二人の間に気まずい雰囲気が漂う。
それを振り払うように、思い切ってルナは、心に沸き上がった疑問の数々をレオンにぶつけた。
「ねぇ、レオン。貴方、スナッチ団とどういう関係なの?」
「………」
「貴方は団員じゃないって言ったけど、それなら何故スナッチマシンを造るのに協力したの?」
あんなにブラッキー達を大切にしている彼が、人のポケモンを奪うボールを造るマシンを完成させるのに加担していたなんて、どうしても信じられない。
「それに、完成したスナッチマシンが貴方の物だっていうのはどういうことなの?」
「——おまえには関係ないことだ」
しつこく訊いてくるルナに堪え兼ね、レオンは煩わしそうに突っ撥ねる。
その態度にルナはムッとなった。
さっきもそうだ。折角知り合えて一緒にいるのに、少しでも踏み込んだ話をすると拒絶して寄せ付けなくなる。これでは話したくとも何も言えなくなるではないか。
「関係なくはないわ」
ずいっとレオンに詰め寄り、ルナは真正面から彼の顔を見据えた。
「あたしはそのスナッチマシンに用があるの」
「なに?」
ルナの意外な言葉に、レオンは訝しげな
こんなものに何の用があるというのだろうか。トレーナーからポケモンを奪う以外なんの役にも立たないボールを造るマシンなどに。
レオンがその意図を測り兼ねていると、ルナは自分の考えを口にした。
「あいつらの口振りからして、そのスナッチマシンって、その場でスナッチボールが造れちゃうんじゃない?」
「………」
「でもって、さっき貴方がモンスターボールを欲しがってたのは、それを造る為なんじゃないの?」
そう考えれば辻褄があう。
だが、レオンはただ煩わしそうに顔を背けるだけで何も言わない。
それを肯定と受け止め、ルナは更に言葉を継いだ。
「だったら、それをあたしに貸してくれない?」
「なんだって?」
ルナの申し出に、思わずレオンは目を
人のポケモンを奪うのは許せないと言っていたのに。
驚くレオンに構わず、ルナは話を進める。
「さっき市長さんに話したポケモンの事憶えている?」
「…ああ」
「あのポケモンは戦闘マシンみたいに、ただトレーナーに言われるまま人を襲ってたの」
それを見た時の事を思い出し、ルナはブルっと体を震わせた。
「きっとトレーナーか誰かに酷い事をされて、あんな風になってしまったのよ」
「………」
「だからあたし、あの子を助けたいの。あんな酷い事を平気でやるトレーナーの許で、血の通わない機械みたいにバトルさせられているポケモンを」
でも一度ゲットされてしまったポケモンは、どんな目に合わせられてもトレーナーに従ってしまう。ルナがどんなに助けたいと思っても、モンスターボールを介してできた絆の所為で、それを持っているトレーナーからポケモンは離れられないのだ。
「それでずっと考えてたの。その方法を」
と、ルナは真っ直ぐに真摯な瞳をレオンに向ける。
「そして、貴方の持つそのスナッチマシンでなら、それができるのよ」
モンスターボールをスナッチボールに造り変え、あのトレーナーからポケモンを奪う——絆を断ち切って救えるのだ。だから、その為にはスナッチマシンが必要だった。
「……おまえは、人のポケモンを奪うのは許せないんじゃなかったのか?」
「ええ、許せないわ。でも、それ以上にトレーナーだからって、ゲットしたポケモンに何をしてもいいわけじゃないわ。ポケモンは大切なパートナーなのよ」
ふっと一瞬遠い目をしたルナは、ぐっと拳を握り締めた。
「パートナーっていうのはお互いに信頼し、助け合っていくものじゃない。ただ一方的に命令して従わせるものじゃないわ。そんな酷いトレーナーにゲットされて無理矢理バトルさせられるなんて、ポケモンが可哀想だわ」
「なるほどな……」
どうやらルナは目的の為なら手段は選ばない
「おまえが、これが必要だと言うのは判った」
「それじゃあ——」
「だが、これは貸せない」
パッと顔を輝かせたルナに、レオンが素っ気なく言う。
「えぇっ、どうして!?」
思わずルナは青い瞳を大きく見開いた。
「それがあれば、可哀想なポケモンが助かるのよ!」
「言っただろ。こいつは俺以外には扱えない。おまえに貸したところで無用の長物だ。第一、ポケモンも連れてないおまえがどうやってバトルするつもりだ?」
スナッチは相手のポケモンの体力をある程度削って弱らせなければできない。ゲットするのがトレーナー所有のポケモンというだけで、基本野生のポケモンを捕まえる場合とやり方は変わらないのだ。
「そ、それは……」
