正解はあとがきにて。
『一位は黒沢太君の黒いマンタレイJr.だー!』
スピーカーを通して聞こえる、ミニ四ファイターの叫びに歓声が上がる。
GJCウインターレース、とある兄弟がいたのとは別の地区予選一次予選レースにて。
その結果を私は観客の一人として眺めていた。
ミニ四駆、それは手のひらサイズの自動車を模したおもちゃである。
あくまでおもちゃではあるが、世界最小のモータースポーツとも呼ばれ、その奥深さは本物のそれに引けを取らなかった。
学校でも勿論人気があり、たとえばその時流行りのアニメについて語り合っていても、その横で必ずセッティングがどうとかいう声が聞こえてくるのは常、というくらいには根強い人気があった。
そしてGJC、グレートジャパンカップ。
全国の子供達が集まりその中で一番を決める大会。
地区予選のそのまた予選とはいえそこで一位になるのだから、きっとあの男の子はそれなりに実力があるのだろう。
自分のマシン片手に勝鬨をあげるその姿は喜びに満ちていた。
それからも何レースか見学して満足した私は、コンクールデレガンスのブースへと足を向けた。
コンクールデレガンス、略してコンデレとは『美しさを競う』という意味通り、速さではなくその外見を競う競技である。
中にはレースには出れないほど趣向を凝らした改造をしたマシンも見受けられ、中々楽しませてくれるイベント、らしい。
らしい、としているのは、私は今回初めてミニ四駆の大会に参加しており、あまり馴染みがないからだ。
既に参加登録は済ませて出品しており、今まで他の参加作品が集まるまでの暇つぶしをしていたのだ。
ブースに戻ると登録締切までもうすぐといったところで、参加作品がほぼ出揃っていた。
技術面での上手い拙いの差こそあれ、どれも力作ぞろいばかりだ。
見るからに速そうで格好良いもの、デコレーションをして可愛さに振ったもの、中には見るだけでは機能するかは分からないが六輪車まである。
その中の一つ、最初の方に登録されている一台。
マシン名:未来のミニ四駆
制作者名:星乃慧
それが私の作品だった。
今回用にと、初めて買ったミニ四駆でもある。
出来としては他に負けていないつもりではあるが、さてどうなるか。
そうしてインスピレーションを刺激される作品群を見学していると、
「やあ君、少し良いかな? そのマシンについて聞きたいことがあるんだが」
と、声をかけられた。
顔を上げるとそこにいたのは、三十後半くらいの眼鏡をかけて白衣を身に纏った男性だ。
背もそこそこある。仮に私が手を伸ばしても頭には全く届きそうにない程だ。
「……なんでしょう? 知らない人にはついて行っちゃ駄目だと習ってるんですけど」
「私は土屋と言って、ミニ四駆の研究開発をしている者だ。だからその防犯ブザーの紐から指を離してくれないか」
大の大人が初対面の女子小学生にミニ四駆を見せてくれと迫る、というシチュエーションは言われる本人からすれば割りと警戒すべき案件だと思うんだけど。
しかし土屋と名乗った人物も分かっているのだろう。詰め寄るということもなく、曖昧な笑みを浮かべるばかりだ。
しばしの膠着状態になった。さてどうしようかと考えていてが、そこへ更なる人物が現れた。
「土屋博士、彼女は見つかりまし……って、え? なんですこの状況?」
逆立てた髪、カラフルな服にプロテクターまで着けて、一度見たら忘れられないその姿は、
「ミニ四ファイター?」
そう、先程までレースを盛り上げていたミニ四ファイターその人だった。
「い、いや、それがだね、どうやらいきなり話しかけたものだから、警戒されたようでね」
「ああ、そういうことでしたか。……大丈夫だよ。この人はミニ四駆開発の第一人者で、怪しい人じゃないから」
土屋博士、と呼んだ暫定不審者に事情を聞いたミニ四ファイターは私に向き直り、語りかける。
「本当に?」
「「本当本当」」
二人無駄に息ぴったりに説得してくるその姿に、私は渋々ブザーをポケットに仕舞った。
「それで、話を聞かせてくれというのは?」
お互い、居住まいを正して話を戻す。
「開発者として君のマシンの形状に興味があるんだよ。どうしてあの形にしようと思ったんだい?」
その言葉に展示されているマシンを見る。
元になったマシンはグレートエンペラーだ。
まず小径タイヤに変更し、フロントカウルを大型化。タイヤを含むフロント部分全体を覆うような形に変更。
次にサイドカウルも後輪を覆うくらいまで延長し、リアカウルと一体化。
それに合わせてウイングも大型化。
