サクラバクシンオーが逃げる展開で始まった安田記念。ハナを切って快調に進んでいく。
《先頭に立つのはサクラバクシンオー、サクラバクシンオーが先頭だ。ここ最近では珍しい展開ですよね?》
《そうですね。春の天皇賞もそうでしたが、直近のレースでは先行集団の先頭でレースを展開していました。もしやこのまま逃げにシフトしていくのか?注目したいところです》
《逃げるサクラバクシンオー。単騎逃げの形になりました。2番手はアップツリー、その差は1バ身。アップツリーを先頭とした先行集団が固まっています、ヤマニンゼファーはこの中にいるぞ。ヤマニンゼファーは現在4番手!ニシノフラワーは3番手!先行集団の一番後ろ、クレイジーインラブから少し離れる形で中団の先頭はシャウトマイネーム!》
レースは縦長。先行集団は5人のウマ娘が固まっており、中団は少し離れた位置に4人、中団の最後方から3バ身程離れた位置に後方集団が控えていた。ダイイチルビーはこの後方集団に控えている。
ヤマニンゼファーが最重要で警戒しているのは、やはりサクラバクシンオー。
(彼女が先頭に立つ展開はさほど珍しいことではありません。確かに直近は先行で立ち回っていましたが、このマイル戦ならば)
「
他のウマ娘にとっても共通認識だ。サクラバクシンオーはG1最長距離の天皇賞・春を走れるだけのスタミナがある。しかも、重バ場のだ。スタミナが切れるということはないと断言できる。加えて、サクラバクシンオーはスピードも桁違いだ。消耗戦からの逃げ切り勝ちを狙っている……そう推測できる。
だが、そうはさせないとヤマニンゼファー達は意気込んでいる。
(瞬発力を持つウマ娘が有利になりやすいこのコース、逃げ切るにはかなり難しいコースです)
そんなことはサクラバクシンオーも知っているだろう。それでも逃げを選んだということは相当の自信があるということだ。思わず笑みを零しそうになるヤマニンゼファー。
それだけの自信を持っている相手。そんな相手の風を感じることができる……ヤマニンゼファーの心が躍った。
「俄風……あなたの風がどれほどのものか、見せてくださいっ!」
第3コーナーめがけて走っていくウマ娘達。サクラバクシンオーが2番手以下を2バ身離している。
◇
まずいですね。衝動が抑えきれず、気づけば逃げる形になっていました!
(ですが仕方ありません。我慢するのは良くないとトレーナーさんも言ってましたから!)
ただま~、逃げ不利とはいえど問題はないでしょう!あくまで
「バクシンバクシーーンッ!久々な気がする委員長の逃げですよ~!」
《サクラバクシンオーが快調に飛ばしています。サクラバクシンオーが逃げているその差は2バ身!アップツリーを始めとした先行勢も差を詰めてきました。そして外からシャウトマイネームが先行集団に加わった!シャウトマイネームが外から上がってきます!》
《これは早めの仕掛け!サクラバクシンオーを今のうちに捕まえておこうという判断でしょうか!?》
《じわじわと上がって行くシャウトマイネーム、ヤマニンゼファーはまだ仕掛けない!まもなく第4コーナーのカーブに入ります!ダイイチルビーも後方から上がってきているぞ!》
しかし、こうして走っていると……ビリビリと感じますね。みなさんの気合いを!良いバクシンです!
特に、ゼファーさんが凄いですね。ここにいてもひしひしと感じます、彼女の圧を。
(ゼファーさんの速さは私と同等。ルビーさんも同じくらいでしょう)
ルビーさんは後方待機策でしょうか。まだそれほど圧は感じません。ですが彼女の鋭い末脚は要注意です。
そしてフラワーさん。フラワーさんは最近成長が凄まじい。この委員長を脅かすほどに。
そんな時、ふと思い出します。控室であったトレーナーさんとのやり取りを。
トレーナーさんは基本的に「勝てるよ」とか「頑張っておいで」という言葉をくれます。きっと、私の勝ち負けに関してある程度の予測がつくからでしょう。勿論頑張るぞという気合が入るので嬉しいことは嬉しいです。ただ、今日の言葉は一味違いました。
トレーナーさんは珍しく不安げな表情を隠さずにいました。ジャパンカップの時みたいでしたね。
「やや?どうしましたかトレーナーさん?もしや……この委員長が何かやらかしましたか!?」
自分が何かやってしまったのかと慌てましたが、どうやら違ったようで。私の言葉を否定すると、トレーナーさんは私に言ってくださったのです。
「正直、今回のメンバーは凄く強い。バクシンオーにだって劣らない。だからきっと、熱い勝負が期待できると思う」
「ま~そうですね!ゼファーさんにルビーさん、それにフラワーさんもいますから!特にフラワーさんは成長著しいです。油断したら危ないかもしれませんねッ!ま~私は油断なんてしないので負けたりはしませんがッ!」
模範的な学級委員長である私は油断はしません。トレーナーさんを安心させるためにそう答えました。すると、トレーナーさんは絞り出すように。
「君の勝利を信じている。相手がどんなに強くても、勝つのは君だって。僕は信じている。だから、頑張っておいで」
ありふれた月並みな言葉。それでも私は嬉しかった。トレーナーさんが滅多に言わない、下手したら初めて言ってくれたんじゃないかって言葉。私の勝利を信じているという言葉。
不思議なほど力が湧いてきます。それはきっと、トレーナーさんの言葉があったから。
(無論、それだけではありません)
高松宮記念での出来事。私は短距離において絶対的な自信を持っていますが、あのレースを観て……自分が勝てるかどうか?という思いに駆られたこと。自分の自信が、揺らいでしまったこと。
アレは反省ですね!自分で勝手に敵はいないと考えて、短距離路線のことを見ていなかったわけですから!私は反省できる学級委員長なのですぐに反省!そして即行動!次のスプリンターズステークスではみなさんに勝つと意気込んでいます!
