ある日のことだ。
小雨が降る街並みを、コナンは家の窓から静かに見つめていた。彼の瞳には、雨粒が窓ガラスに張り付く様子が映し出されている。街は淡い灰色に包まれ、雨が路地や建物の表面を滑り落ちる様子が静寂な情景を演出していた。
外の景色をぼんやりと眺める少年の眼差しは、何かを考え込んでいるようだった。
その何かとは、最近世間を騒がせているニュースだ。何ヶ月か前までは“少女連続誘拐殺人事件”の話が世間を騒つかせていたが、今は違う。
丁度テレビが朝のタレント達の番組からニュースへと切り替わった。
明るいスタジオの中、ニュースキャスターは微笑みながらカメラに向かって語りかけている。スタジオの明かりが彼女の美しい髪をキラキラと輝かせ、穏やかな雰囲気を漂わせていた。
可愛い動物の子供が産まれたニュース、タレント同士の結婚。そんな情報の中、突如不安を齎すような事件の話が舞い込んできたのだ。
『ええ〜、ここで速報です。ここ数日赤い箱に人間の体の一部と見られるものが入れられ放置されていた事件について、続報が入って来ました。
昨日午後10時ごろ、人間の右腕と見られるものが入った赤い箱が
これで人間の体が見つかったのは6件目となります』
『これ怖い話ですよね〜。警察の話だと同一人物の体だってのは分かってんでしょ?』
『そうですね、え〜、こちらのパネルにまとめてあるのでご覧ください』
キャスターが示した方向に大きなパネルが用意されていた。黒い服を着たスタッフがそそくさと退出していくのを見送ってからキャスターは話し始める。コナンはその様子をメモ帳を取り出しながら見つめた。
『まずは
『毎日体が発見されてるわけですからね、怖い話ですよ。しかもわざわざ見つかりやすい場所に置いてるわけで、これ、愉快犯の仕業なんですかね?』
『いや、警察関係者の話によるとなんでもジャックザリッパーの仕業なんじゃないかって』
『ジャックザリッパーって、あの?』
『ええ、関係者からこそっと聞いたんですけど、ジャックザリッパーの仕業と考えられる物が箱の中に残されていたそうですよ』
『ええ〜!?』
(情報漏らした奴誰だよ)
コナンは思わず半目になった。
ジャックザリッパーの仕業と考えられると言う事は、恐らくはあの赤い手紙だろう。アレに関しては一切外に情報が出ていない為、模倣犯にも真似できない。という事はこのバラバラの死体はやはり、ジャックの仕業という訳か。
(アイツが意味もなく死体をバラバラにする訳がない。これにはきっと何らかの理由があるはずだ)
コナンはそう考えてメモ帳を睨む。メモ帳には先ほどのニュース番組の中で、キャスターが話した重要そうなポイントだけをまとめてある。
6日前 玉宮公園 下半身
5日前 花咲川 左腕
4日前 北白尾ビル 左足
3日前 秋津広場 右足
2日前 青柳商店街 上半身
1日前 佐野団地前バス停 右腕
一見して、これらの場所には何もつながりはない。スマホで地図を開いて各地を繋げたりして考えてみるが何もない。線を繋げば記号になるとか、そういう物ではなさそうだ。
(恐らくは明日頭部が発見される。その場所を特定して、そこに先回りして待ち伏せをしたいところだけど)
コナンはシャーペンでトントンとメモ帳を叩きながら思考を巡らせた。
ジャックザリッパーが殺す相手は殺人犯に限る。という事はこの死体は恐らく殺人犯。それも未解決事件の犯人だ。ジャックザリッパーは未解決の殺人事件の犯人を殺害するのが特徴である。
(これらの体が発見された場所は、その未解決事件に関係ある場所。そう考えた方が良さそうだな)
コナンはとりあえず“玉宮公園 事件”で検索をしてみる。だがそれらしい事件は出てこない。
地名ではない、そうなるとバラバラにされた体の順番の方だろうか。
(バラバラにする事に意味がある。そう仮定するならば、この被害者はバラバラ殺人事件の犯人と言うことか?復讐、同じ目にあってしまえ。そう言うことか?そう考えると一見筋は通っていそうだが、わざわざそんな回りくどい事をアイツはするだろうか)
最初の事件も、次の事件も、コナンが調べた限りの他の事件でもジャックザリッパーは犯人を無闇に苦しめる事なく殺害している。やはりこれには意味があるはずだ。
(何だ、一体何のためにアイツはこんな事をする)
玉宮公園、花咲川、北白尾ビル、秋津広場、青柳商店街、佐野団地前バス停。バラバラ殺人……。
ピロン♪
と、そのタイミングでコナンのスマホが鳴った。画面に表示されてる名前は吉田歩美。コナンの現在の同級生である小学一年生の少女だ。
【今から米花公園でかくれんぼするからコナン君もいっしょにあそぼ!】
【元太君と光彦君と哀ちゃんもくるよ!】
