令和のジャックザリッパー   作:佐倉シキ

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真朱色の惨劇 下

 

 

 

 

荒れ果てたラウンジは、戦いの名残を如実に物語っていた。椅子もテーブルも倒れ、ガラスや陶器の破片が床一面に散乱している。壁には銃弾の痕が生々しく残り、テーブルクロスは無惨に引き裂かれていた。

そして何より、6つの死体が転がっている。頭を撃ち抜かれた男が3人。首をへし折られた男が1人。首を切られた男が1人。そして最後、心臓を貫かれた女が1人。強烈な血の匂いが部屋を覆い、不気味な静寂が空間を支配していた。

ジャックは血を流す女の上から退き、息を吐く。

 

「これで、10人目」

「キャーッ!!」

 

咄嗟に振り返る。テーブルの後ろに新手だ。

マフィアの男が2人。1人はこちらに銃を向けているが、もう1人は悲鳴を上げた女の子に銃を向けているようだった。

ジャックはすぐさま動いた。子供の前に飛び込んだのだ。腹に強烈な痛みが走るが、無視してすぐさま2人に発砲する。だが銃は2発撃って弾切れになった。思わず舌打ちをした、その時。

 

「ジャック伏せろッ!!」

 

咄嗟に頭を下げたその上を、何かが凄い速さで通り過ぎていった。それは的確に1人の男の顎を撃ち抜いた。

 

「もう1発ッ」

 

コナンは側に落ちていた拳銃を蹴り飛ばす。しかし残念ながらそれは避けられる。だがジャックはそれを予想していたかのように、椅子を放り投げた。椅子は男の腕に当たり、思わず男は銃を取り落とす。

ジャックはすぐさま間合いに入り込み、男の顔を思い切り殴りつけ、よろけた男を一瞬で締め落とした。

 

今度こそ、安全になった。

そう判断してジャックは眉間を揉むと重く息を吐いた。最初に船から落ちた時に打ちつけて折れた骨も痛いけど、今撃たれた傷もかなり痛い。急所は外れているし、防弾チョッキを着ているから致命傷にはなっていないが、それでも銃弾だ。痛いものは痛いのだ。

 

ジャックがそんな風に痛いなぁと考えている後ろで、コナンは立ちすくんでいた。

目の前でマフィアと殺人鬼の殺し合いが繰り広げられる中、ただ身を小さくする事しか出来なかった。それは間違いではない。正しい行動だった。あの時あの場で自分にできる事など何もなかった。何かした先に得られるものがあるとしたら、それは犬死だけだった。動かなくてはと思った時、脳裏に大切な幼馴染の顔が浮かんだ。動いたら死ぬ。死んだらもう、会えない。そう考えたら、動けなくなってしまったのだ。

 

どんな人間も死んではいけない、生きて罪を償わせなければならない。そう信じてきた自分が、今ここで何もできなかったことが、信じられなかった。

悪人であろうと、死んでいい理由なんてない。どんなに凶悪な者でも、その命を奪う権利など誰にもないのだ。本当なら、なんとしてでも止めなければならなかった。止めるべきだった。だが、あまりの壮絶さに、コナンの体は硬直し、手も口も出せなかった。目の前で命が無惨に散っていく様子をただ見つめるしかなく、無力感が胸を締め付けた。

 

「凹んでる場合じゃないわよ」

 

震える歩美を抱きしめながら、灰原がコナンに声をかけた。コナンは「あ……ああ……」と曖昧な返事をする事しか出来なかった。

コツコツと、ジャックが足音を立てながら彼らの方へと歩いてくる。

 

「れ、令和のジャックザリッパー……ですか?」

 

光彦が震えながら声をかけた。

ジャックは足を止める。

 

「ジャックザリッパー……その名前は変えるべきかも知れませんね……」

「え?」

「最近全然切り裂けていない。別に殺害方法に拘りはないのですが……そうですね……ジャックザマーダー、とか……」

 

