最速×無敵=驀進王   作:カニ漁船

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次なる戦いに向けて。


次なる戦いへ・記録

 ウイニングランを決めるサクラバクシンオー。東京レース場に集ったファンから祝福の言葉を贈られていた。

 

「よっしゃあ!サクラバクシンオーが勝ったぁ!」

「おめでとーう!」

 

 サクラバクシンオーはいつものように辺りを見渡して、高村の姿を発見すると嬉しそうな表情で手を振り己の勝利を報告する。

 

「トレーナーさ~ん!観てましたか~?勝ちましたよ~!私達のバクシン的勝利で~すッ!」

 

 いつもは小さく手を振って返す高村だが……この時は違った。いつもより少し大きめに手を振り、安堵したような、ぎこちないながらも笑っているような表情で手を振り返した。高村が笑顔を浮かべていることに気づいたサクラバクシンオーはさらに大きく手を振る。

 

《安田記念を制して春のマイル王に輝いたのはサクラバクシンオー!序盤にハナを取り、逃げて逃げて最後に突き放す!これはすさまじい勝ち方です!》

《早々できる勝ち方じゃないですねぇ。ヤマニンゼファーやダイイチルビーと言ったメンバーがいる中でこの逃げを決めるのは並大抵のことじゃありませんよ》

《サクラバクシンオーの次走が気になるところ!彼女の次走がどうなるのか、目が離せませんね!2着は1バ身差ヤマニンゼファー、3着はクビ差でニシノフラワーでした!》

 

 笑顔で手を振るサクラバクシンオーを睨みつけて、ヤマニンゼファーは息を整える。内心、驚愕に満ちていた。

 

(ジャパンカップや春の天皇賞で、領域に到達しているとは思っていました。ですがっ)

「元々の地力が高いからこそ、吹かせる風ですか……!」

 

 ヤマニンゼファーはケイエスミラクルを始めとしたスプリンターやマイラーとの対戦経験がある。今までケイエスミラクルこそが最も強いスプリンターであると感じていた彼女だったが、このレースで認識は変わった。今のサクラバクシンオーはケイエスミラクルにも匹敵する実力を保持しており、なおかつ……どの距離でも戦えるウマ娘であると。

 

(ミラクルさんのスピードを持ちながら、ヘリオスさんのようにどこにでも風を吹かせることができる。凄まじい烈風です)

 

 息が整い、次に自分が出走するレース、スプリンターズステークスについて考える。

 次のスプリンターズステークスは歴代でも最高レベルのメンバーが集まるといっても過言ではない。現在最も速いスプリンターと評価されているケイエスミラクルを筆頭に、名マイラーであるダイタクヘリオスにヤマニンゼファー、ダイイチルビーにニシノフラワーも出走。さらには、今回春のマイル王に輝いたサクラバクシンオーも出走する。

 一筋縄ではいかない勝負、それでも自分が勝つためにはどうしたらいいかを考え、やがて溜息を吐く。なにをするにしても、やはり地力の底上げ。最終的にはそこに行きつく。

 

(ただ、今回のレース……バクシンオーさんの風は)

「悲風は和らいでいました。彼女の風は、良き方向へと移ろいでいるようです」

 

 踵を返してターフを去るヤマニンゼファー。今後の予定をトレーナーと話し合い、スプリンターズステークスに向けて能力の向上に努めよう。そう考えながら去っていった。

 

 

 ヤマニンゼファーと同様に、ダイイチルビーとニシノフラワーも驚いていた。

 

(時代は変わるもの。より強い者が現れるのは必然。ですが、彼女はあまりにも……)

「この先、彼女に匹敵する相手が現れるかどうかすら分からないほどの圧倒的な強さ。加えて、彼女の領分は短距離……」

 

 少しの間逡巡するダイイチルビー。こうして同じレースに出走したことで分かった、ヤマニンゼファーがサクラバクシンオーを暴風と呼んだ理由。

 サクラバクシンオーはまさしく暴風である。圧倒的な強さで他をねじ伏せ、才能の塊ともいえる実力者。彼女の強さは、自分が良く知るスプリンター──ケイエスミラクルに匹敵、もしくは上回ると思うほどに。

 ニシノフラワーはサクラバクシンオーを真っ直ぐに捉え、改めて実力を再認識していた。

 

(追いついたと思ったのに、また離されちゃった……でも!)