かくれんぼ?こんな雨の日に?そう思ったコナンは窓の外を見てみる。いつの間にやら雨は晴れていて雲の隙間から太陽が覗いていた。
(まあ、ここで悩んでたところで突破口は見つからないし)
気分転換にそれも良いだろう。そう考えてコナンは了承の返事を送る。するとすぐに歩美から喜びに満ちた返信が返って来た。それに既読をつけて着替えると、コナンは蘭に友達と遊んでくると伝えて家を出た。
そのままゆったりとスケボーで街を移動すること10分弱。少年探偵団のたまり場でもある緑豊かな公園、米花公園が見えて来た。どうやらコナンは最後の1人だったようだ。公園には既に小さな人影が4つある。
「あ!コナン君!」
「おっせーよコナン!」
「随分待ちましたよ!」
「あら、精々5分くらいじゃないの?」
と、子供達は口々に声を上げた。
一番初めは吉田歩美。おかっぱ頭にカチューシャをつけた明るい女の子。次は小嶋元太。大柄な少年で、歳の割に体重もかなりある。敬語を使っているのは円谷光彦、そばかすのあるセンター分けの少年だ。
最後にコナンに声をかけた少女は灰原哀。赤みがかったウェーブの茶髪を持つ少女。だが、彼女はコナンと同じだ。実年齢は18歳で“APTX4869”という薬の影響で子供のような姿に変わってしまったのだ。
江戸川コナン=工藤新一だと言う事を知っている数少ない人物の1人である。
まあそんな話は置いておこう。コナンはどこか上の空な様子で彼らに「ああ」と返事になっていないような返答をした。その様子を見て灰原が声をかけた。
「随分と身の無い返事ね。何か気になる事でもあるのかしら」
「何だ何だ!?事件か!?」
「なになに?」
「少年探偵団の出番ですか!?」
前のめりにコナンの側へと駆け寄って来た子供達に苦笑いをしながら「違うよ」と声をかける。
「今日やってたニュースがちょっと気になってな」
「今日のニュースというと、バラバラ死体が発見された事ですね!」
「その犯人見つけにいくのか!?」
「いえ、ニュースによると犯人は“令和のジャックザリッパー”だと考えられてるそうですよ」
「な〜んだ、もう犯人見つかってるんだ」
「じゃあオレらの出番ねぇじゃねーかよ」
「いえ、そうも言えませんよ。何せ令和のジャックザリッパーは顔も名前も性別も一切不明。証拠を何一つ残さない連続殺人鬼なんですから!」
「まだ捕まってねーのか!」
「そうです!」
「じゃあそいつをオレたち少年探偵団が捕まえてやるって事だな!」
「だから違うって!」
止める間もなく勝手に話を進めて盛り上がる子供達にコナンはやや押され気味だったが、勢いそのままにおかしな事をやらかしそうな様子を見て慌てて止める。
「そもそも何の証拠もないんだから見つけようが無いんだよ!警察が公表してる事も少ないし、オレたちにできる事はない」
「高木刑事に聞いたらいいんじゃないですか?」
「ただでさえ忙しいでしょうに、不要な手間を取らせちゃダメよ」
「う〜ん……コナン君は何も思い浮かんでないんですか?」
「ああ、何も。さっぱりだよ」
「コナン君が分からないんじゃ仕方ないね」
「そうそう、大人しくかくれんぼでもして遊んでろって」
「そうだね!じゃあ鬼決めよ!じゃんけん!」
歩美の声に合わせてじゃんけんをする。
最初の鬼は元太だった。すぐにかくれんぼを開始して、鬼役が歩美、光彦、灰原と回る。最後の鬼役はコナンだった。
1分のカウントダウンを終わらせてさあ探そうと顔を上げたら隣に灰原がいた。
「オメェ何やってんだよ」
「存外真面目なのね、童心に帰ったの?」
「んな訳ねぇだろ」
コナンは呆れたように目を細める。
「あなた、本当は何か気がついてる事があるんじゃないの?」
「バラバラ殺人の件か?残念ながら行き詰まってるよ」
「珍しい事もあるのね」
「情報が少なすぎる。恐らく今日、どこかで頭部が発見されて、それで被害者が誰なのか分かるだろうって、その程度だ」
「誰でも分かる程度ね」
「部屋で悩んでても何も浮かばなそうだし気晴らしに出て来てみたけど、結局何も思いつかねえや」
「一朝一夕に解決できるのなら警察も苦労しないわ。まああなたも、偶には小さな子供たちに紛れて遊ぶのも悪くないんじゃなくて?頭も心も、少しは休まるんじゃない?」
「小さい子供、ねぇ」
コナンはチラリと灰原をみる。確かに今、灰原は小さな女の子の姿をしている。自分だって小学生の少年にしか見えない姿をしているわけで、子供たちと一緒に遊んでもおかしくはないだろう。
とはいえ、実年齢は高校生である。そう考えると精神的に余計に疲れる。高校生もまだ若いとは言え、小学生を相手にするとドッと疲れるのだ。
(特に小さい女の子はどう対応したらいいのか分かんないからな)
コナンは公園を見渡しながら隠れた子供たちの姿を探す。そんな時だった。
(ん?小さい女の子……?)
