ある晴れた日の、学校の帰り道。ことの始まりはいつもと変わらぬ日常での園子のひと言だった。
「令和のジャックザリッパー?」
頭上から聞こえてきた蘭の不思議そうな声にコナンは思わず足を止めた。ジャックザリッパーという名をなんだか聞いたことがあるようなと首を傾げる蘭に対し共に歩いていた世良が説明をする。
「ジャックザリッパー、直訳で切り裂きジャック。1888年にイギリス、ロンドンのホワイトチャペル周辺で犯行を繰り返した正体不明の殺人鬼さ。5件の殺人が未解決のままでね、ジャックザリッパーの逸話は今や伝説のようになっているんだ」
「ああ、思い出した。コクーンのゲームで会った人か」
「あったわね。そんなゲーム」
蘭がコクーンと言ったのを聞いて園子はため息をついた。話を聞くだけでもハラハラしたものだ。コクーンを知らない世良に蘭が軽く説明をする。
コクーンとは新型仮想体感ゲーム、今でいうVRに近いものだ。100年前のロンドンを舞台としたゲームの中で蘭やコナン達はジャックザリッパーと出会っている。だが今はゲームの話はいい。現実の話が問題だ。続きが気になるコナンは園子に話の続きをねだる。
「ねえねえ園子ねぇちゃん。その“令和のジャックザリッパー”って何?」
「あら知らないの?昨日ニュースで特集やってたのよ。2、3年前くらいから事件を起こしてるらしくてね。その内容のせいで熱狂的なファンが出来ちゃって警察も困ってるって話よ」
「そのニュース、ボクも見たよ。令和のジャックザリッパー、またの名をマーダー•マーダー。不謹慎だけど凄く興味深い人物だね。そのジャックザリッパーは」
「そうそう!気になっちゃうのよ!」
「園子まさか……」
「いや分かってるのよ、不謹慎だというのは百も承知よ。ただどうしても私のミーハー心が疼くのよ!証拠を一つも残さないスマートな犯行、たった一度の失敗すら起こしていないパーフェクト殺人鬼。きっとイケメンよ〜。冷たい容貌か、はたまた逆に温厚そうな顔をしているのか」
「園子、人が死んでるのよ」
蘭は呆れたような、少し怒ったような目を向ける。園子は慌てて両手を合わせてごめんごめんと謝った。
「半分は好奇心だけどもう半分は違うのよ!」
「半分は好奇心なんだ……」
「今度おじ様がお友達を呼んでパーティーを開くんだけど、その内の1人がどうも狙われてるらしいのよ」
「ええ!?マズイじゃない!」
「本当なのかい!?」
園子の下らない好奇心より余程大問題じゃないかとコナンは内心深い溜息をついた。それと同時に彼の探偵としての好奇心がむくむくと湧き上がる。
「おじ様の友達が久々に集まるパーティーだしね、殺人鬼の魔の手からその人を蘭のお父さんに守って欲しいのよ」
「そのパーティー、ボクも参加していいかな?」
「勿論よ、人手は大いに越した事はないわ」
と、そのタイミングで分かれ道が近づいてきた。
「んじゃ、パーティーの日付分かったら連絡するわ!またね!」
園子は手を振って去っていった。世良もそれに続く。「じゃあ帰ろっか」と蘭はコナンの手を引いて歩き出す。コナンは空いている方の手でスマホをいじり令和のジャックザリッパーについて調べながら歩いていった。
* * *
「その話本当かぁ?で、その、何だ?令和のジャックザリッパーを俺に捕まえろってぇ?」
完全に酒が回って赤い顔をした小五郎が面倒臭そうな態度を崩さずに蘭に返事をする。いつもの如く机の上を散らかしておりその様子を見て蘭は呆れたと声に出した。コナンも思わず苦笑いをする。
「令和のジャックザリッパー、お父さん聞いた事ない?」
「あぁ〜?あるよ、あるある。目暮警部から聞いた事あるからなぁ。めちゃくちゃ厄介な連続殺人鬼だって。最初の頃はあれだ、何で捕まえられないんだってボロクソに叩かれてたな。それが今じゃ熱狂的なファンがいる始末だ」
小五郎は嫌な顔をしてケッと悪態を吐くと乱暴に酒を呷った。
「連続殺人鬼、国際犯罪者番号2180。ジャックザリッパーやらマーダーマーダーってのはテレビだのネットだのが騒いでつけた名前だ。警察内部で呼ばれている名前は確か、あぁ〜……何だっけ?」
