令和のジャックザリッパー   作:佐倉シキ

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白亜の教会連続殺人事件 中

 

 

 

「キャァァァッ!」

 

蘭の悲鳴がチャペルに響き渡る。視線の先で揺れる影。それは木に吊るされた丸山だった。

明らかに彼は死んでいる。それでも居ても立っても居られなくなったコナンは、彼の元へと飛び出した。雨の中、傘もささずに死体の前に立つ。

 

彼の体はロープで首を括られたまま、雨風に合わせて揺れている。目は虚ろに開かれ、顔には生気がない。その姿を目にした誰もが言葉を失い、ただ茫然と立ち尽くしていた。

 

「……自殺、か?」

 

小五郎が絞り出すような声で呟く。

 

だが、コナンはすぐに首を横に振った。

 

(違う……これは自殺じゃない。いや、自殺に見せかけた他殺だ)

 

その証拠に、首には抵抗した跡があった。それに木のあたりにはグシャグシャだが足跡が残っている。だが足跡がある割に、丸山の靴には泥がほとんどついていなかった。

 

(丸山さんは殺された。そして、自殺したかのように吊るされたんだ。誰かにここまで運ばれて……)

 

コナンの脳裏にはひとつの仮説が浮かんでいた。

この事件の裏に、連続失踪事件と同じ何かが潜んでいる。

 

外では再び雨音が強まり、揺れる木の影が窓に映る。

丸山の死が、全ての始まりであるかのように。

 

 

現状わかっている事実は三つだった。

 

第一に、丸山は他殺であること。

首吊り自殺に思われる状況だが、証拠は明らかにそれを否定している。誰かが彼を意図的に殺害し、首を吊るして自殺に見せかけたとしか考えられない。

 

第二に、犯人はこの教会内にいた6人のうちの誰かであること。この豪雨の中、丸山が態々外に出る理由がない。シスターの三船は玄関に鍵をかけていたし、窓は全て閉じられている。外部からの侵入は不可能だ。そして丸山が最後に目撃された時刻、教会にいたのは神父の西浦、シスターの三船、そしてクラリス、山田、熊沢、黒柳。この6人だ。

 

第三にその6人のうち、熊沢と黒柳の2人は白であること。熊沢と黒柳はずっとコナンたちと行動を共にしており、丸山が殺害された時間に犯行を行うことは不可能だった。

 

(しかし……犯行の手口が見えない……)

 

コナンは目を細めて考え込む。

 

(丸山さんを殺害し、あの豪雨の中で首を吊るしたんだ。どう考えても犯人はずぶ濡れになるし、足元も泥だらけになるはずだ)

 

この点を確認すべく、コナンは全員の衣服を丹念に観察した。しかし、驚いたことに、濡れている者も汚れている者も一人として存在しなかった。

 

(濡れるのを防ぐためにレインコートか長靴を使ったのかもしれない……)

 

それならば、その証拠品が室内のどこかにあるはずだ。そう考え、コナンは教会内を再び調べ始めた。ゴミ箱、収納スペース、クローゼット。どこもくまなく探したが、レインコートや長靴、その他なんでもいい、汚れを防げるような衣服の類は一切見つからなかった。

 

(隠したのか?それとも捨てた?いや、それだとしても痕跡が残るはずだ。どうやって犯人は濡れずに教会に戻ってきたんだ?どこに隠した?)

