山道を走る車のフロントガラスに突然、大粒の雨が激しく叩きつけ始めた。暗雲が空を覆い尽くし、昼間だというのに、あたりはまるで夜のように暗くなり始める。見上げる空は灰色の幕に閉ざされ、天から降り注ぐ雨粒は凶暴なまでに車を打ち据える。昼間にもかかわらず、あっという間に夜のように視界が暗くなっていった。
「やだ、すごい雨」
「ゲリラ豪雨か?急に降ってきやがったな」
蘭が驚いたように窓の外を見て、小五郎は舌打ちしながらワイパーを作動させた。フロントガラスを激しく叩く雨の音に負けないよう、ワイパーがリズミカルに動く。しかし、その動きも豪雨の勢いには追いつかない。雨水が絶え間なく流れ落ち、視界はみるみるうちに遮られていった。
コナンはスマートフォンを取り出し、天気予報を確認する。予報には「広範囲で長時間の豪雨」の文字が並び、雨が止む気配はしばらくなさそうだった。溜め息をつき、彼はスマホの画面を閉じる。
車内には次第に緊張が漂い始めた。小五郎はハンドルを強く握りしめ、慎重に速度を落として走行する。それでも、雨が滝のように窓を叩きつけ、道がほとんど見えなくなっていく。
「おいおい、本格的にやべぇぞこりゃあ!」
「お父さん、もうちょっと速度落として!」
蘭の声に、小五郎はさらに慎重にブレーキを踏み込んだ。しかし、その時だ。車体に突然、不穏な感触が伝わってきた。ゴツゴツとした異音とともに、車は左右にぐらつく。
「嘘でしょ?嘘だよね?」
「……嘘じゃねーよ、多分パンクした」
小五郎はそう言いながら車を停め、ドアを開けて外に出た。雨が強く降り注ぐ中、小五郎は傘を差し、身をかがめてタイヤを確認する。見ると、左前輪がペシャンコに潰れていた。
「くそっ、こんなときに!」
豪雨の中、小五郎がイラついた様子で呟く。山道の両脇には鬱蒼とした森が広がり、風が木々の間を吹き抜けていく。水浸しになった地面と濡れた葉の匂いが強く鼻をついた。車内に戻ると、彼は短く報告する。
「完全にパンクしてる。JAF呼ばねえとだな……」
だが、それもこの豪雨では難しい。どうやら電波状況も悪化しているようだ。先ほどまで繋がっていたスマートフォンは、今では圏外を示していた。
「どうしたもんかな……」
小五郎が腕を組んで考え込んでいると、地図を見ていた蘭が「あ」と声を上げた。
「この近くに教会があるみたい。そこで雨宿りさせてもらおうよ」
蘭が指差したのは、分かれ道のさらに奥へと続く細い山道だった。電波も繋がらない状況では、この提案に乗るしかなさそうだ。小五郎たちは車を路肩に止め、傘を広げて教会へ向かうことにした。
傘を差しても防ぎきれないほどの雨が全身を打ちつける。歩き出して数分で、コナンの服はすっかり濡れてしまい、彼は内心うんざりしていた。それでも蘭の指示通りに道を進んでいくと、木々の間から教会の姿が見え始めた。
そこに現れたのは、山奥にひっそりと佇む教会だった。大きなゴシック調の建物で、尖塔の影が雨と霧の中でぼんやりと浮かび上がっている。全体的に古びた印象だが、右側の建物の一部だけが比較的新しく見える。
(……増築したのか?)
