「「な……」」
間の抜けた声が、同時に二人の口から漏れた。突如として現れた死体に、驚愕に目を見開いたまま、しばし言葉を失う。だが、その動揺もすぐに押し殺される。視線は冷静に、しかし鋭く、倒れた人影へと注がれていた。
「貴方まさか……殺したんですか?」
静かながらも怒気を孕んだ声で問いかけるジャックに、キッドは即座に声を荒げて返した。
「そんな訳ないだろ!?そもそも、怪しいのはお前の方だろ!お前が口封じに殺ったって線もあるだろうが!」
「私ではない」
「じゃあ誰が殺ったんだよ!?」
「そんなものは私が知りたい」
「俺としては、お前が第一容疑者なんだけど。殺人鬼だし」
「私は貴方が第一候補ですよ。顔を見られたから殺したんじゃないですか?それで殺した相手に化けて現れたんだ」
「オレはたとえどんな理由があろうとも殺しだけはしない。盗みはするが、命だけは盗まねぇって決めてるんだ。ンな事したら大事な奴に顔向けできなくなっちまうだろ」
「……そうですか」
睨み合う二人の間に、一瞬静寂が走る。しかし、その緊張はキッドの言葉によって弾け飛んだ。
「ってか、今は揉めてる場合じゃねぇ!」
呻くように言いながらキッドは体を起こす。ジャックは特に妨げる様子もなく、拘束していた腕を解いた。
キッドは倒れている人物の元へと素早く駆け寄り、その顔を見下ろす。血で濡れた衣服、胸元に走る致命傷。それは、この会社と博物館のオーナー、久保寺辰夫の変わり果てた姿であった。
「辰夫さん……どうしちまったんだ」
その声に、ジャックも無言で歩み寄る。
「心臓を一突き、冷静な犯行だな。抵抗した痕跡はないと言うことは知人が犯人か?部屋に血痕が見当たらない、手際が良いな、どこで殺した?運んだのか?それともこの場で殺して証拠を隠滅した?」
「言ってる場合かよ、状況分かってんのか?」
ぐるりと部屋を見渡すジャックの視線は鋭い。キッドは改めてナイフを掲げ、鞘から抜き去り、その刃先に微かに残る血痕を示す。そしてついでに、窓から夜空に浮かぶ月に宝石を透かして見た。しかし、宝石にはなんの変化も訪れなかった。それを少し残念に思いつつ、話を続ける。
「凶器はアズラエルの刃。状況的に、容疑者はオレかお前に絞られる」
「いや、警察は私だと判断するでしょうね」
「まあ確かに、オレは人殺した事ねぇからそう思う可能性は高いだろうが……」
「そうではない」
ジャックは何かに気がついた様子で目を細め、死体の元に歩み寄ると膝をつき、膝の上から一枚のカードを取り上げた。
「赤い、カード……?」
キッドが呟く。ジャックはそのカードをまじまじと見つめ、不愉快そうに口元を歪める。
「随分と困った事をする方がいらっしゃる。これは私が残すカードと全く同一だ」
ジャックの視線がカードの文面を追う。その内容は、まさしく彼が犯行後に残すメッセージと同じものだった。模倣犯も多いが、最近はこうやってジャックに罪を押し付けようとする殺人犯もたまにいるらしい。有名になり過ぎてしまったかと眉を顰める。本来ならジャックの名を使った以上、見せしめとして殺してやりたいが、予定にない殺人はするべきではない。下手をしたら痕跡を残してしまう。
「犯人は警察関係者か……?ならば容疑者は中森銀三と、控えていた他の4人の警察官……」
「中森警部は違う!」
キッドの鋭い声にジャックは目を細める。彼の中で、何かが引っかかる。
「ホー、知人でしたか。いえ、知人以上……随分と、親しげな様子でいらっしゃる」
その冷ややかな皮肉に、キッドはわずかに眉を顰める。痛い所を突かれたように。
(人殺しを殺す、殺人鬼……警部との関係を勘繰られようとも、コイツに警部が犯人扱いされるよりずっと良い)