 

悩みながら、コナンは再びチャペルへと戻る。そこでは小五郎が6人に対する事情聴取を進めていた。しかし、結果として明らかになったのは、むしろ捜査を難しくする驚くべき事実だった。

 

「全員にアリバイがある、だと……?」

 

コナンの目が険しくなる。

 

まず、熊沢と黒柳に関しては言うまでもない。コナンたちと常に一緒に行動しており、犯行に関与する余地はなかった。

 

次にクラリス。彼女は廊下の本棚で本を立ち読みしていたと証言した。その際、廊下に置かれた椅子には山田が座っており、彼女の視界の中に常にいたという。

そんな山田はというと、廊下の椅子に座りながら、スマホで小説を読んでいたと証言した。その椅子からは牧師室と事務室の両方の扉が見えるのだ。

その牧師室には神父の西浦が、事務室にはシスターの三船がそれぞれいたという。彼らは西浦が丸山が来ないことを怪訝に思って出てくるまで、一度もその部屋から出ていない。

そして重要なのは、牧師室も事務室も廊下以外に通じる扉が存在せず、部屋にある小窓は大人が通れるサイズではなかったことだ。つまり、この二つの部屋にいた西浦と三船は、廊下に繋がるドア以外からは外に出ることができないのだ。

 

さらに、チャペルの入り口側にいた小五郎は廊下にいるクラリスの姿が常に視界に入っていた。その為、クラリスの証言は裏付けられた。そしてクラリスが見ていた山田の動きも矛盾なく説明できた。山田が視認していた二つの部屋の扉にも異常はなかったという。

 

つまり、この場にいる誰もが、お互いの存在を確認できる範囲内におり、犯行が可能なタイミングが見当たらなかったのだ。

 

(これは……不可能犯罪だ)

 

コナンはジッと窓の外を見る。日が沈み始め、森が深い闇に包まれていく。降り続ける雨が、教会の周りをさらに不気味な雰囲気に変えていた。

 

「上等じゃねぇか……」

 

コナンの口元に挑戦的な笑みが浮かぶ。

 

(この事件は恐らく連続失踪事件に関与している。連続失踪事件の謎は、俺が絶対に解いてみせる!)

 

その決意を胸に、コナンは再び足を動かす。

まず、この教会の構造を把握する必要がある。常に誰かの視界に入っていた人物に犯行は不可能。となると恐らく犯人は三船か西浦のどちらかだ。だが部屋から出ることが不可能なのも事実であり、そうなると考えられるのは隠し通路の存在だ。それを探し出すべきだろう。コナンはそう決めると、一つ一つ確認するように歩き始めた。

 

礼拝堂を中心に設計された教会の1階は、訪れる者を迎え入れる広々としたホールと、それに続くギャラリーが特徴だ。ホールの奥からは長い廊下が伸び、その両側にはいくつかの部屋が並んでいる。礼拝堂に隣接する会議室や多目的室、そして廊下の左側にはトイレが設置されている。さらに廊下を進むと奥まった場所に牧師室と事務室が配置されている。両部屋は人目に付きにくい位置にあるが、廊下の椅子に座れば、その扉の様子をはっきりと確認できる構造になっていた。

 

牧師室と事務室を覗き見たコナンだが、どちらの部屋にも特段不自然なところは見当たらなかった。

 

次に階段を上ると、そこには神父とシスターたちの居住スペースが広がっていた。小さな個室が四つあり、それぞれの用途に応じて使われている様子が見て取れる。二つの部屋にはネームプレートが掲げられているが、残りの二つは使われていないらしい。一つの扉は開けられたが、もう一つには鍵がかかっており、どうしても開かなかった。

 

「あれ、何でこっちは開かないんだ?」

 

コナンは不審そうにドアノブをいじっていたが、その様子を見咎めた声が背後から響いた。

 

「こら、ダメでしょ!」

 

声の主は蘭だ。彼女の背後には西浦、黒柳、熊沢の4人もいる。どうやら小五郎の指示で二手に分かれて行動しているらしい。もう片方のグループには、小五郎、クラリス、山田、そして三船がいるという。

 

「ねぇ、西浦さん。この部屋、どうして鍵がかかってるの?」

 

コナンが素直に尋ねると、西浦は微かに表情を曇らせた。

 

「……昔ね、ここで事件があったんだ。それ以来、この部屋は閉ざしているんだよ。何というか……怖くてね」

 

「事件?どんな事件だったの?」

 

コナンがさらに踏み込むと、西浦はためらいながらも口を開いた。

 