コナンはちらりと右半分に目を向けるが、興味を失いすぐに視線を戻した。増築部分の窓枠は白く塗り直されており、古びた本館とは対照的だ。
「すいませーん!誰かいますか?」
蘭が恐る恐るドアを押し開けると、古びた木製の扉がぎい、と軋む音を立てた。教会の中は雨音を遮るようにひっそりとしていた。
内部は薄暗いが清潔に保たれている。中央には長椅子が並び、正面にはシンプルだが威厳のある像がある。ステンドグラスからわずかに射し込む光が、床に不規則な模様を描いている。湿気のこもった空気の中に、古い木材と蝋の匂いが微かに混じっていた。
「誰か、いませんかー?」
蘭がもう一度呼びかけるが、返事はない。音を吸い込むような静けさが、さらに場の不気味さを際立たせている。小五郎は頭を掻きながら、長椅子のひとつに腰を下ろした。
「とりあえず雨が止むまで、ここで待つしかねぇな」
小五郎がいつものようにタバコに火をつけようとしたその瞬間、教会の奥にある木製の扉がギィッと音を立ててゆっくりと開いた。その音に驚いた蘭は肩を跳ねさせ、思わず振り返る。そこに現れたのは黒い修道服を身に纏った、シスターと思われる一人の女性だった。
「こんにちは」
柔らかく落ち着いた声とともに、黒い髪をひとつに結んだ女性が微笑みかけてきた。雨の薄暗い光の中でもはっきりとわかる端正な顔立ちに、小五郎は息を飲む。年齢は二十代後半ほどだろうか。すっと通った鼻筋と上品な表情は、どこか聖母を彷彿とさせる。
小五郎は急いでタバコの火を消し、携帯灰皿にしまうと、ネクタイを直して背筋を伸ばした。美人にはめっぽう弱い男である。
「今は礼拝の時間だったんです。だからみなさんチャペルにいらしていて、気がつくのが遅くなってごめんなさいね。何のご用かしら?」
「自分は名探偵の毛利小五郎と申します。本日は所用でこの山道を走っていたのですが、運悪くタイヤがパンクしてしまいましてね。しかも豪雨が降ってきたもんですから、何処かで雨宿りさせてもらえないかと」
小五郎は大げさに手を広げて状況を説明すると、シスターの手を握りぶんぶんと振る。その様子に、女性はくすりと微笑みながら答える。
「あらあら、大変でしたのね」
その優しげな笑顔とやや困惑した様子を見て、蘭は慌てて父親を引き剥がすように前に出た。
「突然ごめんなさい。私は娘の毛利蘭です。こちらは江戸川コナンくん」
「こんにちはー!」
「あらこんにちは。挨拶ができてえらいわね。私は三船ルリよ、よろしくね」
「あ、あはは〜」
コナンに向けられたその言葉に、彼は苦笑いを浮かべた。見た目は子供でも中身は高校生だ。「えらいわね」などと子供扱いされるのは少々気恥ずかしい。それもこれもこの体のせいだ。
(しかも美人だし、勘弁してくれよ……)
視線を逸らす彼を見て、蘭は微笑ましそうに目を細める。
「それにしても、大変でしたのね」
女性は気遣わしげに眉を寄せ、考え込むように手を顎に当てた。この豪雨は朝まで止まない予報だ。少し時間を潰す程度ではどうにもならない。
そして、しばらくして顔を上げると、こう提案してきた。
「よろしければ、ここに泊まっていかれてはいかがですか?」
なんでも数年前から、この山には近隣の観光地を目当てに観光客が訪れるようになったらしい。それに合わせて、この教会にも簡素な宿泊施設が増設されたという。なるほど、だから半分だけ建造物が新しかったのかとコナンは納得した。
「あ、ああ〜、おいくらですかね?」
と、小五郎はどこか渋々という様子で尋ねる。その態度に、女性はくすりと笑うと、首を横に振った。
「お代は結構ですわ。この宿泊施設は、困っている方に提供するためのものですから。お金をいただくつもりはありません」
「そ、そうですか!いやあありがたい!助かります!」
途端に機嫌をよくした小五郎が声を弾ませるのを見て、蘭は呆れたようにため息をついた。
「お部屋の準備をしてまいりますので、その間、ご自由に教会をご見学ください」
三船はそう言うと、深々と頭を下げ、増設された建物の方向へと足早に消えていった。
「教会か……」
コナンは目の前に飾られている絵画に目を向けた。宗教画だ。キリスト教の教義に基づいた作品で、どれも丁寧に手入れされている。静かに見つめながら、ふと脳裏にあの男の姿が浮かんだ。宿敵、真っ黒い服に身を包んだ連続殺人鬼。
