そんなわけで始まる夏合宿。とは言っても、トレーニング内容は同じでもそれぞれにかかる負荷は違う。それも当然で。
「え~!?ボクカイチョーと同じ負荷が良いんだけど!」
「ダメだ。ここで無茶をしてまた怪我をするわけにはいかないだろう?トレーニングの許可が下りたとはいえ、まずは軽くだ!」
「トレーナーさんッ!この委員長も大丈夫ですよッ!もっともっと重い負荷でも大丈夫ですとも!えぇ、模範となるべく会長さんよりも重い負荷でッッ!」
「うん、まずはこの負荷で行こうか。キタサンブラックとドゥラメンテはサポートがメインね」
ドリームトロフィーで活躍しているシンボリルドルフ、怪我から回復したとはいえ、まだ強い負荷をかけるわけにはいかないトウカイテイオー、そもそもがジュニア級のサクラバクシンオーにデビュー前のキタサンブラックとドゥラメンテ。それぞれ違う負荷をかけてトレーニングをしている。果たしてこれでも適性が上がるのかどうか……と思っていたが。
「いいかい、サクラバクシンオー。中距離や長距離を走るには正しいペースで、正しい走り方で走るのが大事だ。どれだけスタミナを鍛えても、無駄な力が入っていては余計に体力を消耗する。適宜身体の力を抜くことが大事だ」
「は~……成程ッ」
「簡単に言えば、皆の模範となるようなフォームで走ることができれば自然と中距離以上も走れる、ということさ」
「成程ッッ!」
シンボリルドルフの指南もあってか、これならば問題ないだろう。
そして、自分はルドルフ達のトレーナーと作戦会議という名の現状報告だ。
「ところで高村トレーナー。テイオーの長距離適性はどんな感じなんだ?」
トウカイテイオーの長距離適性。彼女を見てみると……どうやら長距離の適性はBらしい。上の方だ。
「Bですね。多少は落ちますが、勝ち負けに絡む分には問題ないレベルです」
「……ちなみに、最高値はいくつなんだ?」
「Sです。シンボリルドルフの長距離適性が該当します。彼女、長距離においてはほぼ敵はいないんじゃないでしょうか?」
「そうだな。長距離でのルドルフはかなり強い」
学園でもSランクの適性はかなり珍しい方だ。オグリキャップやタマモクロスでもAだった。しかし適性Sがあるということは、至る方法はあるのではないか?と思わずにはいられない。その方法はこれから模索していけばいいだろう。
「……Sの下にはやはりAか?」
「そうですね。適性がAならば、問題なく力を発揮できるレベルです」
「なら、当面は長距離の適性をAにするのが目標になる、か。君としては、他に何か気になる点はあるか?不足しているものとか」
「……スタミナがもう少し欲しいですね。現状だとCに届かないDといったレベルなので」
このトレーナーさんは自分の言葉を特に気にすることなく受け入れてくれている。その方が話が早いのでありがたい限りだ。
「スタミナトレーニングか。遠泳が一番適しているな。それに身体への負担も少なく済むだろう」
「後は適性上げに関してですが……シンボリルドルフとトレーニングしていけば、いずれは上がるかと」
「いずれ……不確定な部分があるのか?」
「不確定、というよりは。どの程度のトレーニングを積めば上がるかは未知数ですので。ただ、適性の高いウマ娘とトレーニングをすることで適性を上げることができるのは実証済みです」
バクシンオーの中・長距離の適性はまだDで変わらず。この合宿で1つでも上がれば今後が楽になるのだが、まぁ期待はできないかもしれない。なんというか、Dになってから露骨に上がりにくくなった。境界線のようなものだろうか?
