ミラクルシナリオにミラクルをちょっとだけ絡めたお話   作:わさべ。

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お好み焼き

 

おれがここに編入して、学園生活にだいぶ慣れてきた頃。

 

「ね、ケイくん。今日って時間空いてたりする…?」

 

授業もおわって予定もないから、自主練にでも励もうと思っていた時、ふとハートに声をかけられた。

 

「どうしたの、みんな集まって?」

 

声のした方に顔を向けると、ヒシミラクルとビロンギングスとハートリーレター。…いつもおれに関わってくれる騒がしい3人組が。

 

「…ほら、前言ってたさ、今度一緒にご飯食べに行こーって言ってたヤツ。」

 

「たまたまわたしたちの予定が空いてたから、ミラクルちゃんも空いてたらって思ったの。それで空いてたなら折角だし、今日食べにいこうって思いついたんだよ。」

 

どうかな、と少し不安げな表情でヒシミラクルはおれに尋ねてきた。

 

「…うん、大丈夫だよ。行こうか。」

 

それを聞いた3人は嬉しそうで。ほんのちょっぴり、おれも嬉しくなった。…あとでルビーに帰りが遅くなるって伝えておかなきゃ。

 

 

「やっぱり予定立てるの苦手だよね私たち。」

 

立てるだけ立てても結局は自然消滅しがちだよね。と困り顔でつぶやくハート。その場のノリで遊びに行くことが多いようだ。

 

「ところでお店は決まってるの?」

 

突発的に決めているのなら、予約とかそういったものはできていない。そう思って聞くと。

 

ハートは胸を張って。

 

「…よくぞ聞いてくれましたケイくん……!!今日向かうお店は────」

 

 

 

 

日が落ちてきて、茜色に染まる。どこか寂しげに感じるけど、ここの商店街はそんなことは気にせずいつも賑わっている。

 

どこからか漂ってくる食べ物の香りがさらに食欲をそそらせる。…この後がよけいに楽しみになってしまう。

 

時々吹く冷たい風に体を震わせながら、目的地に向かう。

 

…連れてこられたのは商店街の路地にあるこじんまりとしたお好み焼き屋さん。…看板はどこか古ぼけていて、色あせたのれんには油の匂いが染み付いている。

 

扉の向こうから差し込む光は暖かげでどこか懐かしさを感じる、優しい空間。

 

(…いいな。こういう所。)

 

そう思いながら、お店の中に入っていった。

 

 

 

 

「こんばんは〜。」

 

…常連。ヒシミラクルからそんな雰囲気を感じとれた。

 

「おう、ミラ子ちゃん。よく来たね。……っと、今日もいつものお友達…と新しい子だな?」

 

「店長さん、お邪魔します。そうなんです。この子にここのを味あわせてあげたくて。」

 

「…それはうちの味のことかい?それとも、ミラ子ちゃんの腕前の方かい?」

 

「ふふー、どっちもですよ〜。」

 

「悔しいけど、ミラ子ちゃんの焼く腕前はおじさんでも舌打ちするぐらい上手だからな……」

 

うわー、舌打ちなんてガラが悪いですよー。と気軽な掛け合い。

 

(…愛されてるなぁ。)

 

そう感じれるほど、和やかな雰囲気に包まれていた。

 

 

ふと、店長さんと目が合う。

 

「…初めまして。ケイエスミラクルって言います。」

 

「おう、嬢ちゃんもミラクルちゃんか…!!今日はゆっくりしてくれよ。」

 

…立派な髭とお腹を蓄えて、優しく出迎えてくれた。

 

 

「今日もいつものでいいかい?」

 

「うん、それを4人前で。」

 

「まかせときな…!!」

 

 

 

「嬢ちゃん、こいつはサービスだ。これからもよろしくな!!」

 

そう言って、おれの目の前にどさりと盛られる追加トッピング。海鮮類が多く盛られている。

 

「おー、わたしが特別な日にしか頼まないやつ…!!」

 

「うおー!!見た目通りのふとっぱら!!伊達男!!」

 

やかましい!!とどこか嬉しそうに店長さんは応えて厨房に戻っていった。…親戚の家に遊びに来ているような感覚で、居心地がよかった。

 

 

 

 

 

「それじゃ、ミラ子パイセン。よろしくお願いします…!!」

 

「しまァす!!」

 

「ふふふ!!まかせなさーい!!」

 

鉄板が温まって、熱を感じ始めたころに油を広く、薄くヘラで伸ばしながらお好み焼きを焼く準備をするヒシミラクル。

 

腕をまくっている姿は、どこか張り切る父親のようで。

 

