目指せキヴォトスのお姉ちゃん!   作:Moools

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先生は…

 

もういいだろう?

連邦生徒会長が失踪し、先生がキヴォトスに現れた。

ここまでゲームのシナリオ通り。

このまま行けば、お前が頑張らなくても先生がきっとどうにかしてくれるんじゃないか?

 

いつまで自分が特別だと思っているつもりだ?

所詮お前は『知っている』だけの存在。

そんなお前に何が出来る?

 

確かに情報は最強の武器になり得る。

だが、その情報を活かせる能力がなければ宝の持ち腐れというものだろう。

ティーパーティー程の権力と立場を持っていた少女ですら未来という情報を得た上で出来たことは限られたというのに、お前程度に何が出来る?

 

お前は何故責任を感じている?

大人だから?

ああ、それとも未来を知っているからか?

 

そんな責任を果たすために、守れる全てを守りたいって?

笑わせるな、お前はどちらの責任も果たせていないじゃないか。

 

そうだお前は救わなかった

そうだお前は手を伸ばさなかった

そうだお前が選んだ

そうだお前が切り捨てた

そうだ

 

 

 

 

 

「……あはは、まーた随分と早いお目覚めだな」

 

カーテンの隙間から零れる朝日、子鳥のさえずり、そして普段の起床予定時刻の1時間前を指す時計。

先生が来てからは何日もこんな状態だ。

もしこれで、夢の内容があれじゃなければ早起きが出来た清々しい朝のワンシーンと言えただろう。

 

「笑わせるな…か」

 

俺は…この世界で人を殺した。

これは比喩でもなんでもない事実だ。

この世界がゲームのストーリーと同じ世界線だった場合、変数が現れることを危惧して救えたはずの命を切り捨てた。

今の自分には救えるだけの力が無いからしょうがないなんて自分に言い訳をしながら。

 

…理解はしていた。

俺は先生のようにはなれないことを。

そして俺はもう…先生が嫌いな、子供を蔑ろにするような汚い大人側の人間になってしまっていることを。

俺にはみんなと明るい未来を目指す権利なんてないことを。

 

理解はしていた。

してはいたが…

 

「きついなぁ……」

 

 

 

 

一応、こんな俺でも何もしてなかった訳では無い。

この2年間の甲斐あってか、歩いていれば同級生や後輩に進んで挨拶してもらえる程度ではあるし、

 

「あっ!おはようございます姐さん!」

 

「おはよう。もうミレニアムにはなれた?」

 

「はい!」

 

この子みたいな学校に所属したいけど、行き場がなくてヘルメット団や傭兵をしていた子なんかをミレニアムに入学させる手伝いもしていた。

過程よりも結果を重視していることの多いミレニアム生は、過去を気にする子たちの今を見て受け入れてくれたようで、ミレニアムに来た子はみんな、この子が新素材開発部で青春できているように学校生活を楽しめているみたいだ。

何故かお姉ちゃんじゃなくて姐さんって呼ぶ子が多いけど…。

 

「それならよかった。それにしても結構な荷物だね、手伝おうか?」

 

「いえいえ!すぐそこなので!」

 

「そう?それならいいけど。あ、それとまた何か面白い新素材できたら教えて欲しいな」

 

「はい、最優先で教えますね!」

 

「あはは、そこまで気合い入れなくても…まぁいっか。それじゃあ私そろそろ行くけど、足元には気を付けてね」

 

「はい!」

 

うん、いい返事。

 

そろそろ行くとは言ったが、特に行く場所も決まってなかったので適当に歩いていると、見覚えのあるメイド服を着た2人の姿が見えた。

 

「おーい、ネルー!アスナー!」

 

「あっ!シノちゃんだ!やっほー!」

 

「あ?ああ、お前か」

 

「もーネルったら、お前じゃなくてもっと呼び方あるでしょ?ほら、お?お?」

 

「おたんこなす」

 

「ひどい!?」

 

「それじゃあアスナが呼んであげる!シノお姉ちゃん!」

 

天使か?