それに、嬉しかったですね。私をライバルだと言ってくれたことが。あれだけの強さを見せ、私に勝つと宣言をしてくれたみなさんならばと、確信を持てました。
(きっとこの先も、熱い勝負ができるのだろうと!私が望む勝負は、みなさんとならばできるのだろうと!そう感じていますッ!)
あぁ、まずいですね。どんどん渇いていきます。際限なく求めてしまいます。もっと熱い勝負がしたいと、もっともっと楽しい勝負にしたいと!私の心が渇いて──力が湧いてくる。
この勝負に満足したら次のレースではもっと楽しい勝負を!その次のレースでは、もっと熱い勝負を!ヒリつくような勝負を際限なく求めてしまいます!
《第4コーナーを越えて最後の直線へと入っていきます!先頭は変わらずサクラバクシンオー!しかしヤマニンゼファーとニシノフラワーが追い上げてきた!》
《サクラバクシンオーは必死に逃げ粘っていますね!まだ差は縮まっていませんよ!》
《後方からはダイイチルビーも飛んできた!華麗なる一族、ダイイチルビーが飛んでくる!シャウトマイネームも来ているぞ!最後方からはアゲインストゲイル、アゲインストゲイルだ!最後の直線、サクラバクシンオー逃げ粘れるか!?》
模範となるべき学級委員長として良いのだろうか?と思うこともあります。ですがトレーナーさんは言ってくださいました!そんな私の背中を見て、後輩達は育っていくのだと!
(ならば私は背中を見せ続けましょう!私の強さを、みなさんに見せてあげましょう!)
誰よりも速く、誰よりも強くあることで、私は完璧な学級委員長として君臨し続けます!勝って勝って、熱い勝負を制して!私は──強くあり続けましょう!
「私のバクシンは止まりませんッ!バクシンバクシーーーンッッ!」
ラストスパートです!
◇
最後の直線、残り200m。ヤマニンゼファー達の圧が強まる。一部のウマ娘達は感じ取った。彼女達は領域を切ったのだと。
ヤマニンゼファーがサクラバクシンオーとの差を詰める。ニシノフラワーがそれに続く。後方からはダイイチルビーが飛んでくる。そのスピードは、サクラバクシンオーよりも
《坂を越えて残り200mになります!猛烈な勢いで追い上げてくるヤマニンゼファー、ダイイチルビー!そしてニシノフラワー!サクラバクシンオーを捕まえんとその差を詰めてくる!差が徐々に縮まる!1バ身、半バ身!これは楽に捕まえるか!?》
「う、う~!頑張ってくださ~い、バクシンオーさ~ん!」
サクラバクシンオーとの距離が縮まり、さらに声を張り上げて応援するキタサンブラック。しかし、無情にも差は縮まり……もうすぐ追い越されるというところで。
「……ッ!?」
ジワリ、ジワリと。
「逃げろー!バクシンオー!」
「頑張って!バクシンバクシーン!」
この状況にヤマニンゼファー達は焦る。追い詰めたと思ったら逆に離されていく光景に、動揺せずにはいられなかった。
《ここでサクラバクシンオーが粘る!いえ、粘るどころではない!差を広げていく!?差を広げていくぞサクラバクシンオー!なんという脚だ!ここまで脚を残していたサクラバクシンオー!》
《春天を走り切れるスタミナがあるぐらいですからね。マイル戦ぐらいわけないとは思いますが……それにしても驚異的な脚です!》
《サクラバクシンオーがさらに逃げる!サクラバクシンオーが突き放す!サクラバクシンオーが先頭変わらず!残り100m!ヤマニンゼファーが必死に食らいつくが、差は縮まらない!凄まじい強さだ!負けられないヤマニンゼファー!ダイイチルビーも巻き返す!ニシノフラワーも追いすがる!しかしサクラバクシンオーには追いつけない!》
領域を切り、なおかつ脚を溜めていたヤマニンゼファー達が追いつけない。この事実に驚愕せずにはいられない。
(驚異的な粘り脚!?いえ、違いますね……これは!)
(この土壇場で、さらにスピードが上がっている、とでも!)
(はや、い……!)
ずっと逃げていたサクラバクシンオーが、さらに加速している光景。そして彼女もまた領域を使っていることに気づく。逃げて、粘って、領域を使って。そしてその領域の出力が……上がっていることに気づく。
(ジャパンカップでも、春天でもまだ完全ではなかったと!?)
サクラバクシンオーの思いに応えるように、領域は出力を上げる。
「バクシンバクシン、バクシンシーーーンッッッ!これが学級委員長の模範的なバクシンです!私こそが──時代最速ですッッ!」
サクラバクシンオーはヤマニンゼファー達から逃げ粘り。縮めた差を1バ身まで開いて。安田記念を勝った。
《サクラバクシンオーが勝ちました!春のマイル王に輝いたのはサクラバクシンオォォォォッッッ!!逃げて逃げて、追いつかれても突き放し!サクラバクシンオーが梅雨の東京に開花宣言!これがサクラバクシンオーの強さだぁぁぁ!》
これでまだ変身を残してるってマ?