もう一人のセイバー使い   作:風呂

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第三話∶爆走兄弟との交流

 水に落ちて、強い風に晒されて、体力も減ったら、小学生女子としては当たり前のように風邪をひくもので。

 そんな週初めの平日、私はベッドの中で決意した。

「体力、つけないと……!」

 回復次第、体力作りに取り組もう。体育の授業とかでも前々から思っていたけど、やっぱりスタミナがあるとは言い難い。そろそろ自分の体力の無さと向き合わなければならないだろう。

 多分、これからも公式の大きな大会に出るとなると、レーサーも走らなければならないのは火を見るより明らかだ。ミニ四駆だけではなく、自分自身も(肉体)改造をしなければならないとはままならない。

 でもまあ人間、健康が一番。趣味柄、体調は崩しやすいというのもある。

 刃物で怪我したり、削りカスの粉塵や塗料・溶剤を吸ったり。そうでなくとも長時間机に向かって姿勢が悪くなるだけでも身体にダメージは入るのだ。

 それに模型趣味じゃなくても健康に気を使うのは悪い事じゃない。ついでだし、お父さんも巻き込んでやってみようか。

 お父さんは趣味どころか生業としているので、ダメージも私の比ではないだろう。一応お母さんが健康的な食事と睡眠時間だけは確保させてるのでまだマシだが。

 具体的には何をしようか。やはりジョギングが無難なところだろう。一番の目的はスタミナを付けることだし。

 あとは、柔軟か?身体が凝り固まりやすいとお父さんも言っていたし、何をするにも身体が硬いと怪我をしやすいとも聞く。

 別にアスリートを目指す訳じゃないんだ、これくらいで良いだろう。

 しかし闇雲にやっても意味がない。健康という長く普遍的に追求されてきたテーマだ。効率的、効果的な方法というのは長年追求されてきた。であるからに、最初に調べないというのは愚の骨頂、先達への無礼でもある。それに何事も準備というのは必要な事であり、いざやるとなったときの時間短縮にも繋がるし一石二鳥だ。さてそうなるとジョギングにもただ小走りをするだけでなく、ちゃんとした走り方があったり、コース設定も重要である。無闇矢鱈に負荷をかけては逆に身体を壊す事になる。そういえば靴選びも大切だ。靴擦れなんて起こした日には目も当てられない。そうそう、柔軟ではあるがやはりヨガなどの動きを取り入れたほうが良いのだろうか?流石にヨガ教室に通う、とまではいかないが自宅でやれそうな事はやっておきたい。それとも整体を学ぶべきか? 小学生の私がお世話になったことは無いが、佐上のおじさんは偶に行っているらしい。時々話を聞くが、それ程良いのであれば取り入れるのも悪くはないと思う。実はちょっと憧れていたんだよね

 そういう訳でパソコンで検索をかけようとしたところで、

「ちゃんと寝ーや」

 と、お母さんにベッドに押し込まれた。さもありなん。

 

 

 そんなこんなで丸一日休んで体調も戻ったので登校したのだが。

 私は今までないくらい困惑していた。

 なぜなら、

「なあなあ星乃、ジャパンカップで優勝したの本当か!?」

「なんだよあのマシン、どこで手に入れたんだ?」

「どういうセッティングしたんだ? 詳しく教えてくれよ!」

「というか、ミニ四駆やってたのかよ。見せてくれ!」

 エトセトラエトセトラ。

 登校して教室に入るなり、質問攻めにあっていた。

「え、いきなりなに!? ちょっと待って」

 このクラスのミニ四駆をやってる男子達が皆集まってきていた。どころか他のクラスの連中までいる始末。

 皆が皆、目を輝かせて群がってくる様子に私はたじろぐしかない。

 どうして皆、あのレースのことを知っているんだ? と思ったが、そういえばテレビで放送もされていたのを思い出す。

 休日の早い時間帯でミニ四駆公式のテレビ番組が放映されているのだが、確かこの間はGJCウインターレースSPとして生放送されていた筈だ。

 本来ならゴール後にインタビューがあった筈だが、私は医務室直行だった為それを受けていない。

 故にこの事態はその代わりみたいなものだろうか。皆、熱心というか、飢えているというか、情熱が凄い。

 幾つか質問に答えながら、ミニ四駆ってこんなに人気なんだなあ、と他人事みたいに考えていると丁度予鈴が鳴った。

 それでも話を強請ってきたが、先生が来たことで渋々自分達の机へと戻っていった。

 そこでふと思い出す。

 そういえば、あの騒がしい兄弟が居なかったという事に。

 

