それが、”織斑一夏”なんていう闇の深いハーレム系主人公なら尚更。
__春特有の陽気に当てられ睡魔に襲われる。
「(
とある高等学園の一年生教室の……というか「IS学園」の一年一組の窓際、かつ最後列の席という「どうぞ居眠りしてください」と言っているような最高のポジションで俺は大あくびをする。
それに伴い、周囲の生徒たちからの視線は一層増し、クスクスと微かすかな笑い声が聞こえてくる。
そんな笑い声を聞き流しつつ睡魔に耐えながら、俺は窓から見える太平洋の水平線を眺め半ば現実逃避をしていた。
この俺、
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
__一ヵ月とちょっと前。
現在、俺は高等学校進学のための無駄に長い試験を終え、友人である”
「あ‶ぁ‶~…やっと終わった」
俺は固まった肩をほぐしながら文句を垂れる。
「ンなこと言って、どうせすぐに終わらせて寝てたんだろ~?」
そんな俺の横から茶々を入れてくる弾。
弾の言う通り、俺は開始早々に解答用紙を埋めて残り時間は寝ていた。
ニューゲームのいいところは、学生として勉学のやり直しができることだ。しかも幸いなことにこの身体は頭の出来が一般人とはいい意味で違う。まるで買いたて新品のスポンジのように知識を吸収し勉学の才能を遺憾なく発揮。さすがはハーレム系アニメの主人公といったところだ。この無駄に高性能な脳みそのおかげで試験はちゃちゃっと終わらせることができた。
さて改めて自己紹介だ。俺は”織斑一夏”……に愉快犯な神様によって転生させられた哀れ(笑)な一般人男性である。本名は消されたし、あだ名はまだない。しかし、とある女子生徒からは「おりむー」と呼ばれることを俺は知っている。
”IS”はアニメと二次創作小説、”赤〇健次”氏の漫画(五巻まで)で履修済み。大まかな話の流れは理解している程度だ。
性格はオタク寄りの普通のほうだと思うが、弾や友人たちからは「思考が物騒ないい奴」とよく分からない評価をされている。
うーむ、確かにOHANASHIで解決したり、助言が暴力での解決へ導いたり、サバゲーのデフォルト装備がKar98kとかパイオニアスペード(シリコン製)だったり、服装がラストバタリオンという殺意増し増しのあたり普通じゃないかもしれない。うん、俺は「オタク寄りの物騒思考のいい奴(自画自賛)」だ。
本来オリジナルの”織斑一夏”は、ISという代物を武装兵器としてその圧倒的戦闘力を世に知らしめた”織斑千冬”の弟にして15歳の少年。性格は超が付くほどのお人好しで正義感に溢れすぎている。他人のちょっとした変化には鋭いくせに恋愛関係のことになるといきなり【鈍感】というバッドステータスが付くほどの唐変木でもある。
俺は”織斑一夏”のような正義漢とは違い、軽いいじめなどは注意で済まし、小さな子やご年配が困っていたら助けるなどの常識の範囲内での正義感とお人好しを持ってるなくらいである。恋愛面に関しては、告白されたら正面から向き合い真摯に対応し、最終的にはお断りしている。
”織斑一夏”のように「付き合ってください!(告白)」が「(買い物に)付き合ってください!」と変換され、「いいぜ、付き合ってあげる」と期待を上げさせた後に「買い物くらい」って言われて絶望するよりかは圧倒的にましだと思う。
”織斑一夏”は夜中に背中を刺されてしまえばいいのに。
視聴者としてアニメを見た感想は、「なんか腹立つな織斑一夏」とか「嫉妬で暴力をふるうヒロインって(呆れ)」とか「チョロイン多っ」とか笑いごととして見ていたが、当事者になったからには笑いごとではなくなる。
なぜなら、”織斑一夏”に成った以上原作通りに進めばIS学園にぶち込まれることは確実だからだ。
入学早々、
加えて、欠陥兵器であるISの中でも屈指の欠陥持ちの”白式”が専用機として与えられることになるが、決闘の結果は後味の悪い敗北。
クラス対抗戦編では、中国代表候補生と喧嘩になるし”
学年別トーナメント編では冒頭からドイツの幼女にビンタさせられるし、二人目の男性操縦者(本当は女の子)の裸を見ることになる。それにVTシステムとかいう粘土人形に襲われるわ、“織斑一夏”に堕ちたドイツ幼女にキスされて嫁宣言され、他ヒロインたちからぶちのめされるわ。
臨海学校編では何故か
まぁ、なんやかんやあって織斑一夏の白式が第二形態に移行。この事件は片付いたが、進化した白式には射撃機能が追加されたがさらに燃費が悪くなっただけで欠陥機としての磨きがかかっただけである。
