高松宮記念が終わってからのバクシンオーは
「さぁみなさん!今日も一日頑張りましょう、張り切っていきましょう!バクシンバクシーーーンッッ!」
「ば、バクシンオーさん速すぎ「……追いつく!」ドゥラさんも待って!?」
「おやおや。高松宮記念で委員長君は随分と触発されたようだ。どれ、データを計そ「君も走るんだよタキオン」はいはい、分かったよモルモット君」
原因はやはり、高松宮記念を観た影響だろう。敵がいないと思っていたところに現れたライバル達、自分でも勝てるかどうか分からないと思うほどの強さ、彼女達からの宣戦布告……上げればキリがない。プラスの方向に働いてくれて万々歳だ。
彼女達との対決は、何事もなければスプリンターズステークスで叶うだろう。それまでに少しでもステータスを上げておかないとね。
(ダイタクヘリオス達が相手となると、どうしてもバクシンオーのステータスは見劣りする。夏合宿があるとはいえ、今以上に強くならないと)
「……冷静に考えると現時点でダイタクヘリオス達に迫れているというのも大概おかしいんだけどね」
ニシノフラワーを例にすると、ステータスが一回りも違っていた。彼女が普通なのだろう。それを踏まえて、現時点のバクシンオーのステータスはというと。
サクラバクシンオー
適性:芝A ダートF
距離:短S マA 中A 長A
脚質:逃げA 先行A 差しF 追い込みG
スピード:UG3 1231
スタミナ:B+ 711
パワー :S+ 1098
根性 :B 643
賢さ :A+ 903
うん、確かにダイタクヘリオス達には劣るだろう。けど大分迫ってきているんじゃないだろうか?ただ……スタミナがちょっと不安だな、これ。
(メジロマックイーンやライスシャワーはスタミナが高い。スピードを持続させることができる。けど、バクシンオーのこのステータスだと)
「ちょっと厳しいものがあるね」
それでも勝つ。幸いにもシンボリルドルフ達のおかげで技術面は劣っていない。技術でなんとかカバーしよう。
高松宮記念も終わって、G1が連続して開催される。春のG1戦線、その中でバクシンオーが出るのは──3200mの天皇賞・春。
(現役最強と名高いステイヤー、メジロマックイーンを筆頭に、トウカイテイオー、イクノディクタス、ナイスネイチャにメジロパーマーも出走してくる)
バクシンオーより上に絞っただけでも、かなりの猛者揃い。加えて。
(ライスシャワーにマチカネタンホイザ。同世代の相手も気が抜けない。特に、ライスシャワーは要注意だ)
彼女は長距離に照準を絞ってきている。それに、以前からずっとステイヤータイプのウマ娘と称されてきた。つまりまぁ……距離Sになる可能性が十分にあるというわけで。
(そうなるとさすがに分が悪くなってくる。特に、メジロマックイーンも長距離Sなわけだし)
メジロマックイーンのステータスはトウカイテイオーとほぼ同等。前回の春天でトウカイテイオーが敗北したのは、適性Sの差で負けたと言っても過言ではない、かもしれない。
「ゼェ……ゼェ……ど、ど~されましたかみなさん!委員長はまだ、まだっ!いけますよ~……」
「ば、バテてるじゃない、ですか~……」
「……」
「ドゥラ君は完全に沈黙しているねぇ。ペース配分を無視するからこうなる」
余談だけど、キタサンブラック達のステータスはそこまで高いわけじゃない。彼女達はあくまでサポートが中心だからね。それでも他の子達に比べたら高い方だ。
(その分適性がバクシンオーに近いレベルになりつつあるんだけど。もうみんな短距離以外は走れるレベルになってるし)
短距離はバクシンオーがいるけど、一緒にトレーニングしてきた子達はみんなマイル以上の適性しか持ってなかったから。短距離の適性は盛れてない。いや、本人が望まない限りは盛る必要ないんだけど。アグネスタキオンのデビューも無事に済んだわけだし、今後はキタサンブラック達のデビューも考えていかないと。
大阪杯も終わって、桜花賞に皐月賞も終われば次は春天。本番の日は近づいてきている。
(現状、やれることはスタミナを盛ること。スタミナをどこまで盛ることができるか……それにかかっている)
「ただ、良くてAかな」
トウカイテイオーはSになっている可能性が高く、メジロマックイーンに関してはUランク超え、ただ彼女はスピードが控えめだ。ライスシャワーはこの前チラッと見た時Sを超えていた。スピードもSに到達しようとしているし、領域もあるから油断はできない。
……ダメだ。モヤモヤしてきた。
(なるようになるしかない。それは分かってるんだけど……)
「微不利なのがどうしても、ね。もうちょっとどうにかしてあげたいんだけど」
「なにがでしょうか?トレーナーさんッ!」
「うわっ」
驚いた。気づいたらバクシンオーが目の前にいた。自分の顔を覗き込んでいる。いきなり来るもんだから心臓に悪いな。
「なにやら難しい表情をしていますね。では、この委員長の笑顔を見ましょうッ!にこーっ!」
「……どうしたの?」
「私が笑顔になればみなさん笑顔になりますので!どうです?トレーナーさんも笑顔になるでしょう?」
どっちかというと戸惑いの方が強いけど、微笑ましいとは思うかな。
「心配かけたね、ゴメン。ちょっと考え事をしてた」
「考え事……春天ですか?」
「そう。相手はメジロマックイーンにトウカイテイオー、逃げコンビのメジロパーマーに同世代で成長著しいライスシャワーがいるからね。対策に頭を悩ませていたところ。君を負けさせるのは嫌だからね」