キッドは息を整え、言葉を選ぶように口を開いた。
「そもそも、初対面であろう警察官が辰夫さんを殺す理由なんてない。オレが予告状を出した2日前にここにくることが決まったような人たちだぞ。それに、そのカードが警察内部だけの情報だってんなら、それは警察に近しい人間が犯人だって事になる」
「と、なると……確か久保寺一紀の妻は警部補だったはず……彼が犯人か……」
吐き捨てるように言うジャックの横顔は、既に別の思考を巡らせていた。時間がない。眠っていた者たちも、そろそろ異変に気付き始めるだろう。このままでは、二人とも現行犯として捕まってしまう。だが、出口はない。
その空気の中、先に動いたのはジャックだった。赤いカードをポケットにしまい、無言で窓へと向かう。そして躊躇なく窓を開け、足をかける。
「おい何してる?」
「逃げるんですよ。あのカードさえなければ警察達は私の犯行だと誤認しない。ならばいずれ謎は解かれる。貴方は貴方で、好きにしたら良いのでは?」
淡々とした言葉に、キッドは驚きと焦りを隠しきれないまま、その足を掴んで引き止めた。
「待て待て待て!オレを一人にするんじゃねー!」
「貴方も逃げれば良いでしょう。ハンググライダーで空を飛べば良いだけだ」
「ンな事したらますますオレが犯人だって思われちまうだろう!お前の偽予告状は持っていかれたし、オレの濡れ衣を晴らす手段がなくなる!」
切羽詰まった声が夜の空気に響く。だが、ジャックの返答は冷淡だった。
「知りませんよそんな事」
「っ、まあ、そりゃそうか……。だったらオレは、オレの濡れ衣を……自分で晴らす、しかないよな……」
そういってキッドは歯を食いしばった。深呼吸を一つして、挑戦的な笑みを浮かべる。
「いつぞやのように名探偵がいないのなら、己でやるしかない。私の失態で、この白い翼を汚すわけにはいかない。……私のショーを台無しにした報いは、牢屋で受けてもらうことにいたしましょう」
低く、しかし確固たる決意をにじませてそう言うと、キッドは深く息を吐く。そして静かに瞼を閉じ、呼吸を整えるようにリズムを刻み始める。
「three、two、one……」
囁くようなカウントが終わると同時に、
「ゼロ!」
ボフン、と軽い爆発音と共に、白い煙が辺りに広がる。視界が瞬時に曇った。ジャックが思わず目を細めた次の瞬間、そこにはもうキッドの姿はなかった。
「工藤、新一……?」
代わりに現れたのは、あまりにも有名な高校生探偵の姿だった。ジャックは唖然としたように窓辺からその変化を見つめていた。キッド……いや、今や“工藤新一”の姿をした彼は、自信満々に胸を張ってみせた。
「私の得意な変装の一つです」
そう言いながら、元の怪盗キッドの変装セットをジャックに手渡す。
「取引しようぜ。どうせ逃げるならこれを持って逃げてくれ、後で捨てても良いから。代わりに俺はお前のことを黙ってる」
ジャックは一瞬だけキッドを見つめ、それから溜息を一つ。
「……仕方ないですね」
そう言って受け取ると、躊躇うことなく窓枠に足をかけ、身軽な動きでするするとマンションの外壁をよじ登っていった。その様子を見送りながら、キッドは呆れたように肩をすくめる。
「猿かよアイツ……」
と、その時。展示室の扉が勢いよく開いた。中森警部を先頭に数名の警察官が雪崩れ込んでくる。
「大人しくお縄につけッ!怪盗キッド!!お前の好き、に…は……」
叫びかけた中森警部の声が徐々に尻すぼみになる。目の前に立っていたのは怪盗キッドではなく、彼もよく知る高校生探偵だったからだ。
「こんばんは、中森警部。お久しぶりですね」
