ダイタクヘリオスが飛び出し、早々に逃げる形をとるスプリンターズステークス。大外からサクラバクシンオーが飛び出し先行集団の先頭へ。真ん中からケイエスミラクルがサクラバクシンオーに並ぶ。
《やはり先頭を奪うのはこのウマ娘をおいて他にいない、ダイタクヘリオス!大逃げウマ娘ダイタクヘリオスが飛び出した!大外からサクラバクシンオーが追走、真ん中からはケイエスミラクルも伸びてくる!ヴァッサゴにジュエルオニキスも先行集団に。6番手の位置にヤマニンゼファーとニシノフラワー!》
《先行集団の後ろにつける形になりましたね。ヤマニンゼファーとニシノフラワーは今回この位置につけるようです》
《後方にはダイイチルビーの姿も見えます。早々に第3コーナーへと入っていくウマ娘達、先頭はダイタクヘリオスが2バ身差をつけて走っていく!やはりこのウマ娘がいなければ始まらない!ダイタクヘリオスが先頭で進んでいく!》
ケイエスミラクルとサクラバクシンオーが先行集団の前に、ヤマニンゼファーとニシノフラワーが先行集団の後ろにつける。熾烈なポジション争いが繰り広げられる中、ダイイチルビーは後方集団へ。来るべき時に向けて脚を研ぎ澄ませている。
「へいへいへ~い!ウチのステージが始まるぜ~!」
快調に飛ばして逃げるダイタクヘリオス。内側へと進路を取り、最小限の距離ロスで走っていた。サクラバクシンオーは外に、ケイエスミラクルは内へとつけた。
《坂を一気に下っていくウマ娘達、第3コーナーの緩やかなカーブを駆け抜けていきます!中団にはクロニクルオースにジャンボゲニーセン!バ群は固まっております、差はありません。後方集団の先頭にダイイチルビー、ダイイチルビーが外につけている!》
《いつでも抜け出せるようにという判断でしょう。内側につけると前のウマ娘が壁になるかもしれませんから》
《最後方はセプテントリオン、セプテントリオンが一番後ろに控えます。ダイタクヘリオスがペースを作るスプリンターズステークス、電撃戦に相応しい速さです!》
レースを見守る高村達。アグネスタキオンはタイムを測りながら隣にいる高村へと質問を投げかける。
「さてトレーナー君。君が見えるステータス上では……委員長君は勝てるのかい?」
キタサンブラックはいつもと変わらない返答をすると思っていた。ドゥラメンテも同じである。だが高村は、予想外の一言を放った。
「
「えぇっ!?そ、ソレ本当なんですかトレーナーさん!」
「本当だよキタサンブラック。有力なウマ娘達のステータスはほとんど変わらない、誰が勝ってもおかしくない状況だ」
冷静に俯瞰しながら、なんでもないように答える高村。その様子にドゥラメンテが異議を唱える。
「珍しいな。今までのトレーナーならば、もう少し不安そうな表情をしていたと思うが」
「……見てたの?」
「近くにいるわけだ。さすがに分かる」
自分の痴態を見られていたらしい高村は頬を掻く。
「……まぁでも、もう不安に思うことはないよ。理由は簡単で、僕はバクシンオーの勝利を信じてるからね──みんなと同じように」
「ほほ~う!君からそんな言葉を聞けるとは。そういうの、好きじゃないと思っていたよ」
「
拳を握ってレースを見守る高村。キタサンブラックはより大きい声援を、ドゥラメンテは己の糧とするために少しも見逃さずレースを観戦し、アグネスタキオンはデータを収集する。変わらないこのスタイルこそが、高村のチームの魅力なのかもしれない。
「へリた~ん!テンアゲでGO~!」
「頑張れバクシンオー!今日も元気なバクシンを見せてくれよ~!」
「ミラクルお姉ちゃん頑張ってー!」
「フラワー!君がこのレースを制するんだー!」
声援を受けてコーナーを曲がっていくウマ娘達。すでに第4コーナーへと入っていた。
◇
う~ん、中々にマズいですね!レースの最初っから興奮しっぱなしです!ミラクルさんからの宣戦布告、それに応えるように私も宣戦布告!私の言葉を聞いたみなさんが闘志を滾らせ、レースに全力で挑んできている!この興奮は今まで感じたものの中でも最高と言っても過言ではないでしょう!
