とある日のこと。
「ほほう、ここがトレーナーさんのご実家ですかッ!」
「お土産よし、挨拶が重要……しっかりしないと!」
「……」
「緊張しているようだねぇドゥラ君。こういう時こそ堂々とするものさ。というわけでもてなしを頼んだよトレーナー君」
「アグネスタキオンはもうちょっと遠慮ってものを覚えようか」
担当ウマ娘を連れて実家へと戻ってきた。発端は部室での僕の一言。
「そろそろ実家に顔を出すか」
そう呟いたら、全員が食いつく。
「トレーナーさんのご実家ですか!トレーナーさんにはいつもお世話になっているので、これは挨拶に行かなければいけませんね!」
「あたしも!お世話になっていますので!」
「キタサン達に同じくだ」
「トレーナー君の実家か。興味があるね」
「……別に気にしなくても大丈夫だよ?」
けど、結局全員来ることになった。別に問題はないからいいんだけど、こんな大所帯で帰ったら両親がビックリするだろうな。一応、連絡は入れているけど。
インターホンを押して待つこと少し。
「は~い……あら!帰ってきたのね聖!」
「うん、久しぶり母さん」
「活躍は耳にしてるぞ聖!それに……お、おぉ!本物のサクラバクシンオーさんだ!」
「はい!サクラバクシンオーですッ!」
両親は感激している。まぁ無敗の三冠ウマ娘かつSMILE区分のG1全制覇を成し遂げたウマ娘だからそりゃそうか。普通だったらこうやって知り合えることなんてないわけだし。
「ささ、どうぞ上がって行ってください!」
「あ、ありがとうございます!そうだ、これお土産です!」
「ま~!大丈夫なのに……しっかりした子ねぇ」
キタサンブラックのお土産を手に両親は嬉しそうだ。中身が、というよりも貰ったこと自体が嬉しいのだろう。
リビングに通されて席に着く。みんなは物珍しそうに部屋を見ているが、生憎と普通の家となんも変わらない。ちょっと残念かもしれないけどね。
「今お茶を出しますので。ごゆっくり寛いでください」
「あ、お、お構いなく!」
バクシンオーはワクワク、キタサンブラックは緊張、ドゥラメンテは緊張のあまりここまで無言、アグネスタキオンは楽しそうに……なんで君は楽しそうにしているのかな?そんな面白いものある?テレビとかぐらいしかないよ。
さて、帰ってきたところで何かあるわけじゃないんだけど〈prrr!〉あれ、携帯が鳴ってる。
「ゴメン母さん。ちょっと用事があるから席を外すね」
「あら、お仕事?」
「どうだろう、とりあえず出てみるよ」
こうして席を離れる。バクシンオー達には悪いけど。
「僕はちょっと席を外すけど、ゆっくりしていってね、みんな」
「はい!トレーナーさんが留守の間は、この学級委員長にお任せください!」
「うん、頼りにしてるよ」
さて、電話に出てこよう。
◇
トレーナーさんが電話で退席しましたね。残されたのは私とドゥラさん、キタさん、タキオンさんとトレーナーさんのご両親のみ!
(学級委員長として任されましたからね!問題はありませんとも!)
さぁ早速ご両親に質問を「ありがとうございます、みなさん」ちょわっ?何故か頭を下げられました!これは委員長的にも予想外!
「はいッ!こちらからもお礼を言わせてください!ありがとうございます!」
ですが問題ありません!委員長ならば模範的な受け答えもできますよ~!
「トレーナーさんにはいつもお世話になっていますからッ!トレーニングのこと、勉強のこと。それこそいっぱいのことです!」
「は、はい!お礼を言いたいのはこちらの方といいますか……」
「トレーナーは、いつも私達のために身を粉にしている。本当に、助かっている」
「私の理論に付き合える人材は貴重だ。感謝しているよ」
タキオンさんのは感謝なのでしょうか?まぁ感謝でしょう!
トレーナーさんのご両親はというと、嬉しそうにはにかんでいました。
「あの子、トレーナーになってから楽しそうにしているから。きっとみなさんがいるからだと思うんです」
本当に嬉しいんだなと伝わってきますね。加えて、嬉し泣きでしょうか?目尻にはうっすらと涙が見えます。ここまでとなると、ちょっと気になりますね。
「すいません、トレーナーさんのお母さん!1つよろしいでしょうか?」
「はい?なんでしょうか」
「小さい時のトレーナーさんはどのような方だったのでしょうか?」
あまり聞いたことがないので興味があるのが1つ、そしてご両親の反応も気になったのが1つ。みなさんも興味津々といった様子です。
少し考え込む素振りを見せた後、お父さんの方から口を開きました。
「あの子は、昔から感情の起伏が少ない子でして……友達も少なかったんですよ」
「1人でトレーナーになるための勉強をして、誕生日にゲームよりも参考書を欲しがる、そんな子でした」
なんと!小さい時から勉強熱心な子だったんですね!えらいです!