「先代の神父が、ここで亡くなられたんだ。首を、真一文字に切り裂かれてね」

 

その言葉を聞いた蘭は、見る間に顔を青ざめた。

 

「そ、それって、今回の事件と何か関係があるんじゃないの!?」

 

そう言ってコナンは神父を説得し、最終的に鍵を開けてもらうことに成功した。そして開かれたその部屋に足を踏み入れる。

そこは、異様な空気に包まれていた。

 

埃をかぶり、長い間放置されていた様子の部屋。床には椅子やテーブルが散乱し、壁や家具には何かを引っ掻いたような跡が残っている。そこには、かつて誰かが暴れたか、あるいは抵抗したかような痕跡が明確に刻まれていた。

 

「これ……血痕か……」

 

コナンは床に目を凝らす。おそらく事件の後に清掃されたのだろう。しかし、床板の隙間には拭いきれなかった血の痕跡が薄っすらと残っていた。その古びた血痕を見て、蘭は腰を引き、熊沢の背中に隠れるようにして震えていた。

 

そんな中、コナンの目があるものに留まった。

 

「……あれ、あの本……」

 

部屋の隅に置かれた本棚。そこに並ぶ本はどれも厚く埃をかぶり、長い間放置されていることが一目でわかる。しかし、一冊だけ、たった一冊だけが埃を全くかぶっていなかったのだ。

 

「蘭姉ちゃん、あれ取ってくれる?」

 

自分には届かない位置にある本を、コナンは蘭に頼んだ。蘭は素直に手を伸ばし、その本を取り下ろした。だが、本を手にした瞬間、蘭の表情が驚愕に変わった。

 

「な、なにこれ……!」

 

蘭は驚き、思わず本を放り投げてしまう。だがしかし、黒柳が素早くそれをキャッチした。彼は本を開き、中のページを確認する。すると、眉をひそめ、低い声で呟いた。

 

「……悪趣味だな」

 

黒柳が眉を顰めて本をコナンに手渡すと、コナンはその中身を見て息を呑んだ。

 

「これは……血痕……」

 

本のページ全体が、血で染め上げられていた。すでに乾ききった血痕は深い黒となり、ほとんどのページが真っ黒に汚れている。

 

(こんなに血で染まった聖書なんて……確かに悪趣味だな……)

 

コナンは本をじっと見つめながら考えを巡らせた。

 

(それにしても……なぜこの本だけ埃をかぶっていないんだ? こんな本、普通なら捨てるか、事件の証拠品として警察が押収しているはずだ。それをわざわざここに残して、さらに何度も触れられている痕跡がある……)

 

理解できない不気味さが、コナンの背筋を微かに震わせた。誰が、何のために血に染まったこの本を手元に置き、触れ続けていたのだろうか。謎は深まるばかりだった。

 

 

 

 

 

コナンは今回の出来事を振り返りながら考えを巡らせる。

連続失踪事件との関連性がどこまであるのか、正直なところ見当もつかなかった。聞いた話によると見つかった遺体はどれも異なる状況で発見されている。首を吊った者、山道で滑落し顔が潰れた者……そのいずれも、単純な事故死や自殺と見せかけている可能性が高い。一方で、首を真一文字に切り裂かれた先代神父の事件は、これらとは全く異質であり、別件の可能性が高いと考えられた。

 

コナンは部屋の中を丹念に見回し、この異様な空間をしっかりと記憶に刻み込んだ。そして部屋を後にするが、その直後、三船がコナンたち5人を呼びにやってきた。

 

「もう時間も遅いですし、今日はここまでにしておきましょうか」

 

三船の説明によれば、これは小五郎の提案らしい。明日には雨も上がり、警察も到着するだろう。どうせ自殺だろうと判断した小五郎は丸山の遺体にシーツをかけると、警察が来るまでは休んで待つべきだと提案したのだ。

 

そして、宿泊客達はその提案に従った。神父から提供された軽い夕食と紅茶を飲むと皆はそれぞれ自分たちの部屋に戻っていく。当然、食欲がなく食べられないものも居たが、致し方ない事だ。また、出された紅茶は渋かったので、特に若い4人はほとんど手をつけずに部屋に戻った。

コナンも仕方なく部屋に戻り、寝る準備を進めた。だが、小五郎の大きなイビキと蘭の静かな寝息が部屋に満ち始めた頃、コナンの目はまだ冴えたままだった。

 

(くそっ……こんな状況で大人しく寝てられるかよ!)

