最速×無敵=驀進王   作:カニ漁船

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天皇賞秋の後とか次走とか。


帝王の勝負を観て

 天皇賞・秋は予想通りトウカイテイオーが勝った。まぁ……。

 

(普通にとんでもないことになってるし、ステ)

 

 トウカイテイオーのステは出走者の中で完全に上位だった。そこに領域も加わるわけだからまぁ強いわけで。

 

 

トウカイテイオー

 

適性:芝A ダートG

距離:短D マC 中A 長A

脚質:逃げC 先行A 差しC 追い込みE

 

スピード:SS+ 1187

スタミナ:A 811

パワー :S+ 1071

根性  :A 897

賢さ  :A+ 968

 

 

 最終的にメジロマックイーンに3バ身差つけての快勝。会場も大盛り上がりである。

 

「やったやったテイオーさ~ん!おめでとうございまーす!」

 

 しかしどうするか。触発されてバクシンオーがジャパンカップに出走したいと言いかねないわけだが。

 

(正直な話、ステータス面で劣っている。加えて、領域もないわけだからかなりのハンデ。展開にもよるだろうけど、間違いなく……)

 

 ……よそう。この考えはしない方が良い。肝心のバクシンオーはというと、トウカイテイオーの勝利を喜んでいた。

 

「おめでとうございますテイオーさん!見事なバクシンですッ!私も走りたくなってきましたよ~!」

「……」

 

 走りたそうにウズウズしているバクシンオー。トウカイテイオーの走りに触発されたのだろう。学園まで走って帰ります!とか言い出しかねない雰囲気だ。トウカイテイオーはジッとサクラバクシンオーを見ており、サクラバクシンオーもまたトウカイテイオーを見ている。視線だけで語り合っているように見えた。

 そんな中、僕の胸中にあるのは──迷い。

 

(本当に、どうするべきか)

 

 自分の中でちょっとしたモヤモヤを抱えながら、秋の天皇賞は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 天皇賞が終わって翌日。トレーナー室の扉が勢いよく開けられた。誰かは何となく察しがつく。

 

「おはようございますッッ!トレーナーさんッ!」

「うん、おはようバクシンオー」

 

 元気よく入ってきたのはバクシンオー。そのまま自分のところまで歩み寄ってきて、興奮気味に叫んだ。

 

「ジャパンカップに出走しましょうッッ!」

「……まぁ、昨日の様子から何となく分かってたよ」

 

 えらい興奮気味だったしね。いかにも出走したいですって感じだったからね。自分の考えていることなど露知らず、バクシンオーは意気揚々と語り始める。何故自分がジャパンカップに出走したいのかを。

 

「昨日のレースを観て思いました。テイオーさん……彼女もまた、皆を導く学級委員長なのだとッ!」

「そうなんだ。確かにトウカイテイオーのレースは凄かったね」

「はいッ!さらに彼女の目はこう語っているようにも思えましたッ!ジャパンカップで一緒に走ろうと。勝負をしないか?とッ!」

 

 あぁ、あの時の視線はそういう意味だったのか。真相は定かではないけど。

 

「彼女もまた学級委員長。そして私も模範的な学級委員長ッ!これは対決するほかありませんッ!」

「……まぁ学級委員長かどうかはともかく、ジャパンカップに出走したい、ってことだね?」

「はいッ!何卒お願いします!」

 

 綺麗なお辞儀を見せるバクシンオー。ちょっと断り辛い。

 

(う~ん……断るの自体は簡単だけど)

 

 G1を3ヶ月連続出走は厳しい、春のローテを詰めたんだから秋はもう休養しよう、今はシニア級の戦いに向けて備えるべきだ……出走しない言い訳はたくさん出てくる。バクシンオーにそのことを伝えれば、彼女はきっと承諾するだろう。こちらの気持ちも分かっているだろうから。

 

(けど、本当にそれでいいのだろうか?)

 

 否定する材料を叩きつけて、彼女を諦めさせて。本当に良いのだろうか?今更そんなものが通るのだろうか?そもそも、なぜ自分はジャパンカップに()()()()()()()()()()()考えているのだろうか?

