私は魔眼の勇者またの名をただの女の子という   作:✛パグだフル✛

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寄り添おうとしていなかっただけだった

☆☆☆

 

宿主の子供を説得した私たちは止まっている宿の食堂で軽食を食べながら明日の砂漠竜との戦いの作戦会議をしていた。

 

「あの子供に砂漠竜は儂らが倒すと言ってしまった手前失敗しておめおめ逃げる、というのは避けたいのぉ。まぁ元々倒す予定じゃったが」

「うん、大丈夫私とアリアで倒すから」

 

え?ちょっと待って?私も戦いに参加するの?

いやいやいや、無理だから!

私なんて魔眼とかいう自分には扱いきれない武器を背負っているだけの只の女の子だから戦うなんてできないよ!

 

…………いや、でも自分には扱いきれない武器を持っているって確かにちょっと強そうかも?もしかして私傍からみたらカッコいいのでは?

 

「要塞仙人掌の時も盗賊が現れた時もアリアは力を使ってたから、戦えるんじゃない?」

 

え?え、そうか、そうだったのか………でも使い方も良く分からないからなぁ。

そもそも、使った感覚みたいなのもないし、私目線だと何時も運よく助かってるだけなんだよなぁ。

私は何といえばいいか分からず口をもごもごさせる。

それで何か察したのかフィーデちゃんは一度目を伏せる。

 

「勿論、無理はさせられない。本当に無理だと思うならお爺さんと一緒に待ってて。」

 

うん……申し訳ないけど、無理だよ、そう言えれば良かったのに、っていうかそう言えばいいのに。

 

「……力になれるか分からない。それでもいいならついて行く」

 

見栄を張ってしまった。

 

私を何を言っているんだ……。

魔眼の力で奇跡的に今も生きてるだけの偽物の勇者の癖に、他の勇者と違って覚悟も血の滲むような努力の積み重ねもなく後ろで隠れてるだけの癖して。

 

行ったって足手纏いにしかならないかもしれない。

ピンチになっても魔眼が発動しないで死んじゃうかもしれない。

 

 

………でも、何となくフィーデちゃんを一人にしたくなかった。

危なくても怖くても………いや、危なくて怖い場所だからフィーデちゃんを一人で行かせたくなかった。

 

「……アリア、ほんとに大丈夫?」

「……余裕」

「お主震えておるぞ?」

 

じっちゃん、これは武者震いだよ。

 

…………ホントだよ?

 

☆☆☆

 

作戦会議から一日が経った。

昨日の内に準備は終えてるためリュックを背負い、宿の食堂へと向かう。

朝ご飯を食べたら砂漠竜の討伐に出発だ。

 

そう思っていたのだが、食堂へ向かう途中、只ならぬ雰囲気の店主さんに捕まってしまった。

一体何があったのだろうか?

 

私達は取り敢えず食堂へと通され、食事を出してもらったのだが、その席に店主も腰を掛けた。

 

「ふむ、一体どうされましたか?店主殿」

 

私とフィーデちゃんが店主さんになんと声を掛けようかと悩んでいた所でお爺さんが口火を切った。

 

お爺さんの言葉に店主は俯き、膝の上に作っていた握りこぶしをより固く握りしめる。

 

「実はお客さんが起きてくる少し前にトーマス……息子が私に助けを求めたのです。何でも近所に住む息子の友人であるトォ君が砂漠竜を倒すと街を出て行ってしまった、とそして、その話を私が市長に報告しに行っている間に息子も…………トーマスもいなくなってしまったのです‼市長はこの街に常駐している腕利きの狩人に声をかけて下さっています。ただ‼狩人の方々が準備をしている間にトーマスが!トーマスが食べられてしまったらどうしようと気が気でなくて…………あなた方には関係の無い話だとは分かっています。

それでも砂漠竜を倒すと言ったあなた方しか頼る宛が無いのです。どうか…トーマスを助けて下さらないでしょうか

 