全体的に見ればF1ぽい印象があった元デザインをスポーツカーに寄せたものに改造したのが私の作品だ。
「ただ格好良くしたかった、という答えを聞きたい訳じゃないですよね」
わざわざミニ四駆の開発者が訊ねてきた。というのであれば、もう少しちゃんと答えたほうがいいか。意図は分からないけど。
「そもそも私はミニ四レーサーじゃないんです」
「というと?」
「敢えて言うならモデラーです。父親の影響で模型製作が趣味でして。これもその一環ですね」
完全に見た目100%で速くなるようには作っていないのだ。
「では、たまたまその形状になったと?」
「それもまたちょっと違います。そうですね、……模型を作るときって何が大切だと思います?」
私からの唐突な質問に大人二人は考えた。
「想像力や技術力とかかな?」
「道具とか、あと根気も」
二人の答えに頷く。
「どれも間違いありません。でもそれ以外にも説得力、というのも大事かなと。持論ですが」
リアルではなくリアリティの話だ。
別に全部嘘でもいいのだ。造形一つ。塗装一つ。例えば装甲の継ぎ目のディテール。例えば汚れ塗装。そこにそれがあると見るものに納得させられる程の存在感。それが模型製作における大事なこと。
「で、それを前提としてコイツです。これは本物の車として存在しません。ですがそうだと仮定して、そして参考として車について調べたら説得力を持たせたい事柄が出てきました」
「それは?」
「空力です。車、特にレーシングカーというのは空気抵抗を減らす為に、車体表面の空気の流れを滑らかにするそうですね。だから私はF1からスポーツカーという方向性のギャップ感を出しつつ、滑らかな空気の流れを意識してこれを作りました。まあ、私の美的感覚も多分に含まれていますが」
いきなり自分の作品のプレゼンを始めてしまったが、これで良かったのだろうか?
そう思っていると眼の前の二人は何やら相談事。
「博士、やはり」
「うむ、もしかしたらと思って念の為持ってきていたが、大正解だったようだ」
「しかしレース経験はなさそうですが」
「だからこそさ。全く違う新しい可能性になるかも知れないだろ?」
「……あの、一体なんの」
そろそろここを離れて昼食でも食べに行きたいのだが。
「おっとすまない。実は君に、これを預けたいと思うんだ」
土屋博士はおもむろに取り出したそれを私に見せた。
それは一台のミニ四駆だった。
一切の塗装やステッカーを施されていない真っ白なボディ。
今までのミニ四駆とは全く違う、タイヤを含む車体全体を覆うスポーツカーのような形状をしていた。
そしてそれはどことなく、私のマシンに似ている気がした。特に、そのコンセプトが。
「それは……」
「フルカウルミニ四駆。私が長年の研究の末に開発した空力を追求したマシン、セイバー。その中の一台、アルトセイバーだ」
「アルト、セイバー」
私の既存のものの改造品と比べて、全くと言って良いほど無駄がない。シンプルでいて力強さを感じる。
そして風がボディ表面を流れる様子が容易に想像出来るのがとても良い。
「これを君なりに育ててほしい。期限はウインターレースが終わるまで。それまでに自分なりのマシンに育てられなければ返してもらうよ」
いや、そんな事いきなり言われても。
「私、ミニ四駆なんて走らせたことありませんよ?」
「ああ、それは全然構わないよ。実は他にも託している子達がいるんだが、その子達とは違う可能性が見たいんだ」
「と、言われても……。それにウインターレースが終わるまでって、もう予選も今日で終わりじゃないですか、どうしろと」
「それは、だな。最終予選はまだ登録は終わってないし、手続き上の問題ならある程度は融通をだね……」
「職権乱用の場面なんて初めて見た」
「君、難しい言葉を知っているね」
ファイター、ツッコむところはそこじゃないと思う。
「それはなんとかなっても、改造とかしないと勝てないんでは?」
「セイバーの力を甘く見てもらっては困るな。下手なことをしなければ、そんじょそこらのマシンに負けるポテンシャルではないさ」
とは言うが、全く弄らず完走ないし勝利できるほど甘いレースでもないだろう。
それになにより、十分と言えるほど時間がある訳ではない。
「それでどうする? 見たところ、全くレースに興味がない訳でもないんだろう?」
「む」
……まあ、あると言えばある。
模型制作で部屋に籠もっているだけでは分からない、画面越しではない熱気がここにはある。
それに対して何も思わない、というほど感性が無いわけではない。
