その日、1つのニュースが世間に衝撃を与えた。
【サクラバクシンオー、ジャパンカップに出走確定!】
【前・無敗の三冠ウマ娘トウカイテイオーと新・無敗の三冠ウマ娘サクラバクシンオーの対決!】
無敗の三冠ウマ娘同士の対決。ジャパンカップで実現しようとしている勝負にファンの胸は高鳴っていた。
「トウカイテイオー対サクラバクシンオー……!本当にこの対戦が実現するなんて!」
「今からジャパンカップが楽しみで仕方ねぇよ!」
新進気鋭のサクラバクシンオーがジャパンカップを制するか?それともトウカイテイオーが帝王の強さを見せるか?はたまた伏兵が頂点に立つか?連日どのウマ娘が勝つかで話は盛り上がっていく。
「ジャパンカップに向けてバクシンバクシーンッ!」
「疲労を残さないようにね~」
サクラバクシンオー陣営はG1レースを3ヶ月連続出走。キツめのトレーニングはせずに、調整だけに留めていた。
「気をつけろよテイオー。シニア級の上位クラスを相手にすると思え」
「分かってるよトレーナー。絶対に油断はしない」
トウカイテイオー陣営も細心の注意を払ってサクラバクシンオー陣営を警戒する。ジャパンカップの日は着実に近づき──当日を迎えた。
◇
東京レース場は満員御礼。どこを見渡しても人、人、人である。
「わぷっ!?す、凄い人……」
「大丈夫?チヨちゃん。ホラ、私に掴まって!」
「あ、ありがとうございます、ローレルさ~ん」
サクラチヨノオーとサクラローレルは人ごみに流されそうになるも、なんとか見やすい席につくことができた。
「ふぅ……やっと着きましたよ~」
「大変だったね、チヨちゃん。でも、バクちゃんのレースだから観に来ないと!」
「菊花賞も凄かったですもんね!バクシンオーさんを精一杯応援しなきゃ!」
2人の目的はサクラバクシンオーの応援。レースが始まる時を今か今かと待ちわびていた。
その頃、サクラバクシンオーの控室では。
「状態は問題なし。脚の調子も良好だね」
「勿論です!トレーナーさんがしっかりと管理してくれているのでッ!」
自信満々のサクラバクシンオー。いつもと変わらない様子に高村はホッと一息吐く。
「今回のトウカイテイオー……今までで一番の強敵だ」
「分かっています。しかーし!私の見事なバクシンで勝利を勝ち取ってきましょう!」
「……変わらないね、バクシンオーは。やれるだけのことはやった、後は──頑張っておいで」
「はいッ!」
控室から出ていく高村。サクラバクシンオーは鏡の前でもう一度気合を入れた後。
「──さて、私も行きましょうか」
晴れ空が広がり、走るのには絶好の日となった東京レース場。パドックを終え、ジャパンカップに出走するウマ娘達が続々とターフに出てきていた。
《この日を迎えました、東京レース場芝2400mジャパンカップ!世界中から集った猛者達が覇を競う舞台!芝の状態は良バ場、走るのには絶好のコンディション!そして今回のジャパンカップで注目されているのはなんと言っても三冠ウマ娘2人の戦いでしょう!》
《無敗の三冠ウマ娘トウカイテイオーとこれまた無敗の三冠ウマ娘サクラバクシンオー。加えてサクラバクシンオーはSMILE区分のG1を全て制覇するというまさにオールラウンダーというべき強さを持っています!これは期待ができますよ!》
《三冠ウマ娘同士の激突はミスターシービーとシンボリルドルフ以来!この2人にも注目ですが、牙を研いでいる伏兵の存在も忘れてはいけません!各ウマ娘が順調にウォーミングアップを済ませています。ジャパンカップの栄光は誰の手に渡るのか!?》
「がんばれよ~!トウカイテイオー!」
「期待してるぞ~!」
「今日もバクシンだー!」
サクラチヨノオーとサクラローレルはサクラバクシンオーの姿を発見し、喜びの表情を浮かべる。
「頑張れ~!バクちゃーん!」
「バクシンオーさんファイトでーす!」
2人の声援に気づいたサクラバクシンオーはすぐさま反応。笑顔で手を振っていた。
「ややっ!?ローレルさんにチヨノオーさんではありませんか!この学級委員長の勇姿、見届けてくださいね~!」
手を振った後はすぐに準備運動に戻る。その目は普段のサクラバクシンオーからは想像もできないほどに冷たい目……戦場へと赴く競技者としての目をしていた。
「バクちゃん、気合入ってるね」
「はい。凄く気合が入ってます……!」
サクラバクシンオーは気合十分である。
それはトウカイテイオーも同じだった。
(マックイーンやパーマー達は今回出走してこない。みんな有マに向けて調整するらしいしね。今回の相手では……やっぱりバクシンオーだ)
トウカイテイオーは周りのメンバーの中でも特にサクラバクシンオーを警戒していた。自分と同じ三冠ウマ娘であり、自分と同等の技術を持っている相手。
(ボクや会長が持っている技術はバクシンオーも使える。教えてない技術もあるけど……後は地力の差か)
自分とサクラバクシンオーのスペック差は自分の方が上、とトウカイテイオーは結論づけている。別に相手を下に見ているわけではなく、これまでの走りから出した結論だ。