…それにしても、あきらかに手慣れている。

 

(…店長さんが舌打ちをしてしまうほど上手。)

 

「ねぇ、ハートにビロ。ヒシミラクルの作るお好み焼きってそんなに凄いの……?」

 

さっきのヒシミラクルと店長さんの会話を思いだして、思わず尋ねる。

 

「本当に凄いんだよケイくん、ただ混ぜて焼くだけなのにミラ子がやるとなんか数ランク上のモノになるって言うか……!!」

 

だらり、と垂れそうになる涎を堪えながら、うえへへえぇ…とよくわからない鳴き声を放つハート。…彼女の体が溶けていくような幻覚が見える。

 

「…正直私、ミラ子が焼いたお好み焼きしかもう食べれない体になってるから困ってる。絶対に責任は取ってもらうからね…!!」

 

「責任、ってなに〜?……別に焼いて欲しかったらいつでも焼いてあげるよ?」

 

「…悪魔の誘惑っ!!私の気持ちも知らないでこのー!!!!一時期ミラ子のせいですっごく太ったんだから…!!」

 

そう軽口を叩くビロは、どこか嬉しそうだった。

 

 

 

「…うん、いい感じ。」

 

じゅう。

 

いつの間にか鉄板に流し込まれた4つのお好み焼きが音を奏でる。…ただ焼いているだけのはずなのに、何故か目線を反らせない。

 

焼ける生地の香りが、更に食欲をそそる。

 

「この待ち時間がもどかしいっ……」

 

「…お腹すいた!!」

 

「慌てない慌てない…。ここで生地を触っちゃうのはシロートのやること。じっくり待つのがセミプロ流…!!」

 

一度落ち着いて飲み物を飲み始めるヒシミラクル。どっしりと構える姿がなんとも頼もしい。

 

待ちきれなさでソワソワする2人をなだめながら、時間が過ぎていく。……跳ねる油のいい香りが漂う。

 

 

 

「…っと、もーそろそろかな。」

 

段々と生地に火が通り、形が整う。生地の端はまとまって、身が崩れることはなさそうだ。

 

ヒシミラクルは下面の焼き色を確認することなく、ヘラを2つ持ち、お好み焼きの下に滑り込ませる。

 

 

…そして、一番の見せ所。

 

「…ふっ。」

 

綺麗に宙を舞うお好み焼き。身が崩れることも無く、見事な着地を披露する。

 

「…すごい。」

 

思わず、拍手をしてしまった。

 

焼き色も申し分ない。誰が見ても完璧なお好み焼きと言えるだろう。……そのまま、残りのお好み焼きも見事な手際でひっくり返していった。

 

「いや〜、やっぱり緊張するな〜…うまくいってよかった…!!」

 

ここまでカッコつけて失敗しなくてよかったー!!と少し恥ずかしげに顔をかいてから、安心そうな表情を浮かべる。

 

「…でも、まだ、完成じゃないっ!!まだー?早く焼けて!!」

 

「ソースで食うもよし……醤油で食うもよし……あぁ、よだれが……!!」

 

「あと、うーん……この感じだと6分ぐらいかな。触らず、待つべし。」

 

肉奉行、じゃなくてお好み焼き奉行のヒシミラクルが言うのであれば間違いないのだろう。

 

ただ、その6分間がいつもより長く感じたの気のせいじゃない。とても待ち遠しい。

 

「うあー…」

 

「………!!!!」

 

「…えっ、ゾンビか何かになってる……?」

 

ハートとビロは、それ以上ゆっくりに感じているようで。

 

「いつもの事。お好み焼きが焼けたら元通りになるから。」

 

 

 

そうして、長い6分間を過ごして。

 

ヒシミラクルが焼き上がりを確認したあと、ソースをマヨネーズを青のりを鰹節を。

 

ホールケーキのデコレーションをするみたいに、鮮やかに、それでいて丁寧に飾り付けられていく。

 

 

 

そして、ようやく。

 

「よーし、完成!!」

 

ソースの色艶。覆い被さるようにまみれるマヨネーズ。彩りが鮮やかになる青のり。踊る鰹節。

 

ヒシミラクル特性のお好み焼きが完成した。

 

 

 

「待ってましたァ!!」

 

「いただきます…!!」

 

 

網目状に切り分けられたお好み焼きをいくつか皿に盛って、ふたりは同時に口に放り込んだ。

 

 

 

「んーーーー!!ふぁいっふぉう!!」

 

「うますぎ。バカになっちゃう。」

 

 

 

「ひれ伏せひれ伏せ〜、頭がたかーい!!」

 

