私は魔眼の勇者またの名をただの女の子という 作:✛パグだフル✛
ぐつぐつと『辛ぃ』の煮込まれる匂いに鼻が擽られる。
現在はお爺さんが天空鮫のフカヒレで『辛ぃ』を作ってくれている。
私も少しだけお手伝いをした。野菜を切ったり、天空鮫の解体をしたりとか。
因みにフィーデちゃんはこの間に千年樹の実を取りに行ってくれた。
どこまで有能なんだフィーデちゃん。
「それにしても、お主のツレはとんでもない狩人のようだな。」
「……ね」
「おぬしも強いのか?」
お爺さんの質問に言葉が詰まる。
強いか、弱いかで言えば、世間の評価として私は決して弱くはない。
……けど、私はその力を使いこなせていないし剣や魔法もからっきし、プグナに居た頃に剣と魔法の才能は無いと言われてしまっている。
だから、私は強くない。
「……戦闘は不向き」
「そうか……前も天空鮫を倒したと言っていたが、その時のパーティーメンバーも強かったのだな。よき仲間に出会えるのは良い事じゃ」
「……うん、でも何時も助けられてばかりだった。私は皆を見上げてばかりだった。隣に立てたことなんてなかったよ」
時々、皆の隣に相応しいのかと悩むこともあった。
私も役に立てるようにご飯を作ったり、荷物持ちをしたり、神の光で回復したりとかサポートはしてたけど、それって結局は誰でも出来ることで私が本当に必要だったことなんて一度もなかった。
「大丈夫じゃ、お主もいずれはその者たちの隣に立てるようになるだろう」
「……そうか、な」
「ああ、そうじゃ、お主も羽ばたけるはずじゃ。先ほどフィーデが竜巻を使え無くても空を飛べると証明したじゃろう?方法は一つじゃない。」
「……そっか、確かに方法は一つじゃないよね」
「ああ、お主も空を飛べるはずじゃ。何だったら儂の知り合いにジェットパックなる空を飛ぶ道具を研究している友人がいるから紹介してやろうか?」
「……まって?」
あれ⁉空を飛ぶ、羽ばたけるって言ってたけどそれって比喩表現だよね?
戦闘では役に立たなくても他の方法で必要とされる方法だってあるから思い詰めずに色んな道を探して行けよってことだよね?そう言う話をしてたんだよね?
別に本当に空が飛べなくて悩んでるって思われてないよね?
「……あの、今の話って……」
「うん?お主が空を自由に飛びたいというからその方法を持ってそうな人間を紹介しようという話だろう?」
違うよ‼
別に空を自由に飛びたいなんて言ってないよ!
確かに多少憧れる部分はあるけど、別にそんな深刻な顔をして言うことじゃないよ!
ま、まぁ、私基本表情筋が死んでて表情が変わることが稀なんですけど。
「ふむ、では一体どういう主旨の話だったんじゃ?」
「……だから、皆の役に立ちたいというか、必要とされる存在になりたいというか、私だけ何時も足手纏いだったっていう話……」
「おぬしと仲間たちはどのくらいの期間旅をしてどういった別れ方をしたんじゃ?」
「……え?えっと、10か月くらいで、別れ方は目的を達成したから、そのまま流れでって感じ?」
「ならば、少なくとも、お前は必要とされていたと思うぞ?」
その言葉に私はムッとしてしまう。
旅の内容を話したわけでは無く、旅した期間と旅の終わり方だけで一体何が分かるっていうの?
私達の旅を見た訳でもないのに。
「私の何が分かるの?と言う顔をしておるぞ?アリア」
「……だったら、なに?」
「言っておくがな、お前が思う程人間っていうのは優しくない。自分の中で不要だと感じた人間からは自然と距離を置こうとする。人と付き合えば多かれ少なかれ、体力を使う上、不平不満も生まれるからな。余計な負担なんてのは誰も背負いたくない。
勿論意識的に距離を置くか無意識的に距離を置くのかはその人次第だがな。
まぁ、だからこそ、お前を旅の終わりまで隣に置ていくれたのならお前は必要とされていたんじゃよ。
それが、性格によるものか、能力によるものか、それとも将来性を見込まれたのかは儂には分からんがな。」
理由は分からないけど、この言葉には凄い説得力があった。
でも、それを100%信じられない捻くれた自分もいて、曖昧で素っ気ない返答をしていしまう。
「……ふ~ん、っそ」
「ぶわっははは、儂の考えは気に入らんかったかの?これでも、長年『辛ぃ屋』を営んできておったから、人を見る目には自信があるのじゃぞ?」
「…………………………気に入らなかったわけじゃない。その、ありがと」
「そうだよ。アリアにはいつも助けられてるよ。」
私が『辛ぃ屋の』お爺さんに感謝を伝えるのと同時、いつの間にか戻って来ていたフィーデちゃんが話に入ってくる。
いつ戻って来たの⁉
心臓飛び出るかと思った。
「アリアが自分のことを足手纏いだって嘆いていた所かな?」
心の声が漏れてた。
っていうかそれって重要な所全部聞いてたんじゃん。
「ふぉふぉふぉふぉ。取り敢えずはこの『フカヒレ辛ぃ』に『うどぅん』を入れて食べるとしよう」
もう、それどころじゃないよ。
恥ずかしい、フィーデちゃんに自分の弱い部分を晒してしまった。
こんな暗い話したくないのに、フィーデちゃんと微妙な空気になったらどうしよう。
とか、思いつつもお腹は空くものでして凄い勢いで『辛ぃうどぅん』を啜ってました。
はい、めっちゃくちゃ美味しい!