私に出来ることであれば何でもします。」

 

…どうやら、ご飯を食べている場合じゃなくなったみたいだ。

私とフィーデちゃんは顔を合わせるとどちらからともなく頷き、私たちは砂鰐のいる鰐小屋へと向かった。

 

「アリア、砂鰐の直乗りは出来る。」

「うん一応」

 

これでも、子供の頃は勇者候補として鍛えられて大人になってからは実際に勇者として旅をしていた身。

旅に必要な技能は一通り身に着けている。

 

私達は砂鰐の背中に直接乗り、砂鰐がばてないギリギリの速度を維持しながら先を急ぐのだった。

 

☆☆☆

 

俺は街の外に広がる砂漠の海を只管走っていた。

追いかけていた。ずっと先を走る友達を。

 

ことの発端は今日の早朝、熱が下がったトォちゃんが俺に会いに来たことだった。

初め、俺は熱が下がったから一緒に遊ぼうと誘いに来たのだと思った。

 

でも違った。

何時もの遊び場所に着いた所でトォちゃんは俺の肩を掴みこういったのだ。

 

「なぁ、俺らで砂漠竜を倒そう!俺らが英雄になるんだ!」

 

少し前の俺だったら何も考えずにトォちゃんの誘いに乗っていただろう。

でも、昨日姉ちゃんとの会話を通して何だか俺らが砂漠竜を倒すのは違うんじゃないかと思ったんだ。

いや砂漠竜を倒すのがっていうか、何だろう…言葉にすると難しいんだけど、何かが違うって思ったんだ。

俺らが倒したとしても英雄なんかになれないっていうか…やっぱり言葉に出来ないや。

 

だから、俺はトォちゃんの誘いを断った。

そんで遊びに誘った。折角だし熱が下がったんだから一緒に勇者ごっこしようって、でも…………

 

「俺はごっこ遊びじゃなくて本物の英雄になるんだ‼」

 

そう言ってトォちゃんは走り出してしまった。

俺も咄嗟に追いかけたけど、俺よりもトォちゃんの方が足が速い。

結局トォちゃんを止めることは出来ずに俺はトォちゃんが街を出ていくのを只見ていることしか出来なかった。

 

俺はその後直ぐに父さんに助けを求めた。

すると、父さんは一瞬取り乱した後に直ぐに市長に伝えてくると言って出て行った。

 

その時、俺を安心させるためか

 

「教えてくれてありがとなトーマス。きっと市長が腕利きの狩人たちの協力を仰いでくれるから大丈夫だ。」

 

と言った。

 

でも、俺は知っている。

狩人のおっちゃんたちは一つの依頼を達成するためにかなりしっかり準備をしてから行く。

多分今回もそうするのだろう。

…………その間にトォちゃんが死んでしまうかもしれない。

俺は怖くなった。

俺のせいでトォちゃんが死んでしまうんじゃないかと気が気じゃなかった。

 

断る時もっと別の言い方が出来たんじゃないか。

走って追いかけるだけじゃなく大声を出せば大人たちが起きてきてトォちゃんを止めてくれたんじゃないか。

 

もっと上手くやれば、と何度も後悔してしまう。

そして、この後悔はトォちゃんと会えなくなれば一生消えないような気がした。

 

俺はいつの間にか走っていた。

トォちゃんがいなくなった方に向かって一心不乱に走っていた。

砂漠に遮蔽物はない。

今日は幸い風も強くなくて先を見通せる。

俺は走って走って走り続けた。

すると、先に小さな人影が見えた。間違いないトォちゃんだ。俺は更に速度を上げてトォちゃんの下へと歩みを進める。

幸いトォちゃんは歩いているため距離はどんどんと近づき、トォちゃんとの距離が二メートルを切った所でトォちゃんは俺に……というよりも後ろから近づいてくる気配に気が付き振り向く。

 

「えっ⁉トーマス⁉何でここに?」

 