失血のせいか分からないが、ジャックは惚けた事を言って見せた。思わずコナンは何を言ってるんだこいつはと呆れる。

 

「そのまま、そちらを向いていて下さい」

 

ジャックはそういうと、死体が転がっている方に向かった。そして死体を1箇所に集めると拳銃を回収してからテーブルクロスを死体に被せた。その後、もう一つのテーブルからもテーブルクロスをとって、それを切り裂いて細い紐状にすると、気絶した男2人を強く縛る。

 

「そっちは殺さないんだな」

 

コナンはふと、問いかけてみた。

 

「殺して欲しいんですか?」

「ンな訳あるか。さっきは無理だったけど、今度は邪魔するぞ。今度こそ、絶対止めてやる」

「不要ですよ。この2人は殺しませんから」

「なんで?」

「気分が良くないでしょう」

「お前が?」

 

コナンは首を傾げる。散々殺しておいて今更何を言ってるんだと思ったが、近くに来た灰原がこそっと耳打ちをしてくれた。

 

「貴方が手を出したから殺さなかったのよ」

「なんでだよ?」

「殺してしまったら、貴方が殺人に手を貸した事になってしまうから」

「……!」

 

コナンは思わず目を見開いた。そしてジャックに言う。

 

「なんでそういう気遣いが出来るのに、平気で人を殺せるんだよ。他人の気持ちを慮る事が出来んなら、もう少し……こう……いい手段とか…」

「無理です」

 

ジャックはコナンの言葉をばっさりと切り捨てた。コナンは少しムッとするが、ここの価値観については絶対に分かり合えないという事は分かっていたので、これ以上は言わない事にした。

 

2人を縛り終えると、今度は歩美の側に向かい膝をつき、彼女に目線を合わせた。その目尻は少し柔らかくなっていた。

 

「お怪我は?お嬢さん」

「ううん、大丈夫。ちょっと擦りむいただけ」

「怖い思いをさせて申し訳ありません。私はすぐに去りますので、お友達と一緒にどこか安全な場所へ身を隠して下さい」

 

ジャックはポケットから絆創膏を取り出して、擦り傷のある腕に貼った。

 

「この階層の客室、101から105の辺りは恐らく安全です。マフィアの連中が中を調べた後ですから」

 

彼はそれだけ言うと、ラウンジから出ていった。コナンは慌てて追いかけようとするが、子供達の存在がある為、思い止まる。

 

「行ってきたら良いわよ」

「え、でも……」

「これ以上、後悔したくはないでしょう?大丈夫、この子達は私が絶対に守るから」

「……悪い、頼めるか」

「ええ」

「ありがとう灰原。頼んだぞ」

 

コナンはすぐさまジャックの背後を追う。

ジャックはラウンジを出てすぐの部屋に止まっていた為、すぐに追いつけた。何をしているのかと見てみると、彼はコートを脱ぎ始めた。

 

「お前何やってんだ?」

「傷を焼きます。出血を止めなければならない」

 

コナンはそれを背中越しに待つ。

ジャックは真っ赤になったナイフを傷口に押し付けて、血管を焼いて塞いだ。

 

「ぅ……ぐ……」

 

痛みに思わず声を出す。

コナンはその痛みを想像してしまって、自分は関係ないのについつい「いってぇッ」と声を出してしまった。

傷を焼き終わると、ジャックはすぐに着衣を直した。それを見てコナンは本題を話す。

 

「なぁ、会場がどうなってるか知ってるか?」

「えぇ、盗聴器を仕掛けてありますから」

「お前が考えなしに暴れたからイルザンナブルのリーダーがブチギレてた。1時間以内にお前が出てこないと無関係な客を殺すってよ」

「放送もありましたので、知っています。私の落ち度ですね。1時間……後30分ですか。であれば後20分したら私はパーティー会場に向かいます」

「は!?大人しくやられるつもりか!?」

「ええ。私の首一つで助かる命があるのなら安いものです。後を任せる事になってしまうので無責任ですけど、最善でしょう。もちろんタダで殺されるつもりはありませんよ。1人でも多く、地獄に送ってからです」

