令和のジャックザリッパー   作:佐倉シキ

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猫好き館の殺人事件 上

 

 

 

事の始まりは、小五郎へと届いた依頼のメールだった。依頼内容は、“父の死の真相解明”。殺された父の犯人が一月経っても見つからないのだと言う。しかも何故だか犯人は令和のジャックザリッパーの仕業だなんて話が広がってしまい、風評被害にも困っているらしい。

依頼者の人物曰く、犯人は絶対にこの家の関係者なので、どうか解明してほしいとの事である。

 

依頼人の住所は大阪、守口市。依頼を了承した小五郎達はすぐに大阪へと出発した。

 

 

 

 

 

 

 

休日のため、新幹線の車内は賑やかだった。

発車のベルが鳴り、軽い揺れとともに車両が滑り出す。窓には、朝の光に照らされた東京のビル群が映り込んでいる。ビルの谷間を抜けると、すぐに都市の喧騒が遠ざかり、郊外の緑が広がっていく。

 

コナンは窓際の席に座りながらスマホでニュースを読んでいた。気になるのはやはり怪盗キッドや、殺人鬼に関するもの。蘭はそんな彼を微笑ましい気持ちで見つめていた。そしてコナンの頭越しに外の景色を見る。

緑が次々と現れ、整然と並ぶ畑や田んぼが、まるでパッチワークのように広がっている。遠くには山が見えるが、新幹線のスピードで一瞬にして通り過ぎる。

 

時間が経つにつれて、景色はどんどん変わっていく。広い川を渡ると、名古屋の高層ビル群が視界に入ってきた。短い停車時間を経て、再び動き出す新幹線。

次第に西へ西へと進んでいく。

 

京都を過ぎると、風景は徐々に都市の色を取り戻し始めた。大阪が近づいている。新幹線がホームに滑り込むと、人々が一斉に動き出した。

 

「コナン君、私達も降りるよ」

「はぁい、蘭ねぇちゃん」

 

コナン達3人も荷物を手に持ち、降りる準備をする。

 

ホームに降り立つと、そこには多くの人々が行き交う新大阪駅の活気が広がっていた。案内表示が天井からぶら下がり、次々と乗り換えの案内が流れてくる。ビジネスマンや観光客、地元の人々が忙しそうに行き交う中、ゆっくりとエスカレーターを降り、広いコンコースに出た。

 

人の群れに流されないように、しばし足を進める。

 

駅を出ると、大阪の街の喧騒が耳に飛び込んできた。高層ビルが立ち並び、その間を縫うようにして多くの車や人々が行き交っている。地下鉄の入り口がいくつもあり、通りには電光掲示板やネオンが煌めいていた。街路樹が風に揺れ、その向こうには活気溢れる商店街や飲食店が軒を連ねている。

 

「いつ来ても賑やかな街だなぁ」

「そこがいいんじゃないの」

 

ぼやく小五郎に、蘭は苦笑いを浮かべる。

そしてふと、どこからともなく漂ってくるソースの匂いに気がついた。

 

「そうだ、折角だしたこ焼きでも食べて行こうか」

「俺はいらねぇぞ、駅弁食ったし」

「じゃあコナン君食べる?」

「食べる!」

 

そして、駅のそばにあるたこ焼き屋へと2人で向かった。

 

「8個で500円、12個が700円、15個が800円か。8個でいいよね?」

「うん」

「味が4種類ある。どれにしよっか?」

「初心者におすすめなのは“おおいり”やな、4種類の味が2個ずつ入っとる」

「食べ比べできるし、やっぱこれやろなぁ」

「え?」

 

突然割り込んできた声に驚き、蘭はそちらを見る。そして嬉しそうに顔を綻ばせた。コナンは聞き覚えのある声に思わず呆れたように笑う。

 

(やっぱりコイツ来やがった)

 

こちらを見て軽い笑顔を浮かべる1人の少年。健康的な肌、太めの眉。saxのロゴが入ったキャップの下にある、キリッとした整った顔。

西の高校生探偵、服部平次だ。コナンの正体を知っている数少ない人物の1人である。

そしてその側には彼の幼馴染である遠山和葉の姿もあった。和葉は蘭の姿を見て、その愛らしい顔を嬉しそうに緩ませ「アタシのおすすめはやっぱ王道のソースやなぁ」と、メニューを指差して笑う。

 

女子2人が話し始めたのを見て、コナンは服部に声をかけた。

 