姿勢を正してははーっ、と五体投地でヒシミラクルに感謝を示してるふたり。…少し大袈裟に思いつつも、それほどまでに美味しい。ということが伝わってくる。

 

 

「ケイくんも食べてみなよ……」

 

「こっちの世界においで……!!」

 

 

そうふたりに急かされる。

 

鉄板から一切れすくい上げて、手元の取り皿に乗せる。漂うソースの香り、青のりの香り、鰹節の香り。くるる、とお腹の音が鳴る。唾液が喉を鳴らす。

 

…いつもより多く食べれそうな気がする。

 

「っ、いただきます。」

 

…思わず自制が効かなくなって、いつもなら少しづつ切り分けて食べるはずだったモノを思わずかぶりついて味わってしまった。

 

ゴロゴロと大きめに切られた具材、エビとイカとホタテの肉厚な食感。

 

それに加えて外はカリカリ、中はふわふわ。出汁の味も効いていて、ソースがなくても問題ない。

 

そうは言っても、お好み焼きにかかっているソース、マヨネーズ、青のりに鰹節。その全てが黄金比率。そう感じとれるほど完璧だった。

 

 

「あ、あふ……あふ……」

 

…口いっぱいに頬張って、冷ますスペースがない。

 

鉄板からよそってすぐのお好み焼き。勿論冷まっているはずもなく。少しだけヒリヒリする感覚が残る。

 

ただ、それを差し引いても。

 

 

「…っ、美味しい…!!本当に美味しいよ……!!ヒシミラクル!!」

 

 

信じられないほどに美味しかった。

 

 

「セミプロを名乗らせていただいているだけあるでしょ?わたし。」

 

「セミプロじゃないよ。一流シェフだよ……ホントに許せない…これじゃなきゃ満足できない…」

 

悔しい、悔しい、と言いながら湯気がたつお好み焼きを黙々と口に運んでいく。……熱そうに頬張る様子もなく、熱い食べ物が得意のようだ。

 

「ふぉんふぉにおいひーよね……ふぁふい!!」

 

「せめて口の中のモノが無くなってからにしなよハートちゃん……ん、今日も完璧…!!うま……!!」

 

 

 

 

 

そんな美味しいお好み焼きを黙々と食べつつける。

 

それぞれがお好み焼きの味を堪能するために自分の世界に入ってしまって、おおよそ学生が友達と食事をしているような騒がしさは一切なかった。

 

幸せが口いっぱいに広がる時間を暫く過ごして。

 

 

「ごちそうさまでした。……ふぅ。」

 

いつの間にか、食べきっている自分がいた。

 

…少し欲張ってしまった。お腹がいっぱいで動けそうにもない。

 

それでも、この量のお好み焼きをペロリと平らげてしまったのだから、本当に美味しかったのだろう。

 

(おれ、こんなにも食べて、お腹がはち切れそうなのに。苦しくて仕方がないのに。)

 

───幸せでいっぱいだった。

 

───昔じゃ考えられなかった。

 

思い出すのはおれが幼い頃に両親がつくってくれたバナナムース。

 

おれの為に作ってくれたいっぱいのバナナムース。その気持ちを無駄にしたくなくて、頑張って食べて。

 

とても美味しかったけど。全部食べたけど。食べきれなくて、戻した。

 

だから、少しだけ食事は苦手だった。せっかくの想いを無駄にしてしまうから。おれが元気だったら、想いを全部受け止めれたはずだったから。

 

 

(…ありがとう、皆。)

 

 

友達に誘われて、美味しいご飯を振舞ってもらえて。

 

きっと、昔のおれなら無理をして周りに心配をかけたかもしれない。

 

でも今は、この体のおかげで幸せを噛み締めることができる。

 

皆と出会えたこと、学園生活を送れていること、美味しくご飯を食べていること。

 

他の子にとっては当たり前のこと。それを感じることができる。そんな奇跡を。

 

 

 

皆に返さなきゃ。

 

 

 

 






閲覧、感想、お気に入り登録、評価、誤字報告等ありがとうございます…!!全て目を通しておりますとも…!!

目に見えて数値が増えるのは良いですね…モチベが高まります。感想送り付けて!!!!(強欲)

まだ何話かストックは残っているのですが、ストーリーの根幹部分のお話のみなので、日常パートのストックが微塵もありませぇん!!毎日投稿は期待しないでね…(震え声)

日常パートいっぱい書きたい…!!でも、中身が……!!

多分エタりそうになったら、ストーリーの部分までざっくり日付飛ばして素早くお話を畳むことになりそうです。ゆるして…ゆるして……


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