「知るわけないでしょう私が。お父さんったら、1番大事なところなのに」
蘭は大袈裟な仕草で腰に手を当てる。
「あ、そういえば園子から予告状の写真貰ってるんだった」
「は?予告状?」
「そうそう。ほら」
怪訝な顔をする小五郎に蘭は手紙を渡す。予告状と言われてコナンは興味を持ち2人の側へと向かう。
テーブルに置かれたスマホには2枚の写真が写っていた。真っ白い封筒と、手紙。
“From hell
警告する。
。よ男の番4
我はタルタロスの番人。
血に濡れた衣を纏う者。
絢爛な宴が最後の晩餐となるだろう。
その日、汝の羽より重き物を頂きに参る。
死者を喰らう獣が腹を空かせて待っている。”
「なんじゃあこりゃ?本当にこんなもんが届いたのか?」
小五郎は蘭のスマホを持ち上げると目を細めて見る。やがて馬鹿馬鹿しいと吐き捨てるとスマホをテーブルに戻し風呂入ってくると言って去っていく。それを見送るとコナンは即座に携帯を手に取った。
From hell。これはジャックザリッパーの手紙の有名なフレーズだ。己がジャックザリッパーである事を誇示するもの。
(後の文章は……)
暫し頭を悩ませる。
(そうか、分かったぞ)
気づいて仕舞えば簡単なものだった。
最初の2つの文章、【警告する。。よ男の番4】これはタロットカードの事だろう。警告という単語と逆になっている“4番の男よ”から考えられるのは逆位置。タロットの4番は皇帝。皇帝の逆位置が意味するのは横暴、無責任、自分勝手など。
次の2つの文章、【我はタルタロスの番人。血に濡れた衣を纏う者。】これはギリシア神話に登場する復讐の女神エリーニュスの事だろう。エリーニュスの一柱、ティーシポネーは「殺人の復讐者」を意味しており、タルタロスの門番で血に濡れた衣を纏っているとの描写がある。
【絢爛な宴が最後の晩餐】これは園子が言っていたパーティーの日に殺すと言う意味だ。
そして最後の2つ。【羽より重き物を頂きに参る。死者を喰らう獣が腹を空かせて待っている。】こちらはエジプトの神話であろう。死者の審判においてアヌビスが持つ秤に心臓と羽を乗せ、罪人の心臓である場合は心臓が羽より重くなるのだ。その場合ワニのような怪物に心臓を食べられるという。このワニのような怪物の名はアメミットと言い、その名の意味は“死者を食らうもの”である。
これらを総合して考えるとこの暗号文はこうなる。
“地獄より。
身勝手で無責任な罪人の男よ。
我は殺人の復讐者。
パーティーの日に罪深いその心臓を頂きに参る。”
心臓を頂くは恐らくそのまま殺すと言う意味だ。マーダーマーダー。殺人者を殺す殺人鬼。
(おもしれぇじゃねぇか)
わざわざ予告状を送りつけるその根性。人殺しのみを殺すと言う正義ぶったその思想。
(訐いてやる)
コナンは舌舐めずりをした。罪を測り裁くのは己だと言わんばかりの傲慢な行動。その顔を是非見てみたい。何よりも探偵が殺人の予告を見てしまったのだ。何としてでも止めねばならない。
* * *
そのパーティーはビルのワンフロアを丸々貸し切って行われていた。
豪華なシャンデリアが天井から垂れ下がり、輝く光が室内を照らし、華やかな雰囲気を演出している。壁には絢爛豪華な装飾が施され、部屋全体が華やかな色彩で彩られていた。
パーティーの参加者たちは、優雅なドレスやスーツを身にまとい、会場内を歩き回っている。彼らは皆、上品な雰囲気にふさわしい振る舞いで会話を楽しんでいた。
バーでは上質なカクテルやシャンパンが振る舞われ、バーテンダーが巧みな技で美しいカクテルを作り上げている。
音楽は室内に流れ、洗練されたジャズやクラシックの調べが聞こえる。
部屋の一角には、美味しい料理やデザートが並ぶビュッフェが設置されており、参加者たちはそこで各々食事を楽しんでいた。
「なんか、私たち場違いじゃない?」
「緊張してきたな」
蘭と世良は思わず恐縮した様子で言う。彼女達が着ているドレスは園子に借りたものだ。
蘭は落ち着いた赤のドレスに身を包んでいる。その艶やかな赤が彼女の美しいスタイルを際立たせていて、コナンは思わず見惚れてしまった。赤のドレスは彼女の曲線を優雅に包み込んでいる。
