南シナ海の穏やかな波間を進むフェリーは、中国から日本へと優雅な航海を行っていた。船体は白く輝き、海面に反射する夕日の光を受けて輝いている。船首から船尾にかけて連なるデッキには、旅行客や船員が歩き回り、船上の様々な施設を楽しんでいるようだった。
そのフェリーの最上階には広いデッキがあり、観客たちはそこで穏やかな海風を感じながら、異国の地を目指す旅の始まりに胸を躍らせていた。家族連れの笑い声が響き、カメラを持った観光客が景色を撮影し続ける。時折、かもめが甲板の周りを旋回し、まるでフェリーに連れそうかのようだった。
船内に入ると、レストランやカフェが並ぶエリアがあり、温かな食事の香りが漂っている。シェフたちは手際よく料理を作り、それを受け取る乗客たちの顔には満足げな表情が浮かぶ。カフェの窓際の席では、熱いコーヒーを片手に海を眺める人々が、ゆったりとした時間を過ごしている。
さらに進むと、小さなラウンジエリアが存在している。ここには丸テーブルがたくさん並び、大きな窓から海の風景を楽しむことができる。乗客たちは本を読んだり、カードゲームを楽しんだりしていた。誰もがリラックスした表情で、快適な船旅を楽しんでいた。
しかし、船内の活気に満ちたエリアを離れ、少し奥まった通路に入ると、途端にその雰囲気は一変する。通路は薄暗く、人工照明の光が壁にぼんやりとした影を落としている。ここには人影が少なく、不気味な静けさが漂っていた。一つの足音だけがカラリカラリと虚しく響いていた。
そして、その足音を立てる人物。とある1人の乗客は何かに気がついた様子だった。優雅な客船にあってはならない物が存在していたのだ。壁際の、配管に隠れるように黒い小さな箱のようなものが設置されていた。
(何故、爆弾が──)
乗客は辺りの様子を伺う。
(随分と、罪深い者がこの船にいるみたいですね)
帽子の鍔を下げ、作り物の顔の下にある鋭い瞳を不愉快そうに細めた。その男は素早く、的確な動きで爆弾を解体する。終わったら、一見した程度では分からないように修復して、元の場所に戻した。
これがテロであるのならば、爆弾が一つであるはずがない。男は考える。シージャックか、テロか。気がつくのが遅すぎた現状、できる事は少ない。とりあえず警察に連絡を入れるべきだと、男がそう判断した時だった。足音が近づいてきた。その足音は洗練されていて、一般人のものではない。
男は物陰に隠れ、気配を消した。
「Ehi! Ho sentito che una barca della polizia si sta avvicinando!」
「È perché quell'idiota di Corrado ha mostrato una pistola a un cliente. Merda!」
「È rovinato! Di questo passo ti arresteranno」
「Ecco perché ho sparato e ucciso il cliente che aveva segnalato il fatto.. Le scimmie asiatiche, che non erano abituate alle armi da fuoco,Dopo che una persona è stata uccisa, tutti sono rimasti in silenzio e hanno obbedito.」
「Cosa farai dopo questo?」
「Fai saltare in aria la nave! Sotto la copertura del caos, fugge con il tesoro. Questo è ciò che ha deciso il capo!」
聞こえてきたのはイタリア語だった。2人の外国人の男が、何か焦った様子でやってきて、爆弾を確認していた。
まずいなと、隠れた男は考える。
男達の話を訳すと、こうだ。
"おい!警察の船が近づいて来てるらしいぞ!”
“コルラードの間抜けが客に銃を見られたからだ!クソ!”
“台無しじゃないか!このままじゃ逮捕されちまう!”
“だから通報した客を射殺したんだよ。銃器に慣れていないアジアの猿たちは、人が殺された後は皆黙って従った”
“この後はどうするんだ?”
“船を爆破しろ!混乱に紛れて宝を持って逃走する!ボスが決めたことだ!”