(アイツも、こんな場所で祈ったりするんだろうか……)
この教会は言わずもがなキリスト教のものである。キリスト教の教義を説き、広め、礼拝する為の建物だ。聖書を読んだり静かに時間を過ごしたり、何らかの奉仕活動を行う為の場。
つまりキリストを信仰するあの殺人鬼がこのような教会に来ていても不自然ではないのだ。
そんな考えが一瞬頭をよぎるが、コナンはすぐに気を取り直し、興味の赴くままチャペルの方へと足を向けた。
中に入ると、白を基調とした美しい空間が広がっていた。白い壁、白い床、そして整然と並ぶ白い椅子。中央の通路を挟んで左右に配置された長椅子の先には、簡素だが荘厳な祭壇が鎮座している。窓からは森の景色が見えるが、今日は雨でその光景もぼやけていた。
ザーッという雨音が背景音のように響く中、チャペルには複数人の姿があった。この教会に入った時は誰もいないのではないかと疑いを持ったが、どうやらそうでもなかったらしい。
1人は金髪の若い女性。華やかな服装で、膝の上に本を広げている。恐らくは外国人だ。
1人は黒縁眼鏡をかけた中年の男性。どこか性格のきつそうな顔つきで、パソコンをカタカタと操作している。
1人は少年らしき人物。帽子を深くかぶり、小窓の外の雨をぼんやりと見つめている。
1人は銀髪の派手な女性。濃い化粧とネイルが教会の中ではやや場違いに見える。
1人はふくよかな男性。穏やかな顔つきで、帰り支度をしている。
そして、その全員を見守るように、神父が祭壇の片付けを進めていた。大窓のブラインドを閉め、聖書を片付ける。
扉の開く音に気づいた彼らが一斉にコナンたちを振り返ったが、次の瞬間にはほとんどが興味を失い、再びそれぞれの作業に戻った。ただ一人だけ、小五郎をじっと見つめる人物がいた。
その男は立ち上がると、まっすぐこちらに向かって歩いてきた。
立派な教会だなぁと装飾を見上げる小五郎にその男は話しかける。
「やぁやぁ初めまして!名探偵の毛利小五郎さんですよね!“眠りの小五郎”として話題の!」
と、どうも態とらしい様子で大きな声を出す。“眠りの小五郎”という部分だけ強調した様子だ。その黒い瞳にはいやらしい色が浮かんでいる。
眠りの小五郎、名探偵。その言葉にその場にいる全員が反応した。
「ひょっとして例の事件の調査にいらしたんですか?」
「え?例の事件……?」
「惚けないで下さいよ!名探偵である貴方がこんなにひっそりとした教会にやってくるなんて、あの件以外あり得ないじゃないですか!」
あの件って何?と小五郎は内心首を傾げる。小五郎がこの山道を通ったのは抽選で当たった秘湯に向かう近道になると思ったからであって、その“例の件”とやらには全くもって覚えがなかったのだ。しかしそんな事を言い出せる剣幕ではなく、困ってしまう。
「連続失踪事件の事でしょう!?私みたいな木っ端な記者ですら辿り着いたんだ、貴方が知らないはずがない!」
連続失踪事件。その単語を聞き、チャペルに居た数人の顔色が変わった。奥からやってきていたシスターの三船もまた困ったような顔をしている。特に顔色が悪いのは神父だ。
「丸山さん……そのお話は私が今からちゃんと聞きますから、関係のない方々もいる場所であまり口に出さないで頂きたい」
「関係ない?この方は名探偵ですよ?解決して頂きたいとは思えないのですか?」
「事件が真実であるのならば警察が来るはずです。あまりある事ない事騒ぎ立てられると言うのもこちらと致しましては……」
「ほら、またこれだ」
と、神父と丸山と言われた男が口論を始めてしまったのを見てコナンはその場からひっそりと距離を取る。そして1番近くに座っていた人物の元へと向かうとその隣に腰をかけて声をかける。
「ねぇねぇ、連続失踪事件ってなぁに?」
「……え?」
帽子を被った少年は、話しかけられるなんて思っていなかった様子で目を見開く。そして困った様子で帽子のつばを下げると「……さぁ?俺はあんまり詳しくないから」と目を逸らしてしまった。
「えー、嘘つかないでよ!お兄さん知ってるんでしょ?」
「何でそう思うの?」
「だって連続失踪事件って単語を聞いた時に顔を嫌そうに顰めてたんだもん。知らなかったら驚いたりキョトンとした顔を浮かべると思うから。お兄さん以外にも、何人かは知ってる感じだったよ?有名な話なの?」