「……ッ、させねぇよ!これ以上は、誰も死なせねぇ」

「折れないのですね。アレだけのものを見せてしまったと言うのに。貴方の信念を思うと辛いものだったでしょう。私も配慮が足りませんでした」

「っオレが、折れる訳にはいかないんだよ。今自由に動き回れんのはオレとお前だけだろ?それなのにオレが折れちまったら、結末は血塗られた惨劇一つじゃねえか。お前が死ぬか、イルザンナブルがみんな死ぬか……もしくは双方共に、全滅するかだ。

さっき何も出来なかった弱っちいオレが今更何を言ってんだって思うかもしれないけど、これ以上は誰も死なせないし、殺させない。今改めて、そう決めた。

オレはもう、負けない」

 

そう、宣言した。

 

ジャックは足を止めて、コナンの顔をじっと見た。コナンはまっすぐその目を見返す。そして、気がついた。

 

(目の色が……)

 

牡丹色ではなかったのだ。先程の乱戦の中でカラーコンタクトが取れてしまったのか、仮面の下にあるのは青藤色の瞳だった。じっとコナンを見返すその目は、少し幼く見えた。

この殺人鬼は、コナンが思っているよりかなり若いのかもしれない。

 

(30代くらいかと思ってたけど……20代か?下手したらもっと……いやでも、そんな訳ないか。20代、前半くらいか……?)

 

「カッコいいですね」

「……ぇ?」

 

ジャックの年齢を推察していたコナンは思わず虚を突かれた。今コイツ、カッコいいって言ったか?と、驚いて目をまんまるにし、目の前の殺人鬼を見る。

 

「尊敬します。貴方のような人間は」

「はあ!?」

「己の弱さに打ちひしがれても立ち上がれる強い精神。貴方なら、銀の弾丸になれるかもしれませんね」

「は、銀の弾丸……?」

 

聞き覚えのある単語に思わずコナンはとある女性を頭に浮かべた。そういえばジャックも真っ黒な服を着ているなと、今更ながら因縁のある連中との共通点を見出す。だが灰原達が誘拐された際、灰原はジャックに対して怯えを感じていなかった。彼女の勘を信用するなら、ジャックは組織の人間ではないのだろう。

 

「それで、工藤新一。これからどうするつもりですか?」

 

ジャックは歩きながら問いかける。

 

「まずは犯人の目的を考える。鍵は恐らく暗号だ」

「暗号ですか」

「暗号は写真だった。スペイン人風のそばかすのある女が小さいフルートみたいな楽器を持ってる写真だ。楽器には数字の1が書かれていた。写真に写ってたスマホのストラップの豚には漢字の二。女の頬には数字のtresが書かれていたんだ」

「それが暗号?」

「ああ、オレもそう思った。だが何か意味はあるはずだ。まずはイルザンナブルの状況を整理する」

「イルザンナブルの構成数は48人。ですがイタリアで半数が捕まり24人に。青海丸で私が2人殺しましたので、22人となりました」

「そういやお前、よく無事だったな。あの船、ニュースで伝えられた爆弾の数の割に爆発が小さかった。お前が解体して回ってたのか?」

「ええ」

「爆発には巻き込まれなかったのか?」

「巻き込まれましたよ。火傷と骨折がすごく痛いです」

 

コナンはギョッとして思わずジャックを無遠慮に見つめた。怪我を負った状態であの強さ、改めてとんでもない奴だと認識した。

 

(戦って勝つのは絶対無理だな。いや、京極さんならチャンスあるか?あの人ライフルの弾避けてたし……)

 

いや、そんなことより今はイルザンナブルだ。

 

「あ!そうだ!こっちの船の爆弾!」

「解体済みです。バラして海に捨てました。同じ轍は踏みません」

「そうか、良かった。じゃあ話を戻すけど。お前が2人殺して22人として、会場に残ったのはリーダーを含めた3人。残りは19人」

「10人殺して、2人を縛ったので残りは7人。と、言いたいところですが残りは4人です」

「減った3人はどうしたんだ?」

「裏切ったそうですよ」

 