「お前、なんで態々来たんだよ」

「そらお前、おもろそうやからに決まっとるやろ」

 

コナンはあらかじめ依頼人について何か知っていることはないかと服部にメールで聞いていた。故にこそ服部は興味を持ってやって来たのだろう。

服部は膝をつき、コナンに話す。

 

「何や、“令和のジャックザリッパー”の仕業なんやって?そういや最近は“名無しの殺人鬼(ジャックザマーダー)”に変わったんやったか?」

「ああ、ロンドンの殺人鬼と区別化するかってな。ネット上からマーダーの方が広がってったんだ」

「まあ、本家越えてもうてるもんな。ロンドンの方が11件やとして、こっちはもう何件やっとるんやろ」

「オレが知ってるだけで27件」

「やっ、ばー……」

 

服部はドン引きした様子で、絞り出すように声を出した。

 

「まあでも、アイツは今回関係ねぇと思うけどな」

「アイツて何やねん、友達かお前」

「んな訳ねぇだろ……何か、縁があんだよ」

 

コナンは嫌そうな顔をして服部を見て、彼に説明をする。

 

「ジャックが起こした事件なら、現場に自分がやったって証明できるものが置かれているはずなんだ。第一発見者の依頼人に話を聞く限り、現場にそんなものは残されていなかった」

「ああ、噂の予告状か」

「そう見せかけるものはあったらしいが、全くの別もんだ」

 

服部に現場の写真と、その偽物のカードの写真を見せながら会話を続ける。

 

「って事は殺人鬼の仕業に見せかけた殺人って事やんな?それを解決してほしいって」

「ああ。なるべく早く解決しねーとまずいかもしれないんだ」

「何がまずいねん?証拠がなくなるかもしれへんとかなら、いつもと変われへん気ぃするけど」

「ジャックの仕業って言ってるからだよ」

 

コナンは黒い殺人鬼と初めて会った日の事を思い出す。あの日ジャックが殺人を犯した理由は、自分の名を使われたからだった。

 

「つまり、また殺しに来るかもしれへんって事やな?」

「ああ。オレらが先に犯人見つけて捕まえないと、またジャックに殺されちまうかもしれねぇ」

「ほなら、はよ向かおうか。ほんで、ついでにその殺人鬼もオレが捕まえたるわ」

 

コナンが捕まえられなかった殺人鬼を捕まえることができたら、それはつまり己の方が上ということになる。そう意識して服部は俄然やる気を漲らせた。

「なんでコイツらまでいるんだよ」と不満げな小五郎を適当に押し切り5人で現場となった家へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大豪邸は、その堂々たる姿で街道を行く人々の目を引いていた。

 

「でっけー家……」

 

と、小五郎は思わず声に出した。

広大な敷地に佇むその家は、手入れの行き届いた庭園に囲まれ、季節の花々が色鮮やかに咲き乱れている。石造りの外壁は古典的な美しさを湛え、高い屋根は鮮やかな青で彩られていた。

 

その豪邸の魅力は、外観の美しさだけではなかった。大きな窓がいくつも設けられたリビングルームの窓際には、キャットタワーが幾重にも設置されていた。キャットタワーは、複数の段やトンネル、隠れ家が組み合わさり、まるで猫たちの楽園のようだ。

 

「あ、猫があんなにたくさん」

「噂通りの猫好きなんやな」

「和葉ちゃん、何か知ってるの?」

「地元で有名やねん、この屋敷。とんでもない猫好きが住んどるって。ここ通ると猫がいっぱい見れるから、子供達に結構人気やってん。主人もええ人やったって聞いとったんやけど」

「その主人が被害者やからな。しかも滅多刺しや、絶対怨恨やこんなん。人は案外分からんで」

「猫好きにそうそう悪い人はおらんと思うけどなぁ」

「何をアホなこと言うてんねん。猫でも犬でも関係あらへんわ。何を好きでいようと悪いやつは悪いし、猫嫌いでもええやつはええ奴やねんから」

「夢のない奴やで」

「探偵は夢なんて見んねん、現実だけ見とるからな」

「何“決めちゃった”みたいな顔しとんねん。恥ずかしいからやめーやホンマに」

 