 

コナンはそう吐き捨てると、静かに起き上がり、手早く身支度を整えた。そして物音を立てないよう慎重に部屋を抜け出すと、闇夜に包まれた教会へと向かった。

 

時刻は既に深夜0時を過ぎていた。

 

教会に到着し、廊下をそっと歩いていると、ふと耳に微かな物音が届く。

 

──カチャリ。

 

その音は多目的室から聞こえた。誰かが中にいるようだ。コナンは身を屈め、腕時計型麻酔銃を構えながら静かに足を進める。そして、薄く開いた扉の隙間から中を覗き込んだ。

 

ぼんやりとした明かりに照らされた室内で動く二つの人影。その姿を確認した瞬間、コナンは思わず呆れた声を漏らしてしまった。

 

「……何やってるの? 熊沢さん、黒柳さん」

 

そこにいたのは熊沢と黒柳。2人は多目的室に備え付けられたキッチンで夜食を作っていたのだ。目の前には出来上がったチキンラーメン。そしてその上に割られた卵。漂う良い香り。

 

「いや、違うんだ、腹ペコとかじゃないんだよ!」

 

慌てて言い訳を始める熊沢に、コナンは冷たい目を向ける。

 

「腹ペコじゃん」

 

短い言葉に熊沢はたじろぐが、それでも懸命に弁解を続けた。

 

「いや、ほら、許可は出てるんだよ!以前来た時にさ、ここにあるカップラーメンはいつでも自由に食べて良いよって言ってもらえたからさ!断じて盗み食いとかじゃない! 人が死んでるってのにそんな不謹慎なことしないよ!

アタシ、スポーツマン?スポーツウーマン?だから出された夕食じゃ全然足りなくて、マジで寝れなかったんだよ〜、ひもじいし怖いしで!」

 

熊沢の話に、黒柳も肩をすくめて加えた。

 

「怖いからって誘われただけだよ。俺達は一人で来たわけじゃない。ちゃんとお互いのことは見張ってた」

 

身振り手振りで何とか弁解しようとする熊沢達の様子に、コナンは大きなため息をついた。警戒して損した、そう思ったその時だった。

 

──バタバタバタッ!

 

突然、誰かが扉の前を駆け抜けていく音がした。

 

(!)

 

コナンは音のした方向に目を向ける。暗がりの中を、何かを背負った人影が通り過ぎていくのが見えた。だが──その“何か”を見た瞬間、コナンの心臓は一瞬だけ止まったかのようだった。

 

(あれは……!)

 

それは明らかに、顔が潰れた遺体だったのだ。

 

目の前を通り過ぎたその人物は、何も言わず、遺体を背負ったまま暗闇の中へ消えていった。

 

「……まじ今の誰?ゴリラみたいな足音したじゃん、よく見えなかったわ」

 

熊沢が首を傾げて言う。だが彼らは遺体には気付いていない様子だった。ただの人影だと思っているのだろう。

 

「犯人だッ!」

 

コナンはそう叫ぶと、即座に駆け出した。遺体を背負った人物のあとを追う。しかし、曲がり角の先でその人影は忽然と姿を消していた。

 

(……消えた……やっぱり隠し通路があるのか?)

