全く動じていない。自分のペースを逸脱しないように走っている。ザンバーハからすればやりにくいことこの上ないだろう。自分だけが焦っていくのだから。
「バクシンオーは好位置だね。ただ、ダービーと同じでライスがつけてる」
「ダービーと同じ戦法ね!間違ってはないんじゃないかしら?」
「実際、あの戦法で追い詰めたわけだからね。間違ってたわけじゃないと思うよ」
第2コーナーを見事なコーナリングで曲がるサクラバクシンオー。外に膨らみつつある多くのウマ娘とは違い、彼女のコーナリング技術は目を見張るものだった。これにはシンボリルドルフも鼻高々である。
「ふふ、しっかりと夏合宿の教えが活きているな」
「嬉しそうだねぇ、ルドルフ。さて、ライスは……ありゃ、ちょっと膨らんじゃってるね」
「だ、大丈夫よ!ライスちゃんはここからなんだから!」
依然として徹底マークの構えを取るライスシャワー。普通のウマ娘ならばひとたまりもないようなプレッシャーだった。サクラバクシンオーもこれは苦しいだろうと感じる人が多い。
《第2コーナーを抜けて向こう正面へと入ります。レースは縦長の展開!先頭はミホノブルボンに変わってザンバーハ!ザンバーハが先頭に立ちます!》
《これは少し焦っているかもしれませんね。落ち着きを取り戻せると良いのですが》
その頃先頭では、ザンバーハがミホノブルボンよりも前に出た。ただ、表情には焦りが見えている。ザンバーハは掛かっていた。しかし、ミホノブルボンはそれを一瞥して、すぐに自分の走りに集中する。
《ミホノブルボンは落ち着いていますね。ミホノブルボンは無理に競りかけない!じわりじわりとザンバーハとミホノブルボンの差が広がります!ミホノブルボンの2バ身後ろにはサクラバクシンオー、サクラバクシンオーがいます!》
《サクラバクシンオーも落ち着いています。虎視眈々と機会を窺っていますね》
《サクラバクシンオーを徹底マークするライスシャワーは現在4番手、サクラバクシンオーの半バ身後ろ!ライスシャワーと並ぶようにゴーイングノーブル、ジュエルアメジスト!外からはステイシャーリーンが先行集団に食らいつこうと上がってきました!》
ザンバーハが焦るように前へ。ミホノブルボンは自分のペースを崩さない。サクラバクシンオーはただ機会を窺い、ライスシャワーはサクラバクシンオーの動き出しに合わせる準備をする。マチカネタンホイザはまだ後方集団に控えていた。
その様子を見て、高村は淡々とノートにペンを走らせる。
(……さて、特に何かが起きてるわけでもないけど)
「勝負は淀の坂を越えてから、か」
そう呟いて、レースを観戦していた。
◇
ライスシャワーは改めてサクラバクシンオーの強さを実感していた。
(本当に、バクシンオーさんは強い……!後ろをずっとついていくだけでも、かなりキツい!)
それでも落ちないあたり、ライスシャワーの地力も上がっている証拠だろう。現在ライスシャワーは4番手の位置、サクラバクシンオーとは半バ身程離れていた。
《まもなく第3コーナーのカーブ!淀の坂を越えていきます!先頭はザンバーハ、2バ身後ろにミホノブルボンが走っています!》
《ザンバーハも粘っていますね。しかしミホノブルボンの方が上手か?》
《そして差を詰めてきましたサクラバクシンオー!3番手サクラバクシンオーがミホノブルボンのすぐ後ろにつけようとしている!ペースはやや速め、ライスシャワーもピッタリとマーク!後方集団からはマチカネタンホイザが先行集団に襲い掛かろうとしている!マチカネタンホイザがグイグイ上がって来たぞ!》
サクラバクシンオーもミホノブルボンとの差を詰める。ミホノブルボンは譲る……はずもなく。サクラバクシンオーとの追い比べが始まった。
「抜かせませんっ!」
「勝負ですね?受けて立ちますともッ!」
淀の坂を上りながらミホノブルボンとサクラバクシンオーが競り合う。内のサクラバクシンオーと外のミホノブルボン。サクラバクシンオーはコーナリング技術を駆使して優位に立っていた。
「さっきも思ったけど、コーナリング上手過ぎでしょバクシンオーちゃん!やりすぎよルドルフ!」
「そ、そんなこと言われてもな……」
必死に食らいつこうとするミホノブルボン。しかし、内を走るサクラバクシンオーの優位は揺らがず、少しずつ差が開こうとしていた。
だが、そうはさせまいと歯を食いしばって粘る。
(これ以上、差を広げさせません!)
淀の坂を越えて、今度は下りに入る。
《淀の坂を上って、今度は下ります!先頭はザンバーハですが、さすがに苦しいか!ミホノブルボンとサクラバクシンオーが迫りくる!もう差はないぞ、ミホノブルボンとサクラバクシンオーが追い上げてきた!》
《さすがにこれ以上は苦しいか?必死に粘っていますが》
《第4コーナーを迎える先頭集団!ここで先頭がミホノブルボンとサクラバクシンオーに変わります!サクラバクシンオーの後ろにはライスシャワーがピッタリとマーク!そろそろ動き出したいところ、マチカネタンホイザも上がってきてるぞ!》
第4コーナーでサクラバクシンオーとミホノブルボンが先頭に立つ、が。
「ぐ……くぅ……ッ!」
「バクシンバクシーンッ!まだまだいけますよーッ!」
旗色が悪いのはミホノブルボン側だった。サクラバクシンオーが優位に立つ。その光景にマスターは悔しさをにじませる。
「まだだ……!まだ、勝負は決まってない!勝て!勝つんだブルボン!」
それでも。ミホノブルボンの勝利を信じて檄を飛ばす。ミホノブルボンは、
ライスシャワーは前で競り合う2人を見て思う。自分は、自信に溢れているあの2人に憧れていたと。
(けど、憧れるだけじゃ終われない……!)