毎日ずっとだと気疲れもするが、たまには悪くない、程度には思うのだ。
だからまあ、結局は答えは決まっていたのだ。
「……分かりました。やりましょう? そんなにそのマシンが凄いなら勝ってみせますよ」
そう啖呵を切り、アルトセイバーを受け取るのだった。
実のところ、知識だけならそれなりにはあるのだ。模型製作において、作る物のことを全く調べない人間なんてそんなにいないのではないだろうか。全く興味がないものを作ったところでつまらないだろうし、模型製作そのもので役に立つことも多い。
だからといって、ミニ四駆を本気で遊んでいる人達から見れば付け焼き刃もいいところだろうが。
「となると足りないのは時間と、やっぱり改造パーツ、だよね」
なにせ、コンデレの為にしかミニ四駆を弄っていないので、グレートアップパーツなんて一つも持ってやしないのだ。
なのでまずは物販へ、モーターと電池とギアを土屋博士に買いに行ってもらった。人に無茶振りをするのだからこれくらいやってもらわないと。なお、今持っている使えるお小遣いはこれで消えた。
ドライバーなどの工具はファイターが持っていたので、それらを入れているポーチごと借りた。私物だそうだ。
軍資金の関係で動力部だけは新品でなんとか揃えたが、改造パーツまでは手が出なかったので、非常手段を取ることにした。
近くにいたマシンを調整していた子に話しかける。
「ねえねえ、ちょっといいかな」
「うん? な、なんだよ」
「お願いがあるんだ。午後からのレースに出るんだけど、パーツを忘れてしまったの。いらないパーツでいいから分けてくれないかな?」
正直、あまり取りたくない手段ではあった。乞食のようでみっともないが、背に腹は代えられない。
「ええ、やだよ。なんで僕が」
「……そう、ならいいの。ごめんね、変なことを言って」
できる限り悲しそうな顔を添えて言う。どうだ?
「うっ、そんな顔するなよ。分かったよ、いらないパーツでいいんならやるよ」
心の中でガッツポーズを取る。
ここでのポイントは時間がないからと、一人相手に欲張らないことだ。一つか二つ貰ったらさっさと次に行くことである。何度も繰り返す必要があるのだ。変な噂でも立てられたら行動に支障が出てしまう。
ファイターをダシにすればどうとでもなりそうではあるが、流石にそこまでいくと幾らか人道に反する。
そうして暫くパーツ集めに奔走し、成果の確認と吟味、取捨選択をする。それらとコースを見て暫し考える。
「…………、よし」
やはり安全策でいくしかない。まずは完走させることが第一だ。
問題はこのセイバーとやらの性能が全く分からないということだ。
ポテンシャルは他のミニ四駆と比べて高いそうだが、その言葉を信じるのであれば、スピードを上げる改造をしたら、容易に吹っ飛びそうだ。
なのでここはコースアウトを防ぐようなセッティングにするしかない。
土屋博士に買ってきてもらったのも、トルクチューンモーターを主体としたパワー重視のものだ。
それにローラーを多めに、スタビライザーポールもつければ、早々吹っ飛ぶこともないだろう。
あとは手に入れたステッカーを適当に貼ればレギュレーション違反にもならないで済む。
こうしてなんとか二次予選の車検に間に合わせ、出走したのだが……。
『ゴォーール! 三位争いをギリギリで制したのは星乃慧ちゃんのアルトセイバーだ!』
遅い。遅すぎる。これは完全にセッティングを間違ってしまっている。
確かにコーナーの安定感は良かったが、スピードに伸びが無かった。
実際にセイバーの性能を確かめる時間がなかった代わりに、色々話を聞いたが、話通りの性能を発揮できているとは言い難かった。
現に観客の子どもたちの後ろに立つ、土屋博士の表情はあまり芳しくない。
博士は言っていた。セイバーは空力マシンだと。
風を受けてダウンフォースを発生させ、車体を安定させる。だから余計なパーツは普通のミニ四駆以上に邪魔になってしまう。それに気づいただけでも良しとしよう。
私の手に戻ってきたアルトセイバーを見る。
薄々感じてはいたが、実際に走らせて確信した。
私は完全にセイバーの性能を見誤っていた訳だ。
ギリギリ入賞して決勝に進めたのも、セイバーのその性能に助けられただけの話。
だが、失敗したからこそ分かったこともある。
模型製作でもままあることだが、一度出来たのもを最初からやり直すことなんてよくあること。どうとでもできる。
ああ、そうさ、全塗装に失敗してドボンすることに比べればこれくらい……!