 

 少し時間は進み、昼休み。

 給食を食べていると、誰かが廊下を爆走する足音が響いてきた。

 それは隣の教室に向かうと大声で誰かを呼んだようで、少し騒がしくなった。

 そして二人分の足音になったそれはこちらの教室に突撃してきて、

「いたー! あの時のっ!!」

 そう叫びながらこちらを指さした。

 頬に今日の給食の欠片を付けてこちらに向かってきたのは、星馬弟だ。その後ろには頭を抱えている星馬兄の姿もある。

「勝負だ勝負、俺と勝負しろー!」

「え、えっと、いきなりだね? 少し落ち着いたらどう?」

「そうだぞ豪。星乃さんも迷惑してるじゃないか」

「知るかよ、烈兄貴は悔しくないのかよ」

「……うっ、それは」

 察するに、どうやら星馬弟は先日のレースで負けて悔しいので、リベンジマッチがしたいらしい。

 そしてそんな弟を止める兄ではあるが、その兄も似たりよったりの思いではある、と。

「とにかく今すぐ勝負だ!」

「あ、それは無理」

「なんだよ勝ち逃げするのか!?」

「いや、そもそも持ってきてないもの、ミニ四駆」

「へっ?」

 そこで漸く星馬弟が一時停止した。

「だって別に学校には必要ないし」

 その言葉に呆れる星馬弟。そんな顔されても。

「はあ? それじゃすぐにレース出来ないじゃないか」

「そう言われても、学校で走らせる気ないし」

 無いのもはない。どうしようも無いのである。

「それなら放課後、佐上のおっちゃんのとこで勝負な!」

「佐上って、佐上模型店?」

「なんだ、知ってんのか。それなら話ははえーや。そう、そこのコースで勝負だぜ。良いよな?」

「……まあ、それなら」

「っし! 絶対だからな!」

 そう言って、星馬弟は走り去った。忙しない少年である。

「なんというか、うちの弟がゴメン」

「良いよ全然。気にしてないし。それに」

「うん?」

「星馬君も勝負したいんでしょ?」

 私の言葉に驚いた星馬兄はしかし、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべた。

「ああ、勿論!」

 彼もやっぱり男の子なんだなあ、と思うのであった。

 

 

 更に時間は進み放課後。

 星馬兄弟との約束通り、私は一度家に戻りミニ四駆一式を手にし、佐上模型店へと顔を出した。

 佐上模型店は実はミニ四駆に手を出す前から馴染みの店である。

 家から近いというのもあるが、何よりミニ四駆に限らず模型製作の面からみても品揃えが豊富であり、ポイントカード(スタンプ式)等でお得だったりと、三拍子揃ったお店なのだ。