ジャックはイルザンナブルの構成員のスマホをコナンに渡した。そこにはイタリア語のメッセージが残されていた。内容は、裏切った2人が宝を持ち逃げしたというものだった。青海丸から脱出して、北海道に逃げたらしい。

残されたのはこの暗号。実はもう1人裏切り者の仲間がいて、そいつに当てたメッセージなのだ。

だが暗号がリーダーの手にあったと言うことは、残った裏切り者はすでに殺された後なのだろう。

これらの事から考えると、マフィア達の目的は盗まれた宝の在処を見つける事だと思われる。

 

「裏切ったのはイタリア人の男2人とスペイン人の女1人。タルチジオ・アレンギとルーベン・ガット、エステラ・クエルバス」

「スペイン人の女?」

 

コナンは思い出す。イルザンナブルの構成員のうち、女は2人だけだったはずだ。

最初にパーティー会場で発砲したのも女だった。だがあの女は先程ジャックに殺された。つまり残っている女はもう1人。今上がった、裏切り者の女だ。

 

(じゃあ、あの写真に写っていたのは裏切り者のスペイン人の女か)

 

数字の1と、恐らく漢字の二。そしてtres。tresはスペイン語で3と言う意味だ。この違いにも意味があるはず。そう考えていると、ジャックが尋ねてきた。

 

「ひょっとして、数字の3は女の頬にありましたか?より詳しく言うなら、そばかすの上に」

「ああ、よく分かったな……て、まさか」

「楽器は恐らくピッコロでしょう。これは暗号と呼べるほど、よく出来たものではありませんね。どちらかといえば頓知とか、クイズのようなものですね」

「もう分かったのかよ!?」

 

コナンは悔しさで奥歯を噛む。答えは言わないでほしいが、そうも言ってられない。命がかかっているのだ、自分のプライドなどは当然二の次。

 

「それで……答えは……」

「ものすごく嫌そうな顔をしていますね」

「ほっとけ……」

「とりあえず、操舵室に向かいます。まだ時間もありますし、到着するまでは考えても良いですよ」

 

いいですか、と。ジャックは小走りになりながら話しだした。

 

「イルザンナブルは国際的な組織です。半数近くはイタリア人で構成されていますが、その中にはロシア人や中国人、スペイン人など様々な国籍のメンバーが集まっています」

「それは知ってる」

「彼らの逃走ルートは覚えていますか?」

「イタリアから中国、ロシア。そんで日本だろ」

「その通り」

「それが何……いや、そうか。そう言うことか」

 

コナンは気がついた。

なるほど確かに暗号ではない。クイズや頓知と言った方が近いというジャックの言葉は的確だった。

 

「数字の表記が違うのは、その表記を使う国の言語で読めという事でしょう。そしてそれを更に、彼らの逃亡ルートの国の言葉に変換する」

「1が一番初めにいた場所、イタリアを意味するとして、ピッコロはイタリア語で小さいという意味」

「二は豚。豚は日本語でトンとも読みますね。二番目に立ち寄った場所は中国。中国語でトンは(Tong)。樽を意味します」

「そしてtres、3番はそばかす。そばかすはスペイン語でpeca。ちなみにрека(ペカ)はロシア語では川を意味する」

「暗号が示す三つの言葉は“小さい”、“樽”、“川”」

「裏切った2人が逃げた先が北海道であるのなら示す場所はただ一つ」

「「小樽運河」」

 

2人の声が揃った。

 

「すぐに博士に連絡を」

「やめた方が良いでしょう。あの男は目撃者を殺します。用済みと判断されれば、貴方の幼馴染の父は殺されてしまいますよ」

「クソッ……そんなら、操舵室に呼び出すか」

「それが良いでしょう」

 

2人は走って操舵室に向かう。操舵室にいる構成員は恐らく4人。入り口近くに潜むと、ジャックは奪ったスマホのうち、この近くに配置されていた男のものを取り出した。そして中の男たちに連絡を入れる。

 

Jack lo Squartatore è arrivato! (ジャックザリッパーが来た!)Dammi una mano!」(手を貸してくれ!)