対して世良は深緑のドレスを身に纏っている。その落ち着いた色合いは聡明な彼女によく似合っていた。胸は全くないが、彼女も十分見事にドレスを着こなしている。
蘭はこんなパーティーそうそう来れないだろうとスマホで写真を撮り始める。友達に自慢するつもりらしい。と、その時だった。
「あ!いたいた!」
彼女達が少し環境に慣れ始めたタイミングで園子がやってきた。園子は大胆で鮮やかな青のドレスに身を包んでいる。
「あら蘭似合ってるじゃない!どこぞの推理馬鹿に見せてやりたかったわよ」
「もう、新一は関係ないでしょ!」
「私は新一君なんて一言も言ってないけど?」
「園子!」
いつものようなじゃれ合いを見ながらコナンは内心十分堪能させてもらってるよと笑う。
「それより園子君、予告状の事だけど」
「それならもう新一君から聞いたわよ」
「いや、内容の事じゃなくてだな、これだけ人がいるんじゃあジャックザリッパーの示す罪人が誰なのかさっぱり分からないぞ。守りようがない」
確かにその通りだなと、後ろで面倒そうに黙って立っていた小五郎が口を挟む。
「罪人って言っても、奴が狙うのは人を殺した奴に限る。そんな奴そうそういないだろう。しかも恐らく、既に出所した人間になるだろうからな」
「次郎吉さんに手紙が届いたのなら次郎吉さんの知ってる人なんじゃないの?園子ねぇちゃん何か聞いてない?」
「センシティブな個人情報だからって教えてくれなかったわよ」
「んな事言ってる場合かよ、命狙われてんだぞ」
「ま、その辺はおじ様本人に聞いてよ。今から案内するから」
4人はひらりと手を振って歩き出す園子に続いて歩いて行った。大フロアから出て別の部屋へと移動すると最早見慣れた後ろ姿を発見する。
「おお、来たか。待っておったぞ」
立派な髭を蓄えた壮年の男性。彼こそが鈴木財閥の相談役、鈴木次郎吉である。
「さっそくだけど話を聞かせて貰えますか?」
「話も何もない、突然儂の元にその無礼な手紙が届いたんじゃよ。白いコソ泥と違って品性のない男じゃ。いや、男か女かも知らんがな」
「次郎吉さんはその手紙に記されている罪人に心当たりはないの?」
「ある。じゃがそれは言えん」
「言ってる場合ですか!人の命がかかってんのに!」
「奴は既に出所した。罪を償い終えておる。無論、遺族にはそれでも許せないのだろうがな。じゃが刑期を終えたアイツの罪を再び白日の下へ晒すなど儂には出来ん」
「言ってる事は分かるんだけどなぁ」
「一つ言えるとすればその罪人はこの部屋の中にいる人物じゃ。手紙の件もあって半分くらいは私服警官じゃがな。そうじゃな、幾人か紹介しよう」
世良とコナンは目を細める。恐らく次郎吉が今から紹介する中の誰か1人が狙われるのだろう。小五郎もそれは分かったのか集中するように眉を上げた。
「まずは、そうじゃな。あの娘」
次郎吉は派手なリップの30代ほどの女性を指差した。白髪の男性と握手をして挨拶をしている。
「彼女は宮本詩織。ホテルを経営する宮本恵子の娘じゃ。恵子殿はあそこにおる」
次郎吉の指を目線で追うと着物に身を包んだ上品そうな女性の姿があった。
「そして次は中村昌行。あそこにおる眼鏡の男。あれは大手の銀行に勤めておる。」
真面目そうな分厚い眼鏡の男だ。見た目だけで言えば彼が殺人を犯したとは考えにくい。
「あそこにおる派手な娘は兵頭エリカ。先ほど紹介した中村昌行の婚約者じゃ」
「え!?似合わない!」
世良は思わず声に出した。如何にもやんちゃしてそうな兵頭と勉強ばかりして来たような中村はあまりにも似合っていない。探偵としてどうにも深読みしてしまいそうだ。
「座って酒を飲んでいる男が3人おるじゃろう?右の七三分けが松尾久、真ん中の髭面が松浦耕太郎、左の白髪が小池淳一。紹介した順に経営者、元政治家、元政治家じゃな」
こんなところかと顎を摩る次郎吉にコナンは声をかける。2人で話しているメイド服の女性達が気になったのだ。派手な女性が宮本詩織のドレスを直してやっている。
「ねぇねぇ、あの人達は?」
「うん?ああ、あやつらは関係ない。このパーティーに日雇いで来てもらった者達じゃ。名前はリストに書いてあったな」