コナンが詰めると、少年は長い前髪の下で困った顔を浮かべ、眉間に皺を寄せた。それを見て蘭は「こら!困らせないの!」とコナンを叱る。
「ごめんね、コナン君が変な事聞いちゃって」
「いや、別に……平気です」
「あはは!超探偵みたいだったじゃん!この子アタシより賢いんじゃない?」
と、新たな声が3人の上に降り注いだ。派手なメイクを浮かべた銀髪の女性だった。
「コナン君だっけ?アタシが教えてあげるよ連続失踪事件」
「本当!?教えて教えて!」
「マジ怖だからチビんなよ?」
ニヤリと笑った女性は語り出す。
「……
「あ、語る感じ?」
長くなりそうだなとコナンは身構える。
そう、女雨山は美しい山だった。
四季折々の景色が楽しめるその山は、かつて多くの観光客を魅了した。春は桜、夏は緑豊かな木々、秋は燃えるような紅葉、冬は真っ白な雪景色。どの季節に訪れても絶景が待っていると評判だった。
しかし、数年前からその山は違う顔を持つようになった。女雨山は“自殺の名所”として知られるようになったのだ。
地元の人々が最初に異変を感じたのは、山中で遺体が発見される事件が増えた時だった。首を吊ったと思われる遺体。崖から転落したと思われる遺体。その全てが、自ら命を絶ったものと判断された。警察も“偶然が重なった結果だ”と言ったが、その数はあまりにも多すぎた。
そして、奇妙な話が広まり始めた。女雨山に行ったっきり帰ってこない人々がいる、と。
最初の頃は、単なる遭難や事故と思われていた。広大な山中で迷い、助けが来る前に命を落としたのだろうと。しかし、いくつかの不可解な点が浮かび上がった。失踪した人物のほとんどが、ある場所に共通点を持っていたのだ。
それは、山中に建つ古い教会だった。
「それがこの教会?」
「そうだよ。今まさにいる、この教会だぜ」
態とらしく、おどろおどろしい声を出す彼女の様子に蘭は背筋を凍らせコナンをギュッと抱きしめる。コナンはその柔らかな感触に顔を赤らめた。
この教会は元々、地元の信者たちが細々と維持していたものだった。だが、数年前から観光客向けに簡素な宿泊施設を併設し始めた。宿泊料は無料。泊まるだけなら一切の料金を取らないという太っ腹なサービスは、評判を呼び、多くの人が利用するようになった。
失踪者のほとんどが、その教会に宿泊していた。
“もしかしたら、教会側に何か問題があるのではないか?”
そう疑う者もいたが、教会のシスターや神父たちは常に親切で穏やかで、疑うべき点は何一つ見当たらなかった。彼らは、困った人を助けるために泊まらせているだけだと言い、警察の聞き取りにも協力的だった。
それでも不気味な噂は消えなかった。
【女雨山の教会に泊まったら帰ってこれない】
ある登山者がこの話を初めて耳にしたのは、ネットの掲示板だった。登山愛好家たちの集うスレッドで、女雨山の美しい写真とともに、こう書かれていた。
【ここ、教会泊まったらヤバいぞ】
【ガチで帰ってこない人多いらしい】
【いや、自殺の名所ってだけじゃね?】
【いやいや、教会泊まったやつだけ失踪するんだって】
当初はただのデマだと思われていたが、スレッドには【子供が消えた】【姉が失踪した】という書き込みが相次ぎ、信じる人が徐々に増えていった。
そんな中、ある登山者が実際にその教会に泊まり、数日後に奇跡的に帰還したという。彼が語った話は、背筋を凍らせるものだった。
【教会は普通だった。部屋も綺麗で、シスターたちも優しかったよ。だけど、夜中に目が覚めたんだ。何か妙な音がしてね……なんて言えばいいのかな、重たい何かを引きずる音。最初は気のせいかと思ったけど、明らかに廊下から聞こえてきたんだ】
彼は恐る恐る部屋のドアを開けたという。すると、廊下の奥から黒い服を着た人影がこちらに向かってきた。
【教会の誰かかと思ったんだ。でも、なんかおかしい。服が汚れてるし、顔も見えない。いや、顔が……なかったんだよ】
彼は慌てて部屋に戻り、朝まで震えながら過ごした。そして翌朝、神父にその話をしたが、【疲れて幻覚を見たのでは】と笑顔で否定された。
【でも、宿泊者名簿を見せてもらったら、失踪した人たちの名前が載ってたんだよ。それで怖くなって、すぐに山を下りた】