 

奪った拳銃を発砲しながら、声を真似して連絡を入れる。

 

Dove sei? vai subito』(どこにいる?すぐ向かう)

Sto andando lì adesso!(今そっちに向かってる!)Ha una pistola! Stai attento!」(奴は銃を持ってる!気をつけろ!)

 

それだけ言うとジャックはスマホを撃って破壊した。コナンは気を引き締めた。ここからが勝負所だ。コイツにもう1人も殺させないと決めた。コナンは自販機に千円札を入れ、いくつか缶ジュースを購入し、準備した。

 

そして、操舵室のドアが開く。慎重な足音が迫ってきた。心臓が高鳴る。コナンが潜むのと、反対側の壁には、ナイフと銃を持ったジャックが獲物を狙う豹のように息を潜めている。

 

そして男の姿が見えた。その瞬間、コナンは缶ジュースを男の足を目掛けて蹴り飛ばした。それは的確に命中し、男は転ぶ。そのおかげで相手の頭を狙ったジャックの銃弾ははずれた。ジャックは即座に状況を判断し、男の顎を思い切り蹴り飛ばす。男は一撃で意識を刈り取られた。そして出てきたもう1人。そいつが構えた銃はコナンを狙っていた。

 

だが銃弾は己には届かない。

コナンはそう判断して、缶ジュースを男の顔目掛けて蹴り飛ばす。と、同時に1発の銃声が響く。コナンの予想通り、それはコナンには当たらない。響いた銃声はジャックのものだ。彼が放った弾丸は男の腕を的確に撃ち抜いた。おかげで男の弾は見当違いの方向へと飛んでいった。

 

「危ないですよ」

「知ってるよ」

 

殺させないと決めたのだ。多少の無茶はする。ジャックザリッパーは自分を死なせない。だから彼にはコナンの身を守る事に意識を傾けてもらう事にした。そうして、コナンがマフィアの連中を無力化する。コナンが手を出した相手のことを、ジャックは殺さない。

 

(情けないけど、今のオレに取れる手段はこれだけだ)

 

自分がもっと強ければと思うが、無理なものは無理だ。そこはスパッと諦めるしかない。コナンが悩む横でジャックは男達の両足を撃ち抜き、腕の骨を折り砕いた。これで動きは封じられる。

 

(後2人。操舵室には民間人もいる。一瞬で終わらせないと人質を取られる事になる)

 

ジャックが会場に向かうまでの残り時間は5分だ。

 

使える道具は麻酔針とサスペンダー、キック力増強シューズ、それと花火ボールと巨大ボールだ。きっとジャックはリーダーだけは何としてでも殺したいと思っている。だからコナンの先手を狙う可能性が高い。

それを阻止するためには、灰原にも協力してもらわなければならない。コナンはバッジを使って灰原に一つ頼み事をした。

 

(そんで、まずはリーダーを呼び出す)

 

コナンは倒した男のスマホを操作して、リーダーに電話をかけた。

 

Ci sono dei requisiti?』(何のようだ?)

Capisco il significato del codice」(暗号は解けたよ)

Chi sei? (お前は誰だ?)Probabilmente non un assassino』(殺人鬼ではないだろう?)