「幸い、虐められるなんてことはありませんでした。ただちょっと、周りの子との間に壁を作ってるような感じで……親としては心配だったんです」
「聖を気にかけてくれる友達はいました。ただ、それでも聖は勉強優先で。親としては遊んで欲しいという気持ちがあったんですけどね」
「聖は苦にしていなかったので、あまり強く言えなくて……」
う~ん、あまり良いとは言えない学生時代だったみたいですね。あくまでトレーナーさんのご両親の視点から見ると、ですが。ただ、トレーナーさん自身が気にしてなさそうですので、我々が介入できるようなことではないでしょう。アグネスタキオンさんが気にしているような素振りを見せていますが。
「トレーナーさん、勉強一筋だったんですね」
「悪い、とは一概に言えない。ただ、楽しい……のだろうか?」
「……そんなものは本人の気持ち次第さ」
「アグネスタキオンさんの仰る通りで。結局は聖の気持ち次第でしたから」
それでもご両親としては心配なのでしょう。お子さんの将来が。
「トレーナーになってからも心配で……このままで大丈夫なのだろうか?聖はやっていけるだろうか?……そんな風に思っていた時でした」
「あの子が、バクシンオーさんが勝ったレースで楽しそうにしているのをテレビ越しに見たんです」
ちょわ?私のレースですか!いや~、なんだか照れますね!
「最初はビックリしました。滅多に感情を出さないあの子が、嬉しそうな表情をしてたんですから」
「見間違いかと思って。もう一度見直しても、あの子がうっすらと笑顔を浮かべていて……私達は本当に嬉しかったんです」
ご両親の表情からも分かります。トレーナーさんが楽しそうにやっていて安堵しているような、ホッとしているような表情。
その後もご両親はぽつぽつと語ってくれました。
「バクシンオーさんが負けて悔しそうにしている表情、勝って嬉しそうにしている姿……レースを重ねる度に、そんな聖の姿を目にする機会が増えました」
「極めつけは、あのスプリンターズステークスです。聖は本当に嬉しそうにしてましたっ」
涙を堪えきれずにいるご両親。それだけ嬉しかったのでしょう。トレーナーさんの成長した姿が。
「聖は、トレーナーを楽しくやっています。それはきっと、あなた方のおかげです」
「みなさんがいてくれるからこそ、聖は楽しくトレーナーをやっている……そう確信しています」
もう一度、ご両親は深々と頭を下げました。こちらに感謝をするように、深く、深く下げました。
「「これからもどうか、聖をよろしくお願いします」」
……勿論ですとも!
「えぇ!トレーナーさんは私を導いてくれた、偉大なるトレーナーさんですッ!トレーナーさんがいてこそ、今の学級委員長の姿があると言っても過言ではありませんッ!」
トレーナーさんがいたからこそ、私は無敗の三冠ウマ娘になれた。ブルボンさんやライスさん、テイオーさんやミラクルさんのような素敵なライバル達に出会えました!私としても、この感謝の気持ちを伝えたいですッ!
「勿論これからもご一緒しますッ!私とトレーナーさんは一蓮托生!これからもご指導ご鞭撻をよろしくお願いしたいですからッ!」
「あ、あたしもです!あたしもトレーナーさんにまだまだ教わりたいことがたくさんありますから!」
「無論、私が強くなるのに彼は必要不可欠だ。そうでなくとも、彼とは良き関係を築いていきたい」
「私がモルモ……げふんげふん、同士である彼を逃す手はない。これからも良い関係を築いていきたいと思っていますよ」
みなさん同じ気持ちですね!ま~当然でしょう!トレーナーさんは凄い方ですから!
トレーナーさんのご両親は一瞬呆けた後、また笑みを浮かべ。
「ありがとうございます」
最後にもう一度、頭を下げました。そして我々も、そんなご両親に深く頭を下げました。
◇
「……まさか、アイツから久しぶりに連絡が来るなんてね」
随分と久しぶりだったな、学生時代こんな僕につるんでくれた友達。彼も元気にやっているようで何よりだ。
さて、ようやく部屋に戻ってきたわけなんだけど。
「……どういう状況?」
両親とバクシンオー達が頭を下げ合っている光景に出くわした。どういうことだ?
「やや?トレーナーさんお帰りなさい!」
「おぉ、戻ってきたか聖。ささ、お前も座りなさい」
「うん。それはいいんだけど……何を話してたの?」
詳細を聞いてみると、どうやら僕の小さい頃の話をしていたらしい。あんま面白いことはないと思うけどな。
「それじゃあ聖、お前のトレーナーとしての生活を聞かせてくれないか?」
「う~ん……あんまり面白い話はないと思うよ?」
「良いんだ。お前がトレーナーとしてどんな生活を送っているのか……聞きたいんだ」
笑みを浮かべる父さん。まぁ、それならいいか。
その後は僕の学園での生活を話す。話題には事欠かなかったし、父さんや母さんも嬉しそうにしてたから、よかったかな。
後一話、新しい担当ウマ娘2人が加入するお話を書いてアグネスタキオン編ですね。