窓から差し込む柔らかな日差しが、キャットタワーで遊ぶ猫たちの姿を照らしている。白や黒、茶色の毛並みを持つ猫たちは、楽しげに跳ね回り、時折お互いにじゃれ合ったり、疲れるとお気に入りの場所でくつろいだりしている。キャットタワーの最上段では、特に目立つ一匹の黒猫が優雅に丸くなって昼寝を楽しんでいた。

 

「まあ、猫はいいだろ。さっさと行くぞ」

 

小五郎はそう言うと、家のベルを押す。「はーい」という女性の声が聞こえ、すぐに使用人であろう女性が姿を現した。彼女の服は皺がほとんどなく、髪もきっちり整えられていて上品だった。

小五郎の姿を確認した女性はすぐにコナン達を中に案内する。と、想像通りに中は猫を最優先として様々な遊具が設置されていた。天井にあるキャットウォークから数匹の猫達が見覚えのない客人を眺めている。

 

「わぁ、中も凄いね」

「蘭ちゃん見てあの猫。すごい太々しい顔しとるよ」

「可愛い〜」

 

女子2人がはしゃぐのを見て服部とコナンは呆れた顔をする。

 

「申し遅れました。私、山下亜佐美と申します。この家で10年ほど使用人を務めさせていただいております」

「どうも、私は毛利小五郎。名探偵、毛利小五郎です」

「存じております」

「早速ですが、依頼人の方と合わせて頂いてもよろしいですか?」

「勿論でございます」

 

そう言うと山下は皆を案内し、応接間に通した。扉を静かに開けると、そこには落ち着きのある空間が広がっていた。柔らかな色の壁が、部屋全体に穏やかな空気をもたらしている。天井の高さを感じさせるクラシカルなモールディングが歴史を物語るかのように静かに佇んでいた。

部屋の中央には深みのある緑のソファがあり、クッションがふんわりと並べられている。脚元にはペルシャ絨毯が敷かれていた。オーク材のローテーブルにはアンティークの陶磁器でできたティーセットが置かれている。

暖炉の中では小さな炎が静かに揺れており、パチパチとした音が静寂を心地よく破っていた。火の温もりが部屋全体に広がり、窓際に置かれた一輪の白いバラがその穏やかな光に照らされている。窓には重厚なカーテンがかかっているが、レース越しにほんの少しだけ外の光が漏れ、部屋の片隅を淡く照らしていた。

外からの客を通す応接間の為か、流石にここに猫の姿はなかった。そしてそのソファの隣に車椅子に座った男性と、その車椅子を引く女性の姿がある。側には他の使用人であろう人々が佇んでいた。

 

「ではお話を伺ってもよろしいですか?」

「はい。父が殺されたのは1ヶ月ほど前の話です」

 

車椅子の男、小山内晃が話し出す。彼はこの家の主人である小山内賢治の息子だ。後ろで車椅子を押しているのは妹の小山内美祐。今回の依頼は、彼らの父である賢治の死の真相開明である。

 

「一体何があったんや」

「1ヶ月ほど前の事です、父が殺されました。密室殺人という奴でした。残酷にも滅多刺しにされていた。だけど、犯人がまだ見つかっていないんです。このままじゃ、もしかしたら残っているかもしれない証拠も無くなってしまいそうで」

「なるほど」

「警察は怨恨で殺害されたんじゃないかと考えているようですが、父は誰かに恨まれるような人ではなかったんです。むしろ人が良すぎて友達だと思っていた人にお金を持ち逃げされるようなタイプの人だったし、根が小心だから人を傷つけるような事は出来ないと思うんです」

「警察は酒に酔って何か恨みを買ったんじゃないかと疑ってましたけど、父は酒にすごく弱くてビール一本で顔が真っ赤になって寝ちゃうから、ほとんど飲まないんですよ。飲んだ日は基本家から出ないし」

 

兄の言葉に妹がそう付け足す。確かに不可解だなとコナンが悩んでいると、足元からゴソゴソと音がした。コナンが視線を下に向けると、応接間の扉の下にある僅かな隙間から猫が顔を出していた。猫はコナンと目が合うと、可愛らしくニャーと鳴いてみせる。そしてスルスルと応接間の中に入ってきた。

 

「こんな狭い隙間から入ってこられるなんて凄いわね」

 

蘭は小柄な猫を抱き抱え、驚いたように話す。

 

「その子はシンガプーラのマロン。父の1番のお気に入りの子なんです」

 