これまでが第一期の大まかな流れである。
しかし、転生してしまった以上この世界は”IS”という物語ではなく”現実”なのだ。
原作通りに事件が起こったとしたら、もしたら俺は死んでしまうかもしれない。
それに”IS”は”女尊男卑”なんていう概念が浸透している世界だ。真っ当に生きていては必ずどこかで痛い目に合う。アニメなどではそんな描写も少なかった。理由は先ほどのナンセンス云々と同じだろう。
まさに「正直者が馬鹿を見る」を具現化したような世界だ。こんな世界はほかには類を見ない。
幸いこの主人公ボディは”最強”を目指して造られたためか身体能力はかなり高い。それに神様からの補正でさらに身体能力は向上している。神様曰く「
他にも神様からはいくつか特典もらっているので、今現在まで生きるのには大して苦労はしていない。神様の掌の上で踊らされている感があって癪には触るが、その神様のおかげで楽ができているから目をつむっている。
さて、前述したとおり現在は弾とともに帰路についているわけだが、本来”織斑一夏”は高校受験の際、誤ってIS学園の試験会場に入り、受験者用のISを起動させてそこからなんやかんやでIS学園にぶち込まれるのが物語の本筋だ。
なぜ”織斑一夏”は誤ってIS学園の試験会場に迷い込んだかは分らんが、俺は朝から弾と共に行動していたため”織斑一夏”のようにISに触るという好奇心は猫を殺すよう間抜けな行動も起こしていない。
俺が本来のように誤った行動を起こしてないのかというと、所謂”一夏アンチ”を警戒しているためだ。
”一夏アンチ”は、主人公が”織斑一夏”以外の時、またはオリジナルキャラクターが主人公の時などに発生しやすいイベントだ。この”一夏アンチ”は、”織斑一夏”が先の誤った行動をしたがために、”人生を壊された人物”が”織斑一夏”に対し罵詈雑言や暴力、冷遇的態度をとることである。
この”人生を壊された人物”を細かく説明するなら、”織斑一夏”が「好奇心」でISを起動してしまったがために、世界中で男性によるIS適性検査が実施され、本来ならば大学への進学や就職が決定していた矢先にISを起動することになり、いきなりIS学園にぶち込まれたの人物の総称(俺が勝手にそう考えているだけだが)である。
基本この”一夏アンチ”は「反省の色のない馴れ馴れしい”織斑一夏”」や「自分の価値観を他人に強要する”織斑一夏”」、「理解しようともしない”織斑一夏”」など、”織斑一夏”が問題児であった場合に起こりやすい現象だ。
__まぁそりゃあ、誰だって進学や就職が決まっていたのにIS学園高等学校に強制的に入学または二度目の高校生活を強制させられ、女尊男卑の巣窟で”
もしも俺が”人生を壊された人物”に当てはまったら、”織斑一夏”を完膚なきまでに肉体的にボロボロにさせた後に精神的苦痛を味あわせるくらいはするだろう。……できればの話だが。
原作通りの織斑一夏だった場合、壁が多すぎる。冷遇的態度を織斑一夏にすればおそらく女子生徒たちはイケメンな織斑一夏の肩を持つだろうし、その後ろには国家代表候補生5名+国家代表1名+第四世代持ち一名。最後の関門には織斑千冬にクソ兎篠ノ之束が控えている。下手すりゃ社会的にも物理的にも殺されるのは俺である。
世界というのは相変わらず不条理で不平等である。俺は泣いた。
___まぁ、女の壁以前に”織斑一夏”のもともとの才能を越えなければ逆に当人に返り討ちされる羽目になるのだが。
とまぁ、諸々の理由により俺は軽率な行動をとっていない。
自分から触りに行けば敵を作りそうなので、神様が因果律をいじってISと接触させざるを得ない状況にしてくれるのを待っているのである。
「(ただ問題は、それがいつなのか知らされて無いんだよなぁ……)」
せめて心の準備くらいはしておきたい。いきなりの展開だったら叫ぶ自信がある。
「……はぁ」
神様に付き合うことにしたが、これからこの身に起こるであろう面倒ごとを思うと憂鬱だ。
顔を伏せ頭を抱えていると、弾が視界の端からのぞき込んできた。
「お、どうしたどうした?」
お茶らけている風な言葉ではあるが、こいつは妙に勘が鋭い。おそらく俺の雰囲気や顔色を見て、本気で心配しているのだろう。
なるほど、”織斑一夏”が五反田弾と大親友やら悪友やらである理由がよくわかる。この察しの良さと”織斑一夏”並みのお人好しだからだろう。