 そんな店内には既に学校から直接来たであろう、星馬兄弟が常設コースで待ち構えていた。

「やっと来たな! 早く勝負しようぜ」

「やあ、楽しみにしてたよ」

 二人共、もうマシンを手にしており、準備万端のようだ。

「早速って感じだね。ちょっと待って。調整だけするから」

 とはいえ兄弟の勢いに流されず、こちらも準備を進める。

 彼らのマシンであるマグナムセイバー、ソニックセイバーと姉妹機であるアルトセイバーを取り出して、コースに合わせた調整をする。

 作業中に二人のマシンをチラ見するが、二台共完全に修復されていた。

 あれからあまり時間は経っていない筈だが、二人共修復技能はかなり高いようだ。

「へえ、かなり手慣れてるね。基本的な改造もしっかりしてある」

 マシンを弄っていると、星馬兄が話しかけてきた。

「うん、まあね。ミニ四駆を始めてから色々調べたからね」

 熱心にこちらの作業を観察しているが、別に特別な事はしてない。しかし、星馬兄はそこで何かに気付いたように声を上げた。

「……ちょっと待って。その言い分だとまだミニ四駆を始めてそんな経ってないように聞こえるけど」

「そうだよ? ウィンターレース予選でセイバーを貰ってそれから」

「はあ!? じゃあなにか? まだミニ四駆始めてニ、三週間くらいなのか!?」

「そういう事になるね」

 二人揃って驚いているけど、やっぱりそうだよね。思い返せばよくもまあ自分でも優勝出来たなと思うよ。それだけセイバーのポテンシャルが高かったという事なのだけれど。

 二人が驚いている内に作業も終わり、

「終わったよ、始めようか」

 さて、イーブンの条件でどこまで勝負になるかな?

 

 