「工藤新一……なぜここに……?」
困惑と驚きに満ちた顔で問いかける中森に、キッドはもっともらしい理由を告げる。あくまで、キッドの予告を見て、偶然近くにいたために来てみたのだと、巧みに嘘を織り交ぜて取り繕う。身体検査や、頬を思い切りつねられる洗礼を受けたが、幸いにも変装用のマスクはしていない。バレるはずもなかった。
「えぇっと、つまり…なんだ……。着いた時にはみんなが眠ってしまってるのを見て、これはまずいと思って展示室に来たところ、ロッカーの中に隠されていた久保寺辰夫さんの遺体を発見したという事か?」
「ええ。ここに残されていたこの“アズラエルの刃”が凶器でしょう。僅かにですが、拭いきれなかった血痕が残っている」
キッドが示すナイフを、中森がじっと見つめる。刃の溝には、微かに赤黒い痕が残っていた。それを確認すると同時に、騒ぎに気づいた博物館のスタッフたちがぞろぞろと駆けつけてくる。
「しゃ、社長!?」
「父さん!!?」
「何が起こったっていうの!?」
「い、一体どうして……」
混乱した叫び声が次々と飛び交う中で、キッドはその人混みの中に、少し遅れてやってきた一人の人物、早川の姿を認め、思わず目を見開いた。
(屋上まで登って、そのまますぐに走って戻ってきたのか……)
何事もなかった様子で佇む早川に軽く戦慄を覚えていると、中森警部の質問が飛んできた。
「にしても、キッドはこの窓から逃げたって……?」
「ええ、そうです。オレが入った時にはもうその背中が小さくなってしまっていましたよ」
窓から身を乗り出し、辺りを見回す中森。その後、改めて室内の全員に目を向けると、不審な目つきで言い放った。
「とか言って、実はこの中の誰かに化けてましたっていうのも奴の常套手段。悪いが顔、引っ張らせて貰うぞ。話はそれからだ」
(ゲェ、マジかよ警部……)
内心うめき声を上げるキッドだが、どうやらその懸念は杞憂に終わったようだった。中森は一人一人の顔を容赦なくつねって回ったが、化けの皮が剥がれる者は誰もいなかった。
(目元だけの変装マスクか。だから引っ張られた時に、さりげなく嫌そうに顔を捻ったんだな。角度によっちゃマスクがズレかねないから……)
不自然にならないように目線を滑らせながら、キッドはさりげなく赤くなった頬をさするジャックを観察する。
(そんで、それに加えてメイクと表情の使い方で顔の雰囲気を大きく変えていると見た。良いなそれ、骨格とか雰囲気が似てる人ならオレも出来そうだ。今度試してみるか)
そんな思考に一瞬気を取られていたのが、良くなかった。
「あの有名な高校生探偵だ!ひょっとしてもう、犯人に目星がついてるんじゃないですか?」
不意に、一紀がそう声をかけてきたのだ。「え?」と反射的に振り向いたキッドは次の言葉に息を詰まらせる。
「ほら、何か致命的な証拠とか、犯人が誰であるか特定できるものとか、もう見つけたんじゃないですか?」
(ひょっとして……あのカードのことか?)
一紀の意図を探るようにキッドの目が鋭く揺れる。その表情の裏に、ある種の誘導が読み取れた。ジャックの犯行である事を示す赤いカード。あれを指しているのだとすれば、彼は“犯人は殺人鬼ジャックだ”と口にしてほしいのだろう。
だが、問題が一つ。そのカードはすでに、ジャックがこっそりと隠してしまった。現場にあった証拠品を、“あった”ということすら証明できない以上、それを根拠に指摘するわけにはいかない。早川が拾って隠した、などという真相も当然ながら口にはできない。
(ここで取るべき手段は……一つ)
キッドは小さく息を呑み、笑みを浮かべた。
(とりあえず誤魔化して乗り切る!)