もしこの体だけでなく、精神までも女であったなら俺はこいつに惚れていただろう。
だが、彼氏にしたいかと問われれば答えるのを躊躇ちゅうちょする。こいつの短所は「彼女ほしい~!」と毎日のように口に出すことだ。
外面内面を含めいい奴ではあるのだが、この短所のせいで「いい奴」止まりであることを弾は理解しているのだろうか。
お前を狙っているうちの学校の女子連中は、恋愛相談と同時に「あの性格がなければなぁ~」と愚痴りにくるのだぞ。
”織斑一夏”同様、自分で察することはほぼ不可能なほどの鈍感なので、ほのめかして指摘してはいる。
「悩み事があれば何でも言えよ~、俺はお前の大親友なんだから!」
___親友、か。
弾と親友になれて本当にうれしく思う。弾がいなければ、俺は今以上に荒れていただろう。
「……お前には助けられてばっかだよ」
「なんか言ったか?」
小声とはいえ、常人では聞き取れる声量だったのだが。聞き取れてなかったらしい。
こいつも大概だな。ステータス【難聴(誉め言葉etc.)】持ちとは。こいつに惚れている女子たちがかわいそうに思えてくる。
「……いや、お前も”
「え?どういうことだよ!……っておい、一夏!?」
騒ぐ弾を置いて帰路を急ぐ。
照れくさくなって顔を見せないように下を向きながら早歩きで弾から離れる。
廊下の曲がり角を抜けようとした瞬間、強い衝撃が体に響いた。
「イツツ……ったく、気をつけ___」
尻もちはつかなかったが、頭を打った。おそらくなにかとぶつかったのだろう。
こちらにも非があるとはいえ、痛みで余裕のない俺は悪態をつきそうになるがそれは強制的に止められた。
突如として激しい頭痛が俺の無駄に高性能な脳みそを焼いたからだ。
「___ギァッ!!?」
「い、一夏!?!?」
弾の叫ぶ声が聞こえるほうに頭痛を堪えながら、「大丈夫、だ……」と伝える。
いまだ脳みそを焼いている痛みの裏に、何かが見えてくる。
"№117" "打鉄" "インフィニット・ストラトス" "絶対防御" "シールドエネルギー" "形態移行" "ハイパーセンサー" "生体維持機能" "カスタム・ウィング" "篠ノ之"___などなどのISに関する用語が無駄に高性能な脳みそに入り込んでくる。
決して危ないお薬の副作用が出たわけではない。
出てたまるか。俺はクスリに手を出すほど堕ちてはいないし、今現在での生活に絶望や苦痛を感じているわけではない。
いや、まぁ……。この”
しばらくして、頭痛が収まってきた無駄に高性能な脳みそはようやく状況を理解できた。
どうやら俺は運搬中のISとぶつかってしまい、そのISを起動し纏っているようだ。
謎の激しい頭痛と意味不明なIS知識の流入は、ISを触れてしまったときに発生するISが触れた者に己ISの使い方を教えるためのシステムが発動したからだろう。
しかし、この知識の流入は、吐き気を催すもよおすほどとても気持ちの悪いものであった。1秒にも満たない一瞬の間に脳に多大な電子情報が流れ込むのだ。
今まで味わった痛みの中でダントツの1位である。催したのが吐き気だけで済んだだけマシなほうだろう。
あと、この場にいる連中は、この奇麗な廊下に胃袋の中の内容物をぶちまけなかった俺の精神力と忍耐力を褒めてほしいくらいである。
”織斑一夏”や他のIS操縦者たちはこんな気持ちの悪いモノを味わって、よくケロっとしているものである。__奴らは頭がおかしいんじゃないか? ……”IS”は頭おかしい奴らしかいないんだったわ。
「(しっかし……)」
神様の野郎、男主人公によるIS適正発覚イベントの一つ「曲がり角でISとぶつかる」を発動させやがったな。
いや、俺から触って発動させたら”一夏アンチ”が湧いてくる可能性があるから、「偶然ぶつかって偶然にも適性が発覚した」ってシナリオにしておいたほうが都合がいいし、俺としてもありがたいけど。
でも接触時に気分が悪くなるのだったら先に忠告くらいはほしかった。
ため息をつき、纏まとわりついている不格好なISを「くっそ邪魔だな」と煩わしげに思いつつ、周りを見回す。
口が開いたまま閉じていない弾と、「ありえない」やらと零しているIS関係者が目に入った。
唖然としている弾と混乱しているIS関係者を他所に、俺はなおも痛む頭を抱えながらさらに大きくため息をつく。
___脳内に「頑張れよwww」って笑う神様が見えた気がした。
気のせいじゃない。
現在の心情
「ふっざけんな!」
もし違和感などがありましたら、ドゥンドゥン申し上げてください。