 

(……今まで、こんな風に悩んだことなんてなかったのにな)

 

 ただ言われたことを機械的にやる。それだけで良かった。一定の結果を出して、一定の満足を得て……それだけで良かったのに。本当にどうしたものか。

 

(僕のことなんて後回しだ。今はとにかく……)

「ジャパンカップに出走しようと思ったのは、本当にそれだけ?

 

 バクシンオーに聞く。自分の心情の変化なんてこの際どうでもいい。変わってない、そう思うことにした。今聞くべきは、バクシンオーの意図。どうしてジャパンカップに出走しようと思ったのか?

 きっと、トウカイテイオーからの挑戦状を受け取ったから、だけではないのだろう。他にも理由があるはずだ。そう信じて。

 自分の問いかけに、バクシンオーはいつものように答える。隠すことなどないとばかりに。

 

「はい!私としても気になることがありますので!」

「気になること?」

「えぇ!ライスさんやブルボンさん達との勝負は悪くないものでした。私をライバルと認識してくれ、また私もライスさん達と切磋琢磨するッ!心地の良いものでした。しかし!」

 

 少しばかり申し訳なさそうな表情をするバクシンオー。

 

()()()()()()()()()()()がありました。心の奥底ではもっと熱い勝負を望んでいるような、そんな感じの気持ちです」

「渇き、か」

「えぇ。しかし、その渇きが何によるものなのかは分かりません。ライスさん達との勝負が熱かったのはまた事実なので。ですから!それを確かめるためにも、私はテイオーさんと戦うべきであると!そう考えたわけですねッ!」

 

 そんな事情が。それにしても渇き、か。

 

(……ダメだ。自分にそんな経験がとんとないから分からない)

 

 でも、バクシンオーだって事情があってジャパンカップ出走をお願いしているわけだ。それが分かっただけでも収穫かな。頭ごなしに否定しなくて良かったとホッと胸をなでおろす。

 それを踏まえた上で、どうするべきだろうか?

 

(できない理由ばかり探して、バクシンオーのお願いを断るのはダメだな)

 

 それが自分の中で迷いがあるから、モヤモヤするから嫌だという曖昧なものだ。体調に関しては……まぁなんとか仕上げよう。春のローテもやり遂げることができたわけだし、レースローテのことを外野に突っ込まれてもそれこそ今更だ。

 

(そもそも外野の意見なんてほとんど無視してきたようなものだし)

「それでトレーナーさん。いかがでしょうか?」

 

 こちらを窺うようなバクシンオーの表情。ただ、彼女も分かっているのだろう。僕が何と答えるのか。1つ溜息を吐いて、答える。

 

「正直な話、あまりオススメはしたくないかな。スプリンターズステークスから菊花賞、そしてジャパンカップ……連続で距離の違うG1に出走するわけだから」

「ちょわ~……」

 

 申し訳なさそうな表情。バクシンオーも分かっているのだろう。

 

「でも、いいよ。ジャパンカップの出走登録、しておくよ」

「ッ!本当ですか!」

「うん。距離の違うレースに出走するなんて今更だからね。スプリンターズステークスから菊花賞の時点で」

「それはそうですね!」

 

 沈んだ表情から一転して笑顔になった。眩しい。

 

「ただ……トウカイテイオーは強い。勿論他の子だってそうだ。クラシック限定レースのようにいかないだろうね」

「無論、承知の上です!」

「厳しい勝負になるだろう。後は調整もしっかりしないといけない」

「勿論ですとも!レース本番で体調を悪くすることがないよう、しっかりとした体調管理をしなければなりません!」

 

 1つずつ確認していき、ジャパンカップ出走への決意を固めていく。自分を納得させるように。

 

「じゃあ、渇きの原因が何なのか……分かるといいね」

「はい!それでは今日も元気にトレーニングしましょう!バクシーーンッッ!」

「廊下は走らないでね~」

 

 部屋を飛び出していくバクシンオー。自分もトレーニングへと向かうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 トレーナーさんからジャパンカップ出走の許可を貰えた。私は少しの申し訳なさを感じつつもトレーナー室を飛び出して廊下に出る。