「ふむ、これでは、ないな」
お爺さんは首を左右に振る。
もしかして、昔食べた『辛ぃうどぅん』と比べているのだろうか?
でも、十分美味しいけどなぁ
「……これも十分美味しい」
「アリア、そう言ってくれるのは嬉しいのじゃがなぁ。儂は『辛ぃうどぅん』を完成させなくてはいかんのじゃ。」
「どうしてそこまで『辛ぃうどぅん』にこだわるの?アリアが言っていたようにこれも十分美味しいと思う。別に本来の『辛ぃうどぅん』に固執しなくても良いんじゃない?」
フィーデちゃんが言う様に既存の『辛ぃうどぅん』に囚われる必要もない気がするな。
この『辛ぃうどぅん』もとっても美味しいし、お爺さんにとっての『辛ぃうどぅん』を模索していけば良いんじゃないかなって思う。でも、それは私が料理人じゃないからなのかな。
「……『辛ぃうどぅん』を再現するのがあなたの夢?」
「そうじゃな、それもあるじゃろう。儂も料理人の端くれ、幻を現実にしたいと思ったこともある。だがなぁ、今となっては夢よりも約束、じゃな」
「約束?」
「うむ、昔ばあさんにな。この『辛ぃうどぅん』をまた食わせてやる俺の手でな、なんてことを言ってしもうたんじゃ」
ばあさん。その言葉を聞き、私は何故かお爺さんが切り盛りしているお店について思い出していた。
私達が入店した時お爺さんは凄い速さで仕事を回していた。でも、それは凄い速さで仕事を回さないと回らないってことであり、凄い速さで仕事を回しても仕事が終わらないくらい繁盛してたってことだ。
そんな忙しいお店を従業員一人雇わずに高齢のお爺さんが切り盛りするなんてかなり体に無茶をさせている筈だ。
それでも一人でお店を営んでいるのって、もしかしておばあさんとの
…………いや、これ以上の詮索はよそう。
私はただ、『辛ぃうどぅん』を完成させるお手伝いをするのみ!
「……『辛ぃうどぅん』絶対完成させよう」
「うむ、そうじゃな。」
「お~」
☆☆☆
私たちの次なるターゲットは要塞仙人掌の茎だ。
そのため、要塞仙人掌が生えている地域へと移動した。
「良いか?要塞仙人掌の能力は主に四つ、一つは棘を飛ばす範囲攻撃、二つ目は飛ばした棘から自分を守る眷属を生み出す能力、三つめは光合成で生成した魔力を魔力弾、いや魔力砲として飛ばす能力、そして四つ目は自らで生み出した粘液を操り攻撃してくる。この粘液には触れた物質から水分を吸い取り、本体に送る効果がある。絶対に捕まらないように。」
私達は要塞仙人掌が見える位置且つ向こうの攻撃が届かない位置でお爺さんの説明を受けていた。
因みに要塞仙人掌は何というかデカい仙人掌何だけど顔、のようなものがついていた。
口を開けてる埴輪みたい感じの奴。
実際にはあそこから栄養を摂取することもないし、視覚がある訳でもないらしい。
では一体あれは何なんだという疑問が生まれたが、お爺さん曰く、強大なモンスターが襲ってこないようにするために自らをモンスターに擬態させているらしい。
そう言えば虫でもそう言う擬態をするのがあったな。
確か、ベイル型擬態だったかな?
詳しくは覚えていないけど、そんな名前だった気がする。
成程、要塞仙人掌も苦労しているんだね。
私が仙人掌に労いの視線を向けているとお爺さんがフィーデちゃんに問いを投げかける。
「どうじゃ、フィーデ勝てそうか?」
この中で戦闘が出来るのはフィーデちゃんだけだから、フィーデちゃんの考えを聞く必要がある。場合によっては撤退して準備を整えないとだね。
しかし、フィーデちゃんは自信満々に頷いた。
「うん、大丈夫」
良かった。ならフィーデちゃんに任せれば安心だ。
「アリアがいれば。」
え⁉ちょっとまってフィーデちゃん私戦えないけど?腕掴まないで!いや、いやだ、死にたくない!