 結論。

「だああああ! また負けたぁ!」

「くっそう、良いところまでは行くんだけどな」

 まあ、うん。勝っちゃったよね。

 二人共、悪くない走りなんだけど、どうしてもこちらを抜き切れない。抜いたとしてもすぐに抜き返される、という状況ばかりだった。

 二人揃って完封されたという事でショックが大きいのか、気落ちしているようだった。

 別に、二人を打ち負かしたかった訳でもないんだけどな。

「うーん、それぞれ得意分野では喰らいついてくるけど、そこ以外で明確に差が出ちゃう感じかな。地力というか総合力が足りて無いかな」

 一頻り走った二台のセイバーを見た所感を述べるならば、

「得意分野を極めようとするのは良いけれど、だからってその他を蔑ろにするのはどうかと思うよ」

 という事になる。

「そうは言うけどさ、俺のマグナムはカッ飛びマシンなんだ。コーナーの為に遅くなんてしたくねえよ」

「だからって、コースアウトはしたくないでしょ?」

 特に酷かったのはマグナムセイバーの方だ。

 スピードだけを重視した結果、他が悪すぎて折角の持ち味を活かしきれていない印象を受けた。

 さっきもコースアウトの回数が多く、見ていてマシンがちょっと可哀想になるくらいだった。あんまり言うと怒ってこっちの意見を聞き入れなくなりそうだから言わないけど。

「ちょっとマグナム見せてみて? もっとアドバイスできると思うよ」

「え、嫌だぜ。誰にもマグナムを触らせたくねえよ」

 そう言って、星馬弟は自分のマシンを背に隠した。

「豪、いいから見てもらえ。たまには他人の意見も大事だぞ」

 ここで兄からの援護射撃。兄としても言いたい事があるんだろう。

「壊したりしないからさ、頼むよ豪君」

「うっ……仕方ないな。でも絶対壊すなよ!」

 渋々マグナムをこちらに渡す豪君から、勿論と返答しつつ受取る。

 そして改めて受け取ったマグナムを検分する。

 持ってすぐに感じたのは、その軽さたった。

 “カッ飛び”を実現させる為にかなりの軽量化をしているようだ。

 各パーツを市販の軽量パーツに全て置換した上で、更にボディやシャーシを削っている。

 パーツ構成と状態を確認した後は、削った部分を中心によく観察する。

 目を細めながら見るのは全体的なバランスや強度、歪み等だ。

 室内灯の光にボディに反射させて、表面に流す。それがボディの造形に沿っていればいいが、そうでもないのに光が揺れればそこに余計な凹凸があるという事だ。

「…………」

「おいなんだよその顔は。なんか文句あるのかよ」

「……改造の方向性に口を出す気はないけど、その、ね。精度が、うん」

「なんだとー」

 これはボディだけでも修正したくなってくる。造形畑の血が騒ぐね。まあ勿論他人の物なので頼まれない限りやりはしないが。

「落ち着け、豪。お前は大雑把過ぎるから言われるんだよ」

「烈兄貴まで!?」

「――そうよ豪。慧お姉ちゃんの言う事に間違いはないんだから」

 ふと、私達三人以外の声が混じる。

 聞き馴染みのある声の方に向けば、やはりそこには帽子を被った見知った少女が。

「お、ジュンか」

 佐上模型店の一人娘、佐上ジュンだ。

「あれ? ジュンちゃん、星乃さんの事知ってるの?」

 星馬君の言葉に、当然よと言わんばかりの表情でジュンちゃんが答える。

「そりゃそうよ。慧お姉ちゃんとは昔から家族ぐるみで付き合いがあるんだもの」

 そう、実は佐上模型店、もとい佐上家とは父親同士を通じて付き合いがあった。

 元々趣味の合う古い付き合いであるらしく、家が近いこともありお互い家庭を持ってからも関係が続いているのだそうだ。

「だから実はこの店の常連だったりするんだよ、私」

「え? でも学校でならともかく、ここじゃ見た事ないんだけど」

「それは星馬君……あー、紛らわしいから今度から烈君って呼ぶね? 君達ミニ四駆に夢中すぎて他の商品コーナーに見向きもしなかったでしょ? 私は前から知っていたよ? 豪君の方は名前までは分からなかったけど」

「そうだったのか」

 実は店内ですれ違ったりとかもしてるんだけどね。意識していないと気づかないものである。

 私の立場としては、熱中しすぎて騒がしい兄弟として嫌でも目に付くから覚えていただけではあるが。

「ちなみに言っておくと、店内のショーケースに入ってる作品って、星乃おじちゃんと慧お姉ちゃんが作ったものばかりなのよ? しかも星乃おじちゃんってプロモデラーなんだから」

 例えば流行りのガ◯プラなど目玉になる商品や、戦闘機や艦船など渋い物まで、結構多岐に渡るジャンルの模型が佐上模型店には展示されている。勿論そこにはミニ四駆も含まれる。

 模型店としては商品の宣伝になるし、こちら側としてもれっきとした仕事になる。

 まあ金銭的なやり取りについては、私にはまだ早いという判断の為、私の分の報酬は割引券や余ったキットになるのだが。

「へー、店に飾ってるプラモは何回か見たことあるけど、結構すげー奴だったんだなお前」

「まあね」

 それはともかく、お父さんと比べれば私の腕はまだまだなので、もっと精進しなければならないのだけどね。

「兎に角、改造するのは良いけど、もう少し丁寧にやろっか。あと軽量化のし過ぎで、ちょっと強度が下がりすぎている所もあるから、そういう事にも注意してね」

 聞き入れるかは知らないが、一応のアドバイスと共にマグナムを返却する。

「……お、おう」

「言われてるぞ豪。いつも俺が言っている事と変わらないじゃないか」

「うるせーやい」

 烈君の小言に反発する豪君。表面上は言い合いをしているが、裏を返せばお互いそれだけ言っても構わない対等な関係、と見える。

 成程、兄弟がいるとこんな感じなのか。一人っ子の私には新鮮な光景だった。

「こんな所で喧嘩しないでよアンタ達。ホントしょーがないわねぇ」

 呆れたように言うジュンちゃんも、心底から嫌がっている訳でもないようだ。

 私に対する時とは若干態度が違うように思う。基本的には快活なスポーツ少女! といった感じだが、もう少しなんというか甘えん坊だった気がするが、それを言うのも野暮というものだろう。

 その後も暫くレースをしたりミニ四駆談義に花を咲かせた。

 そういえばこうやってゆっくりミニ四駆の話題では他人と話すのは初めてか。

 その事に気づいた私は、なんとなくこういうのも悪く無いなと思うのであった。

 

〇―〇

 

 ある日の事。

 最近始めた早朝ランニングから戻り、朝刊に挟まれているチラシをなんとはなしに確認すると、気になるものを見つけた。

 なんと今住んでるこの街に、新しいゲームセンターが開店するのだそうだ。

 今までゲームセンターといえば小学生基準であるが遠出をしなければならず、気軽に行ける場所では無かったのだ。なので休日にお父さんを誘ってOKが出れば連れて行ってもらえる、それくらい縁遠い施設だった。