そう話す2人の顔には見覚えがあった。少し前に見た外国のニュースだ。銀行の襲撃、そして銃の乱射。銀行員や民間人が10数人亡くなった大事件だ。この男達は確か、その動画に映っていた。
(ボス、イタリア、コルラード、銃器、宝……そして、あの2人)
隠れた男は頭の中で情報を精査した。
(間違いない、この男達の正体は)
その時だ。
「La bomba viene disinnescata!」
「Che cosa! ? Contatta immediatamente il capo!」
運の悪いことに男達は爆弾を開いて中を確認した。そのせいでコードが切られている事に気が付かれてしまったのだ。
ハイジャック犯達がスマホを取り出そうとしたのを見て、隠れていた男は瞬時に飛び出ると手前の男の頭を鷲掴みにし、その首に刃物を突き立てた。頸動脈を切り裂かれた男は大量の血を流して絶命する。もう1人の男が慌ててこちらに銃を向けようとしているのを確認すると、乗客の男は死体の首を捻りながら、刃物を深く滑らせ、血飛沫をもう1人の顔面へと飛ばした。
血で目を潰された男がたたらを踏む。その懐へと踏み込んで顎を掴み、首を曲げさせ、そこへ刃物を差し込み、切り裂いた。間もなく2人目も絶命する。
「イタリアンマフィア、il zanna blu。なぜこのような所に……」
2人を殺した男は、彼らが持っているスマホが振動している事に気がついた。死体の顔を認証させてロックを解除し、電話に出る。
「
「
殺した男の声を完全に模倣して応答する。
「
「
「
「
「
「
男は赤い手紙を2人の懐に差し込んだ。
さて、なぜこの男が爆弾は12個だと分かったのかと言うと、スマホのデータの中にこの船の地図があったからだ。その地図には小さく丸が付けられている場所が12個あって、そのうちの一つがここだった。半分賭けだったがうまくいって何よりだ。
そのまま地図を頼りに爆弾の在処を巡り、順調に解除していった。7個目の、客室に仕掛けられた爆弾を解除し終わった時である。
ヘリコプターの音が近づいてきたのだ。
窓に近づき外を見る。
(マスコミのヘリか!なんて迂闊な!)
男は険しい顔をして奥歯を噛んだ。
(まずいッ!まだ爆弾が!!)
轟音と、閃光が走った。
巨大な火柱が船体を貫く。爆風が船を揺さぶり、船内では窓ガラスが割れた。男は爆風の衝撃で客室の窓から叩き出され、船のフェンスに体を打ち付けながら海に落下した。
落下時にぶつけた影響で、作り物の顔が大きく裂けてしまっている。このままだと溺死しかねないため、マスクを破って捨てた。
隠されていた昏い瞳が燃え盛る船を映す。
船体が激しく揺れ、炎と黒煙が漲る中、船は少しずつ炎の海に飲み込まれていく。パニックになった乗客達が次々と海に落ちてきた。そんな中、小型のボートが20人ほどの人間を乗せ、真っ直ぐ船から逃げていくのが見えた。
男は殺意を込めた目で、それを睨む。そしてその後、男の瞳には深い後悔と悲しみの色が浮かんだ。
「私にはもう、祈ることしか出来ない」
船からは悲鳴や叫び声が聞こえ、煙と火の中で人々が必死に助けを求めている。爆発後の船は、まるで地獄絵図のような光景を見せ、その凄惨さは言葉に尽くしがたいものがあった。
「どうか、どうか神よ……1人でも多くの人々をお救いください」
火の勢いは増していく。
火災に巻き込まれた乗客や船員たちが必死に助けを求める姿が目に入る。
「そしてどうか、あの外道供を地獄へ送る事ができるように、私にお力添え下さい」
少しして男の元に、近くにいたのであろう漁船が近づいてきた。男は漁師たちに引き上げられ、船上に上がる。他にも助けられたのであろう乗客達の姿があった。濡れた体に毛布がかけられる。