 

人影が消えた先にあるのは牧師室と事務室の二つの扉だけ。コナンは急いでそれぞれの部屋を確認したが、どちらにも人影はなかった。

 

(やはりこの教会には隠し通路がある……そして犯人は、西浦さんか三船さんのどちらかだろうな)

 

考えをまとめようとしていたその時、不意に背後から声が飛んだ。

 

「コラッ!!」

 

コナンが驚いて振り返ると、そこには怒りの表情を浮かべた蘭が立っていた。

 

「……うぇっ、蘭姉ちゃん!?」

「もう、何してるのよ! 布団にいないからびっくりしたんだから! こんな時間に出歩いちゃダメだって、お父さんも言ってたでしょ!」

「でも……」

「でもじゃない!」

 

そうしてコナンを叱りつける蘭の前に、さらに熊沢と黒柳も姿を現した。

 

「あ、あなたたちまで……!」

 

蘭は呆れた表情を浮かべると、2人にも説教を始めた。特に年下の黒柳には、「こんな危険な状況で夜中に出歩くなんて非常識だ」と厳しく注意をする。連れ歩いた熊沢にもだ。黒柳は困った様子で帽子の唾を下げていた。

 

「いやぁ、まじメンゴ……でもほら、誰かと一緒にいれば安心かなって思ってさ。死体見ちゃったのに1人でおやすみとか怖過ぎじゃん?」

 

熊沢は困った様子で黒柳の肩を叩きながら軽く笑ってみせた。その姿を見た蘭は、ふと動きを止めた。

 

──カナカナカナカナ……

 

脳裏に響いたのは、ひぐらしの鳴き声。

 

「……ひぐらし……」

 

蘭は呟くと、目の前の熊沢と黒柳を見つめる。

 

「どうしたの? 蘭姉ちゃん」

 

不思議そうに首を傾げるコナンをよそに、蘭は静かに目を細めた。初対面のはずなのに、2人の姿にどこか既視感を覚えたのだ。

 

「……前に会った誰かと、似てるのかも……」

 

そう呟くと、蘭はコナンを抱き直しそのまま部屋に戻ろうとする。だがコナンはその場を離れることを拒んだ。

 

「ダメだよ蘭姉ちゃん! 今、顔のない遺体を背負った誰かがいたんだ!」

 

その言葉に蘭の表情が固まる。そしてコナンの説明を聞いた熊沢と黒柳も真剣な面持ちになった。

 

「わかったよ……俺たちが全員を起こしてくる。アンタらも気をつけるんだぞ」

 

黒柳と熊沢が急いでホテルに向かう姿を見送ると、コナンもすぐに調査に戻った。だが、やはり二つの部屋にはおかしな点を見つけることができない。特に気になるのは、それぞれの部屋に備え付けられた本棚だ。二つの部屋は壁を挟んで向かい合っており、その壁に沿って配置された本棚。どちらか、あるいは両方が隠し通路に繋がっている可能性は十分にある。

そして何より、部屋の広さと廊下の長さが噛み合わない。おそらく二つの部屋の間に隠し通路、もしくは隠し部屋があるのだろう。

 

(問題は、どうやって動かす仕組みになっているかだな……)

 

コナンは慎重に本棚を調べる。本を片っ端から触り、動かしてみたり、本棚そのものに何か仕掛けがないか確認する。しかし、何の手がかりも得られない。苛立ちを覚えたコナンは、再度本を取り出して調べ直していた。

 

そのときだった。

 

(……ん?)

 

一冊の本の間に、何かが隠されているのを見つけた。それはリングファイルだった。コナンはすぐにそれを引き出し、開いて中身を確認する。

 

(これは……)

 

ページをめくる手が止まる。そこにまとめられていたのは、ある種の執念すら感じさせる資料の数々だった。殺人事件に関する新聞記事やウェブ記事のコピー、さらには事件の概要を詳細にまとめた手書きのメモ。それもすべて、特定の人物に関するものだった。

 

(殺人鬼アルシエル……“ジャック・ザ・マーダー”に関するものばかりじゃないか!)