何か引っかかった様子でコナンは顎に手を当てる。灰原はコナンのそんな様子を見て結局なにか推理を始めたのだなと理解した。どうやら探偵とはどんな状況でも常に思考を回し続けているらしい。
(そうだ!少女連続誘拐殺人事件!)
コナンは目を見開いた。
少し前まで世間を騒がせていた連続殺人だ。歩美が誘拐されてしまったのだってみんなして慌てた事もあったが、あれは結局勘違いだった。
本物の誘拐殺人はこうだ。
被害者の少女は合計で7人。6歳から8歳の少女たちが数週間おきに各地で行方不明になり、それぞれの家にバラバラにされた体の一部が送りつけられるという、言葉にするのも惨いような残酷な殺人事件である。2ヶ月ほど前にバラバラになった少女達の遺体が山に捨てられていたのが発見されている。
(確か子供たちの遺体の一部が送られた順番は1人目が右足、2人目が上半身、3人目は左腕、4人目は左足、5人目は下半身、6人目が右腕で最後の1人が頭部だったはず)
コナンはメモ帳を取り出した。
6日前 玉宮公園 下半身
5日前 花咲川 左腕
4日前 北白尾ビル 左足
3日前 秋津広場 右足
2日前 青柳商店街 上半身
1日前 佐野団地前バス停 右腕
(これをさっきの被害者達の順番に合わせて並び替えると……)
秋津広場
青柳商店街
花咲川
北白尾ビル
玉宮公園
佐野団地前バス停
(これだけじゃまだ分からない、何か他にヒントは……)
コナンはすぐさま高木刑事に電話をかける。数コールで高木刑事は電話に出た。高木刑事の「もしもしコナン君?」という声に被せるようにコナンは話し始める。
「少女連続誘拐殺人事件の被害者達の情報を教えて!」
『ええ!?どうしたんだい急に!?』
「早くッ!ジャックザリッパーを見つけられるかもしれないんだ!」
『本当かいッ!?』
高木刑事はガタゴトと電話越しに大きな音を立てた。待つ事数分、情報を持って来てくれた。
『あんまり詳しい情報は残ってないよ。それでもいいかい?』
「うん」
『1人目の右足を送られた子が
「分かった!ありがとう!答えが出たら連絡する!」
『えっ、ちょ、コナン君!?』
慌てる高木刑事を無視してメモ帳をもう一度見る。今度は被害者達の名前も一緒だ。
(被害者達に何か共通点は……名前に数字が入っている!)
コナンはメモ帳に新しい情報を書き加えていく。
秋津広場 右足 参澤美希
青柳商店街 上半身 来栖梨沙
花咲川 左腕 中野はじめ
北白尾ビル 左足 遠藤五月
玉宮公園 下半身 二宮真凜
佐野団地前バス停 右腕 木下七海
(発見された地名の中で、名前の数字が示す場所だけを抜き出すんだ。参澤は3、来栖は4、はじめが1で、五月は5、二宮が2。七海は7……)
あきつひろば つ
あおやぎしょうてんがい ぎ
はなさくがわ は
きたしらおびる お
たまみやこうえん ま
さのだんちまえばすてい え
コナンは大きく目を見開いた。一瞬、時が止まったかのようだった。
(“次はお前”、もう1人殺すつもりなのかッ!)
コナンは強くメモ帳を握りしめて険しい顔をする。灰原もその様子に気がついたのか「工藤君?」と心配そうに見つめる。
(いや、殺された女の子はもう1人いる。頭が残ってる。陸田莉子ちゃん、陸は大字で6を意味する。この法則に準えて考えると……
多分、“だ”か?完成したメッセージが“次はお前だ”だと仮定するなら、文字の6番目が“だ”になる地名の場所に頭が置かれる可能性が高い!)