 

「アスナはかわいいねぇ。お姉ちゃんがハグしてあげよう」

 

「わーい!」

 

うーん…ハグしてあげようって言ったのは俺だけど、身長差のせいでどっちがハグしてるのか分かんないなこれ。

というか顔面が俺には無いもので包まれてて息苦しい。

あー待ってください他先生方、俺に羨ましいとか文句言われても困ります。

 

「ごめんアスナ、そろそろお姉ちゃん苦しいかな…」

 

「はーい」

 

「さて、ほらネルもいいよ?お姉ちゃんの胸に飛び込んできな」

 

「無いだろ」

 

「あははっ!それ言ったらリーダーだって無いでしょ?色々ちっちゃいし!」

 

「あ゛あ゛!?ぶっ飛ばすぞ!」

 

アスナ、ある側からすれば邪魔でしかないかもしれないけど、無い側は無い側なりに結構悩みの種になっているということを忘れないでくれ。

 

「ほらほら喧嘩しないの。しょうがないなぁ、ネルにだけ特別だよ?ほらネル、ママがぎゅってしてあげるからおいで」

 

「行くかアホ!!!」

 

「じゃあなんて言えば来てくれるのさ!?ハッキリしてよ!」

 

「なんであたしが悪いみたいになってんだよ!?」

 

「まぁネルはいつか私のことお姉ちゃんって呼んでくれるとして、2人は任務帰りかな?」

 

「呼ばねぇけど、まぁそうだな。ちょうど少し前に終わらせてきたとこだ」

 

「そっかぁ。朝までお疲れ様、2人とも。あ、アスナ届かない…」

 

「撫でんな」

 

「あう…」

 

撫でるのを拒否するネルに、撫でられようとしゃがむアスナ。

うーん、正反対だね外も中も。

まぁ外に関してはネルのこと言えないんだけどな、ガハハ!…やめよう。

 

「シノちゃんは暇してたところ?」

 

「うん、そうだね。セミナーにいた時じゃ考えられないくらい暇してた」

 

「贅沢なもんだな。あたしはこれから授業行かなきゃいけねぇってのに…」

 

「それはリーダーが遅刻ばっかりするからでしょ?」

 

「あはは…ん?」

 

ネル達と雑談していると、スマホからモモトークの通知音が鳴る。

一言断ってからスマホを見ると、ウタハから頼んでいたものが出来たという旨の連絡が来ていた。

 

「私お呼ばれしちゃったから行くね。それじゃ!」

 

「おう」

 

「またね〜!」

 

「うんまた!あっ、ネルは居眠りしないようにね!」

 

そう言うとネルは「はいはい」と言うかのように手を振ってくれた。

 

 

 

 

エンジニア部に頼んでいたとあるものを受け取った俺は、その足でD.U.へ来ていた。

目的はもちろんシャーレ。

先生の登場に気を取られていたせいでシャーレ奪還戦の日にスマホを忘れ、モモトークを交換できなかった結果、アポ無しになってしまったが…多分大丈夫だろう。

執務室のドアをノックしてから

 

「先生ー突然すみません、シノです。入っても大丈夫ですかー?」

 

と声をかけると、中から入室を促す声が聞こえる。

それを聞き、失礼しますと言ってから執務室に入ると先生が出迎えてくれた。

 

「"やぁシノいらっしゃい。それと、この前はありがとう。助かったよ"」

 

「いえいえ、むしろこれからお世話になるでしょうし、先行投資みたいなものですよ」

 

「"あはは、そう言ってくれると嬉しいな。それで、今日はどうしたの?"」

 

「あっ、そうでしたそうでした。なんと今日は先生にプレゼントがあるんです。わーぱちぱち〜」

 

「"プレゼント?"」

 

「はい、それではこれをどうぞ」

 

「"これは…ブローチ…?いや、ボタンかな?"」

 

「大正解です先生、シノちゃんポイントを1Pあげましょう」

 

ちなみに10ポイント貯めるとユウカの太ももに触る権利がプレゼントされるかもしれません。

 