「それでも、レースでは何が起こるか分からない。ただでさえボクは1番人気、しかも秋天の勝利があるから警戒されてる。蓋をされないように気をつけないとね~」
そう軽い調子で呟いて、ウォーミングアップを終えた。ゲートへと向かう。
観客席ではケイエスミラクルが観戦していた。1人かと思われたが、すぐにダイタクヘリオス達が押し寄せてくる。
「ミラんお待たせ!や~人がありえん多くて激混みでここまで来るのにめ~っちゃ時間かかった!まぁじごめんね?」
「ううん、大丈夫だよヘリオス……あ、ルビーにゼファーも来たんだ」
「えぇ。さすがに気になりますので」
「やっぱり、バクシンオーが?」
無言で頷くダイイチルビー。彼女達の目的はサクラバクシンオーである。
「少しばかり、気になることがありますので」
「それはやっぱり、ゼファーが言ってたこと?」
「そうそう!ゼファち気になること言うてたもんね~。なんつ~の?ちゃんバクがテン下げでマジデンジャーみたいな?あ、ゼファちマイルCS優勝おめ~☆てゆ~かゼファちの脚マジエグすんぎ!」
「ふふ、ありがとうございます。今回は私の風が上回りました。しかし、まだまだ程遠く……私も常に天風を吹かすために精進あるのみです」
「話が変わりすぎています。今取り組むべき問題は、バクシンオーさんのことかと」
別の話題に逸れそうになるが、ダイイチルビーが軌道を修正する。ケイエスミラクルはこの話し合いを微笑みながら聞いていた。
「そだったそだった!んでゼファち、ちゃんバクがデンジャーってどゆこと?むしろテンアゲでバクシンじゃね?」
「──えぇ、表面は俄風に覆われているため私も確証はないのですが……バクシンオーさんの心は、とても凪いでおります」
「凪いでいる……つまりは、とても静かになっていると?」
ヤマニンゼファーは頷く。表面上こそ熱い勝負を楽しんでいるように見えるサクラバクシンオーだが、その心の内は真逆のことを思っている。ヤマニンゼファーはそう指摘した。
「彼女がライバルとの対決に頚風を起こすのも確か。しかし、その中に悲風を抱えているのもまた確かなのです」
「ライバルとの対決は楽しいけど、それ以上に寂しさを感じる?う~ん……どうしてだろう?」
「何となく、察しはついています。そして、それがバクシンオーさんの恵風を妨げている」
サクラバクシンオーが内に抱える孤独。その孤独が彼女の成長を妨げていると結論を出したヤマニンゼファー。今回のジャパンカップ観戦の目的は、それを見定めることにあるとヤマニンゼファーは答えた。
ヤマニンゼファー達がそんな話をしている中、ついに発走の時を迎えようとしていた。ウマ娘達がゲートへと入っていく。
《ウマ娘達が順調にゲートへと入っていきます。やはり注目されているのは無敗の三冠ウマ娘同士の対決でしょう!1番人気のトウカイテイオーと2番人気のサクラバクシンオー、果たしてどちらに軍配が上がるのか!》
《ただ、他のウマ娘も黙ってみているだけではありませんよ。伏兵がこの2人を差し切る可能性も十分にありえます!》
《果たしてどのような結末を迎えるのか?2400mの戦いジャパンカップ!》
最後のウマ娘がゲートへと入る。静まり返る東京レース場、その空気の中で──ゲートが開く音が鳴り響いた。
《ウマ娘が全員ゲートに入って今っ、スタートしました!各ウマ娘一斉に駆け出します!さぁまず最初に飛び出すのはどのウマ娘か!?》
18人のウマ娘が駆け出す。中には出遅れたウマ娘もいるが、先頭に立ったのは内枠にいたウマ娘。注目のサクラバクシンオーとトウカイテイオーはというと、お互いに先行集団に位置づけようとしていた。
《ハナを切るのは1番のヴァサリーリエ、ヴァサリーリエが飛び出しました。競りかけるように4番クライネキステさらにはゲフリーレンもいくぞ!ハナの取り合いはこの3人になるのか?》
《トウカイテイオーとサクラバクシンオーは控えていますね。好位置の先行集団につけようとしています》
《第1コーナーめがけて走っていくウマ娘達、先頭はヴァサリーリエ、クライネキステ、ゲフリーレンの3人!熾烈なポジション争いはどうなるのか!?》
始まったジャパンカップを観る高村。その表情にはわずかだが、不安な感情が見え隠れしていた。
(トウカイテイオーとサクラバクシンオーのステータスはトウカイテイオーに軍配が上がる。加えて、スキルもあちらの方が多い。極めつけは……領域)
サクラバクシンオーは現状領域に到達していない。このレースでも到達できるかは未確定。全てにおいて劣っている現状、不安に思わずにはいられなかった。
「頑張れ、頑張れバクシンオーさーーん!ファイトでーす!バクシンバクシーン!」
キタサンブラックがいつものように声援を送る。ドゥラメンテはただレース静観する。アグネスタキオンは珍しく真面目な表情でレースを見守っている。データを取りながら、だ。
サクラバクシンオーは先行集団につけることに成功する。それは、トウカイテイオーも同じだった。
「さぁて──負けないよバクシンオー」
「えぇ!こちらこそ負けませんよ!」
無敗の三冠ウマ娘同士の対決、ジャパンカップが始まった。
開幕のジャパンカップ。