そう思っていたんだけど、フィーデちゃんが全速力で走るから抵抗すら出来ずに引きずられ敵のど真ん中まで連れていかれた。
要塞仙人掌は牽制とばかりに全方位に針を飛ばしてくる。
完全に終わった。
当たり前だが私に避ける術はなく、命の危機によりスローになった世界で針が飛んでくるのを見ているしかない。
しかしどうやら、私の中にいる精霊はそうでは無かったのか、私たちに飛んで来た針は炎に焼かれ、跡形もなくなる。
しかし、要塞仙人掌の猛攻は止まらない。地面に突き刺さっている針に肉が付き、緑の埴輪のようなモンスターが生まれる。
そいつらはコミカルな二足歩行でこちらに迫る。
手はとげとげで殴られたら痛いじゃすまない。
こっちに来ないで!
そう思ったのも束の間そいつらはフィーデちゃんの槍で一掃された。
次に仙人掌は魔力砲を放ってきたけど、フィーデちゃんの槍で撃ち返され、逆に被弾してしまう。
それでも不屈の精神を持つ要塞仙人掌は止まらない。最後の切り札である粘液の触手をこちらに飛ばしてくる。
これは一体どうやって凌ぐつもり、私はフィーデちゃんの方を向く。
しかし、フィーデちゃんが動く様子はない。
動く必要が無かった。何故なら粘液に再度視線を向ければ、粘液は水の塊に覆われていたからだ。
粘液から本体に水が送られていく。しかし水嵩は一向に減らない。そうして、いつの間にか仙人掌はパンパンに膨らみ、破裂した。
そう、許容量を超えたのか、頭?の部分が吹っ飛び動かなくなってしまったのだ。
あの、目みたいな場所から水分漏れてない?
ちょっと怖いよ!でもフィーデちゃんはあんまり気にしていないみたい。
「やったね。アリア」
「……そうだね」
仙人掌さん、何だかちょっと可哀そうだったな。
せめて美味しく食べさせていただきます。
☆☆☆
「うむ、仙人掌を倒してくれたな。二人とも。倒し方は少々…………うむ!良く倒してくれたな二人とも」
なんだい?何を言い淀んだんだい。分かってるよ!あの倒し方はちょっと可哀そうだったなって思ってるよ!
私だって内側から破裂したくはないもん。仙人掌さんだってそうだって思うよ。でも仕方が無かったんだ。
私は無力だ。
「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃ」
っ‼幻聴?何か痛いって叫ぶ声が聞こえてくるんだけど⁉
私は恐る恐る音の発生源に目を向ける。
発生源はお爺さんの方。もっと言えばお爺さんが煮込んでいる鍋の中。更に言えば仙人掌……仙人掌⁉要塞仙人掌の茎に顔がついてこっち見てるんだけど!
呪われてる?呪われてるの⁉
「ん?どうしたアリア。そんなにこちらを見て?っとそうか、仙人掌が気になるのか。安心せいこれは種を存続させるために仙人掌が身に着けた進化、生理現象と一緒じゃ」
お爺さんはそう言うとお玉で仙人掌の顔?を潰す。
いや、躊躇ないな⁉
あの触れたら呪われそうな仙人掌の顔を躊躇なく潰したんだけど⁉
しかも、潰した破片達に顔が出来て、「「「「「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃ」」」」」って叫んでるんですけど、さっきよりもうるさい!仙人掌の悲鳴5重奏だよ。
そんな悲鳴が聞こえる中、アリアが私の方を叩く。
「全部アリアのお陰だよ?ありがとう」
やめて、悪意が無いのは分かってるけど、今それを言って欲しくは無かった。
だって、私があの残虐なを倒し方を選んだみたいじゃん。私だけが恨まれそうじゃん。
実際間違ってはいなけど。
二人で半分個にしようよ!
喜びも悲しみも恨みも!
……いや、良くないよね。私が背負わないとだよね。
仙人掌さん、ゴメンね。そして頂きます。
「出来たぞ?『仙人掌辛ぃうどぅん』じゃ。」
そんなやり取りをしているとお爺さんが『辛ぃ』を持って来てくれる。
もうできたんだ。早い。
相変わらず、顔がついてて「ぃぃぃぃぃぃぃぃぃたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぃぃぃ」って叫んでるけど、眼のくぼみから『辛ぃ』を垂れ流しながらジッとこっちを見つめてるけど。
いただきます。私は恐る恐る仙人掌を口に運ぶ。
瞬間爽やかな風味が口の中一杯に広がる。
あのおどろおどろしい感じから一転した美味しさに私は目を白黒させてしまう。
何というか、蜂蜜レモンにミントをいれた味って言うのが一番近い感じがする。
見た目は緑色してるけど、青臭さとかは無いし、フルーツって感じだ。
「おお、これは中々いけるのぉ」
「……うん、おいしい」
「これは他の魔物に襲われるのを防ぐために断末魔をあげるのも納得だね」
そう言えば妙薬として知られているマンドラゴラも引き抜くと相手を湿疹させる程の呪いの鳴き声を上げるんだったか。
成程、要塞仙人掌もその系譜なんだね。
改めて、ありがとう要塞仙人掌さん。
美味しくいただきました。
※仙人掌の触手を覆った水はアリアの中にいる大精霊が出したものです。