痛い所を突かれ、ルナは口籠った。
トレーナーなのにポケモンを一匹も連れていないとは。手段を選ばない以前の問題だった。
それでも諦め切れないルナは、ただ可哀想なポケモンを助けたい一心で、何かいい口実がないかと悩み込む。
いい考えが思い浮かばず、頭を抱える少女を呆れ顔で見ていたレオンは、大きく溜息をついた。
「代わりに俺がそいつをスナッチしてやる。それでいいだろう?」
「え、ホント? いいの、レオン?」
「ああ」
元々そのつもりだったのだ。その為に完成間近のこの小型スナッチマシンの実験に協力し、完成と共に奪った。そして、これ以上あいつらが人のポケモンをスナッチ出来ないよう、大型マシンの方を研究施設のあるアジトもろ共爆破したのだ。
とはいえ、それをルナに告げる気はない。レオンはあくまで仕方なく手伝う風を装った。
「やっぱり、貴方っていい人ね」
そうとは知らず、ルナは素直に喜んだ。これで可哀想な目にあっているポケモンを助ける事ができる。
だが、こんな簡単に自分を信じるルナを見ると、つい彼女を試すような言葉がレオンの口から次いで出た。
「——俺が、本当はスナッチ団員だったとしたらどうする?」
スナッチ団はトレーナーの育てた質の良いポケモンを奪い、高値で人に売り捌くのだ。ルナが見た戦闘マシンのようなポケモンは、商品として高値で売れる可能性がある。もしそのつもりでレオンがそれをスナッチしたとしたら、結局救う事にはならないのではないかと。
「もし、そうだとしても、今は違うでしょ」
ルナはきょとんとしてレオンを見た。
「スナッチ団には、貴方はそのスナッチマシンを奪って逃げた、裏切り者って思われてるんだから、元スナッチ団員って言った方が正しいわよね」
レオンの言葉を訂正し、ルナはにっこりと笑う。
「でも、そんなこと関係ないわ。だってレオンは、あたしの危ない処を助けてくれた王子様なんだから」
「お、王子様……」
「そうよ、ブラッキーとエーフィは、さしずめ王子様を助ける
余りにも少女趣味な喩えに絶句するレオンをそっちのけに、ルナは一人で盛り上がった。
そして、いい事を思い付いたとばかり、レオンの手を取る。
「それじゃ、これからモンスターボールを探しに、もう一度フレンドリィショップに行きましょ」
「フレンドリィショップに? だけど、あそこにはないと店員が——」
「確かに店員は店には置いてないって言ったけど、もしかしたら何処か他に売っている所を知ってるかもしれないでしょ」
折角可哀想なポケモンを救える手立てができたのだ。でもそれにはモンスターボールが無くては始まらない。
善は急げと有無言わさずに、ルナはレオンを引っ張って行く。
再びフレンドリィショップ内に入ると、すかさず店員がにこやかに客の二人に声を掛ける。
「いらっしゃいませ。フレンドリィショップにようこそ。どのようなご用件ですか?」
「あの、何処かこの近くで、モンスターボールを売っている所知りませんか?」
「モンスターボールですか?」
少女と一緒に居る少年をチラリと見、先程同じようにモンスターボールを求めて来た少年と判ると、店員は溜息をついた。
「先程も言いましたように、ここら辺では野生のポケモンは殆ど見当たらないので、そのような物を置いてる所など——」
「噂みたいなのでもいいんです。何が聞いた事ないですか?」
迷惑そうにする店員に、ルナはなおも食い下がる。
「噂と言われても……」
店員が困り果てていると、彼の後ろのドアがガチャリと開いた。
「どうしたんです? 今何かもめてるような声が聞こえたようですが」
と、眼鏡を掛けた男が顔を覗かせる。
「あ、店長」
店員はホッとしたような顔になった。
「実はモンスターボールが欲しいと言われるのですが、店にはないと何度言っても聞いてくれなくて——」
「噂でもいいんです。何処か置いてありそうな場所知りませんか?」
店員の愚痴めいた言葉に畳みかけるようにルナが言う。
それに眉根を寄せ、店の奥から出て来た眼鏡の男は考え込んだ。
「そうですね……。噂でいいのなら、かなり前ですが町外れのスタンドで、モンスターボールを売っていたという話を聞いた事があります」
「町外れのスタンド?」
「機関車を改造して店にしている、一風変わったスタンドですよ」
「あそこか」
「レオン、場所がわかるの?」
「ああ」
「じゃあ、すぐ行きましょ」
フレンドリィショップの店長に礼を言い、二人はすぐさまモンスターボールを手に入れるべく、サイドカーで町外れのスタンドへと向かった。