スマホを操作して地図を開く……
(どこだ……どこだ……)
「工藤君?ちょっと聞いてるの?」
「なあ灰原、6番目の文字が“だ”になる地名に心当たりはないか?」
「“だ”?意味が分からないわね。まあいいわ」
隣で灰原が考え出す中、必死にスマホを操作する。
「あった!
「
コナンは歯を噛み締めた。2箇所ある、そのうちどちらが正解か。もしかしたら見落としているだけで他の場所の可能性もある。公園の時計を見る、時刻はすでに17時を過ぎている。悩んでいる時間はなさそうだ。
「灰原悪い!子供達を頼むッ!!」
「えっ!?ちょっと!」
「工藤君!」と呼び止める灰原を背にコナンは走り出した。スケボーで走り出してすぐに高木刑事に電話をかけた。もしかしたらジャックザリッパーは次に6番目が“だ”になる地名の場所に現れるかもしれないと己の推理を伝える。
スケボーを全力で走らせること10数分、一つ目の候補地である北荒枝道場に辿り着いた。大きな道場で、中では元気に稽古をする子供達の声が聞こえる。
(さすがに、ここまで人目につきそうな場所には来ないか?)
コナンは一応、道場をぐるっと一回りして確かめる。特に異常は無さそうだ。となると怪しいのはもう片方の候補地だろうか。辿り着く頃には18時になっていそうだ。もう一度スケボーに乗って、大慌てで南中田駅に向かう。
駅に辿り着いたのは18時10分頃だった。そこまで栄えているエリアではないのかやや薄暗い。コナンは腕時計のライトを点けると辺りを探る。しかしどうやら、こちらもハズレだ。異変は何もなかった。
(ここでもないのか、奴はどこに現れる!?オレの推理は間違っていたのか!?)
奥歯を噛み締めながらスマホをもう一度開く。陸田莉子、6番目、地名……。逸る心で文字を打ち込もうとして、コナンは間違えて“陸田莉子”と被害者の名前を打ち込んでしまった。舌打ちをしながら検索をし直そうとしたところで指を止める。
娘が行方不明だと捜索を呼びかける母親の昔のアカウントを発見したのだ。そこには娘がいなくなった場所周辺の地図が載っていた。そしてその中の一つが、
(西新小田神社!!ここだッ!間違いねぇ!!)
コナンは再びスケボーに乗って走り出す。
団地を通り過ぎて、商店街を抜けて、川を渡ってそこから更に10分後。19時過ぎた頃にようやく西新小田神社に到着した。薄暗い森の中に細い階段があり、鳥居が不気味な雰囲気を醸し出している。
こんなところに箱を置いても誰も発見してくれないだろう、本当にここなのだろうかとコナンはやや不安になりながらもスケボーを降りる。そのタイミングでスケボーの電源は切れてしまったようだ。帰るのが大変そうだとため息をつきながらコナンは階段を上がる。
辺りを見渡し、木の後ろや藪の中まで探してみたが何も見つからなかった。
(まだ来ていないのか、それともここも外れか……)
と、諦めかけた時だった。
「ねえ新一、そろそろ諦めて帰ったら?もう暗いわよ」
「冗談じゃねえ!あとちょっとなんだ、よ……」
蘭の声だった。
間違いなく、聞き慣れた幼馴染の声だった。
焦りの中で大切な人の声が聞こえた為、思わず返事をしてしまった。だがすぐに己のしくじりに気がついた。
(いま、新一って……。というか蘭がここにいる訳ないッ!)