「それでは、そのボタンがどういう物かの説明をしますね。まずそのボタンを一回押して、私のスマホを見てみてください。あっ、ちょっとうるさいですけど我慢してくださいね」

 

先生がボタンを押すと、俺のスマホから若干不安を煽るアラーム音と共に、画面に数字とマップを表示というメッセージが現れる。

 

「"これは…座標?"」

 

「はい。このボタンを押すと、このように私のスマホにボタンが押された座標が届きます。尚且つそのボタンはGPSの役割も果たしているんです。お得でしょう?」

 

「"強化版防犯ブザーみたいな感じ?"」

 

「そうですね、分かりやすく言えばそうなります」

 

「"えっと、それでなんでこれを私に?"」

 

「先生…シャーレは、リンちゃんが言ってたように超法規的機関なんですよ?つまり、先生は良くも悪くも大きな権力を持っていることになるんです。そんな先生を利用しようと考える輩がいないとは限りません。それこそ、例えば誘拐されたりしちゃったらどうします?どうしようもないですよね?そのボタンはそんな時、先生を助けるものになるんです」

 

「"なるほど…"」

 

「まぁ何だかんだ言いましたけど、簡単に言っちゃえばいざという時の備えってやつです。困ったらいつでも呼んじゃってください、私がいつでも駆けつけますから!」

 

「"ありがとう、シノは優しいね。でも、もらってばっかりなのも悪いような…"」

 

「そんな事ないですよ。でもそうですね…どうしてもって言うんだったら、モモトーク交換してくれませんか?」

 

「"それだけでいいの?"」

 

「甘いですね先生、キャラメルフラペチーノよりも甘いです」

 

「"だいぶ甘いね"」

 

「先生は私が何になるって言ったか覚えてますか?」

 

「"えっと…『キヴォトスのお姉ちゃんになる予定』だったよね?"」

 

「はい、正解です。シノちゃんポイントをもう1Pプレゼントしましょう。さて、モモトークの交換がお礼になる理由ですが、これに関係します。結論から言っちゃいますけど、先生の手駒として他校の問題に手を出せるからです」

 

「"ふむ、詳しく聞いても?"」

 

「はい。まぁ私、一応ミレニアムに所属している立場なので他校の問題に手を出すってことが出来ないんですよ。でも、一生徒としてでは無く、先生のお手伝いとしてだったらどうでしょう。なんとビックリ、合法的に他校の問題に手を出せるんです」

 

「"なるほどね…シノの言いたいことは分かった。でもなんで他校の問題にまで手を出したいの?"」

 

「決まってるじゃないですか。私は困っている妹達(仮称)の助けになりたいんです。どうです?先生はシノちゃんという戦闘も勉強もハッキングもできる優秀な生徒をいつでも使えて、私は先生がいることでたくさんの妹達(仮称)を助けるキッカケを得ることが出来るんです。win-winじゃないですか?」

 

「"うん、たしかにそうだね。でも、自分のことを手駒って言ったり使うって言ったりするのはあんまりいただけないかな"」

 

先生らしい考えだ。

あくまで第一は子供、もし俺がただの生徒だったらキュンキュンだったね。

 

「ふむ…じゃあそうですね…。誰かを助けたい時に私の力が必要だったらいつでも呼んでください。私達の目的は同じですから」

 

「"ありがとうシノ。じゃあシノの力が必要になった時は頼らせてもらうね"」

 

「はい、じゃんじゃん頼っちゃってください。さて、それじゃあ用事も済んだことですし私は帰りましょうかね」

 

やっぱり先生は先生なんだ。

どんな世界線でも、子供のために…生徒のために全力になれる大人、それが先生なんだ。

…既に間違えてしまっているかもしれない俺には先生にこんなこと言う権利なんてないのは分かってる。

 

「あっ、そうだ先生。もう一つだけお願いがあるんですけどいいですか?」

 

「"もちろん"」

 

「ありがとうございます。それじゃあお願いです」

 

でも、どれだけ俺が足掻いても未来を選択しなきゃいけないのはあなただから…だからどうかお願いです。

先生は…

 

「先生は…間違えないでくださいね」

 

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