(タマモクロス達のようなウマ娘とのトレーニングも減ったのも影響してそうだ。そう考えると、この夏合宿で適性が上がる可能性は十分にあり得る)
この夏合宿でどこまで成長できるか。せめてC、欲を言えばBはあれば今後が楽になる。
「それにしても、サングラスなんてするんだな。高村トレーナー」
「まぁ、日差しが凄いので。普段はあまりつけませんけど」
普段使いはあまりしない。今回は日差しが強いからしているだけで、いつも困っているわけではないから。
「砂浜でもバクシンバクシィィィィィンッ!」
「頑張ってくださーい、バクシンオーさーん!」
「テイオーは焦らずゆっくりと、だ。従容不迫と状態を見極め、徐々に慣らしていこう」
「わ、分かってるよカイチョー。待ってて、カイチョーと同じ無敗の三冠ウマ娘になって、すぐにカイチョーも越えてみせるから!」
「フフ、その時を楽しみに待っているよ」
夏合宿は順調である。
◇
順調に合宿の時間は過ぎていく。トウカイテイオーの怪我も完全に治り、今となっては合宿のトレーニングを軽々とこなしていた。
「ふっふ~ん!ワガハイが本気を出せばこんなものぞよ~!」
「テイオーさん凄いな~……!でも、わたしだって負けない!」
「あまり無茶はしないでね、キタサンブラック。怪我をしたら目も当てられないから」
シンボリルドルフがトウカイテイオー達をまとめ上げ、指導している。同じウマ娘ならではの視点、そして現在においても最強と呼ばれているシンボリルドルフからの教えはサクラバクシンオー達にとってプラスに働いた。
「功を焦るな。急いては事を仕損じるといわれるように、焦りは良くない結果をもたらす。着実に一歩ずつ、君を証明していけばいい。分かるかい?ドゥラメンテ」
「はい。まだ若輩の身、あなたの走りから学びを得てみせます」
「私もッ!私から学んでみてもいいのではないでしょうかッッ!おススメですよッ!なんといっても私、学級委員長ですからッ!」
「無論、バクシンオーさんからも学びます。全てを吸収し、己の力として昇華する……全ては私の証明のために!」
夏合宿は順調に進んでいる。サクラバクシンオー達は着実にレベルアップしていた。
合宿のある日の夜。サクラバクシンオーは砂浜へと繰り出していた。
「いや~、夜の風が気持ちいいですねッ!」
夜の砂浜で1人笑い、今回の合宿が充実したものであることを実感していた。
「委員長としてさらなる飛躍をッ!この調子で頑張れば中距離や長距離の制覇も間違いありませんねッ!まぁ私は学級委員長ですから!優秀な私ならば当然ッ!」
「トレーニング後なのに元気だな、サクラバクシンオー」
「おや?会長さんではありませんか!先程ぶりですねッ!」
そんなサクラバクシンオーの下に、シンボリルドルフがやってきた。トレーニング後にも関わらず元気なサクラバクシンオーを見て苦笑いを浮かべている。
「ま~少し、えぇほんの少しだけですが!疲れてはおりますけども!まだまだやれますよッ!なにせ私、皆の模範となるべき学級委員長ですからッ!」
「そうか。だが、時には休むことは大事だ。疲労困憊の状態で動いても、良い結果は生まれないよ?」
「ご心配ありがとうございますッ!会長さんも疲労にはお気を付けくださいねッ!」
「無論だとも」
笑顔で会話をする2人。そんな時ふと、シンボリルドルフが真面目な表情でサクラバクシンオーを見据える。ただならぬ雰囲気を発していた。
「ちょわっ?どうされましたか会長さん?」
「サクラバクシンオー。君に1つ聞きたいことがある……全距離制覇を目標に掲げているという噂は本当か?」
物々しい雰囲気のシンボリルドルフからサクラバクシンオーに投げかけられた質問は、サクラバクシンオーの目標でもある全距離制覇について。
「短距離のみならず、マイル以上の距離まで制覇しようとしている……そんな話を小耳に挟んでね。それは、事実かい?」
表面上こそ取り繕っているシンボリルドルフ。しかし発せられる雰囲気は凄まじい。並のウマ娘なら委縮してしまうほどに。
だが、サクラバクシンオーは
「当然ですとも!優秀な私は皆を先導し引っ張っていく使命がありますのでッ!故に中距離以上でも勝つのは当然ッ!結果を残してこその学級委員長ですッ!」
「……そうか。立派な志だ。ただ、今のままだと難しいかもしれないね。君が中距離で結果を残すのは、厳しいと言わざるを得ない」