自信満々の顔とは裏腹に、内心で冷や汗をかきながら、口を開いた。
「とは言いましても、オレもまだ来たばかりでしてね。死体を発見してすぐ貴方達が来たので現場検証もまだなんです。捜査はこれから行いますよ」
あくまで落ち着いた口調で、冷静な探偵を装って答える。
「そうですか……」
一紀はそれ以上追及することなく、言葉を引き下げた。キッドはすぐに場の主導権を握るべく話題を切り替える。
「とりあえず皆さんは会議室に戻って事情聴取を受けてください。中森警部、お願いできますか?」
「何でお前が仕切っとるんだ」
その不満そうな半目を受けて、キッドは愛想笑いを浮かべながら「まあまあ」と取りなした。事態の混乱と捜査の遅れを回避するため、強引に主導を取ることは不可欠だった。
「ああ、そうだった。早川さんはオレと一緒にいてもらって良いですか?」
その言葉にジャックが怪訝な顔を向けた。
「オレですか?」
「ええ、会社を歩き回るので1人くらい詳しい方にそばにいて欲しいんですよ」
「はあ?コイツの事情聴取は良いのかよ」
中森の鋭い指摘にキッドは内心焦り、数秒の沈黙の後、口ごもるように言葉を探した。
「え、それは……ですね……」
しまった、と心中で舌打ちする。ジャックを白と見なしているからこそ無意識に除外していたのだが、他の面々にとっては未だ容疑者に違いない。協力者として連れ出そうとしたのが、今さらながら誤算だった。だが、そんなキッドの焦りを感じ取ったのか、ジャックはとぼけた調子で助け舟を出す。
「それって、キッドがオレに化けてたからですか?」
「そ、そうそう。そういう事です」
一拍置いて答えたキッドの声に、中森が驚愕の声を上げた。
「何だと!?キッドは早川さんに化けとったのか!?いつ入れ替わったんだ!?」
「それは……彼が清掃に抜けた時ですね!」
「ワシが顔を引っ張った後に入れ替わりおったのか、おのれ小癪な……」
中森が悔しそうに唸る。その横で、キッドはすかさず論理を積み上げていく。
「つまり、辰夫さんがまだ生きている段階で彼は眠らされていた。キッドの行動は完全に犯人の想定外、彼がどう動くかを予め知っていて、それを予測して事件を起こすなんて事はいくら何でも不可能だ」
「なら確かに、早川さんはグレーだがアリバイがあるってことになるか」
中森が渋々認めたように頷くと、ジャックは芝居がかった身振りで肩をすくめた。
「本当にびっくりしましたよ。掃除中に爆睡キメちゃって、やべぇと思って慌てて会議に戻ったけど、なんかみんな気にしてないし意味わかんなかったです!でもバレてないならそれはそれでとか思ってたら今度は社長殺されてるし、マジで何が起きたのかと……」
その言葉にひとまず中森は納得し、容疑者達を会議室へと移動させるべく指示を出した。ざわめきの中で足音が遠ざかる。残されたのは、入り口に立つ見張りの警官二人とキッド、そしてジャック。
静寂の中に、緊張が濃く張りつめていた。
残された猶予はわずか。神奈川県警が到着するまでの、その短い時間のうちに、この事件を解決しなければならない。
「おいどうするんだ!?嘘つきすぎてなんかしっちゃかめっちゃかになってないか!?大丈夫かよこれ!?」
キッドは入り口に立つ2人に聞こえないように小声で叫ぶという器用な行動をしながらジャックに話しかける。
「貴方が急に私に残れなんて言うから……」
「仕方なかっただろ、心細かったんだから!今日に限ってあの探偵坊主もいねぇし!そもそもオレは謎を提供する側であって解く側じゃねーの!探偵の真似事は専門外!さっぱりわかんねぇ!」
口早にまくし立てるキッドの声はやや上ずり、混乱を押し隠すような必死さが滲んでいた。その姿を横目に見ながら、ジャックは呟く。
「こんな情けない工藤新一は見たくなかった」
ため息をついてそう言ってから、彼はゆっくりと背後に横たわる死体へと目を向け、冷静に状況の整理を始める。