 それがこの街にできる。しかも、記載されている店舗情報から見るに、かなり大きめの施設になるようだ。

 読み込んでみると、通常のゲーセンにあるようなもの以外に、ミニ四駆コースまで設置されているのだとか。しかも五レーンのオリジナル大型コースだ。

 けどまあ、そんな事はどうでもよく。

「お父さん、これ見て」

 寝ぼけ眼でリビングに顔を出してきたお父さんに、持っていたチラシを見せた。

「ん? どうしたんだい? ――お、これは」

 チラシを読み、お父さんは言う。

「成程、期待できそうだね。慧、成績は?」

「バッチリ。小テストも落としてないよ」

「……良し、分かった。今度一緒に行こうか」

 普段からちゃんと小学生していると、こういうちょっとしたわがままくらいなら聞いてもらえるのだ。

 

 

 そうしてお父さんと共にやってきたゲームセンター。

 私達二人(特に私)はプライズコーナーで景品をゲットしまくっていた。

 チラシの写真から予想はしていたが、ここのプライズコーナーは結構広い。そしてジャンルも豊富だ。

 ぬいぐるみ系統やお菓子系、アニメのグッズ等。

 そしてその中にあるプライズフィギュアの数々、それが私達親子の狙いだった。 

 クレーンゲームの腕が良ければごく低額で様々なフィギュアが手に入るのだ。

 プライズフィギュアと侮る事なかれ。今の時代、出来はどんどん良くなっているし、そうでなくても造形の参考や塗装の練習などには丁度良いのだ。

 それから暫く。

 お父さんと共に親子のコミュニケーションを取りつつゲームセンターを楽しんでいると。

「ん? なんだろう?」

 離れた場所から歓声が聞こえてきた。

「……どうやら、ミニ四駆のレースで盛り上がってるみたいだね」

 背が高く、遠くまで見通せたお父さんが騒ぎの原因にアタリをつける。

 言われてみればゲームセンターの喧騒の中にミニ四駆の駆動音が混じっているのが分かった。

 その音を辿り開けた空間に出ると、

「サンダードリフト走行でげす!」

「くっ、負けるなソニック!」

 見慣れない猿顔の少年(失礼)と烈君が一対一で勝負をしていた。

 しかもコースはゲームセンターの主要通路全体を使った可変コース。

 どうやら各所に自動でレーンが出現するようになっているらしい。

「男の子のロマン……!」

「いやでもお金かけ過ぎじゃない?」

 お父さんが目を輝かせているが、(元)男の子って好きだよねこういうギミック。まあ、私も嫌いではないけれど。

 ともあれ、暫く観戦すると最初は烈君のソニックが優勢だったが、途中から相手の青いマシンが抜いてその差を広げ始めた。

 そのマシンはセイバーと全く形は違えどタイヤを覆うボディ形状から、どうやら新たなフルカウルマシンらしい。あれも土屋博士か作ったのだろうか?

 どこかのコンセプトカーのような丸みを帯びたデザインのマシンは、コーナーが得意な筈のソニックよりも速く連続コーナーを抜ける。

 その様子はペイントされている雷の意匠のように鋭かった。

 二度、三度とその走りっぷりを見てふと気がついた。

 さっきから連続コーナーばかりじゃないだろうか。似たようなセクションの比率が高いように思える。

「う~ん? やっぱりそうか?」

 一緒に観戦していたお父さんが難しい顔して呟く。

「どうしたの?」

「ああ、青いミニ四駆の彼、どこかで見たことがあるなと思ったら、三国財閥の御曹司だよ」

「三国財閥っていうと……」

「そう、このゲームセンターのオーナー企業だよ」

 三国財閥といえば確か、現社長が一代で築き上げた大企業だった筈だ。

 詳しくは分からないが、主に建設・土木の分野で広くその名が知られているとか。

 確かこの間のウィンターレース決勝戦が行われた、トライタワーも三国財閥の企業が建てていた筈だ。

「となると……」

 もしかして事前に自分に有利なコース設定をしている?

 そもそもこのコースの経験値が段違いだろうし、むしろ同じコーナー重視とはいえ初見の不利なコースで食らいついている烈君を褒めるべきではあるが。

「……そういえば豪君は?」

 ミニ四駆絡みなら二人一緒にいるイメージがあるけど、はて?