 

ファイルに挟まれた資料には、これまでのジャックが関与したとされる事件が網羅されていた。コナンには覚えのある事件もしっかりと記録されている。鈴木家のパーティーでの毒殺事件、盆栽愛好会で起きた殴殺事件、少女連続誘拐殺人事件、クィーン・セリザベスII号での惨劇など。

しかし、違和感があった。ファイルには、この教会で神父が殺された事件の記事も挟まれていたのだ。これに関してはジャックの犯行であるという証拠は何もない。それなのに、なぜこの事件の記事が含まれているのか。

 

(これを作った人物……ジャックに関して何か知っているのか? それとも……)

 

疑念が渦巻く中、背後から声がかかった。

 

「みんな集まったぞ」

 

黒柳が事務室に顔を出したのだ。慌ててコナンはファイルを元の位置に戻すと、蘭と一緒にチャペルへ向かった。

 

チャペルには既に他のメンバーが集まっていた。熊沢が「これで全員だよ」と暗い表情で告げる。しかし、小五郎は顔をしかめて言った。

 

「全員?クラリスさんがいねぇじゃねぇか」

 

コナンは、自分が見た“顔のない遺体”を基にした推測を小五郎に説明した。その表情がみるみる険しくなり、重々しい声で言う。

 

「つまり、クラリスさんが殺された可能性が高いってことか……って事は、丸山さんも自殺ではなく他殺?」

 

否定する余地はなかった。捜索をしても彼女の姿が見つからなかったこともあり、誰もが最悪の事態を想像していた。

 

(……そして、この状況であればやはり犯人はあの二人のどちらかだな)

 

コナンは西浦と三船の顔が見る。遺体を担いで走ったと言う点を見ると、恐らくは西浦だ。

この教会の秘密の構造を知り、隠し通路を使える可能性があるのは、教会関係者。そして遺体を担いで走れる人間。西浦が最有力である。

 

そんな中、小五郎が提案した。

 

「とにかく、まずはクラリスさんを探すのが先決だ。もし生きている可能性があるなら、一刻も早く見つけてやらねぇと」

 

小五郎の提案で、二人一組での捜索が決まった。コナンは慎重にペアを組み合わせ、関係者同士が一緒にならないようにした。山田と三船。熊沢と黒柳。小五郎と西浦そしてコナンと蘭。

 

森の捜索は小五郎たち大人組に任せ、コナンと蘭は教会内を調べることにした。そしてコナンは真っ先に事務室を選ぶ。

 

(隠し通路を必ず見つける……!)

 

蘭と共に本棚を徹底的に調べる。さっきは見つけられなかった仕掛けが、今度こそ見つかるはずだと信じていた。そして、ついにコナンは発見する。

 

(これだ!)

 

本棚の上部、埃の溜まり具合が違う部分を見つけたのだ。そこには微かな凹みもあった。触っても押しても何も起きないが、どうやら何かを置くことで仕掛けが動く仕組みらしい。部屋にあるものを片っ端から置いてみる。チェスの駒、マリア像、時計、コップ。しかしそのどれもがハズレだ。

 

(そりゃそうか……となると、犯人の所持品の可能性が高いな)

 

犯人を特定し、その所持品を調べない限り、隠し通路を開くことはできないだろう。そう考えて事務室を出ると、丁度小五郎が戻ってきた。

 

「ったく、やってらんねぇよ」

 

ずぶ濡れの小五郎が不満げに吐き捨てる。

 

「小五郎のおじさん!? 西浦さんは一緒じゃないの?」

「急に雨が強くなって、はぐれちまったんだよ。あっちの方がこの辺詳しいし、先に戻ってるかと思ったんだが……こっちには来てねぇのか?」

 

コナンの表情が険しくなる。最も疑わしい人物が1人になったのだ。そんな中突然、「やめろォォォッ!!」と大きな声が響き渡った。

 

コナンと小五郎は弾かれたように声が聞こえた方向へと走り出した。

 

 

 

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