「そもそも、嘘なんて今更ですよ。私たちがいる事によって、アリバイとかトリックとか、色々と不都合なことが起きすぎている」
「確かに、一個一個解き明かしていっちゃキリが無いな」
ぼやくように返したキッドの声には、焦燥と諦念が入り混じっていた。ジャックは視線を巡らせ、淡々と続けた。
「気になる事はいくつかありますが……」
そのまま現場を一瞥し、彼は問いかける。
「貴方は何個思いつきますか?」
「ゼロ」
「チッ……」
「本気の舌打ちはやめろよ」
キッドが切なそうに眉をひそめる中、ジャックは顎で死体を示した。
「胸を刺されて引き抜かれたにしては出血量が少ない。襟の茶色いシミ。短い時間で死体をどうやってロッカーに詰めたのか。わざわざアズラエルの刃を使ったのは何故か」
「出血量はわかんねぇけど、凶器と死体の位置からして殺されたのはここって考えるのが妥当なんじゃないか?」
「そうですね。全ての事象には理由がある。犯人は久保寺一紀でしょうし、逆算して考えましょう。何故そうしなければならなかったのか、何故それを選んだのか」
「この部屋を選んだのは、オメーが監視カメラの映像をループさせたからじゃねぇか?」
「というか……そもそもなぜ、キッドという、強盗の犯行予告を出してきた、わかりやすく罪を押し付けやすい相手がいるのに私のカードを選んだんだ」
「知るかよそんな事。おおかた、捜査を撹乱するためだろ」
キッドはとうとう考えるのを放棄したようにポケットへ手を突っ込んだ。
とりあえず、この混沌とした状況を紐解くには、まず自分たちがどんな余計なことをやらかしたのかを見直すべきだった。そう判断し、ふたりはそれぞれの行動を振り返っていく。
まず、ジャック。彼は、自分と顔の雰囲気が似ている早川を沖縄旅行に出かけさせ、その隙を突いて彼になりすまし、博物館へ潜入した。全員を眠らせるため、水に強力な睡眠薬を混入させて飲ませたが、その効果は服用量とタイミングにより多少のズレが生じた。続いて、防犯カメラの映像を事前に仕込んだシステムでループ再生に切り替え、監視網から自らの動きを消した。そして、警備室で眠っていた久保寺一紀から鍵を盗み、展示室へと侵入。しかし最終的にはキッドに見つかってしまう。
一方のキッドは、早川が沖縄旅行のはずなのに博物館に姿を見せたことに疑念を抱き、適当なスタッフに変装して周囲の様子を窺っていた。そんな中、ちょうど良いタイミングで辰夫が離席し、盗聴器を通してそのトラブルが長引きそうなことを知る。好機と見たキッドは辰夫に変装して会議室に現れるが、おそらくその時点で辰夫はすでに殺されていた。そしてその後、早川の行動の不審さから、彼の正体がジャックであることを見抜いたのだった。
「オレら余計な事しかしてねぇ」
キッドは頭を抱えるようにして天を仰ぎ、隣ではジャックが眉を顰めて深いため息を吐いた。どちらか一方だけであれば、ここまで事態を混乱させることはなかった。だが、奇跡的な偶然の重なりが、最悪ともいえる展開を招いてしまったのだ。
「もう、嘘をついてでも犯人に自白させるしかありませんね」
「推理すんのに嘘なんかついて良いのかよ?」
「嘘も方便というでしょう。そもそも我々は探偵ではないのです。嘘で真実を暴き出すことにいったい何の不都合がありましょう」
「確かにそうだけど、もしもしくじった場合は……」
「貴方が疑われます。……アドリブは苦手ですか?」
挑むような視線を投げかけられ、キッドは困ったように顔をしかめながら、肩をすくめて答えた。
「状況によるけど、こういうのは苦手だな」
「頑張ることですね。愚かな道化で終わるか、見事に皆を欺いてみせるか、それは貴方次第。期待させてもらいますよ、令和の
「ああ、最高のショーを見せてやる。期待してくれていいぜ。令和の
苦手だと言っても、状況的にはやるしかない。キッドは大きく深呼吸をしてそう言うと、覚悟を決めた。