そして迎えた決勝レース。
今までのサーキットを周回する形式ではなく、遊園地のアトラクションの間を駆け抜けるロングコースのサバイバルレースとなった。
どうやらジャパンカップ規模の大会は、今後こういうのがスタンダードになってくるそうだ。
途中ピットインも可能で、マシン性能とは別にレーサー自身のスキルもレース結果が左右されることになる。
参加人数も通常とは異なり、それぞれ予選レースで入賞者した九名プラスそれ以外で最も速かった一名の計十名で行われる。
私も含め、スタート位置に集まった殆どのレーサーは緊張した面持ちだ。
しかしその中で一人だけ自信満々な奴がいた。
「おいお前、セイバーを使っててあんな走りなんて、宝の持ち腐れじゃねえか」
「……え、誰?」
「お前と同じ博士からセイバーを貰った、黒沢だ。ま、同じとはいっても、俺のほうが数段優れているけどな!」
そう言ってこちらに見せびらかしてきたのは黒いセイバーだ。
ああ、思い出した。確か第一次予選でトップでゴールした少年だ。
だが、
「確か予選では別のマシンだったような」
「ああ、このブラックセイバーは決勝用に取っておいてたんだが、どうやらその必要もなかったみたいだな」
自信家なのか随分と大きく出ているが、言っていることは至極正しい。きっと私のレースを見ていたのだろう。ごく当たり前の事実として語っているに過ぎない。
「かもね。まあ精々君の後ろについて行けるよう努力するよ」
「ふん」
私の返しがお気に召さなかったのか、鼻を鳴らして彼は自分のスタート位置に戻っていった。
『よーし、みんな! そろそろスタートの時間だ。位置についてくれ!』
ファイターの号令がかかった。
皆それぞれ自分のミニ四駆のスイッチを入れる。
バッテリーから接触した金具を通して流れる電力。
モーターが回り唸りを上げる。
噛み合うギアから動力が伝わり高速回転するタイヤ。
マシンをコースに添えて時を待つ。
『それではウインターレース地区予選決勝。レディ……』
レッドシグナルが点灯。
スタートのタイミングを計る。
『ゴーッ!!』
グリーンシグナルに変わり、レースが始まった。
飛び出す十台のマシンをそれぞれのレーサーが追いかける。
『各車一斉にスタートをきった! 先頭は黒沢君のブラックセイバー! そこから少し離れて星乃ちゃんのアルトセイバー。更に後続が続く!』
「ふん、この短時間で少しはまともに仕上げたみたいだな。褒めてやってもいいぜ」
「……そりゃどうも」
とはいえ、追いかけるので精一杯か。まだまだセイバーの性能を引き出せているとは言い難い。
『さあまず最場所の関門はデスブリッジ! 十本のレーンが突然一本になる。一斉に飛び込めばクラッシュ必至だぞ!』
ここは問題ではない。ブラックセイバーとも後続のマシンとも離れているので接触に伴うクラッシュは気にしなくてもいい。
ただ、互いの距離が近い後続集団は悲惨極まりなかった。
『セイバー二台は危なげなく通過。しかし後続は、あーっと! やはりクラッシュ続出、大混乱だ!』
実況の声に少し振り返ってみると、言葉通りの状況に陥っていた。
前の方にいた数台は無事にクリアできたが、その後ろは目も当てられない。残念だがあれでは全台復帰するには暫くかかるだろう。
しかし彼らに構っている暇はない。お互い競い合っているのだから手助けすることは出来ないし、その気もない。
ブラックセイバーに続き、アルトセイバーがいくつかのコーナーとストレートを間隔を空けて抜けていく。
残念、というより当然ではあるが、しっかりとセッティングされているブラックセイバーに追いつくことはない。が、
「……!? 思ったより引き離せていない?」
黒沢が想定外の事実に軽く驚く。
予選のときの体たらくを見てたらそうも思うだろう。実際、通過タイムを見ても、今レースに参加している中でも下から数えたほうが早かったのだし。現状、ポテンシャル的には最上級のセイバーを使ってそれだったのだから。
ド素人の下手な考えで組んだセッティングだったから遅かった。それもある。
しかし、それだけでも無いのだ。
『さあ先頭の二台が次の関門に突入する! ここは風の谷。強烈な向かい風ご襲ってくるぞ!』
「はっ! 俺のブラックセイバーには関係ないぜ!」
黒沢の言う通り、空力マシンであるセイバーにとって風は敵ではなく味方だ。
風を受けダウンフォースが発生すれば、安定性とグリップ力が増す。
ブラックセイバーは黒沢の言葉を証明するかのようにコースを進む。
遅れて私のアルトセイバーも風の谷エリアに突入する。
「聞いた話ならそろそろだと思うけど……」
「あん?」