(渇きがとても酷い。もっと、もっとと!より際限なく求めてしまいます!)
最初は付き合い方が分かりませんでした。もっと律すべきか?とも思いました。しかーし!今は違います!この渇きは私にとって重要なもの、私が強くなるために必要なものでした!
《第4コーナーから最後の直線へと向かいます、各ウマ娘!先頭は依然としてダイタクヘリオス!ダイタクヘリオスが先頭を走りますが、その差は1バ身に縮まっている!2番手はケイエスミラクル、3番手はサクラバクシンオーですが、これはヤマニンゼファーが差を詰めてきました!》
《早めに仕掛けましたね。これが功を奏するか?》
《ニシノフラワーも外から上がってきます!クロニクルオースにジャンボゲニーセンも上がってきた!ダイイチルビーも来ているぞ、まもなく最後の直線!最後の直線先頭で入るのはやはりダイタクヘリオスか!?》
みなさんの気迫が伝わります。このレースを絶対に勝つという気概が伝わります。その中でも、ケイエスミラクルさんのオーラは一際輝いていますね!この場にいる全員をねじ伏せる気迫をひしひしと感じますよ!
勿論フラワーさんやゼファーさんも負けず劣らず。ダイイチルビーさんは……まだ近くにいませんが、後方からうすら寒い気配を感じるのでこれがおそらくダイイチルビーさんの殺気でしょう!これもまた素晴らしいです。序盤からずっと逃げているヘリオスさんの気迫もまた良い。ふざけているように見えるかもしれませんが、彼女なりの信念をもって走っている。ならばそれに応えるのが学級委員長としての役目でしょう!
(本当に私は、間違っていた。私の中で一番の失敗ですねこれは)
短距離に敵はいないと考えていました。前回のスプリンターズステークスの戦いで、私は短距離で勝ち続けることはできるだろうと驕っていました。今思うと、それは間違いでした。
初めてでした。高松宮記念……短距離のレースでありながら、負けるかもしれない、という思いを抱いたのは。勝てるかどうかは分からないと感じてしまったのは。だからこそ反省せねばなりません。こんなにも素晴らしいライバル達がいるのに、短距離で熱い勝負ができるのを諦めそうになっていたことを!
(もしここで勝っても、彼女達はまた挑んでくるでしょう。そして、今回のような熱い勝負ができるはずです!)
これだけの気迫を持っているのだから分かります!えぇ、委員長はまるっとお見通しですよ!たとえ敗れてもすぐにまた挑んでくる。何故なら私がそうだから!
《最後の直線に入りました!先頭は依然ダイタクヘリオス、しかしケイエスミラクルが差を詰めている!その差を半バ身まで詰めた!ヤマニンゼファーだヤマニンゼファーも追い上げてきた!ヤマニンゼファーが3番手、ニシノフラワーが4番手!クロニクルオースも伸びてきたが、後方からダイイチルビー!ダイイチルビーが飛んできた!》
《最後の直線で各ウマ娘伸びてきましたね!しかしっ》
《サクラバクシンオーはどうだ!?サクラバクシンオーはまだ伸びない!サクラバクシンオーは伸びてこない!サクラバクシンオー現在6番手!サクラバクシンオーは現在6番手!中山の直線は短い!サクラバクシンオーは届くのか!?》
(ッ!レースの雰囲気が一変しました。つまりは、みなさんが領域を切ったということ!)
みなさん素晴らしいバクシンですね!最後の直線で、みなさんの気持ちがぶつかり合います。
「最速は、おれだ!」
「ウチは短距離でも負けねーべ!ウチのフェスはまだまだ終わらせね~!」
「烈風一陣……全てを吹き飛ばす風となりましょう!」
「もう負けない、負けたくない!やぁぁぁぁッ!」
「最上の輝きを、この中山に!」
みなさんの気迫が伝わります。それと同じくらい、私の心は──高鳴り踊る!
(心臓が脈打つのが分かります。この状況を心から楽しんでいる私がいます!あぁ、やはり……)
「みなさん素晴らしいバクシンですねッ!」
衝動を抑えることなどできるはずもありません!ただ、気持ちの赴くままに!この手に勝利を手繰り寄せる!