どこでも好き放題入っちゃうのが悪い癖なんですけどね、と美祐は困ったように笑いながら付け足した。人がいるところが好きで、特に家主である賢治に懐いていて、よく彼の部屋に遊びにいっていたらしい。山下は「でも私には懐かないんですよ、抱っこしようとすると引っ掻かれちゃう」と困ったように笑っていた。

 

「山下さんは犬を飼ってるから、犬の匂いでもするんじゃないの?」

「そうなのかも、森さんとかすごい懐かれてるのに……ちょっと羨ましいわ」

「私は猫のお世話係だからお菓子とかあげてるし、それで懐かれやすいんじゃないですかね」

「父が死んだ後も、この子は父を探して屋敷を歩き回っています。父の部屋に入り込み、その姿を探して鳴いているのを見ると心が痛む。この子の為にも、毛利探偵には是非犯人を見つけていただきたい」

「任せてください。では、事件の状況について詳しく教えて頂いてもよろしいですか?」

「それなんですが、口頭よりも見てもらった方が早いと思って、実際の様子を部屋に再現してみたんです。趣味は悪いかもしれないけれど」

 

美祐は兄の車椅子を押し、「着いてきて下さい」と言うと応接間を出ていった。そうして暫し歩き、エレベーターに乗り込み2階で降りる。再び少し歩き、重厚な扉の前で止まった。

 

「遺体を見つけた当日、この扉には鍵がかかっていました」

 

美祐は扉の鍵を開けながらそう言った。そして扉を開けた先には、異様な光景が広がっていた。

そこは重厚な空気が漂う書斎だった。部屋の中央に位置する机は、黒檀の木材で作られたもので、その表面は磨き上げられ、滑らかな光沢を放っている。机の上には、古びた革装の書物がいくつも積み重ねられ、時折差し込む外の光が、その背表紙を黄金色に染めている。

書棚は天井近くまで届き、ぎっしりと詰まった本がどこか重苦しい雰囲気を演出していた。

 

だが、ふと視線を机の脇に移すと、異様な光景が目に飛び込んでくる。そこには、大柄なマネキンが倒れ伏していた。硬質なプラスチックの肌が人工的な赤い塗料で汚れている。マネキンの顔は無表情で、しかしその無機質さがかえって奇妙な迫力を持たせていた。

 

「ヒィッ!」

 

蘭は思わず悲鳴を上げ、目を丸くしてマネキンを見つめる和葉に縋りついた。確かに悪趣味に思える光景だ。

 

無造作に捨てられたナイフは赤い液体で柄まで汚れている。

部屋の隅では、古い時計がゆっくりと時を刻んでいる。その音がまた、非常に不気味だった。

 

「こりゃまた、随分としっかり作りましたね……」

「使用人の3人に頼んだんです。第一発見者は彼らですから」

「3人で発見したんですか?」

「ええ、鍵がかかった扉がなかなか開かなくて」

 

小五郎達は小山内兄妹に付き添ってきた3人の使用人に目を向ける。1人は最初に会った山下亜佐美だ。

 

「まあ、恨みはなくても殺される理由ならあったんじゃないですか?」

「ちょっと、失礼よ」

「私は思った事を言ってるだけです。その方が参考になるでしょう?」

 

と、やや棘のある発言をするのは森舞。短い茶髪の女性だ。メイクがキツイ印象を与える。

 

「犯人は令和のジャックザリッパーなんでしょう?それなら小山内様は誰かを殺したのよ。だから殺されたんだわ」

「やめてくれ。父は君の母の代からの付き合いだから優しくしたかもしれないが、僕はそうじゃないぞ」

「脅しですか?私をクビにするって」

「その通りだ」

「兄さんやめて、後にして」

 

どうやら晃と森は相性が悪いらしい。空気が少しギスギスしたが、美祐の計らいですぐ解消する。

 

「私は怨恨じゃなくて、金銭トラブルじゃないかなって思うなぁ」

 

そう話すのはもう1人の使用人、高梨愛海だ。黒いストレートヘアーでタレ目の女性である。

 

「だって人が良いから色んな人にお金を貸してた。お金って一番殺人の動機になってるじゃない?きっとお金を借りた誰かが返せなくて殺したのよ」

「でも部外者が入った痕跡はなかったって警察は言ってたわよ」

「じゃあ誰が殺したのよ」

「ま、それはとりあえず現場を調べてからやな」

 