(ああ神よ、ありがとうございます。
約束します、誓います。私は必ず、あの悪辣非道の鬼畜共を、殺してみせる)
海上に浮かぶ客船は黒煙と炎の中で、ゆっくりと沈んでいくのだった。
「Grant them eternal rest, O Lord,and may everlasting light shine upon them.Amen.」
* * *
次の日の昼頃、警視庁では記者会見が行われていた。
その記者会見の部屋は、照明が明るく灯っていた。機械的な煌めきが部屋を照らしている。部屋の奥には、警視長や捜査本部のメンバーが立ち、堂々とした姿勢で待機している。記者たちはカメラやマイクを構え、興味津々の表情を浮かべ、彼らを見ていた。
緊張感が漂い、空気が張り詰める。警視長の表情は真剣であり、一目見るだけで彼の威厳と決意が伝わってくる。彼の存在感に、会場の緊張感が一層高まる。
「えー、先日夕刻、18時47分頃。日本海沖合にて乗員乗客480人を乗せた客船、青海丸が爆発炎上しました。船は爆発後30分とたたずに沈没、現在32人の死亡を確認、また54人の行方不明者の捜索にあたっています。」
長官の一言が発せられると、記者たちの質問が雨のように降り注ぎ、会見室は一気に熱気に包まれる。長官は落ち着いた口調で質問に答え、捜査の進捗や事件の詳細を説明していく。彼の語る言葉には厳粛さが感じられ、その情報は報道陣に大きな関心を引き起こした。
「犯人の目的は何なんでしょうか?これはテロですか!?」
「犯人グループに目星はついてますか!?」
「犯人グループはイタリアのマフィア、“イルザンナブル”と見られております。ただ現時点では彼らの犯行動機は分かっておりません」
「彼らの行方は!?」
「捜索中です」
マスコミ達が騒めき立つ。そして彼らが今もなお、武器を持った状態で日本のどこかに潜んでいるのではないかと不安の声を上げた。それは恐ろしい事だ。その場合どうするのか、どうしていくのかと記者達は矢継ぎ早に質問を重ね、警察達が重苦しい様子で答えていく。
そんな様子を、コナンは毛利探偵事務所のテレビで見ていた。
(随分と、とんでもない事件が起きちまったな)
コナンは顔を顰めた。行方不明者が生存している事はまずあり得ないだろう。死体が発見されるのかも怪しい。海流に呑まれ、流されてしまえば、もうどうしようもない。魚や海獣たちに死体が食べられてしまっている可能性だって高い。なんの罪もない人々がこんなに無惨に殺される事などあっていいはずがないのだ。
だが当然ながら、コナンにできる事は何もない。あらかじめ事件が起こる事を予測するなどまず無理だし、手の届かない所で起きた理不尽に対しては為す術はない。
スマホのニュースも、SNSも、テレビもラジオもこの話題一色だ。行方不明者の親族が泣きながらインタビューに答えている。
(罪なき命、か……)
コナンは工藤新一として使っているスマホの画面を見る。そこには高木からのメールが届いていた。この事件が気になったコナンは、高木に詳細を尋ねていた。そして帰ってきた文章にはこう供述があったのだ。
“この沈没した船のことだけど、実は気になることがあってね。イルザンナブルのメンバーの2人の遺体が船内から発見されてるんだ。その2人は鋭利な刃物で首を切り裂かれて亡くなってる。そしてその懐には赤いカードがあったんだ。海水で滲んでしまっていたけど間違いなくアルシエルのカードだったよ。
つまりアルシエルもあの沈んでしまった船に乗っていたという事になるね。
君はアルシエルの事を調べてたみたいだし、一応知らせておくね!”