苦笑い気味にそう指摘するシンボリルドルフ。やはりルドルフの目から見ても、サクラバクシンオーの適性はお世辞にもあるとは言えないのだろう。
しかし、サクラバクシンオーはそれすらも笑って返す。
「ま~今はそうかもしれませんが。ですが心配ご無用ッ!なんせトレーナーさんが約束してくれましたからッ!私を長距離でも走らせるとッッ!」
「そうか。信頼しているんだな、君のトレーナーを」
「勿論ですッ!」
己のトレーナーに信頼を寄せるバクシンオーの言葉に、微笑ましい視線を向けるシンボリルドルフ。その中には少し、
「そういえば、君のトレーナーが探していたよ。宿舎に戻った方が良いんじゃないかな?」
「なんと!教えていただき感謝しますッ!ではすぐに戻りましょう!宿舎に向かってバクシィィィィィィン……」
トレーナーが呼んでいる、その言葉を聞いてサクラバクシンオーは合宿所へと戻っていった。1人残ったシンボリルドルフは、呟く。
「サクラバクシンオー……君が進もうとしている道は、茨の道だよ」
サクラバクシンオーが掲げる目標、全距離制覇。もし達成できれば途轍もない大記録になるだろう。まさしくサクラバクシンオーの言う、模範となるべきウマ娘の姿かもしれない。
シンボリルドルフが懸念しているのはその果てに辿り着く領域……
「当たり前のように勝ち、敗北の方が語られてしまう。彼女は私と同じになる可能性が十二分にある」
現時点において、サクラバクシンオーの適性は短距離とマイルだけだ。中距離以上の適性は他のウマ娘と比べればあるだけで、G1を勝つほどではないとシンボリルドルフは断言できる。しかし……いずれ彼女は結果を残せるほどの領域に辿り着くだろう。サクラバクシンオーとそのトレーナーを見て、彼女は確信を抱いていた。
全ての距離を制覇した暁に辿り着くのは、
(サクラバクシンオーもまた、
見るものを退屈させる絶対の勝利と、それによって得られる孤独。彼女も自分と同じ領域に辿り着くだろうと、シンボリルドルフは確信めいたものを感じた。
……しかし、シンボリルドルフはフッと笑う。
(私も、ドリームトロフィーで得ることができた。だから彼女もきっと……)
「私の杞憂、だな」
シンボリルドルフは砂浜を去る。宿舎へと戻ろうとしていた。
「テイオーから夏祭りに誘われている。トレーナー君も行くだろうから楽しみだ」
今後の予定に思いを馳せながら。
◇
そんなわけで合宿最終日があっという間にやってきた。
「いや~、あっという間でしたねッ!」
「本当だよね~。けど、脚は万全!このまま菊花賞も勝っちゃうモンニ!」
「頑張ってくださいテイオーさん!応援しにいきます!」
バクシンオー達にとっても充実した合宿になっただろう。適性は長距離が上がってCに。やっぱりルドルフのSが大きかった。
さて、菊花賞を控えているテイオーはというと。
「高村トレーナー……テイオーの長距離適性は?」
恐る恐る聞きに来たテイオーのトレーナー。淡々と答える。
「Aになってます。元よりシンボリルドルフとトレーニングする機会が多かったのか、合宿の半ばぐらいでAになってましたよ」
「~~ッ!良かった~……!いや、でも勝つまでは油断しないぞっ!」
気合を入れ直していた。クラシック三冠、取れることを心の中で祈っておく。
さて、帰ろうかという時。彼はこちらに手を差し伸べてきた。
「高村トレーナー、夏合宿は良い時間を過ごせたよ!お疲れ様!」
「……お疲れ、様です」
求められるがままに手を差し出す。彼はそのまま自分の手をガシッ!と掴んで握手をした。
「うん!機会があったら、また君の話を聞かせてくれ!適性の話とか色々と!」
……良く分からない人である。多分、勝利に貪欲なんだろう。知見を広げて、全部自分のものにするタイプ。こういう姿勢がシンボリルドルフの三冠とテイオーの勝利に繋がっているのかもしれない。
「それじゃあ帰るよみんな!」
「「「はーいっ!」」」
こうしてバクシンオーの最初の夏合宿は終わった。ステータス的には……アプリであったようなレベルアップはあんまりなく、通常のトレーニングより少し上がった程度。負荷が少なかったせいかもしれないけど。それでも充実した夏合宿だったと言えるだろう。
(というよりは、適性が上がったのが一番大きい。この分なら中距離も……そうなれば)
「……うん、予定は決まった」
今後の予定を立てながら帰った。
次の育成ウマ娘がトランセンドとはこのリハクの目を(ry