俺の存在に気が付いたトォちゃんは目を大きく見開き、声をかけてくる。それに対し、俺は息を整えながらも答える。

 

「はぁ…トォちゃんを……はぁはぁ…………追っかけて来たんだよ。ねぇ帰ろうよ」

 

俺のその言葉にトォちゃんはムッとした表情を浮かべるとそっぽを向く。

そして、歩き出してしまう。

 

「俺は砂漠竜を倒して英雄になるんだ!」

 

後ろを振り向かずにトォちゃんは大きな声でそう言い切った。

しかし、トォちゃんには悪いがそもそも子供の足で砂漠竜がいる場所まで行くのは不可能だ。

俺も昨日姉ちゃんと話した後父さんからそう教わったのだ。

それよりも、小型の魔物に食われる方が先だと。

 

そして、その予想は現実のものとなり俺たちに襲い掛かる。

大人位の大きさの砂魚が俺たちの前に現れたのだ。

 

そいつは俺達を見ると飛び掛かって来た。

戦闘訓練を受けていない俺たちはそれに反応することが出来なかった。

それでも、魚が飛び掛かってくる姿だけはハッキリとスローモーションで見えていた。

 

ああ、ここで死ぬんだな、そう諦めた瞬間…………そいつは現れた。

 

 

船よりも巨大で雄々しい姿。

さっきの砂魚に似ていながらも魚ではなく竜だと思わせるだけの濃密な魔力。

 

魔法の訓練などしていなくても感じ取れる特大の神秘の塊が砂の中から突如として現れ、それと比べれば稚魚に等しい砂魚を丸のみにした。

 

俺達はそいつの名を知っている。

 

「……砂漠竜」

 

俺は無意識の内にその名を口に出していた。

見上げるしかない巨躯、いや、見上げても全貌が見えない程の巨体。

 

………いや、それも違った。

何故なら見上げても全貌が見えないのは俺が恐怖の余り尻もちをついていたのにも理由があるのだから。

 

俺は無意識の内にトォちゃんに視線を向ける。

 

しかし、当のトォちゃんはそのことに気が付いていない。

俺のように尻もちはついていないが、余りの大きさに呆然と立ち尽くしている。

 

ただ、流石はトォちゃん直ぐに我を取り戻し、砂漠竜にナイフ……いや果物包丁を向ける。

 

「おい!砂漠竜!俺がお前を倒す男トォだ!」

 

トォちゃんが大声で名乗りを上げるとそこで初めて俺たちの存在に気が付いたのか砂漠竜が俺たちをその鋭い眼光で射抜く。

 

そして、次の瞬間、砂漠竜の胴体部が赤く光りだす。

これは砂漠竜の代名詞熱砂のブレスだ。

 

子供でも知っている超火力ブレス。

場合によっては町を亡ぼす一撃が無力な子供へと向けられる。

 

今度こそ……終わり、か。

俺は目を瞑る。砂漠竜のお陰で少しだけほんの少しだけ長生き出来たことに感謝すべきなんだろう。

 

だが、何時まで経ってもブレスが飛んでくることは無かった。

それどころか…………

 

ドンッ

 

大砲でも飛んで来たのかという程の轟音に目を開ける。

すると、俺とトォちゃんを庇うように昨日の姉ちゃんたちが立っていた。

 

☆☆☆

 

何とか間に合った。

ほんとにギリギリだった。

ブレスの準備してたよ?砂漠竜。

フィーデちゃんの槍投げのお陰で撃たれる前に防げたけど。

ただ、フィーデちゃんの投擲を受けた筈の砂漠竜は未だに戦意を失っていない。

 

天空鮫を一撃で倒した威力の筈なんだけど………。

 

取り敢えず、このままじゃ不味い、子供達だけでも安全な場所に避難させないとフィーデちゃんも全力で戦えない。

 

「アリア」

「…分かってる。」

 

