――side ラインハルト
目を開く。
目に入るは黄昏時の空。
「……」
無言で身体を起こし、周囲を見渡すが、遠くに山が見えるがあとは荒野な場所だった。
「さて、どうしたものか……む?」
スマホが何らかの通知を知らせるため、音を鳴らす。
いつも通り起動すると端末にはいくつかのミッション系の通知が届いていた。
「……【孫堅に出会え】。【孫伯符と共に賊討伐せよ】、【孫仲謀と赤壁の戦いを乗り越えろ】……なるほど、私は孫呉に仕えろということ……?」
通知が追加で入る。
「……【緊急ミッション:トレイン*1により廬江領内に現れたライネルの群れを討伐せよ】……?」
色々ツッコミどころと情報不足が否めないが……
「……1つ言えるのは緊急系のミッションだけでも目的地が表示されるように女神たちに駄々こねておいて良かったということだな!」
目的地 東20キロと端末の端っこに表示されたことに感謝しつつ私は走り出す。
――side 孫堅
「弓隊は弓で、他のやつは門を破ろうとする奴に熱湯を浴びせろ!」
廬江近くのとある砦の南門にて……下半身が馬のような筋骨隆々な化け物が10匹に対してオレは……オレたちはそこそこの大きさの砦にて『籠城戦』をしていた。
「祭と視察に来たらコレとかツイてねぇ。……いや、砦の壁を盾にできるだけマシな状況か……」
眼下で弓を構える連中が目に入り、慌てて身を隠しながらそう零す。
この化け物たちと数度戦ったことがある。
いずれも平地での戦いだったが……。
剣を振り回す1匹に数百単位の軍をぶつけてようやく勝てた。
突進を繰り返す2匹で1500近かき集めた兵はほぼ相討ちになった。
偶然合流したのにやたら連携できてた3匹の時は……5000という数の暴力は嘲笑われ、蹂躙され、逃げるしかなかった。
そんな悪夢のような化け物が10匹もいる。
「大殿……」
「平地で遭遇戦じゃない分勝ち目はある。……平地だったらみんな仲良く死んでただろうからな」
隣で不安そうな顔をしていた祭に笑いかける。
……作り笑い? そりゃそうだ。
だけどそうでもしなきゃやってられないからだ。
「うっ!」
「アレは曲射までできるのか、多芸にも程があるじゃろ……」
矢の射線から身を隠していた兵士の数名が上から降り注いだ矢で負傷したのを横目に、祭がそう零す。
「しかし逃げれば追いかけてくるだろうしかといって打って出ても蹂躙される未来しか見えねぇ。……ジリ貧だが籠城戦するしかねぇのかな」
ため息まじりのオレの言葉に祭が肩を竦めた。
「化け物に追いかけられてるから反射的に受け入れたが、まさか最近この辺で化け物のふりして襲ってた人攫いだった上、追いかけてきたのがアレだからなぁ……」
「人攫い連中は砦の連中が袋叩きにしてアレらの上に投げ捨ててましたが……興味はこっちに移った後なのか一匹以外無視してましたからなぁ……」
祭が肩を竦めた。
「さてさて、どうしたものか……うん?」
物陰から連中を見ていたら、何故か連中の身体が西の方を向いている。
その目線の先には……。
「人……?」
黄昏時のせいか金色にきらめく人が1人。
化け物たちはそれを見て動揺している。
人?が何かをしたのか、人?の周囲に金色の波紋が現れて様々な武器が姿を見せた。
「あれは一体……」
祭がオレの疑問を代わりに口にしてくれた。
それとほぼ同時にその武器たちが解き放たれたように凄まじい勢いで10匹の化け物に殺到し――
「マジかよ……」
――塵を払うように化け物連中を全滅してみせた。
そしてその人?は化け物たちの死んだ場所に現れた『落とし物』を確かめるように拾っていく。
「大殿!?」
オレは反射的に砦からその人?のいる場所へと飛び降りていた。
――side ラインハルト
ライネル10匹のうち、一番弱い赤が5体、次に弱い青が3体、金色を抜けば上から2番目の白髪が2体いたが、王の財宝による爆撃で瞬殺できた。
「……やはりライネルは良いな。ティアキン世界でもトップクラスの素材の塊だ」
ライネルの落とす武器のうち、彼らの持つ弓と盾は固有のモノでどちらも普通の武具より性能がいい。
剣や槍は……大抵が錆びてるので微妙である。
それはさておき。
ライネル本体のドロップ品は肝、蹄、そして2種の角だ。
肝は薬に使えば品質をかなり向上させられる代物で蹄や角は武器の刃や頭*2につければ下手な武器より強くなるすぐれものだ。
リンクがいたらきっと私の意見に同意してくれるに違いない。
「うん?」
ふとなにか変な予感がしたので砦の方を見てみると――
ピンク色の髪の女が砦の上から飛び降りていた。
「――!」
私は反射的に宝物庫から高所降下用救助マットを展開して女を受け止める。
「なんだこりゃ……」
「高所から着地するとき怪我を防ぐ道具だ」
驚いている女に私は解説する。
「……てめぇは……」
「私はラインハルト・トリスタン・オイゲン・ハイドリヒ。真名がない場所で生まれ育った故、ラインハルトとでも、ハイドリヒ卿とでも、獣殿とでも、好きに呼ぶといい」
役目を終えた救助用マット(使い捨て)の空気を抜いて平たくなったら宝物庫に仕舞う。
「……オレは孫堅。字は文台。……あの化け物を倒してくれて感謝する」
「構わん。……しかし妙だな。ライネルは縄張り意識が強く、群れることさえ少ない魔物だ。10匹も一箇所に集まるなど考えにくいのだが……」
一応答えを知っているが確認のために疑問を口にすると、私の言葉にあー、と孫堅が零した。
「実は人攫いの連中が奴らの縄張りを踏み荒らすように逃げてこの砦に駆け込んできやがったんだ」
「よく生きてここまでたどり着けたな?」
下半身馬系のライネルから数キロ単位で逃げるのはなかなか難しいので素直に驚きを口にする。
「そのあたりはどうでもいい。理由聞いた奴らが袋叩きにしてあの化け物……ライネル?だったか? それに放り投げたしな。……ほら、そこ。放り投げて間もなく血袋状態だったぞ」
近くを示す孫堅。
面倒なのでチラ見だけで済ませた。
「……話は変わるが、ライネルたちを倒してくれたお前にお礼がしたいんだが……」
「それは有り難い。ついでに行く宛も帰る場所もないのでな、暫く厄介になっても構わぬか?」
私の言葉になにやら計算をし始める孫堅。
「もちろん構わねぇぞ。下手すりゃ1都市壊滅規模の敵を倒した恩人だしな。なんならオレが許可出した女を手籠めにしても構わねぇし」
「……世話になるが、女の世話は当面不要だ」
私の言葉に少し目を丸くした後
「もしかして種無しか?」
とんでもないことを聞いてきた。
「否。……予想通りなら半年以内に終わる私の問題故、その間は放置してもらえると有り難い」
「……何が半年なのかとか聞きたいところだが恩人にとやかく言える権利はねぇわな。とりあえず今夜はこの砦で、明日はオレの治めてる街に連れてくからよろしく」
そういうと彼女は私に手を差し出す。
握手という意味にとって、私は彼女と握手する。
「たしか真名はないんだったな?ならラインハルトと呼ばせてもらう」
「構わんよ」
「オレは
素敵な笑みは母である強さか、それとも……。
とにかく孫家の所に私は転がり込むこととなった。