次郎吉はスマホをいじると写真を確認する。
「おお、あったあった。ポニーテールが伊藤愛子、派手な化粧が西明日香じゃ。どちらも今日雇うときめた娘じゃからな、予告状とは関係あるまい」
この中の誰かが命を狙われている。世良とコナンは部屋の中をじっくりと見渡して見定める。
まずは宮本詩織だが、彼女はケーキを取ると母恵子の元へと戻っていった。恵子が何か言うと詩織は楽しそうに笑う。
中村昌行とその婚約者の兵頭エリカは2人で何やらヒソヒソと話している。彼らはあまり楽しそうな様子には見えない。
そして次に老人3人だが、
「分かりやすいな」
「そうだね」
右の2人は食事と会話を楽しんでいる。だが1番左の男、小池淳一の様子が少しおかしかった。一見しただけではわからないが探偵の目は誤魔化せない。酒を飲み、グラスを置いてはまたすぐにグラスを取り、再び酒で唇を濡らす。落ち着かない様子で左手の指輪をかちゃかちゃと触っており、涼しい空間なのに何度も汗を拭いており目が泳いでいる。明らかに何かに不安を感じている様子だ。
「調べたら出てくるかな」
「どうだろう。出所してるって事はもう何年も前の事件だろうから分かんないや」
「一般人ならまだしも元政治家だろ?多分あるはず」
世良はそういうとスマホを取り出して彼の名前を検索する。するとやはり出てきた。
「交通事故を起こしたらしいな」
「それだけ?」
「相手の車に乗ってた親子が死んじゃったらしいぞ。元政治家が起こした事故の割にそこまで報道はされなかったみたいだな」
「道理で聞き覚えがない訳だね」
「事故の情報よりこの政治家がすごい女好きだって情報ばっか出てくるな」
「それはどうでもいいかな」
コナンは呆れた顔をして小池を見る。そして、ふと思い立って2人のメイドの元へと歩いていった。
「こんにちは!」
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
2人はコナンを見るとにこやかに挨拶を返した。
「ねぇねぇ、少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「どうしたの?」
「あそこのおじさん知ってる?」
「ん、小池さんかい?元政治家の人だろう?」
「あの人、ここに来てからどんな様子だったか覚えてなぁい?」
「どんな様子だったか…う〜ん、そうだねぇ」
ポニーテールの女性、伊藤は少し考えてから話してくれた。
先ほど来た時からオドオドと落ち着かない様子だった彼は、何やら宮本親子と10分ほど会話してから席についた。
伊藤が食べ物を持っていっても何も口につけなかったらしい。その後兵頭エリカがやってきて、己と同じ酒を注いだらようやくそれを口にし始めた。そのあとは中村と3人で何やら話していたが小池は居心地が悪そうな様子で、会話を切り上げると別の席に移動して松尾と松浦と会話をしていたらしい。
「私が持っていった食べ物を強い口調で要らないって言ってきたからよく覚えてるよ、変なおじさんだよね」
「政治家は大体意固地なんじゃないの?あのオッサン特に頭硬そうだし。君の知り合い?」
「ううん、違うよ。小五郎のおじさんの知り合い!教えてくれてありがとう!」
コナンは2人に礼を言うと世良の元へと戻る。どうだったと聞いてくる彼女に小池の様子を説明する。世良とコナンがヒソヒソと話していると、そこへ宮本詩織が歩いてきた。2人の側を通り過ぎると彼女は園子と次郎吉に挨拶をした。
「お久しぶりですわね。次郎吉様、園子お嬢さん」
「お久しぶりです!」
「おお、久しぶりじゃな。恵子殿も御壮健で何よりじゃ」
「ところで、そちらの方々はどちら様ですか?初めてお会いしますけれども」
詩織は次郎吉の後ろに4人に目線を向ける。
「此方は名探偵の毛利小五郎殿とその娘、毛利蘭。キッドキラーと呼ばれる少年、江戸川コナン。それと女子高生ながら探偵をやっておる世良真澄じゃ」
4人は紹介された順番通りに頭を下げる。
毛利小五郎と聞いた詩織は一瞬キョトンとした後に大きく目を見開いた。
「毛利小五郎って、あの有名な毛利小五郎さんですか!?名探偵の!」
その声を聞き、部屋が俄かに騒めき立つ。