Un altro detective. (もう1人の探偵さ。)Prova a uccidere almeno una persona. (1人でも殺したらその瞬間、)Non sarai mai in(お前は大事な宝を)grado di trovare il tesoro」(見つけることができなくなるぞ)

Non essere prepotente』(偉そうに言うんじゃねぇ)

Vieni alla timoneria, ti aspetto.」(操舵室に来い、待ってるぞ)

 

コナンは通話を切り、操舵室の扉を開いた。中にいたマフィアの男たちが即座にこちらに銃を向けるが、大人が来ると想定していた彼らの視界にコナンは映らなかった。その為彼らは虚を突かれる形となる。

その一瞬の隙を逃さず、コナンは再び缶ジュースを蹴り飛ばし、拳銃を弾いた。弾かれた男は即座にナイフを取り出し襲いかかってくるが、間に割って入ったジャックによって、操縦の為の機械の側にいたもう1人の方へと投げ飛ばされた。そしてジャックは2人の肩と足を撃ち抜き、動きを封じる。船長たちは縛られた状態で端の方に集められていた。頭を殴られたのか血を流して意識がない。どうやらマフィア達がこの船を動かしていたらしい。

 

「どうするおつもりで?」

「奴らの目的は多分、日本で一番有名な探偵である毛利小五郎に暗号を解いてもらうこと。そんでこの船を沈めて証拠隠滅をした後、悠々と宝を頂戴してまた逃げるつもりだったんだろう」

「そうですね」

「奴らは焦ってる。強硬手段に出たのに探偵は暗号が解けないし、苫小牧までまだまだ時間がかかるのに殺人鬼に仲間が次々と殺されていくしで」

 

会話の途中でコナンは止まった。ドタバタと走る足音が近づいてきている。コナンは咄嗟に身を隠した。バタンとドアが開かれ、リーダーの男が現れる。リーダーはすぐさまジャックを睨み、発砲した。だがジャックは、その銃弾を躱わす。

 

Che cosa! ? È una pistola! ?」(な!?銃弾だぞ!?)

 

ジャックはリーダー目掛けて発砲する。リーダーは転がるように避け、再び銃を構える。だがジャックの方が速い。再び発砲し銃を弾き飛ばす。そして男の頭に狙いを定めた。その瞬間、コナンは「今だ灰原!!」とバッジに叫ぶ。

 

バチンと音がして船の明かりが落ちた。

停電だ。

想定していなかった2人は一瞬硬直する。

 

あらかじめ眼鏡の暗視機能を発動させていたコナンは、リーダーの顔を目掛けて麻酔針を発射した。命中したおかげでリーダーは倒れ、ジャックの撃った弾は外れた。そしてすぐさま明かりが戻る。

 

「すごいですね。大の男が一瞬でこれほど深い眠りに落ちた」

 

ジャックは興味深そうに眠ってしまったマフィアのリーダーを眺めていた。それを背にコナンは博士と連絡を取る。パーティー会場にいたマフィア2人は、停電に動揺した隙に蘭と小五郎に倒されたらしい。つまり、マフィアは全滅したという事だ。

 

「これで、一件落着……」

「いえ、まだです」

 

コナンはホッと一息吐こうとしたが、遮られた。

 

「少し前から航路が変更されています。このままだと陸に突っ込んでしまう」

「ハァッ!?」

 

コナンは慌てて機器の様子を検める。レーダーもGPSもいつのまにやら壊されていて、オートパイロットも起動しない。そして顔を上げたら陸地が見えてきた。

 

「まずいぞ」

 

ただぶつかるだけではない。このままだと減速せず港に突っ込む事となる。そうなった場合、大変な被害が出てしまうだろう。

 

Ahah, è un peccato」(はは、ざまーみろ)

 

動けないが意識の戻ったマフィアの男が笑う。

 

Ho deciso che (失敗したら) se avessi fallito, avrei affondato la nave.(船を沈めると決めてたんだ) Ha colpito la terra ed è esploso,(陸にぶつけて爆発させて) Li ucciderò tutti insieme!! 」(みんなまとめて殺してやる!!)