《サクラバクシンオーはまだ来ないのか!?中山の急坂を駆け上がるウマ娘達!現在先頭はダイタクヘリオス!しかしケイエスミラクルが襲い掛かります!外からはダイイチルビー、ダイイチルビー!ヤマニンゼファーとニシノフラワーも伸びてくる!この5人での決着となるか!?いや、それは早計だ!まだこの場に足りないウマ娘がいる!さぁいつ飛んでくるのか!?》
渇いていた心が、どんどん満たされていきます!水瓶に水が満ちるように、私の心が満たされます!ですが、満たされるだけではダメですね。
(私の勝利を信じている人がいるのですから。それにッ!)
「私のバクシンは止まることを知りませんッ!誰よりも速く駆け抜けることができますッ!」
「トレーナーさんが鍛えてくださったこの身体ッ!負けることはありえませんッ!」
「この2つを完璧に兼ね備えているこの私ッ!そう、私こそがッ!」
「さぁ!ここからは──さらなる進化を遂げたバクシンをお見せしましょうッ!」
身体の奥底から湧き上がるこの力を全て解放しましょう!このスピードこそが、学級委員長の証明!誰よりも模範的で、誰もが憧れる強さの神髄を!
トップギアで行きますよ!
◇
6番手まで落ちたサクラバクシンオー。もうダメか……と思われたが。
「……いけ、バクシンオー!」
高村が声をあげる。それと同時に──サクラバクシンオーが爆発的な加速を見せた。
《残り200m!ここでぇ!サクラバクシンオーが飛び出してきたぁぁぁ!6番手から伸びてきたサクラバクシンオー!ついに来ました桜前線!瞬く間に追い抜こうと飛んでくる!》
《これは……他とは一線を画すスピード!?これが彼女の本領ですか!》
《さぁ役者は揃った!後は誰が主演になるかを決めるだけ!奇跡に桜、烈風に蕾!笑いに紅玉が抜けている!もうほとんど差はありません!誰が抜け出すのか全く予想がつきません!》
瞬く間に差を詰めるサクラバクシンオー。しかし、前を走るケイエスミラクル達もタダでは抜かせない。
(やはり来ましたかっ!それにしても……恐ろしいほどの暴風!)
(気をつけねば、こちらも飲み込まんばかりの圧……!最終盤で、これだけの脚を!)
全員思わず怖気づく。ついに完成したサクラバクシンオーの領域に飲まれそうになっていた。
だが、この場に集ったのは歴戦のウマ娘。今更飲まれるはずもない。歯を食いしばり、必死になってゴールを目指して駆け抜ける。最早他の誰も目に映らない。彼女達の目に映るのは100m先のゴール板のみ。
「速く、誰よりも速く……!」
「負けない……絶対負けない!」
「最後までアゲてアゲて、ウチが勝つ!」
ひたすらに前を見ていた。
「頑張れー!頑張れ~!」
「後もう少しよー!」
観客の声援が一際大きくなる。差しつ差されつ、ほとんど差がない最後の直線。
トレーナー達が祈り、声を上げる。
「……凄いっ」
高村は──純粋な子供のようにレースを観ていた。
担当ウマ娘の勝利を願う。意地と意地のぶつかり合う中山の最後の直線。抜け出したのは──サクラバクシンオーだった。
《ッ!桜だ桜だ!サクラバクシンオーがさらに伸びる!驚異的な伸びだ!?他のウマ娘を追い抜いていく!ケイエスミラクルとダイタクヘリオスが必死に粘る!ヤマニンゼファーとニシノフラワーが抜かせまいとギアを上げようとする!ダイイチルビーが続こうとする!しかしバクシンオー!サクラバクシンオーだ!》
《これは、決まったッ!》
《秋の季節に桜が咲き誇る!驀進街道突き抜けた!これがサクラバクシンオーだぁぁぁぁぁぁ!!!最強スプリンターここに降りぃぃぃん!6番手から見事にぶち抜いたサクラバクシンオー!1200mの電撃戦を制したのはサクラバクシンオーだぁぁぁ!2着はケイエスミラクル!3着はニシノフラワァァァ!》
秋のG1戦線の開幕を告げるスプリンターズステークス。時代最速の称号をかけた戦いは──赤く光るレコードの文字と共に、サクラバクシンオーの勝利をもって決した。
タイトル回収。そして次回はバクシンオー編最終回、になるかもしれない。