きっと、このレースに勝ったら自分が見たかった、皆に届けたかった祝福とは程遠い光景が広がっているだろう。サクラバクシンオーの勝利を願っているファンの、ガッカリした声が聞こえてくるかもしれない。
(それでもいい。ライスを応援してくれる声がある、お兄さまがそう教えてくれたから)
必死に歯を食いしばる。前へと追いつけと、サクラバクシンオーを捕まえろと気合を入れる。自分が勝つために、今出せる全てを出し尽くせと指令を送る。
「ライスちゃん……!」
マルゼンスキーが祈る。マルゼンスキーだけじゃない。
「ライスさん!」
「ライスちゃん!がんばれ~!」
ゼンノロブロイにハルウララ。さらにはライスシャワーのファンが、彼女に声援を送る。
《最後の直線!最後の直線に入りました!先頭で入ったのは──サクラバクシンオー!サクラバクシンオーだ!サクラバクシンオーが先頭で入る!ミホノブルボンとの差はありません!果たしてこの追い比べをどちらが制するのか!?》
《ライスシャワーも追いついてきています!これは、あるかもしれませんね!》
《マチカネタンホイザも来た!マチカネタンホイザも来たぞ!菊の舞台に桜前線北上中!サクラバクシンオーが先頭を走ります!》
最後の直線で、お兄さまが声を絞り出す。
「いけーーッ、ライスーーッッ!!ヒーローになるんだぁぁぁぁぁ!!」
その声援を受けて、ライスシャワーは。
「ライスは──ヒーローになるんだ……!」
気づけば自分が誰もいない真っ白な世界にいると気づく。なにも聞こえない、自分だけの世界に入り込む。そして──身体の奥底から力が湧き上がる。
(この感じ……ダービーの、ううん、それ以上の!)
「差し切る……バクシンオーさん!」
領 域
祝福の青薔薇
ライスシャワーは、領域へと至った。
◇
ライスシャワーの雰囲気が一変したことにマルゼンスキー達は気づく。
「あの感じ……ライスも至ったってわけ」
トウカイテイオーがそう呟く。その目はライスシャワーをジッと見据えている。少しの動きも見逃さない、どう攻略しようか?という目をしていた。ミスターシービーは面白そうに、シンボリルドルフは目を細める。
マルゼンスキーは、気づけば涙を流していた。
「ライスちゃん……至れたのね!
感激しながら、彼女が勝てるようにと声援を送る。
「頑張れー!ライスー!」
「頑張ってくださ~い、ライスさーん!」
お兄さまもゼンノロブロイも声援を送る。特にお兄さまは確信した。ライスシャワーの領域は完成したのだと。
(そうだ、ライス……今の君なら!)
「サクラバクシンオーにだって勝てるんだ!」
ライスシャワーの猛追が始まる……
◇
隣ではアグネスタキオンは狂気的な笑いを上げている。とても楽しそうだ。
「ハーッハッハッハ!成程成程、アレがライス君の領域というわけかい!凄まじい末脚だ、神戸新聞杯とは別次元だねぇ!」
「……」
「余すことなく撮らねばなるまい!タイムもいいが、アレは是非とも収めなければ!」
アグネスタキオンとは対照的に、キタサンブラックは慌てているね。ライスシャワーの雰囲気が変わったことを察したのだろう。
「わ、わ~!?バクシンオーさん頑張ってー!頑張って逃げてくださーい!バクシンバクシーーンッ!」
一層声を張り上げて応援している。確かにライスシャワーの末脚は凄い。心配にもなるだろう。
ただ、ドゥラメンテは冷静に状況を見極めている。焦るキタサンブラックを宥めていた。
「落ち着け、キタサン」
「そ、そうは言うけどドゥラさん!落ち着いていられないよ!もしかしたらバクシンオーさんが!」
「
「へ?……あっ!」
どうやらキタサンブラックも気づいたようだ。
(確かに凄い。領域も相まって、ステータスもかなり上がっている)
きっとたくさんの努力をしたのだろう。バクシンオーに勝つために、頑張ってきたのだろう。
だが、僕が思うことは1つ。
(けど、
「それじゃあ──バクシンオーには勝てないよ」
バクシンオーとライスシャワーの差は縮まらない。それだけの話だ。
ライスシャワー※領域の補正でステータスUP
適性:芝A ダートG
距離:短E マB 中A 長A
脚質:逃げB 先行A 差しC 追い込みG
スピード:B+ 769
スタミナ:B+ 764
パワー :C+ 587
根性 :B 629
賢さ :C+ 522
サクラバクシンオー
適性:芝A ダートF
距離:短S マA 中A 長A
脚質:逃げA 先行A 差しF 追い込みG
スピード:S 1064
スタミナ:C+ 584
パワー :A 863
根性 :C+ 501
賢さ :B+ 749
ちなみに、ゼファーもバクシンオーと同等のステ、もしくは少し上ぐらいはあります。ただ、短距離の適性がBかつ調子が絶不調だったのでステも下がっていました。