ミラクルシナリオにミラクルをちょっとだけ絡めたお話 作:わさべ。
普通って、1番難しいよね。
ケイエスミラクルが編入してきて、何日か過ぎた頃。
今日は、いまにも雪が降り注ぎそうな程の寒さと曇天。今年1番の寒波到来!?とニュースで大袈裟に騒ぎ立てていた。
…本当にその通りだった。とても寒い。教室に暖房が入っているのに、ひんやりと教室が冷えているような気がする。
(うぅ…今日は辛いラーメンにしよ……寒すぎる……)
…ふと、隣のミラクルちゃんを見る。
顔色がわるい。呼吸もすこし浅いような気がする。
「…ミラクルちゃん、大丈夫……?」
「…う、うん。大丈夫………」
…大丈夫じゃないやつ。……うーん。
「先生ー!!体調が悪そうなので、ミラクルちゃんを保健室に連れてきます。」
「…かなりしんどそうね。ヒシミラクルさん、よろしくお願いします。」
「はーい。」
「…ご、めん。」
「いいよー。お隣さんだし。…授業サボれるし。……よいしょ…っと。」
ミラクルちゃんを背負う。……冷たくて、軽い。
(……これでも、最近は食べれるようになったって、言ってったっけ。)
…平均的なウマ娘の体重とかはわからないけど、それにしても不安になるほど。それに加えて、冷えきっている体温。……こんな体で、走っているの?
「……あったかい。」
「そうでしょ?わたし、昔からあったかいってよく引っ付かれてたんだよ。ウマ娘カイロ、って。」
ふとよぎった心配事をかき消して、わたしは安心させるようにミラクルちゃんにそう言った。
ミラクルちゃんの上から学校指定のコートを被って、体を冷やさないようにしてから教室を出る。
「………。」
相当しんどかった様で、背負われながら寝息を立てていた。
「失礼しまー……?居ない…?」
ノックをしてから保健室に入るが、誰もいない。
ふと机を見ると、少し席を外しますとの表示が。あとから事情を説明すれば良いだろう。…とにかく体を温めてあげないと。
とりあえず、ミラクルちゃんを空いているベットにゆっくりおろす。布団をかけて、備品として備えてある湯たんぽにお湯の準備をする。
ポットから、とくとくと注ぎ込まれる。こぼさないように、溢れさせないように気をつけながら。
湯たんぽから漂うプラスチックの香りが、少しだけ懐かしさを漂わせた。
「……?」
ふと、気がつく。
…静かだ。……寝息のひとつも聞こえない。雪が積もった真夜中みたいに静まりかえっている。
「…ミラクルちゃん?」
……眠っている、と言うよりなんだか止まっている……というか………
────息をしていない、ような。
(いやいや、そんなわけないでしょ。)
ひやりとした変な汗が肌をつたう。
しっかりと湯たんぽの蓋を締めてから、ミラクルちゃんが眠っているベットに運ぶ。
…近づいても、不気味な程に何も聞こえない。
……恐る恐るミラクルちゃんの手首に触れる。
ほんのりと暖かく、とくん、と鼓動を感じる事ができた。
「はぁー……良かったー。」
とにかく、何事もなかった。湯たんぽをミラクルちゃんのお腹の横辺りに置いて改めて布団をかける。正しい処置ではないと思うけどやらないよりはいいだろう。
…暫くはミラクルちゃんの傍に居たほうが良いだろう。…わたしが離れるにしても、先生に事情を話す必要がある……と思うから。
…授業をサボりたい気持ちがない訳では無いこともこっそりと。
保健室の利用履歴の用紙に記入しながら、保健室の先生を待っているとコンコン、とノックの音が響いた。
「失礼いたします。」
「…あ、たづなさん。」
たづなさん。理事長秘書を務めているとってもすごい人。詳しくは知らないけど、事務作業とか夜間の見回りとか幅広く色んな仕事をしているみたい。
…結構人間離れなことをしてるから、実は人じゃないのでは、って噂とかがあったりなかったり。
「先生から連絡をいただきました。ヒシミラクルさん、ケイエスミラクルさんの対応、ありがとうございます。」
「いえ、クラスメイトですし。」
当たり障りのない回答。……我ながらもっといい言葉があったとは思うけどとっさには出てこなかった。
「…ヒシミラクルさん。ケイエスミラクルさんの様子をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
…忙しい人の筈なのに、わざわざ時間を見つけてミラクルちゃんの為に?