コナンは飛び上がりつつ振り返り、背後の人影に麻酔銃を向けた。神社のぼんやりとした小さな灯りが人影を照らす。
「迂闊だな。実に迂闊だ」
そこにいたのは、恐らく若い男だった。露出の一切ない、体型の分かりにくい服を着ている為、一瞬分からなかった。
深く被った帽子の下にはやや長い、癖のある銀髪がある。その銀髪の合間から牡丹色の鋭い瞳が覗いている。黒いマスクとアンダーリムのメガネのせいで顔はほとんど分からない。
だが、この牡丹色の瞳には見覚えがあった。
「アルシエル!!」
「探し物はこれかね?名探偵」
現れた人物、連続殺人鬼“令和のジャックザリッパー”ことアルシエルは無造作に赤い箱を地面に置いた。その中には人間の頭部が収められている。
「連続少女誘拐殺人事件の犯人か?」
「流石だな、工藤新一」
「オレは工藤新一じゃ、」
「工藤新一の家に侵入して、彼の指紋と、制服についていた毛髪を採取した。そして君のものと比べたよ。指紋もDNAも完全に一致した。
君は工藤新一だ、今更誤魔化さなくても良い。ボクはもう君の正体を見抜いている。故に、その嘘には意味がない」
殺人鬼は牡丹色の瞳を細めてコナンを見る。
「ギフテッドの少年にしても、慧眼が過ぎるとは思っていたんだ。だが流石に驚いた。奇々怪々。奇想天外。全くもって摩訶不思議。黄泉返りや不老不死は、決して叶わぬ人類の夢だと思っていた。だがまさか、それに近しい若返りが既に成されていたとはな」
「今日はよく喋るじゃないか、アルシエル」
「おや、もうジャックとは呼んでくれないのかね?ボクはジャックの方が好きだぞ。神の名は身の丈に合わないからな」
「そうかよ。なあ、ジャック。それはお前の素顔か?」
「さて、どうだろうか?素顔かもしれないし、お気に入りの顔かもしれない。もしかしたらこの世に存在しない誰かの顔かもしれないな」
「チッ……」
「仮面を割られて、この顔を見られたからな。君に会うのならこの顔だろうと考えて来たのだが。なんだ、不満かね?」
「なんでも良いさ、今にその化けの皮を剥がしてやる」
「化けの皮を被っているのはお互い様だがね」
その言葉を聞いてコナンは眉を顰める。どういう意味だと問い掛ければジャックは真っ直ぐコナンを指差す。
「君は異常だ。肉体が幼い頃に戻るなど、尋常な事態ではない。すぐに病院に行くべきだ。いや、それだけじゃあ足りない。警察にも行くべきだ。
平穏な日常を生きている人間が、そのような姿になるはずがない。君はなんらかの事件に巻き込まれたのだろう?」
「……」
「なぜ工藤新一を名乗らない?何故、江戸川コナン等と嘘をつく」
「オレの正体は無闇にバラす訳には行かないんだよ」
「それは何故だね?」
「周りの人間に危害が及ぶかもしれないからだ」
「やはり事件に巻き込まれたか。好奇心は猫をも殺すというが、まさにその通りだな」
殺人鬼に正論を言われたコナンはなんとも言えない嫌そうな顔をする。言われている内容があまりにもその通りな為、反論ができなかった。
「高校生はまだ子供だ、1人で抱え込まずに大人に頼るべきだろう。直ぐにでも警察や、それに類する者たちに相談しろ。君が言えぬというのならボクが代わりに伝えてやっても良い」
「それはダメだ!」
「何故だね?」
「お前は、奴らの事を何も知らないからそんな事を言えるんだ!
アイツらは国境すら容易く超える危険な犯罪組織。政界にも、芸能界にも、医療の現場にも、それこそ警察組織の内部にも奴等の魔の手は及んでいるんだよ!笑いながら人を殺せるような連中が山ほどいる!
どこから情報が漏れて、誰に危険が及ぶか分かんねぇんだ!!絶対やめろッ!」
「それほど危険な組織。それは、まさか……。いや、いや、この話は今はやめておこう。だがなるほど、理解した。君が熟慮をした上でその結論を出したのなら、ボクは君の意思を尊重しよう。君の正体を誰にも言わないと誓う」
人殺しの言葉など信用できるかと突っぱねたい所だが、ジャックの目に曇りはなく、倫理観や思想以外は信じて良いのかもしれないと感じた。
なんとも言えない空気が流れる。ジャックは気にした様子もなく十字架を持って何かを呟いているが、コナンは非常に複雑な気持ちだった。
そんな時である。
プルルル、プルルルと静寂を破るようにスマホが着信を知らせたのは。チラリと画面を見れば光彦から何回も電話が入っていた。途中で抜け出した事を怒っているのだろうか。
「構わないぞ、出てやると良い。君の通話が終わるのを待ってやる程度の余裕はある」
そう言うとジャックは木に寄りかかり、スマホをいじり始めた。
(クソっ、舐めやがって……)
コナンはジャックを睨みながら電話に出た。
『コナン君大変ですッ!!!!』
「うわ光彦、なんだよ」
『歩美ちゃんと灰原さんが!!』
「歩美と灰原が?」
『誘拐されてしまいましたッ!!!!!』
「……は?」
一瞬、理解できなかった。
あまりの衝撃にコナンはまんまるの瞳を大きく見開いたのだった。