(奴もあの船に……)
100人以上が亡くなった大事件だ。アルシエルは顔も名前も性別も不明。例え彼が死んでいたとしても、誰もそれが分からないのだ。
(とはいえ、そう簡単にやられるとは思えないけど)
だがもし、もしもアルシエルがあの船に乗っていたとすると。
(間違いなく、怒り狂っているだろうな)
目の前で100人近い無辜の命が奪われたのだ。彼が怒っていないはずがない。仮に彼が生存していたとして、今現在の最優先事項は恐らくイルザンナブルの滅殺だろう。
(アイツより先に見つけ出さないと、マジで皆殺しにされちまうぞ)
彼ならやりかねない。まだ3回しか会っていないが、コナンはそう確信していた。
テレビから視線を外し、目をテーブルに向ける。テーブルに置かれているのは今朝の新聞だ。3面が客船爆破事件についてで埋められている。
(イルザンナブルは確かイタリアの銀行から8億円相当の金や貴金属類を盗んで逃走していた。目撃された情報によるとイタリアを出て中国、ロシアと渡っていて、そして今日本に入ってきたわけだ)
船を爆破したのは恐らく混乱に乗じて逃げる為だろう。このクルーズ船は中国から日本へ向かっていた観光客船だ。あと数時間で神戸港という所で爆発炎上、沈んでいる。
「あ、やっぱコナンくんもそのニュース見てるんだ」
いつのまにやらコナンの背後に立っていた蘭が、新聞を覗き込んでいた。「酷い事件だよね」そう言うと彼女はコナンにジュースを渡して席についた。
「これから船に乗るって時にこういうニュースを見ると、なんだか不安になっちゃうよね」
蘭はテレビを見る。そして燃えながら沈んでいく船を見て悲しげに眉を下げた。
「そうだコナン君、あと30分くらいで出発するけど準備はできてる?横須賀から苫小牧だから、20時間以上かかるらしいよ」
「大丈夫!」
「そう、良かった」
準備というのはなんのことかというと、フェリーでの旅の事だ。鈴木財閥が保有するフェリー、クィーン・セリザベスII号の処女航海にコナン達が招待されたのだ。横須賀を出発し、22時間後に苫小牧に到着する長旅になる。そして苫小牧に一泊し、帰るのだ。連休を利用した小旅行である。
コナンはソファから降りて部屋に戻り、リュックの中身を整理する。本当はイルザンナブルについて調べたいが、こちらの予定の方が前から決まっていたのだ。あまり蔑ろにする訳にはいかない。
(それに、調べ物くらいならどこでも出来るしな)
コナンはそう考えて荷物をまとめ、蘭の元へ向かった。
* * *
頭上には、澄み渡る青空が広がっていた。
時折白い雲がぽつぽつと浮かんでおり、その下をカモメたちが自由に飛び交っている。カモメの鳴き声が風に乗って耳に届いた。
「わぁ、カモメがいっぱい」
「潮風が気持ちいいわ〜」
蘭は嬉しそうに空を見上げ、園子は肺いっぱいに空気を吸い込んだ。コナンは2人に続いて甲板に出て、それに続いて彼と同じく招待された阿笠博士、灰原、歩美、元太、光彦もやってくる。
元太は出発前に横須賀で買ったネイビーバーガーを頬張っており、その香りが潮風の爽やかな匂いを潰してしまった事に園子は不満気だった。
元太に風情が無いと文句を言う園子を尻目にコナンは甲板のフェンスのそばまで行き、景色を眺める。
眼前には、広大な海の景色が広がっていた。潮風が頬を撫で、海の香りが鼻腔をくすぐる。波はゆるやかに揺れ、白い波頭がきらめきながら船の後ろに伸びる航跡を描いている。
遠くには、水平線がぼんやりと見えた。海と空の境目がかすかに揺らめき、夕陽が水面に反射する。海は時折、太陽の光を受けて黄金色に輝き、その眩しさに目を細めるほどだ。
「悪くない景色ね」
「そうだな」
灰原の言葉に返事をして、空を見上げる。
その時、黒い影が物凄い勢いで急降下してきた。「うわぁ!?」と元太の悲鳴が聞こえて慌てて振り返る。元太は尻餅をついていた。
「どうしたんだ?」
「ワシさんが元太くんのハンバーガー持って行っちゃった!」
歩美が空を指差したのを見ると、何かを抱えた大きめの鳥が飛び去って行くのが見えた。
「ありゃトンビだな」