「…は、はい。ええっと────」
たづなさんに詳しく説明をする。
その途中で、寝姿があまりにも静かだったことを伝えると。
「…っ、なるほど。」
一瞬、顔を強ばらせた。
「…ありがとうございます。ケイエスミラクルさんの事は私に任せて、ヒシミラクルさんは戻っていただいて────」
(………うーん。)
学園内で、ひとつ噂がある。
たづなさんが気にかけるウマ娘は、体があまり丈夫じゃなかったり、怪我をしやすかったり。
その噂が、たづなさんが表情を強ばらせた時に、脳裏をよぎった。
だから、たづなさんはきっと。
ミラクルちゃんの様態を、知っている。
「…あの、たづなさん。」
「ケイエスミラクルちゃんから聞いたんですけど、ミラクルちゃんって昔は体が弱かったって。」
…聞いたとは言っても、クラスのみんなの前での自己紹介の時だけど。
「…それで、今日ミラクルちゃんのことを少しだけお世話して。……わたしでも、ミラクルちゃんはまともに走れない、って思うぐらいには儚いと言いますか……」
今日、おんぶした時に感じた軽さと冷たさ。まだ体がしっかりできあがっていないように感じた。
「本当に、ミラクルちゃんは大丈夫なんですか……?」
しっかり伝えられたかはわからないけど、たづなさんがうまく汲み取ってくれた。
たづなさんは暫く考え事をした後に。
「きっと、例の噂ですよね。」
少し、困った顔で。何より申し訳なさそうに。
「…どうかこの事は内密にお願いします。…他のウマ娘達を怖がらせたくありませんから。」
…悲しげに、寂しげにそう言った。
(…噂は、本当だったんだ。)
そういえば、たづなさんって面接とかも担当していた。…誰よりも、わたし達のことを知ってくれているのかもしれない。
だからこそ体が弱い子は、見逃しておけないのだろうか。
「…ケイエスミラクルさんの個人情報に触れてしまうので多くは伝えることができません。…体が弱くて、本来入学するタイミングでの入学ができなかった、ぐらいでしょうか。」
…転入してきたのは実力でなぎ倒してきた、とか地方からの殴り込みとか、そんなイメージが強かったけど、そういう場合もあるんだ。
……ん?それでも、中央に転入できるってことはやっぱりミラクルちゃんって、とっても強いんじゃ……?
「…ひとつだけ、ヒシミラクルさんにお願いがあります。」
「────どうか、ケイエスミラクルさんが無理をしないように見守っていてくれませんか。」
「ケイエスミラクルさんは人一倍、想いが強く止まれないウマ娘です。…自分のことを後回しにしてでも、きっと、目標のために進み続けてしまいます。」
「…私や、担当になってくれたトレーナーさんではきっと、止められない。止めることができない。」
「だから、距離が近い学友の方にお願いしたいのです。」
(……………)
…きっと、たづなさんは。
今まで、似たようなウマ娘を見てきたのだろう。体を犠牲にしてまでも、限界を超えてなお走り続けようとするウマ娘達を。
誰よりもウマ娘を思っているからこそ、止めたいのに止められない。止められなかった悲しみを胸に秘めて、わたし達をサポートしてくれている。
(……なら、平凡なわたしにできることを。)
「…任せてください、たづなさん。無理してそうだったら一緒にぐーたらさせちゃって太らせちゃうぐらいには休ませてあげますよ…!!」
ふんす、と胸をはる。その様子を見ていたたづなさんは、くすりと笑った。
「…ありがとうございます。ヒシミラクルさん。」
…いろいろな意味が込められているような、そんな気がした。
「…それと、ごめんなさい。」
そして、謝罪。
「本来なら、生徒の皆さんに負担をかける訳にはいかないのですが……」
…これ以上はやめておきましょう、とたづなさんは首を振って話を中断させた。
「残された方々の気持ち、目の前で起こってしまった惨劇。私はこの目で何度も見てきました。それを阻止できるのなら、私はこれ程嬉しいことはありません。」
本当にありがとうございます、と再度頭を下げて、感謝される。…ここまで心配している、というのはわたしたちにとって幸せなことなのだろう。
「……それに、怪我で走れなくなるのは、何よりも辛いですから。」
……?
「…走れなくなるのが、辛いって……」
「…いえ、なんでもありません。……っと、かなりの時間、引き止めてしまいましたね。」
ふと時計を見るとお昼の時間を示していた。まもなくチャイムがなるだろう。
「こちらをどうぞ、ヒシミラクルさん。」
そう言うとたづなさんは、懐からチケットを取り出した。
「…こ、これって…!!」
「トレセン内ならどこでも使える一食分のチケットです。……美味しいもの食べて、午後からもがんばってくださいね?」
金額の上限なし、トッピングだったり、セットメニューも追加し放題。デザートも一食分の範囲内なら追加OK。
ファン感謝祭だったり、聖蹄祭とかのイベント事で選ばれたウマ娘だけが手に入れることができる、ご飯に目がないウマ娘には喉から手が出る程欲しいもの。
「やった、ありがとうございます…!!」
チャイムが鳴る。……早速、使わせていただこう……!!こういうものは、すぐに使うのが吉…!!大切に持っていると無くしがち…!!
「たづなさん!!ミラクルちゃんのこと、お願いします……!!わたしはお昼を堪能してきます…!!」
まってて!!わたしの!!パーフェクトランチタイム…!!
「ふふ、少しは元気になりましたかね……?元気なのが1番ですね、本当に。」
「…あと、つい言ってしまいましたが、誤魔化せたでしょうか…?」
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