「もっと頑張らないとっ!」

 

 ニシノフラワーの次走はスプリンターズステークス。サクラバクシンオーもきっと、同じレースに出走するだろう。次は負けないようにトレーニングを重ねる、そう心に決めた。

 ダイイチルビーもまた、自分の使命を果たすために動き出そうと考える。

 

「みなさーーーん!学級委員長のバクシンはどうでしたか~!次も見事なバクシンで応えてみせましょうッ!えぇ、私は模範的な委員長ですからッ!模範的なバクシンにアットー的スピード!次もバクシンバクシーーンッッ!」

 

 スプリンターズステークスにおいて最大の敵になるであろう──サクラバクシンオーを睨みながら。

 

 

 

 

 

 

 安田記念が終わった次の日。バクシンオーは機嫌良さそうにしていた。

 

「トレーナーさんトレーナーさん!私達のバクシン的勝利ですッッ!!」

「そうだね」

「春天では少しバクシンが足りませんでした……しかーし!この安田記念でバクシン的進化を遂げた私!これはみなさんがさらに憧れること間違いなし!みなさんが私を目標にする日も近いですね!」

 

 実際その通りになりそうなのがね。冷静に考えて、バクシンオーはダート以外どの距離にでも出走してくる実力の持ち主で、さらにレースも基本的には先行だ。ほとんどのウマ娘にとっての理想を体現する存在になっているだろう。

 

「安田記念……ゼファーさんやルビーさん、フラワーさんは強敵でしたッ!スプリンターズステークスでもきっと走るでしょうし、次のレースもまた楽しみですッ!」

「そうだね。バクシンオーはスプリンターズステークスに向けて調整だね」

「えぇ、とてもワクワクしていますよ~!ついにミラクルさん達との決戦ですッッ!」

 

 メラメラと燃え上がっているバクシンオー。楽しそうだ。

 

「私こそが時代最速であると証明する時ッ!夏合宿で更なる飛躍を遂げ、私は完璧な学級委員長となりましょうッ!」

「今も大概完璧な気がするけどね。でも、向上心があるのは良いことだ」

「勿論あたしも全力で応援しますよ!頑張ってくださいバクシンオーさん!」

「おぉ、ありがとうございますキタさん!キタさんも頑張ってくださいね!」

 

 仲が良い2人である。とりあえず今朝買った新聞を切り抜きつつ、スクラップブックに貼り付けていると。

 

「トレーナー、それはなにをしているんだ?これは……バクシンオーの新聞?」

 

 興味を持ったのか、ドゥラメンテがこちらへとやってきた。

 

「そうだよ。バクシンオーの記事が書いてあるものを切り抜いて、一冊の本にしているんだ。スクラップブックってヤツだね。もう結構な量があるけど」

「へ~……あ、本当だ!本棚の方に置いてあります!」

「……ほう?私のスクラップブックもあるんだねぇ」

「当然。アグネスタキオンも大事な担当ウマ娘だからね」

 

 みんな興味を持ったのか、スクラップブックをそれぞれ持ち寄ってきた。開いて中身を確認し、感嘆の息を漏らしている。

 

「すご~い!バクシンオーさんのメイクデビューからありますよ!」

「これは……皐月賞を制した時の記事だな。まだこの時は本命視されていなかったな」

「ブルボンさんも強敵でしたね!次戦う時はいつになるのか楽しみですッ!」

 

 メイクデビューの頃からあるのでかなりの量。でも全員が興味深そうに見ているので作った甲斐はあったのかな?

 

「これはスプリンターズステークスの、これは三冠達成した時の!これは……あ」

「やや?テイオーさんにジャパンカップで負けた時の記事もあるのですね!」

「……ゴメン。負けたからって外すのはなんか違う気がしたから」

 

 個人的には戒めの気持ちを込めていた。この時負けさせてしまったことを忘れないように、都合の悪いことを隠さないようにとスクラップブックに保存していた。どうかと思うけども。

 ただ、バクシンオーは笑って許す。というよりは気にしていないようだった。

 

「謝る必要はありませんとも!これもまた大事な記録なのですから!むしろ、より模範的な学級委員長となるためには必要なことですッ!」

「そっか」

「それにしても、有マの記事もあるんだな。バクシンオーの出走を望む声多数……確かに、そうだった」

 

 有マに関しても入れるかどうかは迷った。だって出走してないし。でも一応、バクシンオーのことが書いてある記事だからと保存してある。

 

「凄いですね!バクシンオーさんのトゥインクル・シリーズでの歴史がこのスクラップブックで分かりますよ!」

「勿論、キタサンブラックやドゥラメンテの分も作成するつもりだよ」

「本当ですか!?やったー!」

 

 大事な担当ウマ娘だ。2人の分も作るのは確定事項である。

 それにしても……本当に結構な量だ。気づいたら、ここまでになったんだな。

 

(最初はネットニュースの記事を貼り付けるぐらいだったのに、今はもう新聞で一面を飾ることも珍しくなくなったな)

 

 喜ばしいことだ。そして思い出す。あの時のたづなさんの言葉を。

 

(良く聞こえなかったけど、楽しくトレーナーをやれているようで何より、みたいなことだった。うん)

「確かに、そうですねたづなさん。楽しくやってます」

「ちょわ?何がですかトレーナーさん!」

「いや、中々楽しい時間だねと思っただけ」

 

 人は変わるものだ。久しぶりに両親に会ったら驚くかもしれない。そんなことを考えながら、スクラップブックの作成に勤しんだ。




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