 テイオーさん。間違いなく、今までの中で一番の強敵となるでしょう。ゼファーさんも強敵には間違いありませんでしたが、彼女は私の得意な距離での勝負でしたので。短距離ならば私は誰にも負けないという自負があります。それは、この先も変わらないでしょう。

 

(ライスさん達との勝負も心躍るものでした。ライバル達との熱い勝負、私が望んでいたものといえるでしょう)

 

 けど、()()()()()()()()()()。もっともっと熱い勝負が欲しいと、これでは満たされないと思ってしまう。ライスさん達には申し訳ありませんが。

 

(今でこそ私がアットーしていますが、それもクラシック級まで。シニア級では熱い勝負ができるようになります)

 

 シニア級ともなれば、今ある地力の差は埋まっていく。私が望むようなライバルとの熱い勝負ができることは断言できます。ま~その上で私は勝つわけですが!

 けど、それでは遅い。この衝動を止めることはできません。なにより、あの時テイオーさんからの挑戦状を受け取ったわけですから。

 

「ジャパンカップで勝負、ですか。あの時、そう訴えかけているように見えました」

 

 秋天を観戦しに行った時のこと。テイオーさんと私の視線は交錯した。テイオーさんは私に視線で訴えかけてきたのだ。ジャパンカップで勝負だと、容赦はしないと。

 挑戦は受けなければなりません。それもまた学級委員長としての務めですから。勿論、勝つ自信はあります。私のバクシンにトレーナーさんが鍛えてくださったこの身体。負けるはずがありませんから。

 ……しかし、同時にこうも思ってしまう。

 

(本当に、このままで満たされるのでしょうか?)

 

 このまま中距離以上で勝負をしたとして、私の渇きは満たされるのかという疑問。そんな考えが頭をよぎります。

 

(それを確かめるためのジャパンカップです)

 

 そんな考えを振り払い、次に考えるのが──トレーナーさんのこと。

 トレーナーさんは他のトレーナーが無茶だと言ったことに真っ向から立ち向かいました。中距離以上も走りたいという私のワガママを肯定し、実際に三冠を獲得するまでに至らせた人。ただ、他の方々からは敬遠されがちなんですよね。その原因はやはり目にあるのでしょうが。

 

(生気を感じさせない瞳。最近は他の方々との交流も活発になったので良い傾向ではありますが、やはり気になります)

 

 トレーナーさんはこの目がデフォルトだと言っていた。けど、()()()()()()()()と私は確信しています。

 あの人はトレーナーになったのもなんとなくそうした方が良いと思ったから、と答えました。それに、トレーナーさんは仕事ばかりで趣味らしい趣味など見たことがありません。仕事に誠実な真人間ともいえますが……それと同時に、仕事以外の生きがいがない人、というのが私見です。

 

(トレーナーさんはきっと、活力というものを失っているのでしょう)

 

 それが目に出ているのでしょう。なので、これは学級委員長として何とかしなければ!と思い至り、今も頑張っているところです。

 思い出すのはいつかの光景。あれはそう……私がメイクデビューを勝った時のこと。

 普段表情があまり変わらないトレーナーさんが、ホッと胸を撫で下ろして喜び……わずかにですが、目に光が灯ったのです。その後すぐに死んだ目に戻りましたが。

 

(トレーナーさんの目に、少しですが光が灯った……私はここに活路を見出しました)

 

 私が勝てばあの人は喜んでくれる。活力を取り戻してくれる。だからこそ、今も私はいの一番に勝利したことを報せるように、トレーナーさんの方に向かって大きく手を振っています。大声で、私が勝ったことをトレーナーさんに教えるために。そうすればきっと、あの人は活力を取り戻してくれると私は信じていますから!

 

「ま~今のところ灯ってないのですが。ぐぬぬ……これは委員長として由々しき事態です!」

 

 しかし!私はめげません!あの人の目に光を灯してみせましょう!そのためにも!

 

「ジャパンカップもバクシンバクシーーーンッッ!」

「今日も元気だね~委員長は」

「そうだね~。次も応援してるよ委員長~!」

「はい!みなさんも頑張っていきましょう!」

 

 次なる戦いはジャパンカップ!テイオーさんとの勝負です!




今明かされる衝撃の真実?次なる戦いはジャパンカップです。
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