できる限りの対策を取りたいが、いかんともしがたいのが現状。あまり固執しすぎてバクシンオーの走りを潰すのも避けたいし。というか、バクシンオー本来のスタイルを活かすなら必要な情報だけ教えて後はなるようになれが一番強い。
「そうですか。ですが問題ありませんッ!いつものようにバクシンし、模範的な走りをすることができれば!自ずと勝利は私の手に収まるでしょう!トレーナーさんはただ、私が勝つのを信じていてくださいッ!」
バクシンオーは僕の不安を払うかのように笑う。うん、この変わらなさが彼女の魅力だ。
「ま、そうだね。後はなるようになれ、だ」
「はい!春天もしっかりとバクシンしますよ~!バクシンバクシーー―ンッッ!」
今のバクシンオーはかなり気合が入っている。相手は強大だが、それでもバクシンオーならば負けないという自身を抱かせてくれる。その結果は、春天で分かることだろう。
◇
春の天皇賞に出走するメンバーの調子は良好だ。
「ついに、ここまで来たな。マックイーン」
「えぇ。トレーナーさん。メジロの誇り、天皇賞の盾……見果てぬ偉業へと、あと一歩というところまで来ました」
メジロマックイーン陣営。春の盾三連覇という偉業がかかっており、士気はどの陣営よりも高いと自負していた。
「秋の天皇賞は、テイオーの前に敗れました。しかし、長距離は私の庭……後れを取ることはありません」
「そうだな。テイオーも警戒すべきだろう。だが……サクラバクシンオーとライスシャワーも気をつけなければならない」
メジロマックイーンのトレーナーが警戒しているのは、サクラバクシンオーとライスシャワーの2人。どちらも年明けのレースを快勝しており、特にサクラバクシンオーはトウカイテイオーと同じ三冠ウマ娘であるため警戒を強めていた。
「サクラバクシンオーの能力は君とほぼ変わらない、と判断してもいいだろう。彼が育てたウマ娘なのだからね」
「
呆れた様子のメジロマックイーンにトレーナーは微笑みで答える。
「当然だ。彼の持つ特異な目は、非常に興味深いからね……それはともかく。気を付けておいた方が良いだろう」
「当たり前ですわ。テイオーと同じ三冠ウマ娘、警戒するのは当然のこと」
「しかし、ライスシャワー陣営も侮れない。我々と同じように、長距離にめっぽう強いタイプだからね」
「関係ありませんわ」
トレーナーの言葉を、メジロマックイーンは一蹴する。勿論彼女とて警戒しているが……それ以上に自信があった。
「先程も申し上げましたが、長距離は私の庭。何人たりとも私の領域には踏み込ませません。最強ステイヤーとして、彼女達を迎え撃ちましょう」
「……そうか」
圧倒的なオーラ。自分の得意分野において負ける気は微塵もない。そう感じさせる言葉に、トレーナーは愚問だった、と笑う。
「大阪杯を勝って勢いづいているトウカイテイオー。新世代のステイヤーと名高いライスシャワー。そして……距離適性の概念を壊したサクラバクシンオー。彼女達を下して、君の凱旋を待っているよ」
「当然ですわ。一切の油断なく、私の使命を果たしましょう」
メジロマックイーン陣営に抜かりはない。
トウカイテイオー陣営も、春天に向けた調整をしていた。
「いいか?テイオー。秋天で勝ったからといって「大丈夫だよトレーナー。秋天は秋天、春天は春天だからね」分かっているならよかった」
「当たり前だよ。長距離はマックイーンの庭だ。会長にだって負けないって自負してたからね」
真剣な表情でメジロマックイーンのデータを見るトウカイテイオー。ただ、と付け加える。
「バクシンオーも警戒、パーマーは……今回はヘリオスがいないから少し警戒を緩めても良いかな?ネイチャもそうだし、後は……ライスが怖いね」
「ライスシャワー……新世代のステイヤーだな」
「うん。世間での評価は高くないけど、菊花賞を観たから分かってる。ライスはマックイーンと同じだ」
長距離で輝くステイヤータイプのウマ娘。トウカイテイオーはそう評価していた。
「おまけに領域に覚醒してるからね。ただ、バクシンオーよりは警戒は劣るかな?いや、どうだろう……ライスはステイヤーだし……」
「……そうか。後は個人的になんだが、マチカネタンホイザも気になっている」
「あ~、確かにそうだね。菊花賞3着だし、ちょっと印象薄いけどいつもいいとこにいるんだよね」
こちらも抜かりはない。有力候補の選定をしていた。
そして、ライスシャワー陣営。他の陣営が対策に頭を悩ませる中、彼女達はというと。
「ハァ……ハァ……」
「頑張れライス!もっともっと走り込むんだ!」
(ライスはバクシンオーさんよりも劣っている……マックイーンさんやテイオーさんにだって劣っている。だけど!)
「負けない……負けない!絶対に、負けない……!」
「そうだライス!強敵をみんな倒して、君が春天を勝つんだ!」
それこそ、鬼を宿すレベルで。
ライスシャワー陣営の気合いの入りようは凄まじかった。やはり、サクラバクシンオーの存在が大きいだろう。菊花賞で見せつけられた地力の差。得意な距離で負けたという経験が、ライスシャワー陣営の心の炎をさらに燃え上がらせた。
思いは1つ、春天に出走する強敵達を倒して、自分達こそが頂点に立つ。その一心で鍛え続ける。
「頑張れライス!頑張れ!」
「……」
シューズをいくつダメにしたかは覚えていない。蹄鉄もかなりの数がダメになった。それでもライスシャワーは走り込む。お兄さまはライスシャワーの身体のケアを怠らない。この春天に、全てを注ぎ込む覚悟だった。その結果として──彼女のステータスは爆発的に伸びている。それこそ、サクラバクシンオー達を脅かすほどに。
各陣営がそれぞれの思いを胸に、春天の日を迎えた。