 

救いようのない連中だとジャックは殺意を滾らせる。だがそんな事より船の方が一大事だ。陸地は迫っている。少しでも犠牲者を減らす為、船員に変装して避難誘導でも行うべきかと考えていた時だった。

 

「ジャック!この窓割ってくれ!!」

 

コナンが前方の窓を指さして叫ぶ。何やら策があるのだろうと判断して拳銃を窓の角に向けて発砲する。強化ガラスの為、1発では割れない。

 

(強化ガラス……ならば内部の引張応力層まで衝撃を届けられれば、壊せる)

 

そして4発撃って弾が切れた。だが衝撃はガラスの内部までギリギリ届いていない。

 

(ならば)

 

ジャックは機器を飛び越え窓のそばによると渾身の力で殴りつけた。その瞬間、窓は一気に粉々に割れた。コナンはそれを見るとサスペンダーの片端をジャックに持たせて外へと飛び出した。

 

陸地はもう目の前、衝突する。

衝突すれば船は沈む。下手をしたら死者が出る。マフィアの連中が他にも爆弾を持っていたりしたら、その規模はとんでもないものとなる。そうなって終えば、船内にいる大切な幼馴染も無事ではいられないかもしれない。

 

蘭ッ───────

 

コナンはフェリーの前方に超巨大サッカーボールを出現させた。それは猛烈な勢いでぐんぐんと大きくなっていく。

 

「膨らめぇぇええぇぇ!!!」

 

コナンの叫びに呼応するように見上げる程大きくなったサッカーボールに、フェリーが突っ込んだ。そして陸地に接触する。船が大きく揺れた。観客達は悲鳴をあげたが、それ以上は何も起こらなかった。

 

船は、無事に止まったのだ。

役目を終えたサッカーボールが縮んでいき、その向こうにひび割れてしまった港の姿が見える。

 

ぶつかっていれば己も無事では済まなかっただろうなと、ジャックはコナンを回収しながら考える。そしてふと、思い当たった。この後、どうしよう。もしコナンが己ともやる気であれば、何とかあしらわなければならない。だが杞憂だった。

 

「さっさと帰れよ。警察が来るぞ」

「おや?」

 

ジャックは首を傾げる。

この少年が自分を見逃すなど、明日は雨どころか槍が降るのではないかと疑問を抱く。

 

「本当はめちゃくちゃ嫌だし、今でも何とか捕まえてやりたいと思ってる」

「では何故?」

「何度も命を救われた。オレだけじゃない、歩美ちゃんや、他の子供達もだ。だから今回は、今回だけは見なかった事にする」

 

コナンはそう言うとジャックに背を向けて船員達の具合を確かめ始めた。

 

「お前は、オレが絶対捕まえる。

いつか万人が納得する明確な証拠を突きつけて、牢にぶち込んでやるからな」

「そうですか、楽しみにしています。……では、貴方の心遣いに甘えさせていただきます。さようなら名探偵、また会いましょう」

 

ジャックは足音一つ立てずに去っていった。船員達の傷の手当てを終えて振り返った時にはもう何事もなかったかのようだった。

コナンは小さく息を吐き、パーティー会場へと向かう。パーティー会場では、マフィアの2人が拘束されていた。そして蘭はその側に立っていて、コナンの姿を見つけると

 

「もう、どこに行ってたのよ!心配したんだからね!」

 

と、駆け寄ってきてそう言った。怪我をしてないか調べる彼女を見て安心し、「ごめんなさい」としっかり謝る。

 

そうして更に10分ほどして、警察達がやってきた。

生き残ったマフィア達はまとめて確保され、死体も回収されていく。

 

小五郎がこの船にジャックザリッパーがいるかもしれないと警察に話した為、船内の捜索が行われた。だがジャックザリッパーは、結局見つからなかった。乗員乗客は1人減っていた。さっさと船から脱出していたらしい。

乗っていた民間人に死者や怪我人はなく、ジャックはもういないと判断され、彼らもすぐに解放された。小樽運河に行っていたマフィアの裏切り者2人も確保され、彼らが盗んだ財も無事発見された。

コナン達は事情聴取の為に少しだけ残ったが、それもすぐに終わった。

 

こうして、海の上で起きた真っ赤な惨劇は終幕を迎えたのだった。

 

 

 

 

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