安田記念も終わって宝塚記念。この宝塚記念はというと。
《ミホノブルボンの巡行が止まらない!ミホノブルボンが後続を突き放す!ダイタクヘリオスとメジロパーマーを抜き去り、ただ1人悠々と進んでいましたミホノブルボン!》
《彼女の走りも進化を遂げてますね!正確無比なラップタイムを刻み続けていますよ!》
《ダイタクヘリオスとメジロパーマーは早々に脱落した!後方からメジロマックイーンとイクノディクタスが鋭く伸びてきました!しかしミホノブルボン!坂路の申し子が、夏のグランプリを駆け抜ける!宝塚記念を制したのはミホノブルボォォォォン!ついに届いたG1の冠ッ!ミホノブルボンがやりました!》
ミホノブルボンが勝利した。大逃げコンビ2人の後ろを常に一定のペースで走り続け、後方から追い上げてくるメジロマックイーンとイクノディクタスを抑えての勝利である。
《クラシックシーズンはサクラバクシンオーに後塵を拝してきましたミホノブルボン。しかしシニアからは違うとインタビューで答え、大阪杯をトウカイテイオーの2着、そして今回の宝塚記念で朝日杯ぶりのG1制覇を果たしました!》
《目標はサクラバクシンオーと口にしていますからね。彼女達の次のレースが楽しみです》
《坂路の申し子の走りは止まらない!最大のライバル、サクラバクシンオーに向けて大きな大きな一歩を踏み出しました!2着は1バ身差でイクノディクタス、3着はクビ差メジロマックイーン!》
やはりというか、バクシンオーのことをとても意識しているようだ。クラシックで幾度となく阻んできた相手だし、当然といえば当然。インタビューでもバクシンオーのことを意識しているような発言が散見された。次彼女達と戦うことになるのは、秋のG1戦線。それも中距離だろう。
そして自分達のチームも夏合宿に行くことになるのだが。
「今回チームのトレーニングに加わる子がいる。ちょっと挨拶してもらうね」
「リッキー☆ラッキー☆みんなでハッピー!コパノリッキーだよ!」
「あ、リッキーさんだ!」
今回コパノリッキーが加わることになった。チームに加入というわけではなく、お手伝い的な感じで。どうやらキタサンブラックとは顔見知りらしい。親しい様子を見せていた。
そしてコパノリッキーだが、ダートの適性がAのウマ娘である。今からバクシンオーとアグネスタキオンのダート適性を上げるのはアレだけど、キタサンブラックとドゥラメンテなら……。
(将来とんでもないことになるな、これ)
今は考えないようにしておこう。
後彼女は風水とやらに造詣が深い。
「風水は科学に基づいたものなの!だから、決してオカルトなんかじゃないんだよ!」
「そうなんだ」
生憎と風水のことはよく知らないので曖昧なことしか言えないが、話を聞く限りだと良い環境に整えるものらしい。環境を整えれば、それだけ努力を重ねることができる。努力の方向性とやらも分かるのだとか。
「……というわけで!高村トレーナーにも是非風水の魅力を!」
「風水がオカルトじゃないってことはよく分かったかな。話を聞いてみると、納得できる部分が多かったよ」
「本当!?良かった~、これでまた1人、風水の魅力を教えることができた!」
かといって傾倒しすぎるのは良くないだろう。コパノリッキー自身もそれは理解しているようで、過度の信頼は厳禁と釘を刺していた。
というわけで始まった夏合宿。今までシンボリルドルフのトレーナーさんと合同トレーニングしていたので、チーム単体でのトレーニングは初となる。
(なんか、新鮮な感覚だな)
早速トレーニング、なのだが。
「今回こそは水上バクシン理論を完成させますッ!いざ、海に向かってバクシンバクシィィィィィ……ブクブクブク」
「バクシンオーさぁぁぁぁん!?」
「ものの数秒で沈んだねぇ」
「さすがに風水の力を借りても水上は走れないんじゃ「遅れは取らない。行くぞッ!」ドゥラメンテちゃん!?」
「ドゥラメンテさんも行かないで!……やっぱり沈んでるし!」
バクシンオーとドゥラメンテが水上バクシン理論なるものを証明するために海に突っ込んでいって溺れていた。去年も見たなコレ。
◇
夏合宿のトレーニング。せっかくコパノリッキーがいるということで、キタサンブラック達はダートのトレーニングを積んでもらっている。別にダートを走らせるとかそんなことはないと思うけど、一応。こんな機会じゃないとトレーニングなんてできないし。
(芝とダートの適性も、距離適性と同じやり方で適性が上がるのかが気になるし)
今のところは大体同じ感じで適性が上がるのを確認している。これはチームのサブトレーナーをやっていた時に得た知識だ。これでキタサンブラック達のダート適性は上がる……が。
(上げたところで、うん。結局は芝のレース走るだろうし)