服部は女性陣の会話をサクッと切り上げさせると再現された殺人現場に入る。

まず調べるのはマネキンだ。マネキンの体には複数のバツ印が付けられていた。

 

「このバツ印が刺し傷っちゅう訳か」

「んでもって血はこの辺りにだけ飛び散ってたって事か」

「となると小山内さんはここで殺されたって事やな」

「第一発見者が3人いる。誤魔化しは効かねぇからな」

「にしても怨恨以外でこんな滅多刺しにはされへんやろ。あの兄妹は恨まれる理由なんてあらへんっちゅうけど、こりゃやっぱり恨みやないんか?」

「恨みに見せかけてんのかもしれねぇぞ」

「人間そないに残酷になれるやろか。やっぱりジャックなんやないんか?人殺しばっかいてこます殺人鬼なんやし、殺人って行為にめちゃくちゃな恨みがあるんやろ、知らんけど。そう考えるととんでもないダブスタ野郎やな」

「いや、ジャックなら最短で殺す。こんな無駄な事はしねぇ筈だ」

「ま、確かに今まで何の証拠も残してへん殺人鬼がこない無駄に刺しまくったりはせぇへんか」

 

2人は続いてテーブルの上を見る。そこには手紙が置かれていた。何の装飾もない白い紙に、短い文章が書かれている。

内容は“from hell. Unforgivable sinners must die. I'll definitely kill. send to hell. I'll leave you with a bloody knife. If you can catch it, try to catch it.”

 

「“地獄より。許されざる罪人は死ぬべきだ。必ず殺す、地獄に送る。血塗れのナイフを残しておいてやる。捕まえられるもんなら捕まえてみろ”か。如何にもやな。ロンドンのジャックザリッパーのfrom hellに寄せて作ったんか」

「だが偽物だ。アイツの手紙は地獄は地獄でもhellじゃなくGehennaから届くからな」

「ほな模倣犯やな」

「最初から分かってたさ」

 

コナンは次に手紙の隣に目を向ける。手紙の横にはこの書斎の鍵が置かれていた。

 

「窓は閉められていた。そして部屋の鍵はここ。犯人はどうやってこの密室を作り出したんだ?」

「扉の下には応接間と同じような隙間があるけど、投げ入れてここに乗せるのは不可能やな」

 

部屋から出て、扉の隙間から中を覗く。分かりきっていた事だが投げ入れてテーブルの上に乗せるのは不可能だ。というかカーペットが敷かれている為、滑り込ませたとしてもそこまで遠くには届かなそうだ。

 

「ん?」

「何や?」

 

ふと、コナンはある物に気がついた。屈むコナンを上から眺めていた服部は、彼が何かを発見したと判断すると同じようにしゃがみ込み扉を眺める。

 

「おい見ろ服部、この糸」

 

扉の下には何か細い糸のようなものが引っかかっていた。扉の細い傷に引っかかり、繊維が擦れて切れたのだと思う。

 

「これ多分、糸が上に引っ張られないとこうはならねぇよな」

「ああ、完全に分かったで。このトリックが」

「問題は誰がやったかって事だな」

 

そう、2人が悩んでいた時だった。上の部屋から何か、鈍い音がしたのだ。

 

「何や?今の音……」

「晃さん、上の部屋は……」

 

振り向き尋ねたが、そこにいたのは蘭と小五郎、美祐だけだった。

 

「あれ?みんなは?」

「和葉はどこに行ってん?」

「兄は仕事がありますので一階の仕事部屋におります」

「使用人3人は上の階っつったっけ?」

「ええ。清掃と猫の世話がありますので」

「和葉ちゃんは森さんに案内されてお手洗いに行ったよ。でもちょっと遅いかも……迷っちゃったのかな?」

「上の部屋は何の部屋や?」

「使用人の休憩室です」

 

コナンと服部が顔を見合わせ、何となしに窓の外へと目をやった時だった。

何かが、窓の外を上から下へと一瞬で通り過ぎて行った。

 

「ッ!?」

 

2人は息を呑む。“何か”ではない。それは人だった。質の良いエプロンを巻いた黒髪の女性だ。

ぐしゃり、と何かが潰れるような音がした。背後で蘭が悲鳴を上げ、和葉は目を背けて眉間を抑えた。コナン達2人は慌てて窓を開け、下を見る。

 

「クソっ」

 

思わず悪態をついた。

彼らの視線の先には目を見開き、頭から血を流して倒れる高梨愛海の姿があったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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