横風吹き荒ぶ中、僅かにではあるがアルトセイバーがブラックセイバーとの距離を詰め始めた。
『おおっと? 強風の中、アルトセイバーが加速しているのか、ブラックセイバーとの差を縮め始めたぞ!』
「どういうことだ!?」
「ようやく慣らし運転が終わったんだよ」
予選レース、そして決勝レースまでの間、ずっとブレークインをしていたのだ。
ギアにグリスを塗らずそのまま走行。その後も慣らし運転。途中で騒音から静かな音に変わったたところで出てきた削りカスを除去しグリスを塗って準備完了、となった。車検の受付時間ギリギリだったが間に合って良かった。
モーターの方もここに来て本領を発揮し始めたようで調子がいい。
「さて、一矢報いることくらいは出来そうかな?」
ここでいくらか差を詰められているのなら、ある仮説が立つ。
それが正しければ少しの間はこちらが有利。それまでの間、どれだけ追いつけるか。ここが勝負所だ。
「ちっ、振り切れブラックセイバー!」
「いいや、逃さない」
ここだ。ここと既に視界には入ってる次のセクションでしか追いつける場所がないのだ。そしてその後は多分……。
『風の谷をクリアすれば次に見えてくるのは心臓破りのアップヒルだ! 半端なパワーだと登るにも一苦労だぞ!』
そもそもこのコース、全体的にヒルクライムになっており、急坂まで比較的にアルトセイバーのほうが、ある点で有利だったのだ。
急坂に突入する。
確かにブラックセイバーは速い。しかし、こと登り坂。更に急坂であればあるほど、アルトセイバーとの差は無くなる。
予想した通り、風の谷よりも同じかそれよりも進みの遅いブラックセイバーに対して、アルトセイバーはブラックセイバーよりは減速せずに坂道を登っていく。
パワー重視のモーターを使っていたのも正解だった。スピード重視のものとどちらにするか悩んだが、土壇場で功を制したようだ。
「追いつかれるなブラックセイバー!」
黒沢もどうして追いつかれたか、その理由は察したのだろう。その表情にスタート前のような余裕はない。
『アルトセイバー、ブラックセイバーにぐんぐんと迫る! 坂の頂上までに追いつけるか!?』
目算で五分。ギリギリ前に出れるかどうかといったところ。
だが、だがそれでは駄目なのだ。
頂上でゴール。それなら良かったのだが、そうではない。レースはまだ最後の関門が残っていた。
『アルトセイバーが頂上でブラックセイバーより僅かに前に出た! だがしかし、ここからはダウンヒル! そして恐怖の滝壺コース! 大量の水に負けてコースアウトすればマシンは粉々だ! これを乗り越えればゴールだぞ!』
ここからは語る必要もない。今までの条件が全て反転。全てがブラックセイバーの有利になり、すぐにアルトセイバーは抜き返され、レインタイヤすら持ってない私は最終セクションの対応にままならず、そのまま大差をつけられてゴールした。
ゴール後、他のレーサーがゴールするまでの待ち時間。手持ち無沙汰だったのか黒沢が話しかけてきた。
「おいお前、一度追いついたくらいで調子に乗るなよ。俺様のブラックセイバーのほうが何倍も速いんだからな」
「……分かってるよ。総合力じゃどう足掻いたってそちらが上。そもそも最初から勝てるとは思ってなかったし。ただまあ、一矢報いることくらいはしたいと思っていたから、目標は達成したかなって」
確か三位入賞でウインターレース決勝戦に出れるのだっけ。次にも繋がったし悪くない、いや最上位の結果と言っても良い。
「私が追い付けたのはヒルクライムのコースに合ったパワー重視のセッティングにしていた事と、マシンの重量がそちらより軽かった事。私のは基本性能の底上げくらいしか弄ってないけど、そっちのマシン、なにを積んでるのかは知らないけど、それなりに重いんじゃない?」
「へえ、そこに気付いたのかよ。やるじゃねえか」
「どうも」
まあ、なんとかセイバーの性能を最低限は引き出せたからある程度勝負にはなったのではあるが。本当になんとか、ギリギリ、という具合だったのだ。
「ウインターレース決勝、そこでブラックセイバーの本当の力を見せてやるよ」
そんなセリフを吐いて、黒沢は離れていった。
「決勝レース、ねぇ」
誰にも聞こえない声で独りごちる。
いくら高性能なセイバーを持っているとはいえ、素人同然の私が全国の猛者達とやり合うには足りないものが多すぎた。
まずは色々パーツを揃えないといけないが、お小遣い足りるだろうか。
なお、コンデレの方は見事に優勝できた。むしろこちらのほうが嬉しかった。
答え
黒いマンタレイJr.→ブラックマンタ(DC)
別視点いる?
-
はい
-
いいえ