コパノリッキーの芝適性をちょこっと上げておこう。それぐらいの気持ちでトレーニングを見守る。ダートのトレーニングやってるから芝の適性は上がらないだろうけど。
(それにしても、コパノリッキーは博識だな)
彼女が口にする風水はちゃんと統計に基づいて弾きだされたものだ。決してオカルトなんかではない。バクシンオー達にも逐次アドバイスをして、より良いトレーニングができるようにと励んでいる。
「トレーナーさんはもっと物を増やした方が良いよ!質素すぎるのも風水的にはNG!」
「そうなの?……最低限の着替えと道具さえあればいいと思うけど」
「ダメダメ!ちゃんと自分のお気に入りの物とかあった方が良い気に巡り会えるの!」
そういうものだろうか?今更遅い気がするので特に対策はしないけども。帰ってから考えてみるか。
トレーニングメニューは根性トレーニング中心。今のところステータスとしては一番低いからね。
「フギギギ……ッ!な、なんのこれしきっ!バクシンバクシィィィン……!」
「頑張ってくださ~い、バクシンオーさ~ん!」
「ちゃんと進んでるよ!頑張って頑張って!」
砂浜で巨大タイヤを引いているバクシンオー。タイヤの上では応援するキタサンブラックとコパノリッキー。ドゥラメンテとアグネスタキオンは別メニューをやっている。
「……フッ!」
ビーチフラッグ。走力と反射神経を鍛えるためのトレーニングだ。トレーニング、というよりは競技に近いけども。
「……ふぅむ、中々の反応速度だ!だが、もっと縮められるんじゃないのかい?」
「当然だ。まだまだ、バクシンオーにもタキオンにも及ばない。2人に追いついてこそだ」
アグネスタキオンが逐一タイムを計り、ドゥラメンテは既定の回数をストイックにこなす。日頃も真面目にトレーニングしている彼女らしい。
(バクシンオーという高い目標を見据えているから、か)
順調にトレーニングをこなしていた。
ご飯は宿泊施設のメニューを食べる。ウマ娘用の特盛メニューもあるので大助かりだ。
「さぁみなさん!ご飯はしっかりと食べましょう!委員長がバランス良く食べさせてあげますよッ!」
「苦いものはいらない「好き嫌いはダメですよタキオンさん!」全く無駄だねぇ。私の意見はないのかい?なんとかしたまえよトレーナー君!」
「バクシンオーが正論だよ。苦くてもしっかり食べること」
「えぇ~!?それでも私のモルモットかい君ィ!」
アグネスタキオンが強くなるためだ。好き嫌いしてもらっては困る。というか、キタサンブラックとドゥラメンテは素直に食べてるんだからアグネスタキオンも食べなよ。コパノリッキーはこの光景を初めて見るから苦笑いを浮かべていたけど。
ご飯を食べ終わって、後の時間は明日のメニュー作りに勤しむ。これが一日のサイクルだ。
(トレーニングは順調。けど)
頭に浮かぶのは他陣営のこと。特に、スプリンターズステークスに出走を表明しているウマ娘達のことだ。
(ケイエスミラクルはキーンランドカップに出走を表明。他の有力候補がいないから大本命と言われている)
ケイエスミラクルはスプリンターズステークスにおける最大の強敵だ。この夏合宿でさらに強くなってくるだろうし、バクシンオーを最も脅かす相手なのは間違いない。体調面も問題ないようだし、健康そのものだそうだ。
ヤマニンゼファーとダイイチルビー、ダイタクヘリオスはスプリンターズステークスに直行。この辺は予想通りだ。ニシノフラワーはどうやらアイビスサマーダッシュに出走するらしい。
(新潟の千直。いつ見ても凄いコースだよな)
カーブのない直線コースを走るので、純粋なスピードが求められるレースだ。前哨戦、かは分からないけど、勝って弾みをつけたいところだろう。
(そして、まだ底が知れないバクシンオーの領域……か)
バクシンオーは領域に至った。けど、その出力は
どうも領域はメンタルに左右されることもあるらしい。つまりメンタルがどんどん上向いているとも取れるが。それに、領域についてもそれとなくこうなんじゃないか?という解釈が出てきた。
(領域は極限の集中状態。つまりはまぁ、鍵になるなにかがある)
その何かというのが、感情なんじゃないかと思っている。そしてどの感情があれば領域に至れるかというのは、個人で違うと定義。
(バクシンオーはおそらく渇望。強い相手と戦うことで、更なる強さを発揮するタイプ)
もっとも、これはあくまで推論の域に過ぎない。領域ってやつは本当に謎な部分が多いね。
それに、頭に浮かぶのはバクシンオーのこと。今も尚領域の出力が上がり続けている。それがどこまで上がるのか。
「一体どこまで行くのやら。
バクシンオーの今後を考えると身体が震える。資料をまとめて、今日も合宿の一日が終わった。
水上バクシン理論、未だ完成せず!