私はフィーデちゃんの後ろに隠れている子供たちの手を引く。

トーマス君は兎も角、砂漠竜を倒すと意気込んでいたというトォ君は街に連れ帰ろうとする私の手を振りほどこうと暴れるかもと思っていたのだが、思いのほか素直についてきてくれた。

いや、恐怖の余り心ここに非ずといった所か、どこかぼぉっとしているように感じる。

ただ、一分一秒を争っている今の状況では暴れられないだけ好都合だ。私はそのまま二人を砂鰐に乗せる。

 

早くここから離れないと……今はフィーデちゃんが気を引いてくれているけど、何時砂鰐が私たちに標的を移すか分からない。そして砂鰐の巨体なら少し距離を取った所で意味が無いだろう。せめて千メートルは離れないと安心はできない。何なら千メートル離れていてもブレスなら十分届く距離だ。

 

そんな風に私が内心で慌てているとトーマス君がお礼を言ってきた。

 

「ね、姉ちゃんありがとう」

 

私はトーマス君の感謝の言葉に頭を少しだけ撫でることで答える。

残念だけど悠長に喋っている暇はない。

 

私も急いで砂鰐に跨る。

そして手綱を握り砂鰐に街の方へ行くように指示を出そうとした瞬間、トーマス君の友達トォ君が砂鰐から飛び降り、砂漠竜の下へ向かっていってしまう。

 

「俺は砂漠竜を倒すんだ‼」

 

そうして駆け出すトォ君。

今現在フィーデちゃんと砂漠竜が激戦を繰り広げている。

しかも、自分の身一つで戦っているフィーデちゃんとは違い砂漠竜は周囲の砂を操り、攻撃を行っている。

 

どこから攻撃が飛んでくるか分からない。

注意をしていても攻撃に巻き込まれる可能性は高いだろう。

 

ただ、現実は更にその予想を超えてくる。

砂漠竜が突然今まで戦っていたフィーデちゃんではなくトォ君を狙ったのだ。

そしてそれに呼応し、周囲の砂もその身を砂刃に変え一斉にトォ君に襲い掛かる。

 

フィーデちゃんがトォ君の存在に気づき助けようと駆け寄るが、残念ながら間に合いそうにない。

 

私も反射的に手を伸ばす。

いや、反射的になんかじゃないトォ君を助けようと手を伸ばしたのだ。私の確固たる意志で…………勿論そんなのは何の意味が無い。

 

 

 

 

せめて私に力があれば………………………………いや……………力はある、只使いこなせないだけで。

 

私は自分の無力さを呪う。

そして祈る。

願う。

 

私の中にいるであろう大精霊達に私に力を貸してくださいと、今死にそうになっている少年を助けて下さいと。

 

その瞬間、世界はひっくり返った。

 

いや、外へと向けられていた私の瞳が内側へと向けられたのだ。

深海のように薄暗い世界、そんな中松明のように揺れる四つの光。

私はそこで初めて大精霊と出会った。

 

彼らは私を見ている。きっとずっと見ていてくれた。

ただ、私が彼らを見ようとせずにいただけ。

関わろうとしなかっただけ。

 

私が力を使えなかったのは私が拒絶していたからだった。

 

私は只念じる。

トォ君に襲い掛かる砂漠竜に『吹っ飛べ』とトォ君を斬り刻もうとしている砂に『消えろ』と。

ただそれだけ、ただそれだけで砂漠竜は突然吹いた突風、いや風の槌により吹き飛ばされ、周囲の砂刃は只の砂へと帰る。

 

よし!出来た!

後はトォ君もこっちに引き寄せちゃおう。

私がそう考えたのも束の間、砂漠竜は私に視線を向けていた。

それに…………私に竜の表情の違いは分からないけど、何となくその時の砂漠竜は嗤っていたような気がした。

 

私はそれを、何だかとても軽くなった体で………宙を舞いながら見ていた。

 

「アリア‼」

 

遠くで聞こえてくるフィーデちゃんの声。

 

「龍力解放‼憑纏……」

 

 

私の意識はそこで途絶えた。

 

 

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