と、少し離れたところに座って新聞を読んでいた小五郎が教えてくれる。蘭は元太を心配して近づく、運が良かったのか彼は無傷だった。
「衝撃映像とかで、鳥に食べ物をとっていかれる人の動画は見た事がありますが、本当にやられるとすごいびっくりしますね」
「ねぇ、おっきかった!」
「おれのハンバーガー返せよ!」
「これもまた、思い出ね」
あっという間に姿が見えなくなったトンビの方を眺めながら、灰原がまとめた。
空にはトンビ以外の海鳥たちも空高く舞い、フェリーの周りを旋回している。みゃーみゃーとウミネコ達が鳴いており、羽ばたく音が風に乗って聞こえてくる。
「いい景色じゃのう」
「ね!この船わたしたちの貸し切り?」
「流石に違うわよ、私達以外のお客さんもいるわ」
園子は甲板の扉を指差す。
「ラウンジとか、パーティーの会場とかには他のお客さんもいるわ。ウチの関係者とか、あと一般の人にも抽選でチケット配ったから」
「へぇ、そうなんだ」
「パーティーやるの!?」
「うまい食いもんとかあるのか!?」
「あるある。パーティーは今夜だから、楽しみに待っておきなさい」
園子はおざなりに返事をすると、船内に戻って行った。彼女に続き、コナン達も後について行く。
そしてしばらく時間を潰し、夜にパーティーの会場へとやってきた。
会場の扉を開くと、まず優雅な装飾が目に飛び込んできた。広々としたホールは、シャンデリアの柔らかな光に包まれ、クリスタルの反射が天井から床まできらめいている。壁には質の良いカーテンがかかり、薄いベージュとゴールドの配色が上品さを引き立てている。
会場中央には、大きな円形のダンスフロアがあり、その周囲には丸テーブルが整然と並べられている。各テーブルには、白いリネンのクロスが掛けられ、中心には色とりどりの生花があしらわれた豪華なセンターピースが置かれている。どのテーブルにもシルバーの食器が並び、パーフェクトにセットされていた。
「おおー、すっげー!!」
「流石鈴木財閥ですね!」
子供達は興奮した様子で走り出してしまい、園子は少し慌てて腕を伸ばすが、機敏な動きについていけずあっという間に置き去られて大きくため息をついていた。灰原が仕方ないなと言った様子で彼らの後を小走りで追って行った。
コナンは出遅れてしまい取り残される事となってしまい、(おいおい、はしゃぎすぎだろ……)と内心ぼやく。とはいえ、すごいのは事実だ。再び会場へと目を向ける。
バーカウンターには、新品のグラスがずらりと並び、バーテンダーがカクテルの準備を進めている。琥珀色のウィスキーや鮮やかな赤のカクテル用のフルーツが、カウンターの後ろに美しくディスプレイされていた。
ホールの片隅では、スタッフたちが最後のチェックをしている。サービス係がテーブルクロスのしわを整え、花瓶の位置を微調整する姿が見られる。シェフたちがキッチンから顔を覗かせ、料理が完璧に準備されているかを確認していた。
「なんか緊張してきちゃったかも」
「大丈夫だよ蘭ねぇちゃん。僕達以外にも一般の人はいるみたいだし」
コナンは場慣れしていない様子の人たちを指さして蘭を安心させる。
窓の外には、静かな海が広がっていた。太陽が殆ど沈み、暗い海が波打っている。
(そういえば、アイツと初めて会ったのもこんなパーティーの会場だったな)
ふと、頭に浮かんだのは悪魔のような面をつけた殺人鬼の事だ。コナンの正体を知っている、数少ない人物の1人。だがそんな彼は今、安否不明。
(アルシエル、イルザンナブル……)
パーティーの開始を告げる時間が近づく中、ホール全体が一瞬の静寂に包まれる。
その静けさが、まるでこれから始まる大事件の前触れのような気がした。
(なんだろう、何か……嫌な予感がするな)
コナンは落ち着かない様子でそわそわとしていた。蘭はそんな彼の様子をパーティーに緊張しているのだと思って、微笑ましい気持ちで見つめていた。
いよいよ会場の扉が開かれ、ゲストたちが入場し始める。さまざまなドレスやタキシードに身を包んだ人々が、笑顔を浮かべてホールに足を踏み入れる。これから始まるパーティーに胸を躍らせている、そんな表情だった。
だが、
そんな空気を、一発の銃声が切り裂いた。