この話を最後に、その登山者は二度と表舞台に姿を現さなかった。
教会と失踪者たちの関係を調べようとする者も現れたが、どれも成果を上げられず、噂だけが広がった。そして、現在も女雨山では観光客が絶えず、教会には人が泊まり続けている。
ただ、ひとつだけ言えるのは、女雨山に行って失踪した人々の全てが、“自ら命を絶った”という形で処理されていることだ。
見つかった遺体は、誰もが自殺と判断するような状況で発見される。そして、見つからない者たちは、山中で遭難したのだろうとされる。
失踪者の数は、いまだに増え続けている。
「もし、あなたが女雨山に行くことがあれば……その教会だけには近づかないことです。
“親切なシスター”と“無料で泊まれる宿泊施設”に惹かれるのは危険です。
その夜、あなたがドアの向こうから聞こえる音に耳を澄ませる時、その“何か”があなたの事を待っているかもしれないから」
「ヒィッ」
如何にも態とらしい様子だが、蘭は怖かった様子で顔を青褪めさせる。それが面白かったらしいギャルは「ナイスリアクション!」と彼女を褒めた。
「あ、てか自己紹介してなかったね!一泊する中だし挨拶くらいしとくか!アタシは熊沢茜!18歳!アンタらは?」
「私は毛利蘭です。こっちは江戸川コナン君」
「こんにちはー」
「で、そっちの帽子君は」
「黒柳進、です」
「んじゃ3人ともよろー!アタシ、この教会ヘビーユーザーだから他の人達の事も教えてあげるよ」
そう言うと熊沢はチャペルに居た人々を指差していく。
金髪の女性は近くの米軍基地に住むクラリス・オクリーヴ。23歳の大学生だ。
先程小五郎に話しかけてきたのは丸山和馬。51歳の記者の男で、連続失踪事件の取材でここ最近しつこくやってきているらしい。
ふくよかな男は山田貴志、37歳。自殺スポットを心霊系のサイトにまとめるために取材に来た男だ。
そしてここにいる黒柳進は16歳でコナンや蘭の一つ下。近くに住んでいて偶にここに1人で来ているらしい。
先程去って行った丸山に振り回されていた神父は西浦哲夫、46歳。3年前に前任の神父が亡くなった為、後任としてやってきたらしい。
シスターの三船ルリは28歳。彼女もまた、3年近くこの教会に仕えているようだ。
(にしても、連続失踪事件か……)
コナンは一連の事件に興味を引かれ、情報を集めようとスマホを取り出した。しかし、すぐに画面に表示された“圏外”の文字を見て、ため息をつく。
(なら、自分の目と足で調べるしかないな)
そう考えながら椅子から立ち上がった、その時だった。
「あれ?丸山さんはいらっしゃらないのですか?」
教会の神父、西浦が困惑した表情で汗を拭きながらチャペルに入ってきた。彼は、取材に訪れた丸山を牧師室で待っていたが、すぐに行くと言ったきり、姿を見せないという。
コナンは壁に掛けられた時計に目をやる。
2人がチャペルを出てから、すでに10分以上が経過していた。確かに「すぐに行く」と言った割には遅すぎる。
「誰も丸山さんを見ていないのか?」
「……見ていないですね、確か取材の器具を取りに行くと部屋に向かったはずですが」
大人たちの間に不穏な空気が漂う。
全員の頭の中に、連続失踪事件の噂が浮かんでいた。
「まさかとは思いますが、とりあえずみんなで探してみましょう。5分後にこのチャペルに集合してください」
小五郎の提案に従い、一同は教会内を手分けして捜索を始めた。薄暗い廊下、雨音が反響する建物の隅々まで探し回ったが、丸山の姿はどこにも見当たらない。
「やっぱり、顔なしのお化けが……!」
不安に声を震わせる蘭。その場にいる全員が、恐怖と緊張に押し黙る中、ふとコナンがチャペルの大窓に目を向けた。まさか外に出てたりしないよな、とブラインドを開けてみる。すると、妙なものが見えた。
豪雨の中、何かが揺れている。
(何だ……あれは……?)
コナンは窓に歩み寄り、目を凝らした。気になった蘭や小五郎たちも、彼の視線の先に注目する。雨が一瞬だけ弱まった瞬間、その正体が全員の視界に飛び込んできた。
「嘘でしょ……!」
木の枝からぶら下がり、ゆらゆらと揺れる黒い影。
「キャァァァッ!」
蘭の悲鳴がチャペルに響き渡る。
そこに吊られていたのは、丸山だった。