「毛利小五郎!?」
「あなたが解いた事件の本読みましたよ!」
「令和の明智小五郎と言われるあの毛利さん!?」
小五郎は満更でも無い顔をしてネクタイをキツく締め直す。そこへ中村昌行がやってきた。彼は名刺を渡して自己紹介をすると態とらしい調子で喋り出す。
「ところで、かの有名な毛利小五郎さんがこのパーティーにいらっしゃった理由。それはやはり例の件ですか?」
「例の件、とは?」
「誤魔化さなくても良いのですよ。令和のジャックザリッパーのことです!」
中村がジャックザリッパーと言えば小池はびくりと肩を震わせて額の汗を拭く。
「殺人の復讐者、人殺しを殺す者。次郎吉様の元に予告が来たという事はそういう事でしょう?」
「ここで狙われてる人がいるって事でしょう。言うまでもなく、それが誰であろうかは見当がつくけれどもね」
兵頭エリカはヒールをカツカツと鳴らしながら歩いてきて中村に腕を絡ませながら言う。2人は後ろをチラリと振り返ると3人が座る席へと向かっていった。
「ちょっとピリピリしてますけど、普段は良い方々なんですよ」
苦笑いをした詩織が2人をフォローする。と、同時に彼女は少し咳き込んだ。「風邪ですか?」と蘭が心配そうに聞くと眉を下げながらそうみたいだと言った彼女は風邪薬を飲む。
その後で詩織は小五郎達も先に誘うと母を連れて他の面々のところへと向かった。全員が同じテーブルにつく。どうやら役者は揃ったようだ。
小五郎に続きコナンと世良、蘭達も席に着き彼らの話を聞く。彼らは同じゴルフクラブに所属しているメンバーらしい。
「なるほど、皆さんそのゴルフクラブのつながりで親しくなったわけですね」
派手な化粧のメイドがそのタイミングで酒を運んできた。彼女はそれぞれに注文されていた酒を渡す。宮本はボトルを受け取ると中村や兵頭にも注いでやっている。他の面々には伊藤と西が注いでいた。髭面の男、松浦は酒をぐいっと飲み干すと笑いながら話し出す。
「そうですそうです。他人から見たら訳の分からん繋がりかもしれませんがね。ここにいる7人と次郎吉さんを含めた8人はゴルフ繋がりなんですよ」
「ああ、みんなで飲みに行ったりもしたな」
「個人的に競馬場に行った事もありましたっけ?」
「結構何年も親しくして貰ってますよ」
酒の回った彼らはガヤガヤと楽しそうに話し出した。飲まれなかった酒や空いたグラスは詩織に頼まれた伊藤が下げる。そして新しい酒が持ってこられた。新しい酒を注ぎ再び盛り上がりそうになったが、その流れは中村に妨げられた。
「ま、親しくと言っても、この関係は7年前に終わってしまったんですがね」
中村は酒を呑まず仏頂面でそう言った。隣に座っている兵頭は再び酒を飲み干すと目線を流して小池を見る。これには園子や蘭も察するものがあったのか2人は顔を見合わせた。
何かあったのかと聞こうと思ったが宮本親子が話を逸らした為それも叶わない。コナンはどうにもやきもきした気持ちでいた。だが、その気持ちも小五郎が次に言った言葉により晴れる。
「あのう、すいませんが何があったのかお伺いしても良いですかな?」
「え?」
「私は一応探偵として、殺人鬼の犯行を阻止すべく招かれた訳でしてね。何も分からんのじゃ手のうちようがありませんから」
「それは、そうですね」
詩織はチラリとそれぞれの様子を伺う。
「そう、ですよね。分かりました」
「私が話します」そう言おうとした詩織を渋い声が遮った。小池である。思わず周りのものは目を見開いた。
「いや、私が。私が話します」
「でも小池さん……」
「いつまでも黙りこくっているわけにもいかなかったのです。もっと早く、ちゃんと自分の口で話すべきでした。だから……」
小池は話を続けようとした。
だが、それは叶わなかった。
「ごほ、ゴホッ!」
「小池さん?」
「ゲホゲホッ!ぅう゛ッ」
小池は激しく咳き込み出した。
異変を察した世良とコナン、小五郎は思わず立ち上がる。小池の顔には苦痛が刻み込まれ、汗が額から滴り落ちていた。彼の体は痙攣し、悶え苦しんでいた。慌てて救急車を呼べと指示を出すが、時すでに遅し。やがて小池は地面にバタンと倒れて動かなくなった。