 レースの観客中にいないかと辺りを見渡し探してみるが、すぐには見つけられなかった。

「どうしたんだい?」

「うーん、今走ってるの私のクラスメイトなんだけど。多分弟君も来ている筈なんだ……」

 観客が多いとはいえ、あの騒がしい豪君をすぐに見つけられないというのは違和感を感じる。

 クラスの女子の中では背の高い方ではあるけれど、それでも見つけられないとなるとそもそもこの場にいないのかもしれない。

 と、思っていたのだが。

「……慧、もしかしてあの子かい? あの柱のそばにいる、走ってる子と似た格好の」

 一般的な成人男性の身長はあるお父さんが、観客の大多数である子供達より高い視線から遠くを見やって言った。

 お父さんが指を差した方向視線を向けると、ここから離れた位置にある柱の陰に豪君を発見した。

 ……応援もせずに何をやっているのだろう? 何やら難しい顔をしているみたいだが?

「んん? あれは……、そうか」

「お父さん?」

「ああ、多分あの子、お兄ちゃんと喧嘩したな?」

「え、そうなの?」

「うん、あの顔は昔、お父さんと喧嘩した時の弟……叔父さんとそっくりさ」

 懐かしむように言うが、言われてみればそんな気もしてきた。

「ほら、行ってあげなさい。友達が喧嘩しているのは気分良くないだろう?」

「うん、そうだね。分かったよ」

 

 

 そんなやり取り後、

「こんな所でどうしたの? 烈君の応援しなくて良いのかな?」

「うぉわっ!? ……って、星乃慧!? どうしてここに!」

 サプライズを仕掛けつつ話しかけてみた。良いリアクションするなぁ。

「いやね? 普通にお父さんと遊びに来ただけなんだけどさ。突然大きなレース始まったし、見知った顔が走ってるし、でもいつも一緒の顔が見えないしで探してみたら応援もせずにここにいたからさ、どうしたのかなって」

「うっ、それは……」

「烈君と喧嘩でもした?」

「どうしてそれを?」

「見ればすぐ分かるよ」

 まあ最初に気付いたのはお父さんだけど。

 だが、よく観察すれば違和感がある。

「喧嘩でもしなければ君達兄弟がレース中に離れるなんて事無いでしょ?」

 しかもそれでも帰らずにこっそり覗いてるとなると、

「……もしかして、豪君が原因で喧嘩してる?」

「うぐっ」

 図星かぁ。豪君の性格的に下手に刺激すると癇癪起こすな、これは。

「何があったかは知らないけどさ、自分が悪いと思うなら謝ればいいんじゃない?」

「お、俺は悪くねーよ。リベンジをしてくれるっていうのに兄貴がすっとろい事したり、他人の事ばっか気にしてよ……」

 成程? せっかちな豪君には回りくどい事ばかりしているように見えた、という事かな。

「うーん。けどそれってさ、烈君にとって必要な事で、他人に手を貸すのも、それができる余裕があったからなんじゃない?」

 今年からのクラスメイトで、今まであまり関わりがなかったが、それでも烈君が誠実なタイプというのは感じ取れた。

「けどよぉ」

 豪君本人も悪いとは思っているのだろう。ただ素直になれないだけで。その証拠にさっきから煮え切らない態度の中に申し訳なさも混じっていた。

「……じゃあさ、謝るのが難しいなら応援してあげたら?」

「いや、でも」

「だって今、烈君は誰の為に走ってるんだい? 君が応援しなくて誰が応援するのさ」

 私のその言葉に、豪君はハッと顔を上げる。

「ほらほら、行った行った。それとも私に連れて行って欲しいのかな?」

「そ、そんなわけ無いだろ。じゃーな!」

 そんな捨て台詞めいたものを言って、豪君は兄の元へと駆け出していった。

 あの兄弟は喧嘩するほど仲が良いタイプなのだろう。もしかしたら放っておいても大丈夫だったかもしれない。

 トラブルのあった烈君とそれを助ける豪君達を見つつ、そう思うのであった。

 その後、烈君が逆転勝利をするのを見届けてから、私達はそのまま帰宅した。 

「挨拶していかないのかい?」

 と、お父さんに問われたが、

「うーん、今は早く戦利品の確認したいから」

 と答えるのだった。

 それに、丸く収まってるのにわざわざ入っていくのもどうかと思うし。

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